自己抗体と疾患の一覧
自己抗体の基本的な分類と疾患との関連性
自己免疫疾患では免疫機構に異常が生じ、自己反応性の細胞や抗体が出現します。これらの疾患は大きく2つのカテゴリーに分けられます。
全身性自己免疫疾患 では複数の臓器にわたる障害がみられ、主要な疾患には以下があります。
- 関節リウマチ(RA)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 抗リン脂質抗体症候群(APS)
- 全身性強皮症(SSc)
- 多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)
- 混合性結合組織病(MCTD)
- シェーグレン症候群(SS)
- 血管炎症候群(MPA、GPA、EGPA)
臓器特異的自己免疫疾患 では組織障害が1つの臓器に限局し、代表的な疾患には。
抗核抗体をはじめとする特異的自己抗体は50種類以上が知られており、疾患標識抗体またはマーカー抗体として診断上重要な役割を果たしています。
参考)https://www.city.fukuoka.med.or.jp/kensa/ensinbunri/enshin_31_x.pdf
自己抗体の関節リウマチにおける診断的意義
関節リウマチ(RA)の診断では、複数の自己抗体が重要な役割を果たしています。
リウマトイド因子(RF) は従来から使用されているRAのマーカー抗体で、抗ガラクトース欠損IgGと併用されることが多くあります。しかし、感度と特異度に限界があるため、より精密な診断が求められています。
参考)https://www.ompu.ac.jp/u-deps/kns/jikomeneki.pdf
抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体) は近年のRA診断における重要な進歩です。抗CCP抗体のRAに対する感度は約75%、特異度は90%超という高い診断精度を示します。この抗体は他の膠原病や結核患者でも検出される場合がありますが、RAに対する特異性は非常に高いとされています。
参考)膠原病における自己抗体の考え方と使い方(2)(高田和生)
興味深いことに、これらの自己抗体はRA発症の5年以上前から陽性となることが多く、RAの自然歴において遺伝素因に環境要因が加わることで産生される重要なマーカーです。自己抗体陽性であるにもかかわらず関節炎がない状態は「pre-RA」と呼ばれ、将来RA を発症する予備群として認識されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/3/107_470/_pdf
MMP-3(マトリックスメタロプロテイナーゼ-3) も関節破壊の進行を評価する重要なマーカーとして活用されており、治療効果の判定にも有用です。
自己抗体の膠原病診断における特異性と臨床応用
膠原病患者血清中には多彩な自己抗体が検出され、これらは診断の補助、臓器障害、予後、治療反応性と関連することから病型分類に極めて有用です。
参考)膠原病における特異抗体の意義 | ざいつ内科クリニック|山口…
全身性エリテマトーデス(SLE) では、抗ds-DNA抗体、抗Sm抗体、抗核抗体が代表的な自己抗体として知られています。特に抗ds-DNA抗体は疾患活動性と密接に関連し、治療効果判定にも重要な指標となります。PAIgG(血小板関連IgG)も血小板減少症を併発するSLE患者で検出されることがあります。
全身性強皮症(SSc) では複数の特異的自己抗体が病型分類に活用されています。
- 抗Scl-70/トポイソメラーゼI抗体:びまん性強皮症に関連
- 抗セントロメア抗体:限局性強皮症に多く検出
- 抗RNAポリメラーゼIII抗体:腎クリーゼとの関連が指摘
- 抗核小体抗体:肺高血圧症のリスク評価に有用
混合性結合組織病(MCTD) では抗U1-RNP抗体が特異的で、この疾患では高力価での抗体陽性が特徴的です。抗RNP抗体は自己免疫疾患で広く陽性となりますが、MCTDでは特に高い診断的意義を持ちます。
シェーグレン症候群 における抗SS-A抗体と抗SS-B抗体の組み合わせは、感度83.7%、特異度91.5%という高い診断精度を示します。抗SS-A抗体は他の膠原病でも高頻度で検出されますが、抗SS-B抗体はシェーグレン症候群に対して特異性が高く、単独陽性は稀で抗SS-A抗体と併存する場合が多いという特徴があります。
