自閉症の症状と特徴
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションの持続的な障害と、限定された反復的な行動パターンを特徴とする神経発達症です。DSM-5の診断基準では、従来の自閉症、アスペルガー症候群などが「自閉スペクトラム症」として統合され、量的な評価で症状の程度を判断するようになりました。
参考)DSM-5における自閉スペクトラム障害の診断基準 – 神戸・…
自閉症の症状は個人差が大きく、知能レベルは重度の遅れから優秀知能まで幅広い範囲に分布しています。米国における最新の推定有病率は1/54とされており、近年診断基準の変更により診断が急速に進歩しています。
医療従事者にとって重要なのは、症状が発達早期の段階で必ず出現するものの、後になって明らかになるケースもある点です。早期発見と適切な支援介入が、本人と家族のQOL向上に直結するため、年齢ごとの症状の現れ方を正確に理解することが求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3850504/
自閉症の乳幼児期における早期症状
乳幼児期の自閉症症状は、生後0ヶ月から観察可能な特異な発達パターンとして現れます。この時期の早期発見は、適切な支援につながる重要な機会となります。
参考)【専門家監修】赤ちゃんの自閉症チェックリスト:0歳から2歳ま…
生後0ヶ月から12ヶ月の乳児では、視線を合わせることの少なさが最も顕著な症状です。一般的な乳児が保護者の顔を見つめる傾向があるのに対し、自閉症の可能性がある乳児は周りの音や物に注意を向ける一方で、保護者の顔を凝視することが少ないのです。抱っこされることを嫌がったり、大きな音に対して過剰に反応する感覚過敏も見られることがあります。
1歳6ヶ月から2歳頃になると、より明確な症状が観察できるようになります。この時期の代表的な症状には以下のようなものがあります。
参考)【精神科医監修】自閉症はいつわかる?年代別の症状や特徴も解説…
- 名前を呼んでも反応しない
- 視線が合わない
- 指差した方向をなかなか見ない
- 抱っこや触られるのを嫌がる
これらの症状は、人に対する関心の弱さやアタッチメント行動(愛着)の困難さを示しています。
参考)自閉スペクトラム症(ASD)の特徴とは??0〜6歳の年齢別に…
言葉の発達の遅れも重要な指標となります。人の言ったことをオウム返しする「反響言語」や、欲しいものを自分の言葉や身ぶりではなく親の手をつかんで指し示す「クレーン現象」が特徴的に見られます。
参考)自閉症の症状と診断と治療
乳幼児健診での早期発見が重要視されており、1歳6ヶ月児健診や3歳児健診で言葉の遅れや行動特性から気づかれることが多いです。実際、自閉症スペクトラム障害は乳児期という超早期から、追視や表情、運動面発達における軽微な異常徴候、そして感覚過敏性や睡眠異常などの生理的異常を示すことが知られています。
参考)Q62:発達障害児の早期発見のポイントはありますか? – 一…
自閉症の幼児期から学童期の特徴的症状
2歳から3歳頃は自閉症スペクトラム障害が診断される年齢として最も多い時期です。この時期になると言葉の発達や周囲の働きかけに対する反応が増え、行動特性に気付きやすくなるためです。
コミュニケーションの障害がより顕著になり、言葉の発達に遅れがあったり、相手から質問されてもその質問をそのまま返してしまう反響言語が見られたりします。社会的・情緒的な相互関係の欠陥により、他者の働きかけへの反応が鈍かったり、人間関係を発展させることが困難になったりします。
参考)松本英夫先生に「ASD(自閉スペクトラム症)」を訊く|公益社…
感覚の過敏さやこだわり行動により、決まったものしか食べない、着ないなどの執着が見られることも特徴的です。DSM-5の診断基準Bでは「感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味」が追加されており、感覚過敏は自閉症の重要な診断要素となっています。
学童期になると、以下のような症状が学校生活で問題となることがあります。
- 集団に入ろうとしない
- 年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害
- 常同的で反復的な運動動作や物体の使用
- 同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着
これらの症状は、本人だけでなく周囲も含めた適切な理解と支援が必要です。感覚過敏への対応として、音への過敏性にはイヤーマフの装着が有効なこともあります。構造化等によって見通しが可能となったり、コミュニケーションがよりよくできるようになったりすると、過敏の程度が軽減することが多いため、基本的な対応として環境調整が重要です。
参考)自閉症のある子どもの指導・支援 – 発達障害教育推進センター
