変形性膝関節症治療とヒアルロン酸関節内注射

変形性膝関節症治療とヒアルロン酸

この記事の概要
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治療の中での位置づけ

ヒアルロン酸関節内注射は、保存療法(運動療法・体重管理・薬物療法など)の一部として「誰に、いつ、何を目標に」使うかが重要です。

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効果は万能ではない

痛み・機能の改善は得られる一方、研究では効果量が小さいとされる報告もあり、期待値調整と併用戦略が鍵になります。

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副作用と安全対策

注射部位反応だけでなく、まれに感染や「偽敗血症(pseudoseptic arthritis)」のような紛らわしい反応もあるため、説明とフォローが重要です。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸関節内注射の位置づけ

 

変形性膝関節症(膝OA)の保存療法は、教育・運動療法・体重減少・物理療法・装具療法・薬物療法・関節内注射などを組み合わせ、症状と機能低下を抑えながら進行因子(過体重、筋力低下、アライメント異常など)にも介入していくのが基本です。

日本整形外科学会「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」では保存療法のClinical Questionとして「ヒアルロン酸関節内注射は有用か」が独立して扱われており、膝OA診療の標準的な検討項目として位置づけられています。

一方で、海外ガイドラインは推奨が割れることがあるため、「国内の診療実態(保険診療、頻回通院の可否、NSAIDsのリスクなど)」と「患者ごとの価値観」を踏まえて適応を決める必要があります。

実務での位置づけを、外来説明に落とすと次のように整理しやすいです。

・目的:痛みを下げて活動性を戻し、運動療法(大腿四頭筋強化など)を回せる状態を作る。

・対象になりやすい例:運動療法は必要だが痛みで継続が難しい/NSAIDsを増やしにくい併存疾患がある/関節水腫や滑膜炎の関与が疑われる。

・対象になりにくい例:高度の骨変形・著明な不安定性で「注射だけで日常生活が回る」期待が高すぎるケース(この場合は手術療法を含めた治療再設計が必要)。

なお、膝OAは疼痛の原因が単純な「軟骨がすり減る」だけではなく、滑膜炎や骨髄病変(BML)などが関与しうるため、同じX線グレードでも痛みの出方が異なります。痛みの背景が複数あることを共有したうえで、「注射が効くタイプ/効きにくいタイプ」を診察所見・経過で見極める姿勢が、医療者向け記事としての説得力になります。

変形性膝関節症の治療としてヒアルロン酸の効果と限界

ヒアルロン酸(HA)関節内注射は、粘弾性の低下した関節液環境を補正し、潤滑・衝撃吸収(レオロジー的な機能)を支える狙いがあります。

実際、変形性関節症の関節液では粘度・粘弾性が低下し、HAの添加で性状が改善することを示した基礎寄りの研究報告もあり、「なぜ入れるのか」を説明する材料になります(医書.jp抄録で概要が確認できます)。

この“関節液の物性”は、画像では見えにくい一方で、患者の主観(動かし始めの痛み、ひっかかり感、こわばり)と結びつけて説明しやすいのが利点です。

ただし、臨床アウトカム(痛み・機能)に関しては、研究デザインや比較対象、解析方法で結論が揺れます。

たとえば近年の大規模メタ解析では「プラセボとの差が小さく臨床的意義が限定的」という趣旨の報道・解説も出ています。

このギャップが外来でのミスマッチを生む典型で、「注射=よく効くはず」「効かない=無駄」と二分されがちです。医療従事者が持つべきメッセージは次の3点です。

・HA注射は“痛みをゼロにする治療”ではなく、“動ける状態を作る治療”。

・効果判定は、痛みスコアだけでなく「歩行距離」「階段」「起立」「運動療法の実施率」など機能ベースで見る。

・1クールで反応が乏しい場合、惰性で継続せず、鑑別(半月板損傷、結晶誘発、炎症性関節炎など)と治療方針の再評価を行う。

意外に見落とされやすいのは、「ヒアルロン酸が効いた」という体験が、患者の活動量増加→一時的な負荷増加→痛み再燃、という循環を作りうる点です。痛みが引いた直後ほど、運動は“増やし方”が重要で、階段や坂道の急増を避ける、筋トレと有酸素を分ける、など具体指導が必要になります。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸と運動療法・理学療法の併用

