HIV薬一覧と選択基準:作用機序別分類と治療ガイドライン

HIV薬一覧と分類

HIV薬分類の重要ポイント
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作用機序別分類

NRTI、NNRTI、PI、INSTI、CCR5阻害薬の5つの主要カテゴリーに分類

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配合剤の重要性

複数の薬剤を組み合わせた配合剤により、服薬負担軽減と治療効果向上を実現

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薬物相互作用

併用薬との相互作用確認が治療成功の鍵となる重要な管理ポイント

HIV薬作用機序別分類と特徴

HIV薬は作用機序により5つの主要カテゴリーに分類されます。核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)には、ジドブジン(レトロビル)、ラミブジン(エピビル)、アバカビル(ザイアジェン)、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(ビリアード)、エムトリシタビン、テノホビルアラフェナミド(ベムリディ)などがあります。

非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)では、ネビラピン(ビラミューン)、リルピビリン(エジュラント)、ドラビリン(ピフェルトロ)が使用可能です。特にリルピビリンは注射剤(リカムビス水懸筋注)も承認されており、ウイルス学的抑制が長期に安定して得られている患者に対する新たな治療選択肢となっています。

プロテアーゼ阻害薬(PI)には、リトナビル(ノービア)、ロピナビル(カレトラ)、ダルナビル(プリジスタ)があり、これらは他の薬剤との配合剤として使用されることが多くなっています。

インテグラーゼ阻害薬(INSTI)は現在のHIV治療の中心的役割を担っており、ラルテグラビル(アイセントレス)、ドルテグラビル(テビケイ)、ビクテグラビル、カボテグラビル(ボカブリア)などがあります。特にカボテグラビルは2022年に承認された持効性注射薬として注目されています。

HIV薬配合剤と投与方法

現在のHIV治療では、複数の薬剤を組み合わせた配合剤が治療の主流となっています。代表的な配合剤には以下があります。

  • 3剤配合剤:トリーメク配合錠(DTG/ABC/3TC)、ビクタルビ配合錠(BIC/TAF/FTC)、ゲンボイヤ配合錠(EVG/cobi/TAF/FTC)
  • 2剤配合剤:ドウベイト配合錠(DTG/3TC)、ジャルカ配合錠(DTG/RPV)、デシコビ配合錠(TAF/FTC)
  • 4剤配合剤:シムツーザ配合錠(DRV/cobi/TAF/FTC)、オデフシィ配合錠(RPV/TAF/FTC)

オデフシィ配合錠は血中HIV-RNA量が10万コピー/ml未満の患者にのみ推奨され、プロトンポンプ阻害薬(PPI)内服患者には使用できないという制限があります。また、食後投与が必要で、主な副作用として頭痛、嘔気、眠気、不眠症、浮動性めまいなどが報告されています。

注射剤としては、カボテグラビル(ボカブリア水懸筋注)とリルピビリン(リカムビス水懸筋注)の併用療法が2022年に承認されました。これらは経口薬で導入後、月1回の筋肉内注射により維持療法を行う画期的な治療法です。

HIV薬副作用と相互作用

抗HIV薬の副作用は薬剤により異なりますが、共通して注意すべき副作用があります。ラミブジンでは肝障害、乳酸アシドーシス膵炎末梢神経障害が報告されており、特にB型慢性肝炎の治療としても使用している際は中止によるB型慢性肝炎の悪化に注意が必要です。

薬物相互作用は抗HIV薬治療において極めて重要な管理ポイントです。併用により抗HIV薬の血中濃度が上昇すると副作用が増大し、逆に低下すると薬剤耐性を引き起こす危険性があります。特にプロテアーゼ阻害薬やコビシスタット含有製剤は、CYP3A4を阻害するため多くの薬剤との相互作用が報告されています。

薬物相互作用の確認には以下のリソースが有用です。

  • 国内:PMDA添付文書、KEGG、SAFE-DI
  • 海外:University of Liverpool、HIV/HCV Medication Guide、EACS DDIs

University of Liverpool HIV Drug Interactions

リバプール大学が提供する世界標準の抗HIV薬相互作用データベース

HIV薬薬価と承認状況

抗HIV薬の薬価は治療選択において重要な考慮要素の一つです。単剤では比較的安価なレトロビルカプセル100mg(173.8円/カプセル)から、高額なベムリディ錠25mg(903.5円/錠)まで幅広い価格帯があります。

配合剤では更に高額となり、ビクタルビ配合錠が7,094.1円/錠、トリーメク配合錠が6,639円/錠、オデフシィ配合錠が5,654.3円/錠となっています。年間薬剤費では、オデフシィ配合錠で約169万円、ビクタルビ配合錠では約259万円となり、医療経済的な影響は極めて大きいものとなります。

承認時期を見ると、最も古いジドブジン(レトロビル)が1987年11月に承認されて以来、継続的に新薬が開発されています。近年では2023年8月にレナカパビル(シュンレンカ)が多剤耐性HIV-1感染症に対して承認され、治療選択肢の拡大が続いています。

ジェネリック医薬品も一部で利用可能で、ラバミコム配合錠「アメル」はエプジコム配合錠の後発品として795.7円/錠で提供されています。先発品のエプジコム配合錠(1,959.9円/錠)と比較して約60%の薬価削減効果があります。

HIV薬選択における薬剤師の独自視点

薬剤師の専門性を活かしたHIV薬選択における独自の視点として、服薬アドヒアランス向上のための実践的アプローチがあります。患者の生活パターン、職業、併存疾患を総合的に評価し、最適な配合剤を選択することが重要です。

例えば、シフト勤務者には食事時間が不規則でも服用可能な薬剤を、高齢者には相互作用の少ない薬剤を、妊娠可能性のある女性には催奇形性のリスクが低い薬剤を選択するといった個別化医療が求められます。

また、薬剤師による服薬指導では、HIV薬特有の「薬剤耐性」の概念を患者に分かりやすく説明することが重要です。「薬を飲み忘れるとウイルスが薬に慣れてしまい、その薬が効かなくなる可能性がある」という説明により、アドヒアランスの重要性を理解してもらえます。

さらに、定期的な薬物血中濃度モニタリング(TDM)の提案や、副作用モニタリング計画の立案など、薬剤師ならではの専門性を発揮できる領域があります。特に腎機能や肝機能の変化に応じた用量調節の提案は、薬剤師の重要な役割の一つです。

調剤時のダブルチェック体制の強化や、患者への薬歴管理支援も重要です。HIV薬は高額であり、かつ生命に関わる薬剤であるため、調剤過誤は絶対に避けなければならず、薬剤師の責任は極めて重大です。

エイズ治療・研究開発センター

国立国際医療研究センターによるHIV/AIDS治療の最新情報と薬剤師向けガイドライン