活性酸素の種類と特徴
活性酸素の基本的分類と生成機序
活性酸素は反応性の高い酸素種(ROS:reactive oxygen species)の総称で、一般的にスーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素の4種類に分類されます 。これらは酸素分子が不対電子を捕獲することによって順次生成され、スーパーオキシドは他の活性酸素の前駆体として重要な役割を担っています 。
ミトコンドリアは生体内の主要な活性酸素発生源で、約95%の酸素を消費し、そのうち1~3%が活性酸素に変換されると推測されています 。電子伝達系から漏れ出る電子が酸素分子を還元することで、複合体Iからマトリックス側に、複合体IIIからマトリックスと膜間腔側にスーパーオキシドが産生されます 。
活性酸素には、フリーラジカルとそうでないものがあります 。スーパーオキシドやヒドロキシラジカルは不対電子を持つフリーラジカルですが、過酸化水素や一重項酸素はフリーラジカルではありません 。
活性酸素の生体防御における積極的機能
好中球やマクロファージなどの貪食細胞では、NADPHオキシダーゼなどの活性酸素産生酵素系によりスーパーオキシドを産生し、生体防御に必要不可欠な役割を担っています 。白血球は全白血球の約70%を占める好中球が活性酸素や蛋白質分解酵素を産生し、病原微生物に対する初期感染防御を営んでいます 。
参考)KAKEN href=”https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14560251/” target=”_blank”>https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14560251/amp;mdash; 研究課題をさがす
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は好中球と単球に存在する活性酸素の代謝酵素で、過酸化水素と塩素イオンから次亜塩素酸を生成する反応を触媒します 。この機構によって産生された活性酸素は感染初期の迅速な殺菌を営んでおり、MPO欠損マウスではクリプトコッカス菌に対する生体防御能が顕著に低下することが判明しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/mmj/53/2/53_123/_pdf
興味深いことに、活性酸素は記憶学習にも必要であることが最近の研究で明らかになっています 。過剰な抗酸化物質摂取が、生体に好ましい影響を与えないこともわかってきており、活性酸素が運動記憶に必要な善玉物質でもあることが示されています 。
参考)https://www.tmghig.jp/research/topics/202406-15535/
活性酸素によるDNA損傷と修復機構
活性酸素は1日に細胞あたり約10億個発生し、これに対して生体の活性酸素消去能力(抗酸化機能)が働くものの、活性酸素は細胞内のDNAを損傷し、平常の生活でもDNA損傷の数は細胞あたり一日数万から数10万個になります 。しかし、DNA損傷はすぐに修復される仕組みが備わっています 。
ヒドロキシラジカルは極めて反応性が高いラジカルで、活性酸素による多くの生体損傷はヒドロキシラジカルによるものとされています 。この強力なラジカルはDNAをところかまわず切り刻み、塩基の中でもっとも酸化的損傷を受けやすいグアニンを攻撃します 。
参考)https://core.ac.uk/download/pdf/234092905.pdf
DNA中の損傷塩基は塩基特異的なDNAグリコシラーゼによりN-グリコシド結合が切断され、DNA中から遊離の塩基として切り出されます 。その後、脱塩基部位はDNAエンドヌクレアーゼにより切断され、DNAポリメラーゼが1ヌクレオチドを挿入し、DNAリガーゼによりホスホジエステル結合が形成されて修復反応が完結します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/39/4/39_4_223/_pdf/-char/ja
活性酸素と疾病発症との関連メカニズム
活性酸素が細胞膜の脂質を酸化させ、「過酸化脂質」を作り出し、この過酸化脂質がさらに活性酸素を生む悪循環が起こります 。生体内で発生した活性酸素との関連が示唆されている疾病は、動脈硬化、心筋梗塞、がんのほかにも、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、気管支喘息などがあります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/9/3/9_164/_pdf
1956年、Harmanは活性酸素の産生とそれによる生体成分の傷害が、老化を規定する重要な因子であるというフリーラジカル説を提唱しました 。ミトコンドリアは細胞内での主要な活性酸素産生源であるため、現在、老化と活性酸素の関連がミトコンドリア研究を中心に進められています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/51/4/51_4_295/_pdf
体内の「抗酸化防御機能」は20代をピークに徐々に衰え、40代をすぎると急激に低下するため、体内の活性酸素が過剰になります 。このため、年々体内でつくられる抗酸化物質や酵素の量が減少し、活性酸素が増えやすい状態になってしまいます 。
参考)病気や老化の原因にもなる「酸化」を防ぐ、抗酸化とは? 症状・…
活性酸素消去機構とスーパーオキシドジスムターゼの役割
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は最初のラジカル消去に働く最も重要な抗酸化酵素です 。SODはスーパーオキシドを過酸化水素と酸素に変換する不均化反応(2O2・- + 2H+ → O2 + H2O2)を触媒します 。
参考)スーパーオキシドジスムターゼ (Superoxide Dis…
ヒトの細胞では3種類のSODが作られています 。銅・亜鉛SODは細胞内をただよってあらゆるスーパーオキシドを一掃し、マンガンSODはミトコンドリアで使われています 。細菌では鉄SODやニッケルを持つSODなど、異なる型のSOD酵素を作っています 。
興味深いことに、SODは筋萎縮性側索硬化症(ALS)と関係していることが明らかになっています 。遺伝性ALSの約10分の1はSOD遺伝子の変異によって引き起こされ、現在、科学者たちはこの病気におけるSODの役割を研究しており、新たな診療と治療につながると期待されています 。
ミトコンドリア内には活性中心にMnを持つ分子量95KのMn-SODが存在し、生じたスーパーオキシドを過酸化水素に不均化します 。生成された過酸化水素や脂質過酸化物はグルタチオンペルオキシダーゼにより消去され、α-トコフェロールやユビキノンなどのラジカル捕捉型物質がこれにアスコルビン酸やグルタチオンと共役的に作用しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/37/6/37_6_411/_pdf