腎がんの治療方法と最新エビデンス

腎がんの治療方法

腎がん治療の3つの柱
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手術療法

腎部分切除術または腎全摘除術。ロボット支援手術により低侵襲化が進む

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薬物療法

免疫チェックポイント阻害薬とチロシンキナーゼ阻害薬の併用療法が標準治療

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局所療法

凍結療法や放射線治療。手術困難例や転移巣への対応

腎がんのステージ別治療選択

腎がんの治療は、ステージ(病期)に基づいて選択されますよ。ステージはローマ数字Ⅰ期〜Ⅳ期に分類され、TNM分類(腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移)によって決定されます。早期の腎がんでは手術療法が第一選択となり、7cm以下の腫瘍に対しては腎部分切除術が標準治療とされているんです。

参考)腎臓がん(腎細胞がん) 治療:[国立がん研究センター がん情…


ステージⅠ期やⅡ期の限局性腎がんでは、腎機能温存と根治性の両立を目指した腎部分切除術が推奨されます。一方、ステージⅢ期以降の進行がんや転移を伴うステージⅣ期では、薬物療法が治療の中心となりますよ。治療選択には、腫瘍の組織型(淡明細胞型が7〜8割を占める)も重要な判断材料になります。

参考)腎細胞がん


転移のない腎細胞がんで腎切除を受けた患者さんにおいて、5年までの再発率はおよそ20%と報告されており、術後の定期的な経過観察が欠かせません。

参考)治療(治療法、経過観察、再発・転移など)

腎がんのロボット支援手術の実際

2016年4月から保険診療として認可されたロボット支援腎部分切除術は、腎がん治療の低侵襲化を大きく進展させました。ロボット支援手術では、腎動脈の血流を一時的に遮断して腫瘍を切除し、腎実質や腎杯・腎盂を縫合して止血する精密な手技が行われます。

参考)腎臓がんに対するロボット支援手術


ロボット手術の主なメリットには、拡大視野と手ブレ防止機能による正確な操作、腎動脈遮断時間(温阻血時間)の短縮、出血量の最小化などがあります。従来の腹腔鏡手術では対応困難だった埋没腫瘍や腎門部腫瘍にも適応が拡大されているんですよ。

参考)メニュー


豊田会病院のロボット支援腎がん手術について
実際の手術では、CT画像を3D再構築したナビゲーションシステムを用いて術前シミュレーションを行い、術中は3D画像と術野を同期させることで、腫瘍の位置や腎血管の走行を正確に把握できるようになりました。東京女子医科大学病院では、T1腎腫瘍の90%以上をロボット支援手術で行っているという実績もあります。

参考)腎がんロボット手術の実際|泌尿器科コラム|東京女子医科大学病…

進行腎がんに対する免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法

進行・再発腎細胞がんに対する1次治療として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の併用が標準治療となっています。2024年に報告されたCLEAR試験の最終解析では、ペムブロリズマブレンバチニブ療法の全生存期間中央値が57.3ヵ月であることが示されました。

参考)【必修】3分でわかる、 腎細胞癌のエビデンス2024-202…


CheckMate-9ER試験の最終解析(追跡期間中央値67.6ヵ月)では、ニボルマブ+カボザンチニブ併用療法が、スニチニブ単独療法と比較して、無増悪生存期間中央値16.4ヵ月対8.3ヵ月(ハザード比0.58)、全生存期間中央値46.5ヵ月対35.5ヵ月(ハザード比0.79)と優れた結果を示しています。完全奏効率も13.9%対4.6%と、併用療法で高い腫瘍縮小効果が認められました。

参考)進行腎細胞がんに対する初回治療としてのオプジーボ+カボメティ…


進行腎細胞がんに対する初回治療の最新エビデンス
特にIMDC分類による中・高リスク群や、肝臓・肺・骨に転移がある症例で併用療法のメリットが大きいことが明らかになっています。​

腎がんの分子標的治療薬の種類と使い分け

腎がんの分子標的治療薬には、主に腫瘍の血管新生を阻害するチロシンキナーゼ阻害薬と、腫瘍細胞の増殖を抑制するmTOR阻害薬が含まれます。現在使用可能なチロシンキナーゼ阻害薬には、ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ、パゾパニブ、カボザンチニブの5剤があり、mTOR阻害剤としてエベロリムス、テムシロリムスの2剤が使用されています。

参考)進行性腎がんに対する集学的治療


どの薬剤を用いるかは、腫瘍の組織型、前治療の内容、全身状態、併存合併症などに基づいて選択されますよ。アキシチニブは、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法でも用いられており、多様な治療戦略の選択肢となっています。​
後方ラインの新たな治療選択肢として、HIF-2α阻害薬ベルズチファンが注目を集めているんです。LITESPARK-005試験では、ベルズチファンがエベロリムスと比較して全生存期間を有意に延長することが示され、日本でも2024年7月に承認申請が行われました。​

