ホスホジエステラーゼ阻害薬一覧
ホスホジエステラーゼIII阻害薬の種類と特徴
ホスホジエステラーゼIII阻害薬は、心不全治療における重要な選択肢として位置づけられています。これらの薬剤は、心筋収縮力を増強することで循環動態を改善し、患者の症状緩和に寄与します。
主要なPDE III阻害薬一覧:
- ミルリノン系製剤
- ミルリーラ注射液10mg(先発品):2,206円/管
- ミルリノン注射液10mg「F」(後発品):1,778円/瓶
- ミルリノン注射液22.5mg「F」(後発品):3,357円/瓶
- ミルリノン注10mg「タカタ」(後発品):1,356円/管
- ミルリノン静注液10mg「NIG」(後発品):1,356円/管
- オルプリノン
- コアテック注5mg(先発品):2,550円/管
- ピモベンダン
- ピモベンダン錠0.625mg「TE」(後発品):19.6円/錠
- ピモベンダン錠1.25mg「TE」(後発品):31.9円/錠
- ピモベンダン錠2.5mg「TE」(後発品):59.6円/錠
- シロスタゾール
- プレタールOD錠50mg(先発品):19.1円/錠
- プレタールOD錠100mg(先発品):30.2円/錠
- 各種後発品:10.4円~24.4円/錠
ミルリノンは急性心不全の治療に広く使用されており、特に心拍出量の増加と肺毛細血管楔入圧の低下を同時に達成できる点で優れています。一方、シロスタゾールは慢性心不全患者の長期管理に適しており、抗血小板作用も併せ持つため、血栓予防効果も期待できます。
ホスホジエステラーゼV阻害薬の一覧と適応
ホスホジエステラーゼV阻害薬は、血管平滑筋の弛緩を促進することで血管拡張作用を発揮します。これらの薬剤は、勃起不全治療と肺動脈性肺高血圧症治療の両方に使用される特徴があります。
シルデナフィル系製剤:
- 肺動脈性肺高血圧症適応
- レバチオ錠20mg(先発品):690.7円/錠
- レバチオODフィルム20mg(先発品):690.7円/錠
- レバチオ懸濁用ドライシロップ900mg(先発品):578.4円/mL
- シルデナフィル錠20mgRE「JG」(後発品):345.4円/錠
- 勃起不全適応
- バイアグラ錠25mg(先発品):775円/錠
- バイアグラ錠50mg(先発品):1,150.2円/錠
- バイアグラODフィルム25mg(先発品):974.6円/錠
- バイアグラODフィルム50mg(先発品):1,404.1円/錠
- 各種後発品:価格未記載
タダラフィル系製剤:
- 肺動脈性肺高血圧症適応
- アドシルカ錠20mg(先発品):810.9円/錠
- タダラフィル錠20mgAD「JG」(後発品):516.3円/錠
- タダラフィル錠20mgAD「TE」(後発品):339円/錠
- 前立腺肥大症適応
- ザルティア錠2.5mg(先発品):51.2円/錠
- ザルティア錠5mg(先発品):96.2円/錠
- 各種後発品:16.9円~65.1円/錠
- 勃起不全適応
- シアリス錠5mg(先発品):1,078.3円/錠
- シアリス錠10mg(先発品):1,233.5円/錠
- シアリス錠20mg(先発品):1,300.6円/錠
タダラフィルの最大の特徴は、その長時間作用性にあります。半減期が約17.5時間と長く、1日1回の投与で持続的な効果が期待できるため、患者のQOL向上に大きく貢献しています。
ホスホジエステラーゼ阻害薬の作用機序と分類
ホスホジエステラーゼ阻害薬は、細胞内のセカンドメッセンジャーであるcAMPやcGMPの分解酵素を阻害することで薬理作用を発揮します。この機序により、これらの化合物の細胞内濃度が上昇し、最終的に細胞内カルシウム濃度の調節を通じて様々な生理機能に影響を与えます。
PDEサブタイプによる分類:
- PDE I阻害薬
- テオフィリン:気管支拡張作用
- パパベリン:血管拡張作用
- PDE III阻害薬
- 心筋収縮力増強作用
- 血管拡張作用
- 抗血小板作用(シロスタゾール)
- PDE IV阻害薬
- ロフルミラスト:抗炎症作用
- イブジラスト:気管支拡張・抗炎症作用
- PDE V阻害薬
- 血管平滑筋弛緩作用
- 海綿体平滑筋弛緩作用
非医薬品のPDE阻害物質:
興味深いことに、日常生活で摂取される物質にもPDE阻害作用を持つものがあります。テオブロミン(チョコレートの苦味成分)、レスベラトロール(赤ワインに含まれるポリフェノール)、イカリソウ(漢方薬として使用される植物)などがその例です。これらの物質は医薬品ほど強力ではありませんが、軽度のPDE阻害作用を示すことが知られています。
