核酸系逆転写酵素阻害薬の作用機序と副作用、耐性変異の現状

核酸系逆転写酵素阻害薬の作用機序と臨床

実は、核酸系逆転写酵素阻害薬は本来の標的以外の酵素も阻害します。

この記事の3つのポイント
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核酸系逆転写酵素阻害薬とは

細胞内で三リン酸化され、HIVの逆転写酵素を阻害してDNA鎖伸長を停止させる抗HIV薬の基幹クラス

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ミトコンドリア障害による副作用

DNAポリメラーゼγへの影響で貧血、末梢神経障害、乳酸アシドーシスなどの重篤な副作用が出現

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多剤併用療法の必要性

薬剤耐性変異を抑制するため、3剤以上の抗HIV薬を組み合わせた多剤併用療法が標準治療

核酸系逆転写酵素阻害薬の基本的作用機序

核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI:Nucleoside Analogue Reverse Transcriptase Inhibitor)は、抗HIV治療において最初に実用化された薬剤クラスです。これらの薬剤は五炭糖の3’位の水酸基を欠いた修飾ヌクレオシドという特徴を持ち、細胞内でリン酸化酵素によってリン酸基が段階的に付加されます。最終的に三リン酸型の活性体となることで、HIVの逆転写酵素に作用する仕組みです。hiv-resistance+1

活性化された薬剤は、本来のデオキシヌクレオチド三リン酸の代わりにウイルスDNA鎖に取り込まれます。すると3’位の水酸基がないため、次のヌクレオチドとの結合ができなくなります。これが「チェーンターミネーション(鎖伸長停止)」と呼ばれる現象で、HIVの増殖を食い止める核心的なメカニズムですね。

参考)現在日本で使われている薬剤 – 薬剤耐性HIVインフォメーシ…

代表的な核酸系逆転写酵素阻害薬には、アバカビル、エムトリシタビン、ジダノシン、ラミブジン、ジドブジン(AZT)、テノホビル ジソプロキシル、テノホビル アラフェナミドなどがあります。これらは単独ではなく、他の抗HIV薬と組み合わせて使用することが原則です。

参考)【ゴロ】核酸系逆転写酵素阻害薬

ジドブジン(AZT)は世界初の抗HIV薬として承認されましたが、その開発時に化学構造中にアジド基を含むという特異な特徴がありました。アジド含有医薬品は承認例が非常に少なく、安全性の観点から慎重な取り扱いが求められています。

参考)激レア!?アジドを含む医薬品 〜世界初の抗HIV薬を中心に〜…

核酸系逆転写酵素阻害薬とミトコンドリア障害の関係

核酸系逆転写酵素阻害薬の重大な問題は、ウイルスの逆転写酵素だけでなく宿主細胞のDNAポリメラーゼγも阻害することです。DNAポリメラーゼγはミトコンドリアDNA合成を担当する酵素であり、NRTIを基質として取り込む傾向があります。その結果、ミトコンドリアの増殖が障害されるわけです。

参考)抗HIV薬の作用機序

ミトコンドリア障害に起因する副作用として、貧血、末梢神経障害、乳酸アシドーシスが臨床的に認められています。特に乳酸アシドーシスは、脱力感、筋肉痛、筋力低下などの症状を伴い、重症化すると肝不全や心不全に進行するリスクがあります。この副作用はミトコンドリア機能障害による細胞内エネルギー代謝の異常が原因ですね。msdmanuals+2

薬剤によってミトコンドリア障害の起こしやすさは異なります。例えばジドブジン(AZT)の長期服用では、AZT三リン酸(AZT-TP)が特に毒性が強く、ミトコンドリアの断片化を誘発することが研究で示されています。乳酸アシドーシスの発症頻度は決して高くありませんが、発症した場合の重篤度を考えると見逃せません。kaken.nii.ac+1

さらに、糖尿病や耳毒性、網膜病変といった比較的まれな副作用もミトコンドリア機能障害に関連している可能性が指摘されています。これらの副作用の病態生理は十分に解明されていませんが、臨床現場では注意深い観察が必要です。

参考)ヌクレオシドとヌクレオチド逆転写酵素阻害剤誘導ミトコンドリア…

核酸系逆転写酵素阻害薬に対する薬剤耐性変異

長期にわたる核酸系逆転写酵素阻害薬の使用により、HIV逆転写酵素に耐性変異が蓄積する問題が知られています。HIVは逆転写の過程でエラー率が高く、複製のたびに変異が生じやすい特性を持ちます。薬剤による選択圧がかかると、薬剤感受性が低い変異株が優位になるということですね。wikipedia+1

代表的な耐性変異として、チミジンアナログ変異(TAMs)があります。これらはAZT、ddI、d4T、3TC、ABCなど複数の核酸系阻害剤に対する耐性を付与するだけでなく、テノホビル(TDF)に対する耐性も新たに獲得させます。さらにE312Q、G335C/D、A360I/V、V365I、A376Sといった新規耐性変異も相次いで報告されています。

