膝靱帯損傷と治療と手術とリハビリ

膝靱帯損傷と治療

膝靱帯損傷と治療:医療者が押さえる要点
🩺

まずは「どの靱帯・どの重症度」

ACL/PCL/MCL/LCLや複合損傷で自然経過と治療選択は大きく変わります。問診・徒手検査・MRIを組み合わせ、患者の復帰目標も同時に確認します。

🧰

保存療法と手術療法は「対立」ではない

装具固定+段階的リハビリで安定性を獲得できるケースがある一方、ACLのように自然治癒が期待しにくく再建術が検討されやすいケースもあります。

🏃

復帰の鍵はリハビリ設計と再受傷予防

術後だけでなく、術前からの可動域・腫脹コントロールや神経筋トレーニングが予後に影響します。予防プログラムはACL損傷発生率を下げ得ることが示されています。

膝靱帯損傷の治療選択:保存療法と手術療法

 

膝靱帯損傷の治療は大別して、手術以外の治療(保存療法)と手術療法に分かれ、損傷部位・程度、半月板損傷の有無、不安定性、スポーツ復帰などを総合して判断するのが基本です。

例えば前十字靱帯(ACL)は関節内に位置し血流が乏しいことなどから自然治癒が望みにくく、スポーツ復帰を強く希望する場合は早期手術が一般的とされる一方で、スポーツをしない人や高齢など社会的背景によっては保存療法が選択されることもあります。

また不安定性が残ると軟骨や関節の変性が起こりやすい点、近年の低侵襲化や手術成績向上もあり、以前より手術療法が選ばれる場面が増えている、という説明は患者教育でも重要です。

膝靱帯損傷の治療方針を「保存か手術か」の二択で語ると誤解が起きやすく、実臨床では“今は保存で評価し、必要なら手術へ”や、“手術前に術前リハ(Prehab)で条件を整える”など連続的な意思決定になります。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/602ea1a3f775aa601840b9bce37a8929297d2fcb

医療従事者としては、疼痛や腫脹が強い急性期に「無理に動かすほど治る」という誤情報を正しつつ、関節拘縮・筋力低下も同時に防ぐ、という相反課題の調整を説明できると強いです。

患者の職業・競技種目・復帰期限(例:シーズン、受験、育児)まで含めてゴール設定を共有し、その上で治療選択を再提示する流れが、アドヒアランスに直結します。

膝靱帯損傷の保存療法:装具固定とリハビリ

保存療法は、損傷が軽度で不安定性が大きくない、日常生活の支障が比較的小さいなどで選択されやすく、装具固定をしながら痛みや回復に合わせてリハビリを進め、筋力と可動域を整えて安定性を獲得していきます。

必要に応じて鎮痛薬の内服や、関節水腫に対する穿刺排液(いわゆる“水を抜く”)が併用されることもあり、患者が「注射=根治」と誤解しないよう位置づけを明確にします。

後十字靱帯(PCL)や内側側副靱帯(MCL)は、ACLより不安定感が小さいことや血流のよい部位で修復されやすいとされ、保存療法が選択されることがある点も押さえどころです。

装具療法は、不安定な膝を支持し、可動域制限やブレの制動で靱帯への負担を軽減する目的で行われ、損傷部位や程度で装具が選択されます。

リハビリは大腿四頭筋を中心に膝の安定性に関わる筋群の強化や、ストレッチ等による関節可動域改善を行い、単なる筋トレではなく「安定性を取り戻す再学習」として設計します。

受傷直後は炎症・内出血の時期で無理に動かすと炎症悪化につながるため、安静やアイシング、松葉杖指導、物理療法などで負荷調整しつつ廃用を最小化します。

腫れや痛みが落ち着いた時期は運動療法が中心となり、可動域運動、筋力訓練、バランス練習・動作練習を通じて、負担の少ない動作を再獲得し再発予防まで扱います。

意外に見落とされがちですが、膝の運動は足関節や股関節の影響が大きいので、膝だけを診る介入は限界があり、連鎖(下肢アライメントと運動パターン)を評価して説明するのが有用です。

予後の目安として、損傷程度にもよるが通常4週程度で靱帯機能が回復してくるとされ、ACL損傷では保存療法でのスポーツ復帰が厳しいことが多い一方、その他靱帯では一般に2~4か月程度で競技復帰を目指す、といった時間軸の共有が役立ちます。

膝靱帯損傷の手術療法:靱帯再建術と縫合術の考え方

手術療法として、前・後十字靱帯損傷に対しては「靱帯再建術」が行われることが示されています。

一方で内側側副靱帯(MCL)の単独損傷は手術が行われることが少なく、他靱帯との複合損傷などで靱帯縫合術(切れた靱帯を縫い合わせる手術)が選択されることがある、という整理は臨床判断を説明しやすくします。

ACL領域は日本整形外科学会などが診療ガイドラインを作成しており、保存治療の有用性、活動性の高い患者の手術適応、再建術の時期、術後リハやスポーツ復帰指標などが体系化されています。