腎がんの術後補助療法と再発リスク管理

腎細胞がんに対する術前・術後補助療法として、現在のところ予後延長効果が示されているのはペムブロリズマブのみです。KEYNOTE-564試験の最終解析では、術後の再発リスクが高い淡明細胞型腎細胞がん患者において、ペムブロリズマブによる術後補助療法がプラセボと比較して、全生存期間の有意かつ臨床的に意味のある改善と関連することが示されました。

参考)腎細胞癌の術後にペムブロリズマブによる補助療法を行った場合の…


東京医科歯科大学の研究では、がんと正常部との境界部の増殖パターンに着目することで、術後再発リスクを高精度で予測できる新しい指標が発見されました。特定の増殖パターンが術後再発に強く関連し、予後不良な遺伝子変異とも関連することが示唆されており、従来のリスク評価では見逃されがちな再発高リスク患者に対して術後補助療法の機会を提供できる可能性があるんですよ。

参考)「 腎臓がんの術後再発リスクを見極める新たな鍵 」【 田中一…


腎臓がんの術後再発リスクを見極める新たな鍵
腎細胞がんは血流にのって肺、骨、肝臓などの別の臓器に転移しやすく、転移巣が先に発見されることもあります。再発・転移を早期に発見して早期治療を開始するためにも、定期的な受診・検査が極めて重要です。

参考)腎細胞がん(RCC)の転移と再発

腎がんの凍結療法と局所治療の選択肢

凍結療法とは、画像を見ながら体表から先端が-100度になる専用の針を刺すことで腎がんを凍結させて死滅させる治療法です。手術と違って全身麻酔をせずに局所麻酔で行えるのが特徴で、比較的小さな腎がんがよい適応とされています。

参考)腎がんに対する凍結療法開始のご案内


腎がんの治療の原則は外科的切除ですが、心臓などに重い病気があるために全身麻酔をかけられない患者さんにとって、凍結療法は局所麻酔で行えるため有効な選択肢となります。実際の治療では、CTやMRIで腎臓がんの位置を確認しながら、腰や背中のあたりの皮膚から凍結用の針を腎臓がんに挿入し、10〜15分程度の凍結と5分程度の自然解凍を繰り返します。

参考)https://www.jsir.or.jp/docs/kouhoukara/PR_PDF/Qamp;A/16.pdf


横浜市立大学附属病院の腎がん凍結療法
横浜市立大学附属病院では、泌尿器科放射線科が連携して2018年に凍結療法を開始しており、現在神奈川県で唯一凍結療法が行える施設として数多くの患者さんの治療を行っています。腎臓がんの大きさにより複数の針を刺して治療を行い、1本の針で凍結できる範囲に応じて治療計画を立てるんですよ。​

腎がんのリスク因子と予防戦略

腎細胞がんの発症に関係している特定の要因については完全には解明されていませんが、喫煙、肥満、高血圧などが関係していることが知られています。塩分(ナトリウム)を多く摂りすぎると、高血圧の発症を介して腎細胞がんになるリスクが高くなることも指摘されているんです。

参考)腎細胞がん(RCC)とは


人工透析を受けている患者さんは腎細胞がんを発症する割合が高く、透析期間が長くなるほど発症する割合も高くなることが示されています。また、遺伝的要因として、フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病の患者さんのうち約50%に腎細胞がんが発生し、バート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群患者さんでは約19%の患者さんの腎臓に腫瘍性の変化が認められたとの報告があります。​
腎細胞がんのリスク因子と予防について
腎細胞がんに関しては、発生に関係している特定の要因がわかっていないため、予防の決め手はありませんが、禁煙し、塩分控えめのバランスの良い食事や適度な運動を心がけることが推奨されています。

参考)腎臓がん(腎細胞がん) 予防・検診:[国立がん研究センター …

リスク因子 詳細 推奨される対策
喫煙 がん発症リスクを上昇させる 禁煙の実施
肥満 腎細胞がん発症との関連が指摘されている 適正体重の維持、適度な運動
高血圧 塩分過剰摂取により高血圧を介してリスク上昇 塩分控えめの食事
人工透析 透析期間が長いほど発症率が上昇 定期的な画像検査による早期発見
遺伝性疾患 VHL病、BHD症候群患者は高リスク 若年からの定期受診

腎細胞がんについては、現在、厚生労働省によって指針として定められている検診はありませんが、人間ドックなどの腹部超音波(エコー)検査で偶然発見されることが少なくありません。VHL病やBHD症候群の患者さんとその家系の方は、若年から腎細胞がんを発症しやすいため、定期的に受診することが特に大切ですよ。​