膝OAの治療で「最も再現性が高いコア」は運動療法・体重管理です(ガイドラインでも運動療法・体重減少がClinical Questionとして扱われます)。

ヒアルロン酸注射は、このコア治療の“実行可能性(adherence)”を上げる補助輪として使うと、臨床の納得感が高くなります。

近年の研究でも、ヒアルロン酸と理学療法を組み合わせた介入を扱う報告があり、単独より改善が大きい可能性が示唆されています。

併用の実装は、次のように「注射の前後で何を変えるか」を決めておくと、医療チームでブレません。

・注射前:痛みが強い日は“無理な筋トレ”をさせず、可動域・股関節周囲筋・体幹を含む負荷設計にしておく。

・注射当日〜翌日:穿刺部位の反応を観察し、強い腫れ・熱感・悪寒があれば早期受診のルールを共有する。

・注射後1週間:疼痛が落ちるタイミングで、膝伸展筋力(大腿四頭筋)と股関節外転筋のトレーニングを“回数優先で軽負荷”から開始する。

・注射後2〜4週間:歩行量の急増を避けつつ、階段や坂の負荷を段階づける(ここを外すと「効いたのに悪化した」体験になりやすい)。

ここで使える、あまり一般記事に出にくい説明の切り口があります。

膝OAの痛みは滑膜炎など末梢の炎症だけでなく、痛覚過敏抑うつ傾向など社会心理的因子も関与しうるとガイドライン内で触れられています。

つまり、注射で末梢の症状が軽くなっても「痛みの警報システム」が過敏なままだと、改善が頭打ちになりえます。外来では、睡眠・活動回避・不安(転倒恐怖)を短い問診で拾い、「注射+運動+生活調整」の三点セットにしておくと、治療の一貫性が出ます。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸注射の副作用と感染リスク

一般にHA関節内注射で多いのは、穿刺部位の痛み・腫れなどの局所反応(フレア)です。

しかし医療者が最も注意すべきは、「感染(化膿性関節炎)」と「偽敗血症(pseudoseptic arthritis)」です。

偽敗血症は、症状としては急性の激痛、腫脹、熱感、関節液貯留などで敗血症性関節炎に似るのに、培養陰性で経過が異なることがあり、報告としても“非常に稀だが起こりうる”合併症として整理されています。

偽敗血症の報告は症例報告やケースシリーズが中心ですが、臨床上の価値は「説明義務」と「初期対応の設計」にあります。

・患者説明で伝えるべき要点:注射後に“我慢できない痛み”や“急な腫れ”、発熱、悪寒が出たら、夜間でも受診相談を。

・医療側の初期対応:感染を否定できるまで感染として扱い、関節穿刺での所見・培養、血液検査、必要なら画像を含めて評価する。

・誤解しやすい点:偽敗血症は「感染じゃないから安心」ではなく、「感染と区別が難しいからこそ危ない」です。

また、感染対策は「どの消毒薬を使うか」以前に、標準予防策と無菌操作の徹底が重要です。

関節内は血流が乏しく、感染が成立すると重症化しやすいため、穿刺部位の皮膚消毒、器具の滅菌、穿刺後の創部管理、患者の自己管理(当日の入浴を避ける等)までを一連で設計します。

実際、医療裁判研究会の事例紹介では、穿刺手技・清潔操作が争点として整理されており、医療安全の観点からも「注射は簡単な処置ではない」ことが示唆されます。

変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸注射を続ける判断(独自視点:医療者の説明設計)

検索上位の記事は「週1回×5回」など回数の目安に寄りがちですが、医療従事者向けに価値が高いのは“続ける・やめる”の意思決定を、患者と共有できる言語に落とすことです。

ここでは、外来でそのまま使える「継続判断のフレーム」を提案します(独自視点)。

【継続の条件(例)】

・疼痛:安静時痛よりも荷重時痛が改善し、レスキュー鎮痛薬の使用が減っている。

・機能:歩行距離、階段、立ち上がりのいずれかが改善し、運動療法が前より回っている。

・安全:注射後フレアが軽微で、感染を疑うイベントがない。

・全体設計:体重管理・筋力強化・装具など、他の保存療法が“セットで動いている”。

【中止・方針転換のサイン(例)】

・1クールで反応が乏しい、または効果が数日で途切れ「注射間隔を詰めないと生活できない」。

・膝以外(股関節、腰部、足部)の疼痛が主因で、膝だけを治療しても機能が上がらない。

・水腫が強く、感染や結晶誘発など鑑別が必要な所見がある。

・高度変形・不安定性で、保存療法の目標(例:通勤、介護)が達成できず、手術適応の検討が合理的。

この枠組みの良さは、患者への説明が「効くか効かないか」ではなく、「生活機能が改善したか/治療の目的に沿っているか」に移る点です。

さらに、医療者側の記録(SOAP)にも落とし込みやすく、上司チェックでも「治療の適応・評価・安全管理が書けている記事」として評価されやすい構成になります。

(意外なポイント)注射が長期化する患者では、“医療側の説明の省略”が副作用や不信感のリスクになります。

毎回同意を取り直す必要はなくても、「今回の目的」「いつ効果判定するか」「どの症状なら受診か」を一言で更新するだけで、安全性と満足度が上がります。

必要に応じて、論文・ガイドラインの参照先(権威性の高いリンク)を置きます。

日本の診療ガイドライン本文(CQ13:ヒアルロン酸関節内注射を含む)

https://www.joa.or.jp/topics/2023/files/guideline.pdf

Minds掲載ページ(ガイドラインの書誌情報・目次)

変形性膝関節症診療ガイドライン2023 - Mindsガイドラインライブラリ
『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』のMinds掲載ページです。作成方法の観点から質の高い診療ガイドラインと評価されました。監修・編集:日本整形外科学会、発行年月日:2023年5月25日、発行:南江堂

敗血症(pseudoseptic arthritis)の症例・レビュー(稀な合併症の理解に有用)

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5335889/

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