扁桃周囲炎の症状と原因
扁桃周囲炎の初期症状と進行パターン
扁桃周囲炎は、急性扁桃炎の炎症が扁桃の被膜を越えて周囲組織に拡がった状態を指します。初期段階では片側性の激しい咽頭痛が特徴的で、38℃以上の高熱を伴うことが多いです。患者さんは食事摂取が困難になり、水を飲むことさえ痛みで難しくなります。
参考)耳鼻咽喉・頭頸科|扁桃周囲膿瘍、扁桃周囲炎|順天堂大学医学部…
炎症が進行すると、ものを飲み込むときの激しい痛みが耳まで広がることがあります。これは耳への放散痛と呼ばれる現象で、扁桃周囲炎の重要な症状の一つです。患者さんは痛みを和らげるために、膿瘍のある側に頭を傾けることもあります。
参考)扁桃周囲炎と扁桃周囲膿瘍 – 19. 耳、鼻、のどの病気 -…
さらに周囲の筋肉、特に内側翼突筋にまで炎症が広がると、口の開きにくさである開口障害が出現します。この開口障害は扁桃周囲炎が進行している重要なサインで、医師がのどを観察することが困難になるほど口が開けにくくなることもあります。
参考)https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/pdf/03204/032040315.pdf
全身症状としては、全身のだるさや倦怠感、脱水状態となることがあります。よだれを呈したり、口臭が強くなったり、首のリンパ節の腫れが認められることも一般的です。
扁桃周囲炎を引き起こす主な原因菌
扁桃周囲炎の直接の原因は、扁桃に対する細菌感染です。通常は複数の細菌が関与しますが、レンサ球菌およびブドウ球菌が最も頻度の高い好気性病原菌として知られています。
参考)扁桃炎について
特にA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)は、扁桃周囲炎を引き起こす代表的な細菌で、発熱やのどの痛みといった症状が強くあらわれる傾向があります。黄色ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌なども原因となります。
参考)急性扁桃炎・咽頭炎 の症状・治療|たぶち耳鼻咽喉科|寝屋川市…
嫌気性病原菌としては、バクテロイデス属が主な原因菌です。これらの細菌が扁桃に感染し、炎症が扁桃被膜外に波及することで扁桃周囲炎を生じます。
感染が起こるきっかけとしては、免疫力の低下が重要な要因です。ストレス、過労、睡眠不足、気温の変化、外気温の寒暖差などが抵抗力を落とし、細菌やウイルスに感染しやすくなります。また、小骨が刺さった部位から炎症がはじまったり、親知らずなどで歯肉が炎症を起こしたことがきっかけで扁桃周囲炎と進んでしまうこともあります。
参考)扁桃炎│東京都小平市の耳鼻咽喉科なら医療法人社団 玉翠会「喜…
扁桃周囲炎の診断方法とCT検査の重要性
扁桃周囲炎の診断は、まず問診でのどの痛みの程度、口の開きづらさ、息苦しさの有無などを確認することから始まります。その後、のどの診察をして扁桃の赤みや腫れ具合を観察し、採血やCT検査などを行うか判断します。
扁桃周囲炎では、扁桃の上と軟口蓋が全体的に赤く腫れているのが特徴です。膿瘍に進展している場合は、扁桃が前方に押し出され、口蓋垂(のどの奥に垂れ下がった軟らかい小突起)が腫れて膿瘍の反対側に押し出されることもあります。
造影CTは扁桃周囲炎と扁桃周囲膿瘍を鑑別する上で非常に重要な検査です。造影CTでは、咽頭壁の腫脹、辺縁が造影される壁構造を持ち被包化された液貯留(膿)、周囲の脂肪織濃度上昇、リンパ節腫大などが観察されます。特に壁が造影される液=膿が見られるのが診断のポイントです。
参考)【CT画像あり】扁桃周囲膿瘍の原因、診断、治療まとめ!切開が…
CT検査による扁桃周囲膿瘍の画像診断についての詳細な解説
さらにCTでは、炎症がどこまで波及しているのかを評価することができ、傍咽頭間隙、咀嚼筋間隙、咽頭後間隙などに広がっていないかをチェックできます。膿瘍の部分を針で刺して膿汁が吸引されれば診断が確定しますが、膿瘍部が穿刺できないこともあるため、CTや超音波検査を行って膿瘍の場所を確認することがあります。
扁桃周囲炎の治療法と抗生剤の選択
扁桃周囲炎の治療は、炎症の程度によって保存的治療と外科的処置に分かれます。扁桃周囲炎の段階(膿瘍形成前)では、抗生剤を主体とした点滴による保存療法がおこなわれます。
抗生剤の第一選択としては、多くの細菌性扁桃炎にペニシリン系抗菌薬が有効です。具体的にはアモキシシリン(サワシリン)やアモキシシリンクラブラン酸(オーグメンチン)などのペニシリン系抗菌薬が使用されます。A群β溶血性連鎖球菌を含む多くの細菌性扁桃炎にはペニシリン系抗菌薬が有効とされています。
参考)扁桃炎・急性扁桃炎の薬にはどのようなものがありますか? |扁…
