ジャディアンスとフォシーガの比較
ジャディアンスとフォシーガの作用機序と効果の違い
ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)とフォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)は、いずれもSGLT2(ナトリウム・グルコース共役輸送体2)阻害薬に分類される薬剤です 。腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2を選択的に阻害し、ブドウ糖の再吸収を抑制して尿中へのグルコース排泄を促進することで血糖値を低下させます 。基本的な作用機序は同じですが、効果の面でいくつかの違いが報告されています 。
主な効果の比較
- 血糖降下作用:2型糖尿病患者において、ジャディアンスの方がHbA1cをより大きく低下させたという比較データも存在します 。ただし、その差は僅かであり、臨床的な意義については議論の余地があります。
- 体重減少効果:臨床試験データからは、フォシーガの方がジャディアンスよりも体重減少効果が強い可能性が示唆されています 。例えば、24週間の投与でジャディアンス10mgが平均-1.93kgに対し、フォシーガ10mgは平均-3.17kgの体重減少を示したと報告されています 。
- 心血管保護効果:ジャディアンスは「EMPA-REG OUTCOME試験」において、プラセボと比較して心血管死のリスクを38%有意に減少させたという強力なエビデンスを持っています 。この結果は、SGLT2阻害薬の心血管イベントに対する有用性を世界で初めて証明したものであり、特筆すべき点です 。フォシーガも心不全入院を減らす効果などが証明されていますが、心血管死の抑制に関してはジャディアンスのデータが先行しています 。
- 適応疾患:フォシーガが1型糖尿病、2型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病の4つの適応を持つ一方、ジャディアンスの適応は2型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病です 。フォシーガの方が適応範囲が広い点が異なります 。
以下の表に両剤の主な違いをまとめます。
| 項目 | ジャディアンス | フォシーガ |
|---|---|---|
| 一般名 | エンパグリフロジン | ダパグリフロジン |
| 適応(糖尿病) | 2型糖尿病 | 1型糖尿病、2型糖尿病 |
| 体重減少効果 | 比較的マイルド | 比較的強い |
| 心血管死抑制エビデンス | 明確 (EMPA-REG OUTCOME) | 心不全悪化予防が主 |
心血管イベントに関するエビデンスについては、こちらの論文で詳しく考察されています。
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes
ジャディアンスとフォシーガで注意すべき副作用と対策
SGLT2阻害薬は、その作用機序から特有の副作用に注意が必要です 。ジャディアンスとフォシーガも例外ではなく、臨床現場ではこれらの副作用を十分に理解し、患者指導を行うことが極めて重要です。
頻度の高い副作用と対策 💧
- 尿路感染・性器感染:尿中に糖が排泄されるため、細菌や真菌が繁殖しやすくなります 。特に女性のカンジダ性外陰腟炎は注意が必要です。陰部の清潔を保ち、排尿を我慢しないよう指導することが予防につながります 。症状が出現した場合は、速やかに受診するよう伝えます。
- 脱水:浸透圧利尿作用により尿量が増加するため、脱水のリスクがあります 。特に高齢者や利尿薬併用中の患者では注意が必要です。喉の渇きを感じる前に、こまめな水分補給を心がけるよう指導します 。
- 頻尿・多尿:服用初期に尿量や排尿回数が増えることがあります 。ほとんどは時間とともに慣れてきますが、生活に支障が出る場合は相談するよう伝えます。
重大な副作用(頻度は稀) ⚠️
- 低血糖:単剤での低血糖リスクは低いですが、インスリンやSU薬など他の血糖降下薬と併用する際には注意が必要です 。併用薬の減量を検討する必要があります。
- ケトアシドーシス:血糖値がそれほど高くない状態でもケトアシドーシス(正常血糖ケトアシドーシス)を来すことがあります 。嘔気、嘔吐、腹痛、倦怠感などの症状に注意が必要です。詳細は後述します。
- フルニエ壊疽(会陰部壊死性筋膜炎):非常に稀ですが、致死率の高い重篤な感染症です 。会陰部や陰部の痛み、腫れ、発赤などの症状が見られたら、直ちに投与を中止し、広域抗菌薬の投与や外科的処置を検討する必要があります。
副作用対策として、患者への丁寧な説明とセルフモニタリングの指導が不可欠です。副作用の初期症状を伝え、異常を感じたらすぐに医療機関に連絡するよう指導することが、重篤化を防ぐ鍵となります。
ジャディアンスとフォシーガの心不全・腎保護効果と使い分け
当初は糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬ですが、その後の大規模臨床試験により、心不全や慢性腎臓病(CKD)に対しても極めて有効であることが示されました 。現在では、ジャディアンスとフォシーガは糖尿病の有無にかかわらず、これらの疾患の標準治療薬として位置づけられています 。
心不全に対する効果 ❤️
両剤ともに、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)および維持された心不全(HFpEF)の両方に対して、心不全による入院リスクと心血管死のリスクを減少させることが証明されています 。
参考)心臓も腎臓も守ってくれる今注目の糖尿病治療薬=SGLT2阻害…
- ジャディアンス:EMPEROR-Reduced試験(HFrEF)、EMPEROR-Preserved試験(HFpEF)で有効性を示しました。
- フォシーガ:DAPA-HF試験(HFrEF)、DELIVER試験(HFpEF)で有効性を示しました。
