変形性膝関節症治療とヒアルロン酸
変形性膝関節症の治療としてヒアルロン酸関節内注射の位置づけ
変形性膝関節症(膝OA)の保存療法は、患者教育・生活指導、運動療法、体重管理、装具、薬物療法、注射療法などを組み合わせ、症状と機能の改善を狙うのが基本です。日本整形外科学会の「変形性膝関節症診療ガイドライン」では、保存療法の章において「ヒアルロン酸関節内注射は有用か」がClinical Questionとして設定されています。
一方で、ヒアルロン酸は「効く/効かない」を単純に断じにくい領域です。国際的な診療ガイドラインの系統的レビューでは、膝OAに対する注射療法として、ヒアルロン酸(IA-HA)とステロイド(IA-CS)は多くのガイドラインで“症状緩和目的で、他の保存療法が不十分な場合に検討”という形で位置づけられつつも、推奨の強さや賛否は一定しないとまとめられています。
つまり臨床では「患者の病期・期待値・併存症・運動療法の実行可能性」を前提に、共同意思決定の材料として整理して提示することが重要です(“打てば治る”でも“意味がない”でもなく、適応の見極めが主役)。
【臨床での整理ポイント(医療者向け)】
- 目的:構造変化の停止ではなく、主に疼痛と機能の改善(症状緩和)を狙う。
- タイミング:運動療法が痛みで進められない患者で「リハビリの窓」を作る目的が現実的。
- 代替:急性増悪で即効性を優先するならステロイドが候補になり得るが、効果持続や安全性の議論が別に必要。国際レビューでは、IA-CSは“速く効くが短い”、IA-HAは“遅れて効くが長め”という整理が紹介されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7fe10fafd513744c2323d8c9f7d9230e74cfad06
変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸の効果:エビデンスの「一致しない理由」
ヒアルロン酸関節内注射のエビデンスが読みづらい最大の理由は、「研究ごとの製剤差」「評価時点の差」「プラセボ反応の大きさ」「患者の病期(軽度〜重度)の混在」が同時に存在するためです。国際的なガイドラインのレビューでも、ヒアルロン酸に対する推奨が“強い推奨から反対推奨まで混在”すること自体が示されており、エビデンスの不確実性(研究のバイアスや不一致)が臨床判断を難しくしています。
また、同レビューでは、IA-HAはIA-CSより「効果発現が遅い一方で、比較的長く続く可能性」があるという整理が記載されています。 これは患者説明で有用で、「今日明日の痛みを即座にゼロにする治療」ではなく「数週〜の時間軸で、症状の山を下げる可能性がある治療」として期待値調整できます。
一方で、近年のメタ解析報道では「痛み軽減は統計学的に有意でも臨床的に意味のある最小差(MCID)に届かない可能性」や「有害事象リスクの増加」を指摘する論調もあり、強気に推し切る説明は危険です(患者満足の観点でも、医療安全の観点でも)。
【患者説明に落とし込む言い換え例(外来で使える)】
- 「効く人もいますが、平均すると“劇的”というより“じわっと”が多い治療です。」
- 「注射がゴールではなく、痛みを下げて運動療法や生活の工夫を続けやすくする“手段”です。」
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/3ee6bb546bfeeafebed99ba4e3131ef04b7fd95b
- 「効果が薄いと判断したら、同じ治療を漫然と続けず次の手を一緒に考えます。」
変形性膝関節症の治療としてヒアルロン酸注射:副作用と感染リスク管理
ヒアルロン酸注射後の有害事象は、多くが穿刺部痛、関節内の一過性疼痛・腫脹など軽微ですが、医療者が最も重視すべきは「化膿性関節炎の見逃し」です。一般向け情報でも、感染(化膿性関節炎)は“まれだが重篤になり得るため、強い痛み・腫脹・発熱が続けば速やかに受診”と注意喚起されています。
さらに“意外と知られていない”落とし穴として、ヒアルロン酸注射後に急性の強い炎症が出て、見た目や症状が敗血症性関節炎に似る「pseudoseptic arthritis(偽性敗血症性関節炎)」が稀に報告されています。 典型的には注射後比較的早期(文献では24時間前後とされることも)に急な痛み・腫脹・関節液貯留を呈し、鑑別が難しい点が重要です。
したがって、外来では「注射後悪化した患者を“効かなかった”で片づけず、感染鑑別のフローに乗せる」運用が安全です。
