インクレチン関連薬スルホニル尿素薬併用の低血糖リスクと対策

インクレチン関連薬とスルホニル尿素薬の併用

SU薬にDPP-4阻害薬を追加すると患者17人に1人が低血糖を起こす

この記事の3ポイント
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併用時の低血糖リスク

SU薬とDPP-4阻害薬の併用で低血糖リスクが50%増加し、最初の6ヵ月間で17人に1人が低血糖を経験する

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必須のSU薬減量基準

高齢者や腎機能低下者では、グリメピリド2mg以下、グリベンクラミド1.25mg以下への減量が必須

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GLP-1受容体作動薬の特性

GLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬より重症低血糖のリスクは低いが、SU薬併用時は慎重な観察が必要

インクレチン関連薬とSU薬の作用機序の違い

 

インクレチン関連薬とスルホニル尿素薬SU薬)は、どちらもインスリン分泌を促進する糖尿病治療薬ですが、その作用メカニズムには決定的な違いがあります。この違いを理解することが、併用時の安全性を確保する上で極めて重要です。

インクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬GLP-1受容体作動薬は、血糖依存性の作用を持っています。つまり血糖値が高いときのみインスリン分泌を促進します。血糖値が正常範囲まで低下すると、インスリン分泌促進作用は自動的に弱まる仕組みです。これは車の自動ブレーキシステムに似ていて、危険を察知したときだけ作動するため、単独使用では低血糖リスクが非常に低いという特徴があります。

一方でSU薬は、血糖値に関係なく膵臓のβ細胞に直接働きかけてインスリン分泌を促進します。

つまり常にアクセルを踏み続けている状態です。

血糖値が下がってもインスリン分泌が継続されるため、低血糖のリスクが高くなります。この作用の違いが、併用時に重症低血糖を引き起こす主な原因となっているのです。

両者を併用すると、SU薬による持続的なインスリン分泌に加えて、インクレチン関連薬がその作用を増強する形になります。結果として血糖降下作用が予想以上に強まり、患者が低血糖に陥るリスクが急激に上昇することになります。2016年に発表されたメタアナリシスでは、SU薬とDPP-4阻害薬の併用により低血糖リスクが約50%増加することが明らかになりました。

つまり作用機序の違いです。

インクレチンには、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagon-like peptide-1)の2種類があります。これらのホルモンは食事摂取後に消化管から分泌され、膵臓のβ細胞に作用してインスリン分泌を促進します。血糖値が約80mg/dL以下になると、このインスリン分泌刺激作用は自然に消失するため、単独では低血糖をほとんど起こしません。

しかしSU薬の作用機序は全く異なります。SU薬は膵β細胞のSU受容体に結合し、KATPチャネルを直接閉鎖することでインスリン分泌を促します。この作用は血糖値の高低に関係なく発揮されるため、低血糖が遷延しやすいという特徴があるのです。

日本糖尿病学会「インクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation 第2版」(2024年5月改訂)

インクレチン関連薬とSU薬併用時の低血糖発生頻度とリスク因子

インクレチン関連薬とSU薬を併用した場合の低血糖発生頻度は、臨床研究によって具体的な数値が明らかになっています。特に併用開始後の初期段階でリスクが高まることが分かっており、医療従事者はこの時期の患者観察を厳重に行う必要があります。

フランスのBordeaux大学による系統的レビューとメタアナリシスでは、SU薬治療中の2型糖尿病患者にDPP-4阻害薬を追加すると、低血糖リスクが約50%増加することが報告されました。さらに注目すべきは、最初の6ヵ月間で患者17人に1人が新たに低血糖を経験するという害必要数(NNH)が示されたことです。これは決して無視できない高い頻度といえます。

厳しいところですね。

DPP-4阻害薬が臨床導入された初期、SU薬併用例において重症低血糖が相次いで報告され、厚生労働省から注意喚起が行われました。特にシタグリプチン発売直後には、SU薬にシタグリプチンを追加投与した後に意識障害を伴う重篤な低血糖が発生し、社会問題となった経緯があります。

