カリウム吸着薬の種類と作用機序
カリウム吸着薬の種類と選択基準〜効果的な高カリウム血症の治療
高カリウム血症は、特に腎機能障害患者や透析患者において重要な臨床的問題です。血清カリウム値は腎臓によって厳密に調整されていますが、腎機能が低下すると調整機能も低下し、高カリウム血症のリスクが高まります。治療において、カリウム吸着薬は非常に重要な役割を果たしています。
現在、日本で承認されているカリウム吸着薬は以下の3成分4製品です。
- ポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤:カリメート、アーガメイト(旧称)
- ポリスチレンスルホン酸ナトリウム製剤:ケイキサレート
- ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム製剤:ロケルマ
これらのカリウム吸着薬は、いずれも陽イオン交換作用によってカリウムを体外に排泄することで高カリウム血症を改善しますが、それぞれ交換する陽イオンや製剤特性、副作用プロファイルが異なります。そのため、患者の状態や治療目標に応じた適切な薬剤選択が必要となります。
選択基準としては、以下の点が重要です。
- 患者の腎機能状態
- 既存の電解質異常(特にカルシウムやナトリウム)
- 消化器症状の有無
- 服薬コンプライアンス
- 費用対効果
適切なカリウム吸着薬を選択することで、高カリウム血症に伴う不整脈や突然死などの重篤な合併症を予防することが可能となります。
ポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤(カリメート・アーガメイト)の特徴
ポリスチレンスルホン酸カルシウムは、スチレン樹脂にスルホン酸基を付加した不溶性の陽イオン交換樹脂です。腸管内でカリウムイオンとカルシウムイオンを交換し、カリウムを便中に排泄させることで血中カリウム値を低下させます。
【製剤の種類】
- カリメート散
- カリメートドライシロップ92.59%
- カリメート経口液20%
- アーガメイト20%ゼリー(現在はポリスチレンスルホン酸Ca「三和」)
- アーガメイト89.29%顆粒
【用法・用量】
- 経口:1日15〜30gを2〜3回に分け服用
- 注腸:1回30gを水または2%メチルセルロース溶液100mLに懸濁して注腸
特にアーガメイトゼリー(現:ポリスチレンスルホン酸Ca「三和」)は、「カリウム吸着薬をどうにか飲みやすくならないか」という発想から開発された製剤です。従来の散剤は口に入れた瞬間の熱感と砂のようなザラツキ感があり、服用量の多さから患者さんの負担が大きいという問題がありました。
アーガメイトゼリーの主な利点は以下の通りです。
- 高齢者の嗜好性の高いゼリー状で抵抗が少ない
- 口のザラツキ感が少ない
- 服用時の飲水量が低減される
なぜ錠剤やカプセルにしないのかという疑問が生じるかもしれませんが、1回の服用量が5〜10gと多いため、錠数やカプセル数が膨大になってしまうという理由があります。
【副作用】
- 便秘(最も一般的)
- 低カルシウム血症(理論上のリスク)
- 腸閉塞の患者さんでは禁忌(腸管穿孔のリスク)
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム製剤(ケイキサレート)の特徴と副作用
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは、カリメートやアーガメイトと同様の陽イオン交換樹脂ですが、カルシウムイオンの代わりにナトリウムイオンとカリウムイオンを交換する点が異なります。腸管内でナトリウムイオンを放出し、カリウムイオンを結合して便と共に排泄されます。
【製剤の種類】
- ケイキサレート散
- ケイキサレートドライシロップ76%
【用法・用量】
- 経口:1日量30gを2〜3回に分け、1回量を水50〜150mLに懸濁
- 注腸:1回30gを水または2%メチルセルロース溶液100mLに懸濁して注腸
ケイキサレートドライシロップはりんご風味が付けられており、散剤よりも服用しやすい特徴があります。
【副作用と注意点】
ケイキサレートは消化器関連の副作用が多いことで知られています。過去には以下のような重篤な合併症の報告があります。
- 腸出血
- 腸管裂孔
- 腸閉塞
また、ナトリウムを体内に取り込むため、特に心不全や浮腫のある患者、厳格なナトリウム制限が必要な患者では注意が必要です。体液過剰やナトリウム貯留が生じる可能性があります。
【災害時の活用】
ケイキサレートやアーガメイトゼリーは災害時にも重要な役割を果たします。災害時には食糧不足によるエネルギー不足や透析不足から高カリウム血症のリスクが高まるため、非常持ち出し袋に常時入れておくことが推奨されています。