参考)https://jaids.jp/pdf/2014/20141602/20141602084091.pdf

耐性変異の構造的特徴として、核酸系阻害剤に対する変異部位と非核酸系阻害剤に対する変異部位は、逆転写酵素の立体構造上で異なる領域に局在していることが確認されています。つまり各クラスの薬剤は異なる部位に作用するため、組み合わせることで相補的な効果が期待できます。

参考)解析事例 > 複数の変異の位置をマップする

単剤療法では数回の継代培養で薬剤耐性ウイルスが出現することが実験的に示されています。例えば非核酸系阻害剤MKC-442の単独使用ではK103N変異が、3TCの単独使用ではM184I変異が生じました。耐性変異の出現を抑えるには多剤併用が必須ですね。

参考)逆転写酵素阻害剤の併用療法に関する研究

核酸系逆転写酵素阻害薬を含む多剤併用療法

現在の抗HIV治療では、耐性ウイルスの出現を抑えて十分な抗ウイルス効果を得るため、3剤以上の抗HIV薬を組み合わせた多剤併用療法(HAART)が標準です。特に2剤の核酸系逆転写酵素阻害薬に、非核酸系阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、またはインテグラーゼ阻害剤を組み合わせる方法が広く採用されています。jstage.jst.go+1

実験研究では、非核酸系阻害剤MKC-442とd4T+3TCの3剤併用、またはMKC-442とd4T+ddIの3剤併用が強い相乗作用を示すことが明らかになっています。これらの3剤併用では長期培養においてもウイルス増殖が完全に抑制され、薬剤耐性ウイルスの出現が認められませんでした。つまり作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで、耐性獲得のハードルを大幅に高めることができるわけです。

配合剤として、エムトリシタビンとテノホビル アラフェナミドを含むデシコビ配合錠や、ビクタルビ配合錠などが使用されています。配合剤は服薬錠数を減らし、アドヒアランス向上に寄与するメリットがあります。

参考)デシコビ|作用機序|G-STATION Plus|ギリアド・…

各薬剤の作用機序、特性、副作用を認識し、相互作用を考慮しながら組み合わせることが治療成功の鍵です。例えば第2世代非核酸系阻害剤(エトラビリン、リルピビリン)は、第1世代薬剤に対する代表的な耐性変異K103Nを有するHIV-1に対しても十分な抗ウイルス作用を示します。薬剤選択の幅が広がることで、個々の患者に最適化された治療が可能になりますね。jstage.jst.go+1

核酸系逆転写酵素阻害薬の服薬管理と注意点

核酸系逆転写酵素阻害薬の一部は食事の影響を受けるため、服薬タイミングの指導が重要です。例えばインテグラーゼ阻害剤との配合剤を食後に服用すると、AUCとCmaxが低下する報告があります。このため服薬後1時間は食事をしないよう指導する必要がありますね。

参考)第108回薬剤師国家試験 問344(実践問題) 抗悪性腫瘍薬…

一方で核酸系と非核酸系の配合剤については、服薬後の食事の影響に関するデータは限られていますが、特に問題はないと考えられています。薬剤ごとの特性を正確に把握することが大切です。

参考)https://osaka.hosp.go.jp/wp-content/themes/osaka-iryou/doc/department/khac/knowledge/kou_hiv/qnaver13.pdf

ミトコンドリア障害による副作用のモニタリングも欠かせません。乳酸アシドーシスは肝硬変や肝不全患者で発症リスクが高く、特にMELDスコア20以上の患者では注意が必要です。重度の肝機能障害患者16人中5人が治療中に乳酸アシドーシスを発症したという報告もあります。定期的な血清乳酸値測定や肝機能検査の実施が推奨されますね。

参考)https://ichgcp.net/ja/clinical-trials-registry/NCT01354652

貧血や末梢神経障害といった副作用も見逃せません。患者に脱力感、筋肉痛、手足のしびれなどの症状が現れた場合は、速やかに医師に報告するよう指導することが重要です。

参考)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の抗レトロウイルス薬によ…

治療期間が12か月未満の場合や、女性、40歳以上、CD4数の減少といった因子も乳酸アシドーシスのリスク因子として知られています。こうした背景因子を持つ患者では、より慎重な経過観察が求められます。

抗HIV治療ガイドライン(日本エイズ学会)

抗HIV薬の最新の作用機序や推奨レジメンについて詳しく解説されており、この記事で扱った核酸系逆転写酵素阻害薬の位置づけや他の薬剤クラスとの組み合わせの参考になります。

耐性変異の読み方(HIV薬剤耐性データベース)

現在日本で使用されている抗HIV薬に対する耐性変異の具体的なパターンと解釈方法が掲載されており、薬剤選択時の耐性検査結果の判読に役立ちます。