低血糖のリスク因子として特に重要なのが、高齢者と腎機能低下者です。高齢者では肝機能や腎機能が低下していることが多く、薬物代謝や排泄が遅延するため、低血糖が発現しやすく遷延しやすい傾向があります。また高齢者は低血糖の自覚症状が乏しいことも多く、重症化してから発見されるケースが少なくありません。

腎機能低下者では、SU薬の血中濃度が上昇しやすく、作用が増強されます。軽度の腎機能低下であっても、併用時には注意が必要です。特に高齢者と腎機能低下が併存する場合、低血糖リスクは相乗的に高まるため、最大限の警戒が求められます。

その他のリスク因子として、SU薬の用量が多い場合、食事摂取量が不安定な場合、身体活動量が急に増えた場合、アルコール摂取がある場合などが挙げられます。これらの因子が複数重なると、低血糖リスクはさらに上昇します。

低血糖の発現時期については、併用開始後の早期、特に最初の数週間から数ヵ月が最も危険な時期です。この時期には患者への頻回な連絡と血糖測定の実施が推奨されます。また、夜間や早朝の低血糖にも注意が必要で、患者や家族への教育が不可欠です。

インクレチン関連薬併用時の適切なSU薬減量基準

インクレチン関連薬とSU薬を併用する際には、低血糖を防ぐために適切なSU薬の減量が必須となります。日本糖尿病学会は「インクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation」において、具体的な減量基準を明確に示しており、医療従事者はこれを厳守する必要があります。

高齢者、腎機能低下者、あるいは両者が併存する場合には、DPP-4阻害薬を追加する前にSU薬を必ず減量することが求められます。具体的には、グリメピリド(商品名アマリール)を2mg/日を超えて使用している場合は2mg/日以下に減量します。グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)を1.25mg/日を超えて使用している場合は1.25mg/日以下に、グリクラジド(グリミクロン)を40mg/日を超えて使用している場合は40mg/日以下に減じることが推奨されています。

これが原則です。

実際の臨床現場では、この減量基準の遵守率が必ずしも高くないことが問題となっています。2024年に発表された調査では、65歳以上の高齢糖尿病患者で推奨用量を超えた処方の割合が、グリクラジドで7.8%、グリメピリドでは25.0%に上ることが明らかになりました。4人に1人のグリメピリド使用者が過量投与を受けているという現状は、看過できない問題です。

SU薬がもともと上記の推奨用量以下で、かつ目標とするHbA1cを達成できていない場合には、SU薬を減量することなくDPP-4阻害薬を追加することができます。この場合でも血糖改善に伴い、必要に応じてSU薬をさらに減量する柔軟な対応が必要です。

目標とするHbA1cを達成できない場合には、必要に応じてSU薬を増量することも可能ですが、低血糖の発現がみられればSU薬をただちに減量しなければなりません。つまり併用後も継続的なモニタリングと用量調整が不可欠ということです。

グリベンクラミドについては特別な注意が必要です。この薬剤は作用時間が長く、高齢者では低血糖のリスクが特に高いため、高齢者糖尿病では使用を控えることが推奨されています。メタアナリシスの報告では、グリクラジドはグリメピリドと比べて重症低血糖の頻度が約9分の1であるとされており、薬剤選択の際に考慮すべき重要なデータです。

減量判断が難しい場合には、地域連携の枠組みを活用して糖尿病専門医へのコンサルテーションを行うことが推奨されます。患者の安全を最優先に考え、適切な判断を下すことが医療従事者には求められています。

GLP-1受容体作動薬とSU薬併用時の特別な注意点

GLP-1受容体作動薬とSU薬の併用については、DPP-4阻害薬との併用とは異なる特性と注意点があります。GLP-1受容体作動薬は薬理学的濃度でGLP-1を補充する薬剤で、強力な血糖降下作用と体重減少効果を持つため、近年使用頻度が急増しています。