術後経過の説明では「手術が終われば治る」ではなく、手術後リハビリで筋力・柔軟性を回復し、早期の日常生活自立と社会復帰(スポーツ復帰)を目指す、という位置づけが重要です。

スポーツ復帰の目安として、手術から半年~1年が必要となる、といった大枠の時間感覚を先に伝えることで、患者の焦りや無理な復帰を減らせます。

またガイドラインの目次レベルでも「再断裂の危険因子」「予防トレーニングの有効性」「術後の装具の有用性」「リハビリの有用性」などが独立トピックとして扱われており、術式だけでなく“再受傷をどう減らすか”が同等に重要である点が読み取れます。

膝靱帯損傷のリハビリ:術前・術後とスポーツ復帰指標

術後リハビリは、低下した筋力と関節の柔軟性を回復させ、日常生活を自立しながら復帰(スポーツ復帰)することを目指し、手術靱帯に適切な負荷をかけつつ安全に進める、という原則で説明されます。

ACL診療ガイドラインでも「術前リハビリテーションは必要か」「術後リハビリテーションは有用か」「スポーツ復帰の指標として有用なものはあるか」といったClinical Questionが立っており、復帰判断が“感覚”ではなく“評価”に寄るべき領域であることが示唆されます。

現場では、痛みが軽くなった=復帰OKではなく、可動域、腫脹、筋力、動作(カッティング、着地、片脚支持)をセットでみる必要があり、患者が理解できる言葉に翻訳する役割が医療者に求められます。

「意外な情報」として、一次予防(未受傷者の予防)だけでなく、復帰後の再受傷予防(いわゆる二次予防)でも運動・神経筋系への介入が注目されている点は、医療者向け記事に向きます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6116107/

またサッカー選手を対象としたシステマティックレビュー/メタアナリシスでは、バランストレーニングを含むリスク低減プログラムによりACL損傷発生率が減る可能性が示され、頻度(週3回以上など)で効果が大きい傾向も報告されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11887387/

この種の研究を患者説明に落とすときは、「筋トレ」よりも「フォーム(神経筋コントロール)を作る練習」と表現した方が伝わりやすく、行動変容につながります。

膝靱帯損傷の独自視点:説明と意思決定の失敗パターン

検索上位では“治療法の種類”が中心になりやすい一方、医療現場で実害が大きいのは「患者の意思決定のズレ」で、ここに介入できるのが医療従事者の価値です。

ズレの典型は、(1)「靱帯=自然にくっつくはず」という前提、(2)「痛みが消えた=治癒」という短絡、(3)「手術=完全修復だからリハ不要」という誤解で、これらは保存・手術どちらの経過も悪化させ得ます。

ACLのように自然治癒が望みにくい靱帯があること、逆にPCLやMCLでは保存療法が選択される場面があることを対比して説明すると、患者は“自分の損傷の特殊性”を理解しやすくなります。

説明の実務としては、初診時に以下を短く揃えると、その後の同意やリハ継続が安定します。

  • 📌損傷構造:どの靱帯(ACL/PCL/MCLなど)で、単独か複合か。
  • 📌不安定性:日常生活レベルで問題になるか、競技動作で顕在化するか。
  • 📌合併損傷:半月板・軟骨の可能性(症状と画像の整合)。
  • 📌治療方針:保存療法の目標と限界、手術療法の目的とリハの必須性。
  • 📌時間軸:固定・可動域・筋力・競技復帰の大まかな見通し。

また、手術療法を選ぶ患者では「半年~1年」という復帰目安が提示されているため、復帰期限が短いほど心理的に無理をしやすく、段階的目標(まず日常生活、次にジョグ、次に切り返し)を“見える化”して提案することが重要です。

ここで有効なのが、予防トレーニングのエビデンスを「再発を減らす投資」として伝えることです。

患者の納得感が上がると、同じメニューでも実施率が上がり、結果として再受傷リスク低減に寄与し得ます(アドヒアランスの問題は臨床で過小評価されがちです)。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10090850/

【日本語の権威性ある参考(診療の全体像:保存・手術適応、術式、合併損傷、リハ、スポーツ復帰)】

前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版) - Mindsガイドラインライブラリ
『前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)』のMinds掲載ページです。作成方法の観点から質の高い診療ガイドラインと評価されました。監修・著編者:日本整形外科学会、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会、編集:日本整形外...

【日本語の参考(保存療法:装具・リハ、急性期〜回復期の進め方、予後の目安)】

膝の靱帯損傷の治療について | 伊藤整形・内科 あいちスポーツ・人工関節クリニック
靭帯損傷の治療は手術以外の治療(保存療法)と手術療法とにわけられ、損傷の部位や程度、半月板損傷の有無、不安定性の有無、スポーツ等への復帰などによって総合的に判断されます。保存療法(手術以外の治療)、手術療法の概要についてご紹介しています。

【論文(ACL予防プログラムの効果:バランス等を含む介入で発生率低減を示したメタアナリシス)】

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11887387/

日本シグマックス ファシリエイドサポーター膝ショート 302402(M) 膝サポーター 医療用品メーカー 左右兼用