胃静脈瘤破裂 治療
胃静脈瘤破裂 治療の初期対応と循環管理
胃静脈瘤破裂は、背景に肝硬変・門脈圧亢進を抱えることが多く、単なる上部消化管出血よりも「止血後の破綻(再出血・臓器不全)」が起こりやすい病態として扱う必要があります。特に血圧だけを追うと、過剰輸血や大量補液で門脈圧が上がり、止血後の再出血を誘発することがあるため、救急外来の段階から“門脈圧亢進症の出血”としてチームに共有しておくと、その後の判断が揃いやすくなります。
初期対応の目的はシンプルで、(1) 気道確保と誤嚥防止、(2) 循環動態の安定化、(3) 早期に確実な止血手段(内視鏡/IVR)へ接続、の3つです。肝硬変患者では感染が転機を悪化させやすく、ガイドラインでも静脈瘤出血に対して血管作動性薬の使用が論点として整理されており、単に内視鏡の“技術”だけでなく周術期管理が予後を左右します(肝硬変診療ガイドライン2020のCQ 4-2などの位置付け)。参考として、門脈圧亢進や静脈瘤出血が致死的になり得る点は同ガイドラインの総論でも強調されています。
実務では、バイタル・ショック指標・乳酸・Hbだけでなく、肝予備能(Child-Pugh、腎機能、Na)を同時に把握して「どの止血法を最短で安全に出せるか」を決めます。例えば、鎮静のリスクが高い・内視鏡まで時間がかかる施設では、テンポラリーな手段(胃圧迫バルーンなど)を視野に入れつつ、搬送やIVRの段取りを先に走らせた方が救命率が上がるケースがあります(止血手技の説明として、胃静脈瘤出血にシアノアクリレート注入やバルーン圧迫が用いられる旨はPMDA審査報告書にも記載があります)。
【現場で漏れやすいチェック(入れ子なし)】
- 誤嚥リスク(大量吐血、意識障害、肝性脳症)と気道戦略。
- 造影CTや過去画像で「胃腎シャント」などの短絡路が疑えるか(後述のBRTO適応に直結)。
- 腎機能:造影・硬化剤・溶血(BRTO)などの治療関連リスクの見積もり。
- 止血後の“次の一手”(再出血予防)まで当日中に合意形成しておく。
胃静脈瘤破裂 治療の内視鏡(シアノアクリレート)要点
胃静脈瘤出血の内視鏡治療では、組織接着剤であるn-ブチル-2-シアノアクリレート(いわゆるヒストアクリル等)が、止血手段として重要な位置を占めます。PMDAの審査報告書には、胃静脈瘤出血に対してシアノアクリレートを静脈瘤内へ経内視鏡的に注入する方法が挙げられており、実臨床でも“その場で止血し得る”手段として広く認識されています。
ただし医療従事者向けに強調したいのは、胃静脈瘤は食道静脈瘤と比べて血流量が多く、穿刺・注入時の「逸脱(塞栓)」や「再出血」が怖い点です。つまり、止血できた/できないだけでなく、(1) 血流の勢い(噴出するか、湧出か)、(2) 穿刺点の選択、(3) 注入量と手技のスピード、(4) その後にBRTO等で“根治的に流入路を断つ”計画があるか、まで含めて成功と考えるべきです。
また、胃静脈瘤は形態(GOV1/2、IGV1など)で推奨されやすい治療選択が変わりやすく、同じ「胃静脈瘤破裂」でも最適手段が一様ではありません。内視鏡でシアノアクリレート注入を行って止血できても、短絡路が大きいケースでは再出血を繰り返し、結局はIVRへ移行することがあります。初回内視鏡の段階で、出血部位の記録(写真だけでなく、どの壁・どの高さ・血栓/白苔/赤色所見など)を残しておくと、後続治療(IVR・外科・再内視鏡)の意思決定が速くなります。
【意外と効く小技(安全側の工夫)】
- “止まったように見える”後も、吸引・体位変換で再出血することがあるため、止血確認の観察時間を短縮しすぎない。
- 造影CTが撮れているなら、内視鏡室に画像を持ち込んで「流出路(胃腎シャント)を見ながら」治療選択を議論する。
- 目の前の止血が取れた瞬間に、BRTO/TIPSの可否をIVRと相談し、再出血予防を同一入院で完結させる設計にする。
胃静脈瘤破裂 治療のBRTOと適応判断
BRTO(B-RTO)は、バルーンで血流を遮断し、シャント内や静脈瘤内に硬化剤を注入して血栓形成を促し、静脈瘤/シャントを塞栓するIVRです。日本IVR学会のQ&Aでは、B-RTOが「主に胃静脈瘤に施行」され、シャントが原因の肝性脳症にも用いられることが説明されています。さらに、手技の成功率や胃静脈瘤の縮小・消失率が90%以上と非常に良好という報告がある一方、流出路が複数あると難渋する点も記載されています。
胃静脈瘤破裂におけるBRTOの強みは、“止血”だけでなく“再発予防(根治に近い制御)”まで一気に寄せられることです。特に胃腎シャントが発達しているタイプでは、内視鏡単独よりIVRが合理的な場面があり、施設内で内視鏡とIVRの導線が確立しているほど救急対応の質が上がります。肝硬変診療ガイドライン2020でも、胃静脈瘤や脳症に対するBRTOの有用性がCQとして扱われており、単なる“オプション”ではなく標準治療の一角として位置づけられています。