GLP-1受容体作動薬をSU薬に追加した場合、DPP-4阻害薬に比して重症低血糖にいたる症例は多くないことが報告されています。日本糖尿病学会のRecommendationでも、DPP-4阻害薬ほど厳格な減量基準は設定されていません。しかしこれは「低血糖リスクがない」という意味ではなく、DPP-4阻害薬に準じて慎重な観察が必要であることが明記されています。

結論は慎重な観察です。

国内臨床試験では、GLP-1受容体作動薬であるエキセナチドをSU薬と併用した場合、投与開始時および用量増量時に低血糖の発現頻度が増加する傾向が報告されました。特に1回5μgでの投与開始時と1回10μgへの増量時には注意が必要で、患者への十分な説明と血糖測定の励行が推奨されます。

GLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬よりも作用が強力であるという特徴があります。そのため、SU薬との併用においては、投与早期に低血糖の発現が見られることがあり、より注意深いモニタリングが求められます。定期的な血糖測定を行い、低血糖の兆候があれば速やかにSU薬を減量する必要があります。

最近では経口GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(商品名リベルサス)も使用可能になりました。経口剤であっても注射剤と同様に、SU薬との併用時には低血糖に注意する必要があります。患者によっては注射剤よりも気軽に考えてしまう傾向があるため、医療従事者からの適切な情報提供が重要です。

GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(マンジャロ)については、用量依存的な体重減少が認められるため、血糖管理状態のみならず体重減少にも注意が必要です。過度の体重減少がみられた場合や、嘔気・嘔吐が見られた場合には、薬剤の減量または投与中止を考慮しなければなりません。

高齢者、特にBMIの低い高齢者へのGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の使用については、サルコペニアやフレイルのリスクが高まる可能性があります。この場合も糖尿病専門医へのコンサルテーションが推奨されており、安全性を最優先した治療選択が求められます。

インクレチン関連薬併用における臨床上の実践的対策

インクレチン関連薬とSU薬の併用を安全に行うためには、処方時から継続的な患者管理まで、包括的な対策が必要です。医療従事者は単に薬剤を処方するだけでなく、患者の状態を総合的に評価し、適切なフォローアップ体制を構築する責任があります。

併用開始前には、患者の腎機能を必ず確認してください。血清クレアチニン値やeGFR(推算糸球体濾過量)を測定し、腎機能低下の有無と程度を把握します。軽度の腎機能低下であっても、高齢者では低血糖リスクが高まるため、より慎重な用量設定が必要です。腎機能が著しく低下している場合には、SU薬そのものの使用を再検討すべきケースもあります。

患者への教育が極めて重要です。

低血糖の症状(冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感、頭痛、集中力低下など)を患者とその家族に十分に説明し、症状が出現した場合の対処法を指導します。ブドウ糖やグルコース含有飲料の常備を勧め、具体的な摂取方法を実演することも有効です。特に高齢者では低血糖の自覚症状が乏しい場合があるため、家族や介護者への教育も不可欠となります。

血糖自己測定(SMBG)の実施が可能な患者では、併用開始後の初期段階で測定頻度を増やすことが推奨されます。特に空腹時と食前の血糖値測定により、無自覚性低血糖を早期に発見できる可能性が高まります。測定データは記録し、次回受診時に持参してもらうことで、より適切な用量調整が可能になります。

定期的な診察間隔の設定も重要な対策です。併用開始後の最初の1~3ヵ月間は、通常よりも短い間隔で受診してもらい、低血糖の有無や血糖コントロール状態を確認します。HbA1cの測定だけでなく、患者からの問診により日常生活での低血糖エピソードを丁寧に聴取することが大切です。