ペニシリンアレルギーがある場合や、ペニシリン系抗菌薬が使えない場合には、クラリスロマイシン(クラリス)やアジスロマイシン(ジスロマック)などのマクロライド系抗菌薬が使用されます。ただし、これらの薬剤は耐性化が問題となっているため、本当に必要な時以外使わないことが大切です。
参考)扁桃炎
点滴治療では、抗菌薬やステロイド薬を点滴に混ぜることもあります。開口障害になると食事が満足にできないので、点滴によって栄養や水分を十分に補給することも重要です。
扁桃周囲膿瘍に進展した場合は、保存的治療では改善しないことが多く、膿汁の排泄を目的とした治療が必要となります。膿汁の排泄には、膿瘍の場所や程度を考えて、注射針で穿刺吸引する場合と、メスで1~2cm程度を切開排膿する場合があります。切開後には、十分に排膿するためにガーゼドレーンを置く場合があります。
通常であれば入院期間は3、4日~1週間ほどです。
扁桃周囲炎が進行した場合の合併症リスク
扁桃周囲炎は放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見および早期治療が望ましい病気です。症状が進行すると、首の深いところまで膿が溜まってしまう深頸部膿瘍や咽後膿瘍を発症することがあります。
さらに重症化すると、膿が心臓の周囲まで下りてしまう縦隔膿瘍や膿胸まで進展してしまい、最悪の場合、死に至ってしまうこともあります。深頸部膿瘍や縦隔膿瘍まで進むことは極めて稀ではありますが、生命に関わる病気なので十分な注意が必要です。
その他の重篤な合併症として、上気道狭窄、降下性壊死性縦隔炎、内頸静脈血栓症、レミエール症候群などをきたし得るとされています。のどの粘膜全体の腫脹により含み声を生じ、腫脹がのどの下の方まで広がると気道の閉塞を起こして呼吸困難となることもあります。
参考)扁桃炎・扁桃周囲膿瘍
扁桃周囲膿瘍を起こした場合は1~2回の炎症でも手術をお勧めする場合があります。習慣性扁桃炎では年間4~5回以上炎症を繰り返す場合に手術をお勧めしますが、扁桃周囲膿瘍を繰り返す場合も手術適応となります。睡眠時無呼吸症候群や病巣感染がある場合は早期に手術したほうがよいと考えられています。
扁桃周囲膿瘍は深頸部感染症の中で最も頻度が高く、小児では思春期以降に多いとされ、20-30代の大人にも多く発症します。30代の男性に多く発症するとの報告もあります。
扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍の発症は片側性の感染がほとんどであり、膿瘍の形成部位は扁桃と上咽頭収縮筋の間です。重症感(例:アイコンタクトが乏しいか全くない、易怒性、なだめたり気をまぎらわせたりすることができない、発熱、不安)、流涎、重度の口臭、扁桃発赤、滲出液などの症状がよくみられます。
参考)扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎 – 16. 耳鼻咽喉疾患 – M…
扁桃周囲炎を予防するための生活習慣
扁桃周囲炎の予防は、感染拡大防止と免疫力向上が重要です。基本となるのは、こまめな手洗い・うがい、毎食後の歯磨き、適切な水分補給、十分な睡眠です。
参考)扁桃炎(のどの奥に白いものがある)の原因と治療法|よいこのわ…
感染症の一般的な予防法として、こまめな手洗い、うがい、換気、マスク着用を含む咳エチケットを心がけてください。喉を乾燥させないようにすることが重要で、そのためにはマスクの着用や定期的なうがいが有効です。
参考)扁桃炎・急性扁桃炎の予防方法を教えてください。 |扁桃炎・急…
栄養面では、ビタミンCやビタミンEが豊富な食事を心がけ、栄養バランスの取れた生活を送ることで、体の抵抗力を高めることが予防に繋がります。免疫力を高める効果がある、ビタミンCが豊富な果物、オメガ3脂肪酸が含まれる魚類、ヨーグルトなどの発酵食品を積極的に摂ることがおすすめです。
参考)扁桃炎とは?症状や診断方法について解説|渋谷・大手町・みなと…
扁桃炎の予防において、食事は非常に重要な要素です。特に辛い食べ物や熱い食べ物は、喉に刺激を与えたり、すでに炎症を起こしている扁桃にさらにダメージを与えたりする可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。消化が良く、栄養価の高い食べ物を積極的に摂ることが、扁桃炎の予防効果を高めます。
日常的な生活習慣の改善が、扁桃炎を含む呼吸器感染症の予防に有効です。免疫力の低下を招く主な要因として、ストレス、過労、睡眠不足、外気温の寒暖差、アレルギー、風邪、喉の乾燥、喫煙、外傷などがあるので、これらに注意が必要です。
順天堂大学医学部附属順天堂医院の扁桃周囲膿瘍・扁桃周囲炎に関する詳細情報
MSDマニュアルによる扁桃周囲炎と扁桃周囲膿瘍の症状や治療に関する詳しい解説