これらの薬剤は、利尿作用によるうっ血改善、心筋のエネルギー効率改善、交感神経活動の抑制など、多面的なメカニズムで心保護作用を発揮すると考えられています。
腎保護効果 🛡️
SGLT2阻害薬は、糸球体内圧を低下させることで腎臓への負担を軽減し、腎機能の悪化を抑制します 。
参考)SGLT2阻害薬の解説 − 作用機序、副作用、薬の一覧、心不…
- ジャディアンス:EMPA-KIDNEY試験などで、CKD患者の腎機能低下や末期腎不全への進行を抑制する効果が示されました。
- フォシーガ:DAPA-CKD試験で、糖尿病の有無を問わずCKD患者の腎機能悪化、末期腎不全への移行、心血管死・腎臓死のリスクを著しく低下させることが示されました 。
臨床での使い分けのポイント
基本的な効果は両剤で大きく変わらないとされていますが、以下の点で使い分けを検討することがあります。
- エビデンスの蓄積:心血管死の抑制という点では、EMPA-REG OUTCOME試験の結果を持つジャディアンスを優先的に選択する考え方もあります 。
- 腎機能:投与開始の基準となるeGFRにわずかな違いがあります。ジャディアンスはeGFRが20mL/min/1.73m²未満の患者への投与は推奨されず、フォシーガは25mL/min/1.73m²未満の患者への投与開始は推奨されません 。より腎機能が低下した症例では、ジャディアンスの方が使いやすい可能性があります 。
心不全や腎臓病の治療におけるSGLT2阻害薬の位置づけについては、以下のガイドラインも参考になります。
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年版 慢性心不全治療ガイドライン
日本腎臓学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023
ジャディアンスとフォシーガの薬価と経済的負担の比較
SGLT2阻害薬は長期にわたり服用を継続することが多いため、薬剤費は患者の経済的負担に直結する重要な要素です 。ジャディアンスとフォシーガの薬価(2025年11月現在)を比較し、月々の薬剤費の目安を示します。
以下の表は、各薬剤の規格ごとの薬価と、1日1回30日間服用した場合の薬剤費(3割負担の場合)をまとめたものです。
| 薬剤名 | 規格 | 薬価(1錠) | 30日分の薬剤費(1割負担) | 30日分の薬剤費(3割負担) |
|---|---|---|---|---|
| ジャディアンス | 10mg | 166.0円 | 約498円 | 約1,494円 |
| 25mg | 283.4円 | 約850円 | 約2,551円 | |
| フォシーガ | 5mg | 149.3円 | 約448円 | 約1,344円 |
| 10mg | 220.3円 | 約661円 | 約1,983円 |
※上記は薬剤費のみの計算です。実際には診察料や他の薬剤費などが加わります。
※薬価は改定される可能性があります 。
比較すると、標準的な用量であるジャディアンス10mgとフォシーガ10mgでは、フォシーガの方が月々の負担が500円程度(3割負担の場合)安くなります 。また、少量から開始する場合(フォシーガ5mg)は、さらに経済的負担を抑えることが可能です 。ジェネリック医薬品はまだ登場していませんが、将来的な薬価改定や後発品の登場によって、経済的な側面も変化していく可能性があります。
ジャディアンス服用中のケトアシドーシス、実はシックデイ以外も要注意?
SGLT2阻害薬の重篤な副作用としてケトアシドーシスが知られていますが、特に注意すべきは「正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic diabetic ketoacidosis; EDKA)」です 。これは、血糖値が250mg/dL未満と、典型的な糖尿病ケトアシドーシスほど上昇しないにもかかわらず、重篤なアシドーシスを来す病態です。診断が遅れやすいため、医療従事者は常にこのリスクを念頭に置く必要があります。
一般的に、ケトアシドーシスの誘因として「シックデイ(発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などにより食事がとれない日)」が広く知られています。しかし、リスクはシックデイだけに限りません。あまり知られていない、しかし臨床的に非常に重要なリスク因子が存在します。
シックデイ以外の意外なリスク因子 💡
- 過度な糖質制限・ケトジェニックダイエット:SGLT2阻害薬服用中に、炭水化物の摂取を極端に制限すると、体内のケトン体産生が亢進し、ケトアシドーシスのリスクが著しく増大します。患者が良かれと思って行っている食事療法が、危険な状態を招くことがあります。
- 過度のアルコール摂取:アルコールは肝臓での糖新生を抑制し、ケトン体産生を促進します。SGLT2阻害薬服用中の多量飲酒は、ケトアシドーシスの引き金となり得ます。忘年会シーズンや長期休暇など、飲酒機会が増える時期は特に注意喚起が必要です。
- 周術期:手術による侵襲や術前の絶食は、ケトアシドーシスの強力な誘因となります。予定手術の場合、国内外の多くのガイドラインで術前(少なくとも手術の3日前)のSGLT2阻害薬の休薬が推奨されています。緊急手術で休薬が間に合わない場合は、術中・術後の厳重なモニタリングが必須です。
これらのリスクは、患者自身が「病気」と認識していない状況で発生しうるため、見逃されがちです。SGLT2阻害薬を処方する際は、シックデイの対応を指導するだけでなく、上記のような食事内容や生活習慣、手術の予定などについても踏み込んだ問診と指導を行うことが、予期せぬ重篤な副作用を防ぐ上で極めて重要と言えるでしょう。嘔気・嘔吐、腹痛、全身倦怠感などの非特異的な症状を訴える患者を診察する際には、血糖値が高くなくてもケトアシドーシスを鑑別に入れる姿勢が求められます。

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