脾静脈血栓症の症状と治療方法:診断から急性期・慢性期の管理まで

脾静脈血栓症の症状と治療方法

脾静脈血栓症の症状と治療方法
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脾静脈血栓症の症状

腹痛、発熱、下血など急性型から無症状の慢性型まで多様

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診断方法

CT検査やDダイマー測定による画像診断と血液検査

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治療法

抗凝固療法から血管内治療まで病期に応じた選択

脾静脈血栓症の症状と急性期・亜急性期・慢性期の分類

静脈血栓症の症状は、発症形式により大きく3つの型に分類されます。急性型では腹痛、下血、腹膜刺激症状を伴い、緊急性の高い症状を呈します。亜急性型は発熱や軽度の腹痛などを認め、数週から数か月の経過を取るのが特徴です。一方、慢性型では臨床症状を呈さず、側副血行路の発達を認める場合があります。

多くの症例では超音波やCTなどの画像検査で脾静脈に血栓がみられても、自覚症状がないことが報告されています。しかし、血栓による急性の発症では、高熱や強い腹痛を起こすことがあり、適切な鑑別診断が重要となります。

門脈血栓症と合併する場合には、腹水のコントロールが困難になったり、食道や胃の表面を通る血管が静脈瘤を起こしたりする合併症も認められます。特に肝硬変に伴う血栓症では、これらの合併症への注意が必要です。

脾静脈血栓症の診断方法と検査

脾静脈血栓症の診断は、画像検査と血液検査を組み合わせて行います。超音波検査やCT検査により脾静脈内の血栓を直接確認することが可能で、血栓の範囲や程度を評価できます。

血液検査では、血栓があると高値を示すDダイマーの上昇やアンチトロンビンの低下が認められます。また、凝固-線溶系の異常を調べることで、血栓形成の傾向を評価することができます。

画像診断においては、脾静脈周囲の脂肪織濃度上昇や静脈炎の併発を示唆する所見も重要な診断指標となります。さらに、側副血行路の発達状況を評価することで、病期の判定や治療方針の決定に役立ちます。

脾静脈血栓症の治療方法と抗凝固療法

脾静脈血栓症の治療は、急性期と慢性期で治療選択が異なります。発症直後から6カ月の急性期では、激しい腹痛を伴う場合は消化管の血流が途絶している可能性があり、外科的切除術やカテーテルによる血栓溶解剤の投与が行われます。

抗凝固療法は治療の柱となっており、血液が血管内で固まるのを抑える薬を使用して、血栓ができるのを予防したり、進行を遅らせたりします。具体的には、ワーファリンや直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)であるエドキサバンの使用が効果的とされています。

実際の症例報告では、エドキサバン60mg/日の投与により脾静脈血栓の縮小が認められ、3か月間の治療で血栓の消失が確認されています。ただし、門脈血栓症に対する抗凝固剤の投与は保険適用されておらず、消化管などの出血リスクを伴う点にも注意が必要です。

脾静脈血栓症の血管内治療と外科的治療

脾静脈血栓症において、薬物療法で効果が不十分な場合や急性期の重篤な症例では、血管内治療や外科的治療が選択されます。血管内治療では、カテーテルを用いたウロキナーゼなどの血栓溶解剤の動注療法が効果的とされています。

治療法として血栓除去・血栓溶解・抗凝固療法があり、複数のアプローチルートから最適な方法を選択します。特に急性型で腸管壊死や汎発性腹膜炎を伴った場合には外科的治療が第一選択となります。

血管内治療の利点は、全身への影響を最小限に抑えながら局所的に高濃度の薬剤を投与できることです。血流が再開した直後は急激な再灌流障害をきたすことがあるため、厳重なモニタリングが重要となります。

脾静脈血栓症の病態生理と予防的アプローチ

脾静脈血栓症の発症には、古くからVirchowの三徴として知られる①血流停滞、②血管内皮傷害、③血液凝固能亢進の要因が関与しています。これらの条件が重なることで血栓形成のリスクが高まります。

脈圧亢進症は脾静脈血栓症のリスクファクターとして重要で、肝硬変に伴う血流の滞りが血栓形成を促進します。また、妊娠期間中に分泌される妊娠ホルモンの影響で血管壁が脆弱になることも知られており、妊娠を希望する女性では事前の評価と管理が重要です。

予防的観点から、血症などの血液疾患を有する患者では、定期的な血液検査による凝固系の監視が推奨されます。特に71歳男性の症例報告では、多血症が原因で門脈、脾静脈、上腸間膜静脈血栓症を発症したケースが報告されており、基礎疾患の管理の重要性が示されています。

アンチトロンビン製剤の投与は、肝硬変に伴い腹水や静脈瘤の増大がある慢性化した症例で考慮されます。ただし、静脈瘤が急激に増大する場合は、その治療を先行する必要があります。

なお、専門的な治療方針については、日本肝胆膵外科学会の門脈血行異常症ガイドラインを参考にすることが推奨されます。

日本肝胆膵外科学会の門脈血行異常症ガイドライン(2018年改訂版):脾静脈血栓症を含む門脈血行異常症の診断と治療の詳細な指針

脾静脈血栓症は多様な病態を示す疾患であり、症状の早期認識から適切な診断、そして病期に応じた治療選択まで、包括的なアプローチが求められます。抗凝固療法を中心とした薬物治療から血管内治療、外科的治療まで、患者の状態に応じた最適な治療法を選択することで、良好な予後が期待できる疾患です。