目次
FPIES診断基準と臨床的特徴
FPIES診断基準の国際ガイドライン
FPIESの診断基準については、2017年に発表された国際ガイドラインが広く参照されています。この診断基準は、主要基準と副基準から構成されており、以下のように定義されています。
1. 主要基準。
- 原因食物摂取後1〜4時間以内に嘔吐が出現
- IgE依存性食物アレルギーで見られるような皮膚・呼吸器症状がない
2. 副基準(9項目)。
- 同じ食物摂取で2回以上の繰り返す嘔吐
- 2つ以上の異なる食物で1〜4時間後に繰り返す嘔吐
- 極度の活力低下
- 蒼白
- 緊急受診の必要性
- 輸液の必要性
- 食物摂取後24時間以内の下痢(通常5〜10時間後)
- 血圧低下
- 低体温
診断には、主要基準を満たし、かつ副基準のうち3つ以上を満たすことが必要です。この基準は、FPIESの臨床像を包括的に捉えており、医療従事者が適切に診断を行うための指針となっています。
FPIES症状の特徴と鑑別診断
FPIESの症状は、急性型と慢性型に分類されます。それぞれの特徴を理解することが、適切な診断と管理につながります。
1. 急性型FPIES。
- 食物摂取後1〜4時間以内に症状出現
- 主な症状:反復する嘔吐、水様性下痢
- 重症例では低血圧やショック症状を呈することも
2. 慢性型FPIES。
- 主に乳児に見られる
- 原因食品の継続摂取で発症
- 症状:持続する嘔吐、慢性的な下痢(血便を伴うことも)
- 成長障害や体重減少を引き起こす可能性あり
FPIESの症状は、他の消化器疾患や食物アレルギーと類似していることがあるため、鑑別診断が重要です。以下の疾患との鑑別が必要です。
- 急性胃腸炎
- 敗血症
- 腸重積
- アナフィラキシー
- 代謝性疾患
鑑別診断には、詳細な病歴聴取、身体診察、必要に応じて血液検査や画像検査が有用です。
FPIESの原因食物と発症年齢の特徴
FPIESの原因となる食物や発症年齢には、地域や人種による違いが見られます。日本における特徴を理解することは、適切な診断と管理に役立ちます。
1. 原因食物。
- 乳児期:牛乳、大豆が多い
- 離乳食開始後:米、小麦、鶏卵、魚介類など多岐にわたる
2. 発症年齢。
- 多くは生後6ヶ月未満で発症
- まれに1歳以降の発症例も報告されている
日本の研究によると、FPIESの原因食物として以下の傾向が報告されています。
- 牛乳(32.1%)
- 米(18.9%)
- 鶏卵(13.2%)
- 魚介類(11.3%)
- 小麦(7.5%)
これらの特徴を踏まえ、患者の年齢や食事歴を詳細に聴取することが、FPIESの早期診断につながります。
FPIES診断のための検査と負荷試験
FPIESの診断には、臨床症状の評価に加え、いくつかの検査や負荷試験が有用です。ただし、FPIESは非IgE依存性のアレルギーであるため、通常のアレルギー検査では陽性反応を示さないことに注意が必要です。
1. 血液検査。
- 末梢血好酸球数:増加が見られることがある
- 総IgE値:通常は正常範囲内
- 特異的IgE抗体:陰性のことが多い
2. 便検査。
- 便中好酸球:増加が見られることがある
- 便潜血:陽性のことがある
3. 食物経口負荷試験。
- FPIESの確定診断に最も有用
- 医療機関で慎重に実施する必要がある
- プロトコール例。
a) 原因疑い食物を少量から開始
b) 20〜30分おきに増量
c) 6時間の観察期間を設ける
食物経口負荷試験の際は、重症反応に備えて輸液や薬剤(メチルプレドニゾロン、オンダンセトロンなど)を準備しておくことが重要です。
FPIESの新たな診断アプローチと課題
FPIESの診断には、従来の基準では捉えきれない症例や、診断に難渋するケースが存在します。そのため、新たな診断アプローチや研究が進められています。
1. バイオマーカーの探索。
- 血清TARC(thymus and activation-regulated chemokine):FPIESの活動性を反映する可能性
- 便中カルプロテクチン:腸管炎症の指標として有用な可能性
2. 非侵襲的検査法の開発。
- パッチテスト:皮膚反応を利用した診断法(研究段階)
- 好塩基球活性化試験:末梢血を用いた in vitro 診断法(研究中)
3. 軽症例の診断基準の検討。
- 現行の診断基準を満たさない軽症例の存在
- 症状スコアを用いた新たな診断基準の提案
4. 成人FPIESの特徴解明。
- 小児とは異なる臨床像(腹痛が主症状など)
- 魚介類が原因となるケースが多い
これらの新たなアプローチは、FPIESの早期診断や適切な管理につながる可能性があります。しかし、その有用性や信頼性については、さらなる研究と検証が必要です。
FPIESの新たな診断アプローチに関する詳細な情報はこちらの論文で確認できます。
FPIESの診断と管理は、患者の年齢や症状の重症度、原因食物の種類などによって個別化する必要があります。医療従事者は、最新の研究成果や診断基準を踏まえつつ、患者一人ひとりの状況に応じた適切なアプローチを選択することが求められます。
また、FPIESは比較的稀な疾患であるため、一般の医療機関では診断に苦慮することもあります。そのため、アレルギー専門医や小児消化器専門医との連携が重要となります。適切な診断と管理により、患者のQOL向上と重症化予防につながることが期待されます。
FPIESの診断基準や臨床的特徴について理解を深めることは、医療従事者にとって非常に重要です。適切な診断と管理により、患者さんの生活の質を向上させ、重症化を防ぐことができます。今後も、FPIESに関する研究の進展に注目し、最新の知見を臨床現場に活かしていくことが求められます。
日本小児栄養消化器肝臓学会が発行している「新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症 Minds 準拠診療ガイドライン」では、より詳細なFPIESの診断と管理に関する情報が提供されています。
最後に、FPIESの診断と管理には、患者さんとその家族への適切な説明と支援も欠かせません。食事指導や緊急時の対応方法など、包括的なケアを提供することが、患者さんの安全と安心につながります。医療従事者は、最新の知見を踏まえつつ、患者さん一人ひとりに寄り添った診療を心がけることが重要です。
参考文献。
Nowak-Wegrzyn A, et al. International consensus guidelines for the diagnosis and management of food protein-induced enterocolitis syndrome: Executive summary-Workgroup Report of the Adverse Reactions to Foods Committee, American Academy of Allergy, Asthma & Immunology. J Allergy Clin Immunol. 2017;139(4):1111-1126.e4.
Nomura I, et al. Food protein-induced enterocolitis syndrome in Japan: A multicenter retrospective study. Allergol Int. 2019;68(2):221-228.