ヘルペス胃炎と診断と治療
ヘルペス胃炎と症状と免疫不全
ヘルペス胃炎は、単純ヘルペスウイルス(HSV)が胃粘膜に感染して炎症や潰瘍形成を起こす病態として理解すると整理しやすいです。感染性食道炎の領域ではHSVが代表的原因の一つとして挙げられ、免疫不全状態で遭遇しやすいことが知られているため、同じ「ヘルペス性の粘膜障害」が胃に及んだ状況として臨床推論に組み込むと見逃しが減ります。
特に注意したいのは、「免疫不全の患者ほど典型的な訴えが揃わない」ことです。免疫抑制(化学療法、ステロイド、移植関連など)の背景があると、発熱や食欲不振、心窩部痛などが他の感染症・薬剤性・GVHDなどと重なり、症状だけで原因を断定しにくくなります。
臨床現場の実務としては、次の条件が揃うときに“ヘルペス胃炎も鑑別に入れておく”のが安全です。
- 免疫不全(移植後、強い免疫抑制、好中球減少など)を背景に上腹部症状が増悪している。
参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/02m_gvhd.pdf
- 内視鏡で多発びらん・浅い潰瘍など感染性を疑う所見があり、原因が一つに決めきれない。
- 食道炎(HSV/CMV/カンジダ)を疑う所見が同時にある、または既往として繰り返す。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1605
ヘルペス胃炎と内視鏡と潰瘍
感染性の上部消化管病変では、内視鏡所見から感染症を疑い、適切な部位から生検することが重要だとされています。これは「所見を見て終わり」ではなく、「所見から検体採取戦略まで含めて内視鏡診断」という発想です。
一方で、実臨床の落とし穴は「慢性胃炎・萎縮性胃炎の所見に引っ張られる」ことです。萎縮性胃炎では、粘膜が薄く平坦になって血管が透け、色調も変化し、ひだの消失などが観察されますが、これ自体はウイルス感染の決め手ではありません。 ピロリ関連胃炎でも発赤や粘膜変化が語られることが多く、背景粘膜の所見と“活動性の潰瘍性病変”を分けて記述できると、病理・検査室とのコミュニケーションが明確になります。
参考)胃カメラ(上部消化管内視鏡)で見つかる萎縮性胃炎とは|横浜市…
ヘルペス性病変を疑うときは、内視鏡所見だけでHSV断定に寄せすぎず、鑑別の軸を同時に持つのがポイントです。感染性食道炎の世界ではHSVとCMVを内視鏡所見である程度鑑別し得る、という議論があり、同じ“鑑別の姿勢”が胃病変でも役に立ちます。 胃で潰瘍・びらんを見たとき、CMV胃腸炎、薬剤性(NSAIDs等)、GVHD、悪性腫瘍、好酸球性なども並走で考え、検体で詰める方針が安全です。
参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/03m_cmv.pdf
ヘルペス胃炎と生検とPCR
ヘルペスを“病理で押さえる”際のキーワードが、核内封入体です。HSV関連病変の病理所見として、感染細胞にCowdry A型核内封入体や、すりガラス様変化を来した核内封入体が出現することが記載されており、これが診断の手掛かりになります。
そして、病理単独に頼らず、免疫染色・PCRを組み合わせると診断の確度が上がります。HSV抗原を免疫染色で検出することや、PCRでウイルスDNAを検出することが有用だとされており、臨床側は「HSV疑い」を明確に伝えたうえで、必要な追加検査が走るようにオーダー設計をしておくと強いです。
現場で意外と差が出るのが「生検の取り方」と「提出時の情報量」です。感染性食道炎の症例報告でも、潰瘍の辺縁や底から検体採取し、HSV/CMVを念頭に免疫染色等で評価している流れが示されており、胃でも“病変のどこを取るか”は診断率に直結します。 依頼書に、免疫抑制の内容(薬剤、移植、好中球減少の有無)と、内視鏡での病変分布(体部・前庭部、単発/多発、びらん/潰瘍)を書いておくと、病理医が鑑別を広く持ちやすくなります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/pde/94/1/94_60/_pdf
参考(病理で重要なポイント:核内封入体、免疫染色、PCR)
ヘルペス胃炎と治療とアシクロビル
重症感染が疑われる状況では「検査結果を待つ間の治療判断」が臨床の山場になります。HSV感染では抗ウイルス療法の早期開始が奏功した症例が報告されており、少なくとも“疑って動いた”こと自体が患者アウトカムに関わり得る、という実感を持ちやすい領域です。
薬剤としてはアシクロビルや(経口可能なら)バラシクロビルが選択肢になります。アシクロビルは日本の医薬品情報でも注射の用法・用量が整理されており、重症例や経口困難例では点滴静注の選択が現実的です。 ただし胃炎そのものの標準治療として投与量・期間が一律に定まるというより、重症度、免疫状態、合併(食道炎・播種疑い等)、腎機能、経口可否を踏まえた調整が必要になります。
参考)医療用医薬品 : アシクロビル (アシクロビル点滴静注用25…
また、免疫不全患者では“HSVだけを叩けば終わり”になりにくい点も重要です。例えば移植領域のガイドラインでは、CMV胃腸炎は血液検査の陽性率が十分高くないことがあり、内視鏡による組織診断が推奨される、といった実務的注意が示されています。 つまり、抗ウイルス薬を開始しても、同時に「CMVやGVHD、薬剤性」などを並走で詰める動線を切らさないことが、診療の安全性を上げます。
参考(造血・免疫領域:CMV胃腸炎は組織診断が推奨される、という臨床上の注意点)
日本造血・免疫細胞療法学会:GVHDガイドライン(CMV胃腸炎の診断の考え方)
ヘルペス胃炎と鑑別とCMV(独自視点)
検索上位で語られがちな「ヘルペスか、CMVか」という二択に、現場ではもう一段“独自の問い”を足すと診断が安定します。具体的には、「この患者は、どの検査が陰性でも否定できない状態か?」を先に評価し、陰性結果の解釈を誤らない、という視点です。
例えばCMV胃腸炎は、血液検査だけでは拾いきれないことがあるため、臨床的に疑うなら内視鏡での組織診断が推奨される、と明記されています。これは「血中の結果が陰性=消化管病変が否定」ではない、という重要な安全情報です。 同じロジックで、HSVについても“病変局所の検体(生検)でPCR/免疫染色を当てる”動きが診断の核になるため、検査の陰性・陽性を「検体の種類とタイミング込み」で判断する癖が有用です。
参考)食道炎症性疾患 : ヘルペス,サイトメガロウイルス (ガスト…
実務に落とすと、鑑別のためにやることは難しくありません。
- 内視鏡で感染性を疑ったら、所見の記載と同時に「生検の狙い(HSV/CMV鑑別)」をオーダーに明記する。
- 免疫不全の背景(移植、免疫抑制薬、GVHD疑いなど)を病理依頼書に書く:病理側の追加染色・追加検討が合理化される。
- “片方が当たったら終わり”にせず、合併や二重感染の可能性を残して経過を追う(症状・内視鏡像・治療反応)。
この「陰性結果の扱い方」「検体設計」「二重感染を残す」という3点は、ヘルペス胃炎そのものの希少性よりも、むしろ日常診療の事故を減らす実戦的な要所になります。