一方で、BRTOは門脈血流を肝臓側に戻す(短絡を塞ぐ)ため、門脈圧が上がり、別の側副路(食道静脈瘤など)が増悪する可能性があります。日本IVR学会の資料でも、合併症として食道静脈瘤の増悪がみられる場合があること、さらに腹水が生じる場合があることが明記されています。したがってBRTOは「やれば終わり」ではなく、治療後に上部内視鏡フォローや、必要なら食道静脈瘤への予防治療を組み込むのが安全設計です。
【BRTO後に必ず共有したい注意点】
- 食道静脈瘤の増悪:吐血再発の“場所”が変わることがある。
- 腎障害:溶血による腎不全リスクと、ハプトグロビン予防投与で重症化がまれになる旨が示されています(日本IVR学会資料)。
- 肝機能変化:門脈血流が増えることで改善する報告がある一方、血流変化で肝障害が悪化し得るとも説明されています(日本IVR学会資料)。
参考リンク(BRTOの目的・手技・成功率・合併症の要点がまとまっています)
https://www.jsir.or.jp/docs/kouhoukara/PR_PDF/Q&A/18.pdf
胃静脈瘤破裂 治療のTIPSと「次善ではない」位置付け
TIPS(経頸静脈肝内門脈大循環シャント術)は、門脈圧を下げる方向の治療で、止血困難例や再出血高リスク例で検討されます。一見すると「BRTOと逆(シャントを作る)」の発想ですが、目的は“門脈圧を下げて出血ドライバーを外す”ことであり、特に内視鏡やBRTOで制御しにくいタイプの出血では合理性があります。肝硬変診療ガイドライン2020のフローチャートや略語一覧にもTIPSが登場し、難治性腹水など門脈圧関連合併症での位置づけが整理されています(日本では保険適用の制約がある旨も同ガイドライン内に記載)。
胃静脈瘤破裂の文脈で重要なのは、TIPSが「最後の手段」になりがちでも、患者のリスク像によっては“最初から見据えるべき手段”になり得る点です。たとえば、出血点がGOV2/IGV1系で血流が強く、内視鏡での接着剤注入を繰り返すほど塞栓や再出血のリスクが上がる場合、早期にIVR戦略(BRTO/TIPSのどちらか、あるいは段階的併用)へ舵を切った方が安全な場面があります。
ただしTIPSは肝性脳症を悪化させることがあり、既に高アンモニア血症や反復性脳症がある患者では、BRTOの方が理屈上は合うこともあります(BRTOがシャント原因の肝性脳症に行われることは日本IVR学会資料に記載)。この“脳症リスク vs 出血リスク”の天秤を、救急の段階から肝臓内科・消化器内視鏡・IVRで共有できると、治療の迷いが減ります。
【TIPS検討時の現実的な論点】
- 施設で実施可能か(人員・時間・保険・搬送)。
- 既存の肝性脳症やサルコペニアが強い場合、術後脳症のマネジメント計画が必須。
- BRTOと同様に「やった後のフォロー」が勝負で、肝予備能の変化を短期間で評価する。
胃静脈瘤破裂 治療後の独自視点:食道静脈瘤増悪の“予告”とフォロー設計
検索上位の解説は「止血法の選択(内視鏡かBRTOかTIPSか)」に寄りがちですが、現場でトラブルになりやすいのは“成功した後”です。特にBRTOは静脈瘤を塞ぐことで、他の流出路が増悪し、食道静脈瘤が悪化したり腹水が増えたりする可能性があると、日本IVR学会資料に明記されています。つまり、胃静脈瘤破裂の治療は「部位の止血」ではなく「門脈圧亢進の血行動態を組み替える介入」だと再定義すると、術後管理が一気にクリアになります。
独自視点として提案したいのは、BRTO前後で“食道静脈瘤増悪を予告する”運用です。具体的には、(1) BRTO前に食道静脈瘤の有無と重症度を内視鏡レポートで明確化、(2) BRTO後の再評価タイミング(退院前 or 早期外来)を最初から固定、(3) 増悪時の治療方針(EVL等)を患者説明に組み込む、の3点を標準化します。これにより、退院後の吐血再発を「想定外の合併症」ではなく「想定されたリスクの顕在化」として拾えるため、医療安全と患者満足の両方が上がります。
また、BRTOの合併症として腎障害(溶血)や肺水腫なども挙げられており、術後の採血・尿量・呼吸状態の観察項目を“ルーチン化”しておくと見逃しが減ります(日本IVR学会資料)。胃静脈瘤破裂という一大イベントの後は、患者も医療者も「出血が止まった」ことで警戒が下がりやすいので、あえてチェックリスト化して淡々と実行する運用が有効です。
【フォロー設計の例(そのまま院内プロトコル化しやすい形)】
- 退院前に確認:上部内視鏡フォロー計画(時期と目的)、薬剤(肝性脳症/腹水/胃粘膜保護など)、再出血時の受診行動。
- 外来1回目:Hb、腎機能、Na、肝機能、腹水・浮腫、脳症評価(会話の変化・睡眠逆転)。
- 上部内視鏡:食道静脈瘤の増悪があれば早期治療(施設方針に沿ってEVL等)。
参考リンク(肝硬変と門脈圧亢進、静脈瘤・BRTOなどの位置付けが体系立てて整理されています)
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/kankouhen2020_re.pdf

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