PDEには11のサブタイプ(PDE1~PDE11)が存在し、それぞれ組織分布や基質特異性が異なります。この多様性が、PDE阻害薬の選択的な作用と副作用プロファイルの違いを生み出しています。
ホスホジエステラーゼ阻害薬の薬価と先発・後発品の比較
ホスホジエステラーゼ阻害薬における先発品と後発品の薬価差は、医療経済の観点から重要な検討事項です。特に長期投与が必要な慢性疾患においては、薬価の違いが患者の治療継続性に大きく影響する可能性があります。
薬価比較の具体例:
- ミルリノン系
- 先発品(ミルリーラ):2,206円/管
- 後発品平均:約1,500円/管(約30%安価)
- シロスタゾール系
- 先発品(プレタール50mg):19.1円/錠
- 後発品平均:約12円/錠(約40%安価)
- シルデナフィル系(肺高血圧症適応)
- 先発品(レバチオ):690.7円/錠
- 後発品(JG):345.4円/錠(約50%安価)
- タダラフィル系(肺高血圧症適応)
- 先発品(アドシルカ):810.9円/錠
- 後発品(TE):339円/錠(約60%安価)
後発品選択時の注意点:
後発品を選択する際は、単純な薬価比較だけでなく、製剤学的特性も考慮する必要があります。特にOD錠(口腔内崩壊錠)や懸濁用製剤などは、嚥下困難患者にとって重要な選択肢となります。また、バイオアベイラビリティの微細な違いが臨床効果に影響する可能性もあるため、切り替え時には患者の状態を慎重に観察することが推奨されます。
薬価算定の特殊性:
PDE V阻害薬の中でも、勃起不全適応の製剤は保険適用外であるため、薬価が高く設定されています。一方、同じ成分でも肺動脈性肺高血圧症や前立腺肥大症適応の製剤は保険適用となるため、薬価設定が異なります。この適応症による薬価の違いは、PDE阻害薬特有の現象として注目されています。
ホスホジエステラーゼ阻害薬の併用禁忌と臨床上の注意点
ホスホジエステラーゼ阻害薬の使用において最も重要な安全性情報は、ニトログリセリンとの併用禁忌です。この相互作用は生命に関わる重篤な低血圧を引き起こす可能性があるため、臨床現場では特に注意が必要です。
主要な併用禁忌・注意薬剤:
- 絶対禁忌
- ニトログリセリン
- 一硝酸イソソルビド
- 硝酸イソソルビド
- ニコランジル(K⁺チャネル開口薬との併用)
- 併用注意
- α遮断薬(降圧作用の増強)
- 降圧薬全般(相加的な血圧低下)
- CYP3A4阻害薬(血中濃度上昇)
特殊な臨床状況での注意点:
心血管系リスクの評価:
PDE V阻害薬の使用前には、心血管系のリスク評価が不可欠です。特に心筋梗塞、脳卒中、重篤な不整脈の既往がある患者では、性行為そのものが心血管系に負荷をかける可能性があるため、慎重な判断が求められます。
肝・腎機能障害患者への配慮:
多くのPDE阻害薬は肝代謝を受けるため、肝機能障害患者では血中濃度が上昇し、副作用のリスクが高まります。また、腎機能障害患者では薬物の排泄が遅延する可能性があるため、用量調節が必要な場合があります。
網膜色素変性症患者への禁忌:
PDE V阻害薬は網膜のPDE6にも軽度の阻害作用を示すため、網膜色素変性症患者では視覚障害が悪化する可能性があります。この疾患は比較的まれですが、処方前の問診で確認することが重要です。
薬物相互作用の分子メカニズム:
興味深いことに、PDE阻害薬とニトレートの相互作用は、NO-cGMP経路の異なる段階での作用増強によるものです。ニトレートはNO供給源として働き、PDE V阻害薬はcGMPの分解を阻害するため、両者の併用により血管拡張作用が著しく増強されます。この生化学的メカニズムの理解は、安全な薬物療法の実践において不可欠です。
患者教育の重要性:
PDE阻害薬を処方する際は、患者への十分な説明が重要です。特に、胸痛時にニトログリセリンを使用してはいけないこと、他の医療機関を受診する際にPDE阻害薬の服用を必ず申告することなど、安全性に関わる情報の徹底した共有が必要です。
参考:KEGG医薬品データベースのホスホジエステラーゼ阻害薬分類情報
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG01507
参考:日本薬学会のPDE阻害薬に関する基礎研究論文
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%B9%E3%83%9B%E3%82%B8%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%BC%E9%98%BB%E5%AE%B3%E8%96%AC