【安全運用の実務チェック(例)】
- 注射前:発熱、皮膚感染、免疫抑制、抗凝固、関節内感染の既往などを確認し、リスクが高い場合は適応を再検討。
参考)変形性膝関節症のヒアルロン酸注射|効果・回数・副作用を枚方大…
- 注射後:強い痛み、熱感、腫脹、可動域制限、発熱があれば“まず感染除外”。関節穿刺で細胞数・結晶・培養へ。pubmed.ncbi.nlm.nih+1
- 説明:起こり得る症状(軽い腫れはあり得るが、強い痛みや熱・発熱は要連絡)を具体的に伝える。
変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸を「運動療法とセット」で考える理由
膝OA治療の土台は、長期的には運動療法・体重管理・活動性の最適化であり、注射はそれを補助する役割になりやすい、というのがガイドライン的な大枠です。日本整形外科学会ガイドラインでも保存療法として運動療法や体重減少がClinical Questionとして並び、注射単独ではなく多面的介入の文脈で治療が整理されています。
国際的なレビューでも、IA-HAやIA-CSは「他の非手術治療が十分に効かない場合の症状緩和」として扱われ、あくまで“治療アルゴリズムの一部”という位置づけが繰り返し示されています。 この視点は医療者の説明負担を下げます。なぜなら、注射の効果が限定的でも「運動療法を再開できた」「活動量が戻った」というアウトカムで価値を語れるからです。
実際の外来では、注射の効果持続が短いと感じる患者ほど「痛いから動かない→筋力低下→さらに痛い」のループに入りやすく、注射はループを断つ“時間稼ぎ”として機能します(この“時間稼ぎ”の設計がないと、注射回数だけが増えやすい点に注意)。
【併用を設計するコツ】
- 注射の当日〜1週間:痛みが落ちたタイミングで、まずは可動域と大腿四頭筋・股関節周囲筋の低負荷から開始。
- 2〜4週間:歩数や階段など“荷重課題”を少しずつ戻し、患者が自己効力感を持てるメニューにする。
- 評価:JKOM/KOOS/WOMACなど患者立脚型アウトカムも含めて、注射の価値を“痛みだけ”で判定しない(継続可否の判断材料になる)。
変形性膝関節症の治療でヒアルロン酸を続けるべきか:独自視点「中止の技術」
検索上位の記事は「回数・効果・副作用」の説明に寄りがちですが、医療現場で本当に難しいのは“やめ時”の合意形成です。国際レビューでも、ガイドラインは注射を症状緩和の選択肢として扱う一方、反復投与の最適スケジュールや誰にどこまで続けるかは一枚岩ではなく、臨床の裁量が大きい領域として残っています。
そこで有用なのが、最初から「中止基準(stop rule)」を患者と共有するやり方です。注射を“儀式化”させないために、初回〜数回で「何が改善したら継続か」「何が改善しなければ次へ進むか」を定義します(例:疼痛NRS、歩行距離、階段、夜間痛、仕事復帰、運動療法の実施率など)。
もう一つの盲点は、効果判定を“注射直後”で行ってしまうことです。IA-HAはIA-CSと比べて効果が遅れて出る可能性があると整理されているため、評価時点を誤ると「効かない」の誤判定が起こり得ます。
【“中止の技術”チェックリスト(医療者向け)】
- 継続の条件:少なくとも1つ以上の生活機能アウトカムが改善(例:通勤、買い物、睡眠、運動療法の再開)。
- 中止の条件:効果が乏しいまま反復、注射後増悪を繰り返す、感染鑑別が必要な反応が出た、他治療(装具・運動・薬物)の最適化が未実施。pubmed.ncbi.nlm.nih+1
- 次の一手:装具、運動療法の再設計、内服/外用、画像評価の見直し、手術適応の再評価などへ“段階的に移行”。
【権威性のある日本語参考リンク(ガイドライン本文:保存療法の章・CQ「ヒアルロン酸関節内注射」など全体像の参照)】
日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン(保存療法・ヒアルロン酸関節内注射のCQを含む)
【関連論文(ガイドライン間の推奨差・IA-HAとIA-CSの位置づけの整理に有用)】
【関連論文(“意外な副作用”として鑑別に役立つ:偽性敗血症性関節炎)】
Pseudoseptic arthritis as a complication of intra-articular infiltration of hyaluronic acid

変形性股関節症は治る病気です (ワニプラス)