自閉症の成人における症状と職場での課題
自閉症スペクトラム障害は通常3歳までに診断されることが多いものの、本人や周囲が気付きにくい特性や程度の場合、小学校入学後や成人後に診断される場合もあります。成人期になって初めて診断される背景には、「負荷が大きくなってカバーが困難になったから」という要因があります。
参考)職場で分かる大人の発達障害のサイン5つ【ASD(アスペルガー…
職場で見られる成人の自閉症症状として、以下のような特徴が報告されています。
参考)No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害:専門…
- 親密なつきあいが苦手
- 人と共感しない
- 冗談やたとえ話がわからず字義通りに理解する
- 会話が一方的である
- 急な予定変更に対応できない
職場で分かる大人の発達障害のサインとしては、指示を忘れる、会議が苦手、マルチタスクが苦手、自分で考えることが苦手、社会マナーが苦手といった5つの特徴が挙げられます。これらが「努力しても困難」な状態が続く場合は、背景の発達障害の可能性を視野に入れる必要があります。
成人で以下の項目に多く当てはまる場合は、自閉症スペクトラム障害が疑われます。
- あいまいな質問に答えることが苦手
- 人と話しているときに、相手の表情や仕草の意味を理解することが難しい
- 言葉を文字通りに受け取ってしまい、相手の意図に気付かないことが多い
- 他の人が気にならないような肌触りのものが非常に不快に感じることがある
- どのように友達を作ったり人付き合いをするのかよくわからない
- 自分の決まったやり方でなくなるとひどく動揺する
ただし、これらは一例にすぎず、何個当てはまったから自閉症スペクトラム障害というものではありません。思い当たることが多い、これらの理由で社会生活に困難を抱えている場合は、医療機関を受診するなど専門家に相談することが推奨されます。
自閉症診断におけるDSM-5の最新基準
DSM-5における自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準は、従来の診断体系から大きく変更されました。従来の個別の診断名(自閉症、アスペルガー症候群など)が撤廃され、「自閉スペクトラム症」という一つのカテゴリーに統合されたのです。
参考)【自閉症レベル表】DSM-5で変わった診断基準と3つのレベル…
診断基準は以下のA、B、C、Dを満たしていることが必要です。
A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される)
- 社会的・情緒的な相互関係の障害
- 他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害
- 年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害
B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)
- 常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方
- 同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン
- 集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある
- 感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心
C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある
D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている
これらの診断基準は、いわゆる自閉症の3徴のなかの社会性の障害とコミュニケーションの障害の2つが診断基準Aを形成しており、残りの興味の限局や強いこだわりが診断基準Bを形成しています。さらに「感覚過敏あるいは鈍麻」がBに追加されたことが重要な変更点です。
DSM-5の改定により、症状の共通点が明確化され、従来の質的な異常ではなく量的な異常で評価されるようになりました。個々の症状の重さや必要な支援を3つのレベル(レベル1:支援を要する、レベル2:十分な支援を要する、レベル3:非常に十分な支援を要する)で評価する新しい仕組みが導入されています。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_6191
自閉症における感覚過敏と具体的支援方法
感覚過敏は自閉症スペクトラム障害の重要な症状の一つで、DSM-5の診断基準Bにも含まれています。感覚過敏は個々によって異なり、身体の特定部位に触れられることを著しく嫌がる、一般的には不快に感じられない特定の音を嫌がるなど、様々な形で現れます。