患者の生活状況の変化にも注意を払う必要があります。食事摂取量が減少した場合、身体活動量が増加した場合、他の疾患を併発した場合などには、速やかにSU薬を減量または中止する判断が求められます。特に高齢者では、季節の変化や体調不良により食事量が変動しやすいため、きめ細かなフォローアップが必要です。

多剤併用にも注意が必要です。β遮断薬は低血糖の症状をマスクする可能性があり、ワルファリンやサルチル酸系薬剤はSU薬の作用を増強することがあります。他診療科からの処方薬も含めて、定期的に服薬内容を確認し、相互作用のリスクを評価することが重要です。

判断が難しい場合には地域連携を活用してください。糖尿病専門医へのコンサルテーションは、患者の安全を守るための有効な手段です。専門医からのアドバイスを受けることで、より適切な治療方針を立てることができ、医療従事者自身の不安も軽減されます。

インクレチン関連薬とSU薬以外の薬剤との併用に関する注意事項

インクレチン関連薬はSU薬以外にも、インスリン製剤やグリニド薬との併用時に低血糖リスクが高まることが知られています。これらの薬剤もインスリン分泌を促進する作用を持つため、併用時には特別な配慮が必要となります。

インスリン製剤との併用については、日本糖尿病学会のRecommendationで重要な警告が発せられています。実際にインスリン製剤で治療中の患者が、インスリンを中止してGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬に切り替えたことで、糖尿病ケトアシドーシスを発症し、死亡に至った症例が報告されているのです。

これは使えそうです。

GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は、決してインスリン製剤の代替薬ではありません。インスリン分泌が高度に低下している場合には、これらの薬剤に切り替えることで血糖コントロールが急速に悪化する危険性があります。インスリン製剤からの切り替えを検討する際には、内因性インスリン分泌能を必ず確認することが必須です。

特に腎機能低下者では、内因性インスリン分泌を正しく評価することが難しく、切り替えの可否については糖尿病専門医へのコンサルテーションが強く推奨されます。2型糖尿病においても、慢性的に高血糖状態を放置したためにインスリン分泌が高度に低下する場合があることに留意する必要があります。

インスリン製剤にインクレチン関連薬を追加する場合には、SU薬と同様にインスリン用量を減じるなどして、重症低血糖に至らないよう注意が必要です。特に基礎インスリン製剤を使用している患者にGLP-1受容体作動薬を追加する場合、インスリン用量の10~20%程度の減量から開始することが一般的です。

グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)も、インクレチン関連薬との併用時には注意が必要です。グリニド薬はSU薬と作用機序が類似しており、食後の短時間に強力にインスリン分泌を促進します。インクレチン関連薬開始時には、グリニド薬の用量を減じるか、場合によっては中止することも検討すべきです。

ビグアナイド薬やチアゾリジン薬、α-グルコシダーゼ阻害薬などとの併用は、比較的安全とされています。これらの薬剤は直接的にインスリン分泌を促進する作用を持たないため、単独では低血糖リスクが低いためです。ただし多剤併用になるほど、薬剤相互作用や副作用のリスクは増加するため、定期的な評価が必要です。

SGLT2阻害薬とインクレチン関連薬の併用は、近年注目されている組み合わせです。両者は作用機序が異なり、相乗的な血糖降下効果と心血管保護効果、腎保護効果が期待できます。低血糖リスクも低いため、比較的安全に併用できますが、SGLT2阻害薬による脱水や尿路感染症のリスクには注意が必要です。

重要なのは、どのような併用であっても、患者の状態を総合的に評価し、定期的なモニタリングを継続することです。血糖値、HbA1c、腎機能、肝機能などの検査データだけでなく、患者の自覚症状や生活状況の変化にも目を配り、必要に応じて治療方針を柔軟に見直す姿勢が求められます。

厚生労働省による使用上の注意改訂指示(インクレチン関連薬とSU薬併用時の低血糖について)

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インクレチン関連薬の臨床―糖尿病克服宣言Pro.