参考)ステイシア MEBLuxhref=”https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/faq/stacia/ssassb.html” target=”_blank” rel=”noopener”>https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/faq/stacia/ssassb.htmlamp;trade;テスト SS-A、SS…
自己抗体の筋炎特異的診断における革新的進歩
多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)の診断において、筋炎特異的自己抗体(MSAs:Myositis Specific Autoantibodies)の発見は診断学上の重要な進歩をもたらしました。
参考)MSAs|筋炎特異的自己抗体の使い方 |MBL 臨床検査薬
従来、PM/DMの診断では抗Jo-1抗体のみが使用され、その陽性率は約1割程度でした。しかし現在では以下の4つのMSAsが一般診療で測定可能となり、DM患者における陽性率は7割以上に向上しています。
抗ARS抗体群。
- 抗Jo-1抗体(抗ヒスチジルtRNA合成酵素抗体):筋炎では15-20%で陽性
- 抗PL7抗体(抗スレオニルtRNA合成酵素抗体)
- 抗PL12抗体(抗アラニルtRNA合成酵素抗体)
- 抗EJ抗体(抗グリシルtRNA合成酵素抗体)
- 抗KS抗体(抗アスパラギニルtRNA合成酵素抗体)
これらの抗ARS抗体陽性例では、筋炎に加えて高率に間質性肺炎を併発し、発熱、多関節炎、レイノー現象、メカニックスハンドなどの特徴的な臨床症状を示すため「抗ARS抗体症候群」または「抗synthetase症候群」と呼ばれています。
その他の重要なMSAs。
- 抗MDA5抗体:急速進行性間質性肺炎と強く関連
- 抗TIF1-γ抗体:悪性腫瘍合併リスクの評価に重要
- 抗Mi-2抗体:典型的な皮疹を伴う皮膚筋炎に特異的
これらのMSAsは診断のみならず、病型分類、治療法の選択、治療効果の判定にも有用であることが明らかにされており、個別化医療の実現に向けた重要な進歩となっています。
参考)膠原病・リウマチ内科|皮膚筋炎・多発性筋炎|順天堂大学医学部…
自己抗体の臓器特異的疾患における診断的価値
臓器特異的自己免疫疾患では、特定の臓器に対する自己抗体が疾患の病態を理解する上で極めて重要です。
甲状腺疾患 における自己抗体は診断と病型分類に不可欠です。
- バセドウ病:TSHレセプター抗体、抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺マイクロゾーム抗体が検出されます
- 橋本病:抗サイログロブリン抗体、抗ペルオキシダーゼ抗体、抗甲状腺マイクロソーム抗体が特徴的です
肝疾患 では複数の特異的自己抗体が病型診断に活用されています。
原発性胆汁性胆管炎(PBC) では抗ミトコンドリア抗体(AMA)が最も重要なマーカーです。AMAの陽性率は85-90%、より特異的なM2抗体では95-98%という高い検出率を示します。PBCは中年女性に好発する慢性肝内胆汁うっ滞疾患で、臨床的にはそう痒感とAMAの陽性化を特徴とします。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhgmwabun/14/2/14_179/_pdf/-char/en
興味深い研究成果として、AMAの産生機序において、対応抗原であるPDC-E2がxenobiotics(外来化学物質)によって修飾されることで抗原性を発揮する可能性が示唆されています。
自己免疫性肝炎(AIH) では抗平滑筋抗体、抗核抗体、抗LKM1抗体が重要なマーカーとなります。
血液疾患 における自己抗体も診断に重要な役割を果たしています。
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP):抗血小板抗体
- 自己免疫性溶血性貧血:抗赤血球抗体
- 悪性貧血:抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体
神経・筋疾患 では。
- 重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体
- ギランバレー症候群:抗ガングリオシド抗体
- 多発性硬化症:抗アクアポリン4抗体
これらの臓器特異的自己抗体は、単なる診断マーカーを超えて疾患の病態生理を理解する上でも重要な手がかりを提供しており、治療標的としても注目されています。