静脈血と動脈血の色の違い

静脈血と動脈血の色

静脈血と動脈血の色の特徴
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動脈血の鮮紅色

肺で酸素を受け取った血液は鮮やかな赤色を呈します。酸素ヘモグロビンが多く含まれ、全身に酸素を運搬する役割を担います。

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静脈血の暗赤色

組織で酸素を放出し二酸化炭素を回収した血液は黒っぽい赤色になります。採血室で採取される血液はこの静脈血です。

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ヘモグロビンの役割

血液の赤色は赤血球中のヘモグロビンによるものです。酸素との結合状態によって色調が変化します。

静脈血と動脈血の色が異なる理由

血液の色は赤血球に含まれるヘモグロビンという赤色の色素タンパク質によって決まります。動脈血は酸素を多く含むため鮮紅色(せんこうしょく)を呈し、静脈血は二酸化炭素を多く含むため暗赤色(あんせきしょく)になります。この色の違いは、ヘモグロビンが酸素と結合しているか否かによって生じます。

参考)動脈血と静脈血の色【図解】


ヘモグロビンには鉄分が含まれており、鉄が酸素と結びつくと鮮やかな赤色に変化します。これは鉄が錆びると赤くなる現象と同様のメカニズムです。肺(肺胞)で酸素を受け取った動脈血には、酸素と結合した酸化ヘモグロビン(酸素ヘモグロビン)が多く含まれるため、鮮紅色を示します。

参考)検査部コラム 血液検査の豆知識


一方、全身の組織に酸素を届けた後の血液は、酸素を放出して還元ヘモグロビンが増加し、代わりに二酸化炭素や老廃物を受け取ります。このため静脈血は暗赤色となり、採血室で採取される血液が黒っぽく見えるのはこのためです。

参考)https://kids.gakken.co.jp/box/rika/06/pdf/B046102420.pdf

静脈血における酸素飽和度の測定

血液中の酸素飽和度は、ヘモグロビンの何パーセントが酸素と結合しているかを示す指標です。健康な人の動脈血酸素飽和度(SpO₂)は96~99%が正常範囲とされています。パルスオキシメータは指先などにセンサーを装着し、赤色光と赤外光の吸収率の違いを測定することで、非侵襲的に酸素飽和度を算出できます。

参考)酸素飽和度って? 【臨床工学科】


酸素化ヘモグロビンは赤外光をよく吸収し、還元ヘモグロビンは赤色光をよく吸収するという特性を利用しています。動脈血と静脈血では酸素飽和度が異なり、動脈血の方が酸素飽和度が高くなります。静脈血の酸素飽和度は組織での酸素消費を反映するため、臨床的には混合静脈血酸素飽和度(SvO₂)が循環動態の評価に用いられることもあります。

参考)パルスオキシメータって、なに?


動脈血液ガス分析では、動脈から直接採血することで、酸素分圧(PaO₂)や二酸化炭素分圧(PaCO₂)、pHなどを正確に測定できます。正常値は酸素が80~100トール、二酸化炭素が35~45トール、pHは7.35~7.45です。

参考)酸素飽和度検査・動脈血ガス分析│西新潟中央病院

静脈血と動脈血の二酸化炭素運搬の違い

血液による二酸化炭素の運搬は主に赤血球内の炭酸脱水酵素によって行われます。組織で産生された二酸化炭素は静脈血によって肺に運ばれ、肺胞で呼気中に排出されます。動脈血よりも静脈血の方が二酸化炭素含有量が多くなります。

参考)ガス交換のしくみ


肺でガス交換が行われた酸素濃度の高い血液は心臓から各組織に送り出されます。毛細血管から酸素が細胞に取り込まれ、細胞からは代謝産物である二酸化炭素が血液に放出されます。酸素量が減少し二酸化炭素が増加した血液は心臓へ戻り、再び肺に運ばれてガス交換が行われます。

参考)動脈血液ガスと静脈血液ガスの違い


静脈血は酸塩基平衡の評価(pH、HCO₃⁻、PaCO₂)に代用でき、重炭酸イオン濃度に関しては動脈血とほとんど変わりません。静脈血のpHは二酸化炭素が放出される分やや酸性に傾くため動脈血より0.03~0.04低く、PCO₂は7~8Torr高く、HCO₃⁻は2mEq/L程度高くなります。​

静脈血の色が示す健康状態

採血時に血液の色が黒っぽく見えることに不安を感じる方もいますが、これは静脈血の正常な色です。静脈は皮膚から青く透けて見えますが、これは静脈血自体が青いのではなく、光の散乱による視覚効果です。皮膚に当たった光のうち、赤い光(長波長)は深くまで浸透して静脈血に吸収され、青い光(短波長)は皮膚の浅い層で散乱して目に届くため、青く見えます。

参考)https://www.kosei-hospital.kiryu.gunma.jp/site/wp-content/uploads/2025/06/column_20250315.pdf


健康で酸素を多く含む血液は、静脈血であってもさらさらして比較的鮮やかな色をしていることがあります。逆に脱水状態ではとろっとした血液になり、貧血の患者では静脈血でも鮮やかな赤色を呈することがあります。これらの観察は経験的なものですが、血液の性状は健康状態を反映する一つの指標となります。

参考)血は語る。。。|医療法人 アクアブライト 野村循環器内科クリ…


指を切ったりして出てくる血液は、たいてい静脈の黒っぽい血液です。動脈は皮膚の下の深いところにあり外からは見えないため、日常的に目にする出血のほとんどは静脈血です。採血室で採血を行っているのも静脈の血液であり、採血した血液の色が黒っぽく見えるのは正常な現象です。

参考)採血のお話

静脈血と動脈血の臨床的意義

動脈血液ガス分析は患者にとって負担の大きい検査ですが、酸素と二酸化炭素に関する情報が豊富で、ガス交換機能や心臓・呼吸器の機能を評価できるため、静脈血液ガスより多様な疾患を把握できます。低酸素血症を疑う場合には動脈血液ガス分析が必須となります。​
一方、静脈血は酸塩基平衡の評価に代用でき、代謝性アシドーシスが疑われるケースでは静脈血でも十分に評価が可能です。ルーチンで行われる静脈血採血からも酸塩基平衡に関する情報が得られることは、医療現場で重要な知識です。​
動脈血と静脈血の成分の違いを理解することで、各種検査の意義や血液循環のメカニズムをより深く理解できます。肺循環系においては右心室から出た静脈血は肺動脈を通って肺へ流入し、ガス交換後は動脈血として全身に送り出されます。このように血液は体内を循環しながら酸素と二酸化炭素の運搬という重要な役割を果たしています。

参考)動脈血と静脈血の生化学検査項目の比較分析【JST・京大機械翻…


<参考情報>
日本呼吸器学会によるパルスオキシメータハンドブック

パルスオキシメータの測定原理と動脈血酸素飽和度の評価方法について詳しく解説されています。

西新潟中央病院の酸素飽和度検査・動脈血ガス分析の解説

酸素飽和度の測定方法と動脈血ガス分析の臨床的意義について、わかりやすく説明されています。