肝機能薬一覧
肝機能改善薬の種類と特徴
肝機能改善を目的とした薬剤は、作用機序や適応症によって複数のカテゴリに分類されます。
肝庇護薬(肝保護薬)
ウルソデオキシコール酸は、胆汁酸プールの改善により肝細胞膜を安定化させ、肝機能検査値の改善が期待できます。グリチルリチン製剤は肝臓の炎症を抑制し、線維化の進行を遅らせる効果があります。
B型肝炎ウイルスに対する治療薬として、インターフェロン製剤(スミフェロン®、ペガシス®)と核酸アナログ製剤(ゼフィックス®、バラクルード®、ヘプセラ®、ベムリディ®)があります。
C型肝炎ウイルスには直接型抗ウイルス薬(DAA)であるソバルディ®、ハーボニー®、マヴィレット®が第一選択となっています。これらの薬剤は従来のインターフェロン治療と比較して副作用が少なく、治療完遂率が大幅に改善されました。
補助療法薬
肝機能障害で処方される頻度の高い薬剤には、ネキシウムカプセル20mg、タケキャブ錠10mg、レバミピド錠100mg、ウルソデオキシコール酸錠100mgなどがあります。
肝機能障害時の禁忌薬一覧
重篤な肝機能障害患者において使用禁忌となる薬剤は多岐にわたり、処方時の注意が必要です。
循環器系薬剤
消化器系薬剤
- エゼチミブ錠:HMG-CoA還元酵素阻害剤併用時の重篤な肝機能障害患者
- エネーボ配合経腸用液:高度の肝・腎障害のある患者
中枢神経系薬剤
- デエビゴ錠5mg:重度の肝機能障害のある患者
- チザニジン錠1mg:重篤な肝障害のある患者
- デュロキセチンカプセル:高度の肝機能障害のある患者
抗腫瘍薬
- 注射用メソトレキセート:肝障害のある患者には投与禁忌
その他の重要な禁忌薬
- チガソンカプセル:肝障害のある患者
- デュタステリドカプセル:重度の肝機能障害のある患者
- チクロピジン塩酸塩錠:重篤な肝障害のある患者
これらの薬剤は、肝臓での代謝や解毒機能が低下した状態では薬物の蓄積や重篤な副作用のリスクが高まるため、投与を避ける必要があります。
肝機能薬の副作用と注意点
肝機能改善薬といえども、副作用や相互作用に注意が必要です。
ウルソデオキシコール酸の副作用
- 消化器症状:下痢、軟便、腹部膨満感
- 皮膚症状:発疹、蕁麻疹
- 稀に肝機能検査値の一過性上昇
グリチルリチン製剤の注意点
抗ウイルス薬の主な副作用
DAA製剤では比較的副作用は軽微ですが、以下の点に注意が必要です。
分岐鎖アミノ酸製剤
- 高アンモニア血症の改善効果があるものの、過量投与は避ける
- 腎機能障害患者での用量調整が必要
H2受容体拮抗薬のような消化性潰瘍治療薬も肝機能障害患者によく処方されますが、シメチジンやファモチジンは肝代謝型薬剤のため、重度肝障害時には用量調整が必要です。
肝機能薬の処方パターン解析
実際の臨床現場における肝機能薬の処方パターンを分析すると、興味深い傾向が見られます。
急性肝炎期の処方パターン
- グリチルリチン製剤の静注(強力ネオミノファーゲンシー®)が第一選択
- 補助療法として肝庇護薬の併用
- 原因に応じた特異的治療薬の追加
慢性肝炎・肝硬変の維持療法
- ウルソデオキシコール酸の長期投与が基本
- 肝性脳症予防目的での分岐鎖アミノ酸製剤
- 腹水コントロールのための利尿剤併用
ウイルス性肝炎の治療戦略
C型肝炎治療では、従来のインターフェロン併用療法から、DAA単独療法へのパラダイムシフトが完了しています。治療成功率は95%以上に向上し、副作用プロファイルも大幅に改善されました。
B型肝炎治療では、核酸アナログ製剤の長期投与が標準的ですが、薬剤耐性や長期安全性の観点から定期的なモニタリングが重要です。
薬価と処方選択への影響
肝臓疾患用剤の薬価には大きな差があります。例えば。
- セロシオンカプセル10:136.50円
- デファイテリオ静注200mg:54,091.00円
- リブマーリ内用液10mg/mL:3,888,640.70円
このような薬価差は処方選択に影響を与える可能性があり、医療経済学的観点からの薬剤選択も重要な要素となっています。
肝機能薬選択の独自判断基準
従来の教科書的な薬剤選択基準に加えて、実臨床では以下のような独自の判断基準が重要になります。
患者背景による薬剤選択の細分化
高齢者では肝代謝機能の低下を考慮し、腎排泄型薬剤への変更や用量減量を積極的に検討します。また、併存疾患の有無により禁忌薬の範囲も拡大する場合があります。
薬物動態学的特性に基づく個別化医療
Child-Pugh分類やMELD scoreに基づく重症度評価だけでなく、薬物代謝酵素(CYP)の遺伝子多型を考慮した薬剤選択が注目されています。特にCYP2C19の代謝能力差は、プロトンポンプ阻害薬の効果に大きく影響します。
多剤併用時の相互作用マネジメント
肝機能障害患者では多剤併用となることが多く、薬物相互作用のリスクが高まります。特にワルファリンとの併用、CYP阻害薬との併用では、血中濃度モニタリングが重要です。
アドヒアランス向上のためのレジメン最適化
- 1日1回投与薬の優先選択
- 配合剤の活用による服薬錠数の削減
- 患者の生活パターンに合わせた投与タイミング調整
経済性を考慮した治療戦略
先発品と後発品の選択において、単純な薬価比較だけでなく、患者のQOL向上効果や長期的な医療費抑制効果を総合的に評価することが求められます。
モニタリング指標の個別設定
従来のAST、ALT、γ-GTPに加えて、Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)やFIB-4 indexなどの新しいマーカーを用いた治療効果判定が普及しつつあります。
順天堂大学医学部附属静岡病院の肝臓病センターでは、これらの包括的な評価基準に基づいた個別化治療を実践しています。
肝臓のお薬について詳しい情報と最新の治療指針が掲載されています
肝機能薬の適切な選択と使用は、患者の予後改善に直結する重要な治療戦略です。教科書的な知識に加えて、個々の患者背景を総合的に評価し、最適な薬物治療を提供することが医療従事者に求められています。