新世代カリウム吸着薬ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(ロケルマ)の臨床的価値
ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(ロケルマ)は、2020年にアストラゼネカから発売された新世代のカリウム吸着薬です。従来のポリスチレンスルホン酸製剤とは異なる、非ポリマー無機陽イオン交換化合物として開発されました。
【製剤特性】
- 懸濁用散分包品(5g、10g)
- 微細孔構造を有する非ポリマー無機結晶の陽イオン交換化合物
- 腸管内でカリウムイオンと「水素イオン」「ナトリウムイオン」を交換
【用法・用量】
- 通常:1日1回5gを約45mlの水に懸濁して服用(最大1日1回15gまで)
- 治療開始時:最初の2日間(最大3日間)は1回10gを1日3回
- 透析患者:非透析日に1回5gを45mlの水に懸濁して服用(最大1日1回15g)
【ロケルマの主な特徴と利点】
- 選択的カリウム吸着
ロケルマの最大の特徴は、1価の陽イオン(K+)を選択的に捕捉し、2価の陽イオン(Mg2+、Ca2+)への影響が少ないことです。これにより、従来のカリウム吸着薬で見られたマグネシウムやカルシウム値への影響を回避できます。
- 非ポリマー製剤
ロケルマは非ポリマー製剤のため、腸管内で膨張することがありません。従来のポリマー性吸着薬では水を含んで膨張することで引き起こされる便秘や腹痛、腹部膨満感などのリスクが軽減されると期待されています。
- 優れた服薬コンプライアンス
- 治療開始3日目からは1日1回の服用でよい
- 無味無臭で懸濁用
- 室温保存可能
【臨床的エビデンス】
ロケルマの有効性と安全性は複数の臨床試験で検証されています。
- HARMONIZE-Global試験:慢性腎臓病患者における高カリウム血症の是正と長期的な血清カリウム値コントロールが示されました。
ESC Heart Fail. 2020 Feb;7(1):54-64. - DIALIZE試験:血液透析患者における透析間高カリウム血症の予防効果が示されました。
J Am Soc Nephrol. 2019 Sep;30(9):1723-1733.
カリウム吸着薬の災害時における活用と備蓄の重要性
災害時には通常の医療サービスの提供が困難になることがあり、特に透析患者やCKD患者にとっては命に関わる危機となりえます。そのような状況で、カリウム吸着薬は重要な「命をつなぐ薬」となります。
【災害時に高カリウム血症のリスクが高まる理由】
- 食糧不足によるエネルギー不足(筋肉からのカリウム放出増加)
- 透析不足または透析不能による体内カリウム蓄積
- ストレスや外傷による細胞からのカリウム放出
- 薬の不足(ACE阻害薬やARBなどカリウム保持作用のある薬剤の中断)
【備蓄すべきカリウム吸着薬の選択】
災害時の備蓄には、以下の点を考慮してカリウム吸着薬を選択するとよいでしょう。
- 保存条件:室温保存できるもの
- 服用のしやすさ:水が少なくても服用できるもの
- 携帯性:コンパクトで持ち運びやすいもの
- 有効期限:できるだけ長期のもの
アーガメイトゼリーは水なしでも服用できるため災害時に適していますが、かさばるという欠点があります。ロケルマは比較的少ない水で服用でき、コンパクトな分包品のため持ち運びに適しています。
【患者教育の重要性】
災害時の対応として、患者さんへ以下の指導を行うことが重要です。
- 最低3日分(できれば1週間分)のカリウム吸着薬を常に手元に置いておく
- 非常持ち出し袋にカリウム吸着薬を入れる
- 災害時の緊急連絡先や最寄りの透析施設のリストを作成しておく
- 高カリウム血症の症状(しびれ、脱力感、不整脈など)を理解しておく
- 災害時の食事選択について知識を持つ(カリウム含有量の少ない食品の選択)
医療従事者として、災害時医療の一環としてカリウム吸着薬の備蓄と患者教育を行うことは、透析患者やCKD患者の生命を守るために重要な役割となります。
【カリウム吸着薬比較一覧表】
一般名 | 商品名 | 交換イオン | 製剤形態 | 主な副作用 | 災害時の適性 |
---|---|---|---|---|---|
ポリスチレンスルホン酸Ca | カリメート、アーガメイト | カルシウム | 散剤、DS、経口液、ゼリー、顆粒 | 便秘 | ○(特にゼリー製剤) |
ポリスチレンスルホン酸Na | ケイキサレート | ナトリウム | 散剤、DS | 便秘、腸管合併症、Na貯留 | △ |
ジルコニウムシクロケイ酸Na | ロケルマ | ナトリウム、水素 | 懸濁用散 | 浮腫(軽度) | ◎(コンパクト、必要水分量少) |
これらのカリウム吸着薬の特性を理解し、患者さんの状態に合わせた最適な薬剤選択を行うことで、より効果的で副作用の少ない高カリウム血症治療が可能となります。また、災害時の備えとしても、カリウム吸着薬の適切な備蓄と患者教育が重要です。