感覚過敏の特性は、不安が強いとより多くのものにより強く反応しがちです。その一方で、感覚の過敏性は子どもの不安や混乱をもたらす要因になり、その結果として常同行動やかんしゃくなどが起こる場合があります。
視覚過敏への対応方法として、以下のような具体的な支援が有効です。
参考)感覚過敏の子どもをサポートする保護者必見:基礎知識から関わり…
支援方法 | 具体的な内容 |
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光環境の調整 | 自宅や教室でカーテンやブラインドを使い、自然光や照明を調整する。外出時にサングラスやつばの広い帽子を持たせる |
デジタルデバイスの工夫 | パソコンやタブレットの画面の明るさや文字サイズを調整し、15〜20分ごとに短い休憩を挟む |
視覚の刺激を減らす | 人混みが苦手な場合、混雑する時間帯や場所を避ける |
音環境への対応としては、イヤーマフの装着が有効なこともあります。構造化等によって見通しが可能となったり、コミュニケーションがよりよくできるようになったりすると、過敏の程度が軽減することが多いため、基本的な対応として環境調整が重要です。
感覚過敏への指導として、できるだけ感覚過敏の要因となっている事物を特定し、なぜそれが要因となっているのかを把握することに努めましょう。そして、感覚過敏の原因になっている事物を可能な範囲で避けさせることから始めることが推奨されます。
子どもの感覚を尊重するための心得として、子どもの「痛い」「嫌だ」という感覚を否定せず尊重し、子どもの感覚的反応を観察し理解する姿勢を持つことが大切です。一律の対応ではなく個々に合った柔軟な方法を模索し、小さな進歩を認め積極的に褒めることで自己肯定感を育むことが重要です。
医療従事者による自閉症患者へのコミュニケーション支援
医療従事者が自閉症スペクトラム障害の患者さんに対して適切なコミュニケーション支援を提供することは、医療の質向上とQOL改善に直結します。特に言語や意思伝達に困難を抱える方への支援方法の理解が求められます。
参考)コミュニケーションエイドとは?その種類や機能、対象者について…
コミュニケーションエイドは、患者さんと家族や医療従事者とのコミュニケーションの幅を広げられるのが最大のメリットです。特に医療現場においては、症状経過を把握するために、コミュニケーションを確保する手段となります。
会話やジェスチャーによるコミュニケーションが難しい状態にあっても、医師をはじめとする医療従事者や家族、介護者などが、本人の意志や心身の状況などを確認する機会を得られるのも大きなメリットです。患者さんの意思表示は、家族や介護者、医療従事者など生活を支える人の精神的な負担の軽減にもつながり、よりよい人間関係を築くだけでなく、本人だけでなく周囲も含めたQOL向上につながります。
多職種連携における医療従事者の役割は以下のようにまとめられます。
専門職 | 主な役割 |
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医師 | 診断、治療方針の決定、投薬の管理 |
看護師 | バイタルチェック、日常ケアの指導 |
リハビリ専門職 | 機能訓練、身体的トラブルの予防 |
精神保健福祉士 | 行政・福祉サービス連携、制度利用の手続き |
心理士 | 行動支援、コミュニケーションの工夫 |
精神保健福祉士は行政や福祉サービスとの橋渡し役となり、障害福祉サービスの利用手続きや経済的支援の調整などを担います。心理士はコミュニケーション支援や行動面でのアプローチを考え、ストレスを軽減する環境づくりに寄与します。これらの専門職が連携し合うことで、医療と福祉の間のギャップを埋めやすくなります。
多職種連携で重要なのは、患者さん本人を中心に据える考え方です。誰が主導するのではなく、本人や家族の意向を尊重して、それぞれの専門家が役割を果たすことが求められます。こうした統合的な取り組みによって、家族と本人の安心感が高まり、結果的に生活の質が向上しやすくなります。
発達障害者支援センター等に配置された専門職が各自治体、事業所、医療機関などを訪問し、アセスメントや支援ツールの導入、各関係機関の連携や困難ケースへの対応等を実施する体制も整備されています。医療従事者はこれらの支援リソースを活用し、患者さんとその家族に適切な情報提供と連携体制を構築することが重要です。
<参考リンク>
自閉症スペクトラム障害の診断基準について詳しく知りたい方は、以下のリンクが参考になります。
日本精神神経学会による自閉スペクトラム症の解説はこちらです。
感覚過敏への具体的な支援方法については、以下のリンクが有用です。
感覚過敏の子どもをサポートする保護者必見:基礎知識から具体的支援まで
発達障害者支援施策の概要については厚生労働省の公式情報をご覧ください。