歯髄炎の症状と原因
歯髄炎の急性症状と特徴
急性歯髄炎の最も特徴的な症状は、激しい自発痛です。初期状態では冷たいもので一時的に痛みが生じるだけですが、炎症が進行すると温かいものでも痛みが生じるようになります。何もしていない状態でもズキズキとした激痛が続き、夜間に痛みが増すこともあります。
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可逆性歯髄炎の段階では、炎症によって歯髄内の毛細血管が拡張している「歯髄充血」の状態にあります。この時期は冷たいものがしみる程度で、刺激が除去されると痛みは1〜2秒で消えることが多いです。しかし、この段階を放置すると急性単純性歯髄炎へと進行し、痛みがすぐには消えず数時間持続することもあります。
急性歯髄炎のさらに進行した段階では、温かいもので痛みを感じたり、ズキズキとした拍動性の痛みが特徴的です。特に温かい飲み物を含んだり、入浴時や就寝時に痛みが増すことが多く、患部を冷やすことで一時的に痛みが和らぐこともあります。患者は痛みを発する歯を特定することが困難で、上顎と下顎の歯列弓を混同することさえありますが、口腔の左右側を間違えることはありません。
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歯髄炎の慢性症状の見分け方
慢性歯髄炎は急性歯髄炎とは異なり、症状が比較的穏やかで持続的です。急性炎症の場合は急に歯が痛くなり、腫れたり咬めなくなったりしますが、慢性炎症では長期間にわたって軽度の不快感が続きます。
慢性歯髄炎では、明らかな痛みがない場合もありますが、歯に違和感を感じたり、軽い鈍痛が続くことがあります。また、冷たいものや温かいものに対する感覚が鈍くなることもあります。急性症状と慢性症状の違いを理解することは、適切な治療時期を判断する上で重要です。
急性炎症と慢性炎症は時間の経過によって分類されており、急性歯髄炎を適切に治療しないと慢性化する可能性があります。慢性歯髄炎の状態が続くと、最終的には歯髄が壊死し、根尖性歯周炎へと進行するリスクが高まります。
歯髄炎の原因となる虫歯以外の要因
歯髄炎の原因として最も多いのは虫歯による細菌感染ですが、虫歯以外にも様々な要因が歯髄炎を引き起こします。歯に強い衝撃が加わったり、転倒や事故などによる外傷によって歯髄がダメージを受けると、歯髄炎が発症することがあります。
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歯周病が進行すると、歯根の先端から細菌が侵入して歯髄炎を引き起こすケースもあります。また、歯の中にある複数の管は歯髄とつながっており、虫歯になった歯の治療を何度も繰り返すと、管を通じて歯髄がダメージを受けて歯髄炎を引き起こすことがあります。
スポーツ中の衝突や転倒などで歯を損傷した場合も、外傷により歯髄へのリンパおよび血液供給が阻害され、歯髄炎が発症する可能性があります。予防策として、リスクの高いスポーツを行う際にはマウスガードを使用することが推奨されます。
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歯髄炎の診断と検査方法
歯髄炎の診断には、複数の検査方法が組み合わせて用いられます。まず問診で患者の症状や痛みの性質、持続時間などを詳しく聞き取ります。その後、視診で歯の状態を確認し、打診(歯を叩いて痛みをチェック)、温度診(冷たいものや温かいもので刺激)を行います。
レントゲン撮影は歯髄炎の診断において重要な役割を果たします。歯の内部構造や虫歯の深さ、根尖部の状態などを確認することができます。また、歯髄電気診という検査では、歯に微弱な電流を流して歯髄の生活反応を確認することもあります。
触診や動揺度検査(歯の揺れ具合のチェック)も診断の一部として行われます。これらの検査結果を総合的に判断することで、可逆性歯髄炎か不可逆性歯髄炎か、あるいは歯髄壊死に至っているかを正確に診断し、適切な治療方針を決定します。
歯髄炎を放置した場合のリスク
歯髄炎は自然治癒が困難な疾患であり、放置すると症状がどんどん進行します。軽度の歯髄炎から始まり、適切な治療を受けなければ不可逆性歯髄炎へと移行し、最終的には歯髄が壊死してしまいます。
歯髄炎を放置して歯髄が死んでしまうと「歯髄壊死」の状態になり、さらに放置を続けると細菌が歯の内部(髄腔)から根の先端へと広がり、「根尖性歯周炎」を引き起こします。根尖性歯周炎は歯根の先端周囲の骨に炎症が及ぶ状態で、膿が溜まったり骨が破壊されたりします。
根管治療の途中で自己判断により治療を中断すると、根管内に細菌が残ってしまい、虫歯や歯周病を悪化させる原因となります。最悪の場合は抜歯が必要になることもあるため、治療が終了するまで通院を続けることが非常に重要です。また、歯髄壊死が完了すると歯髄は熱や冷刺激に応答しなくなりますが、打診痛を示すことがあり、感染が根尖孔まで拡大すると歯は圧と打診に対して強烈に過敏になります。
参考)歯の根の治療(根管治療)
歯髄炎の根管治療法と成功率
不可逆性歯髄炎の治療には根管治療が必要となります。根管治療とは、虫歯菌に侵された根管内にある神経や血管を除去し、薬剤を充填してから補綴物を装着することで歯根を残す治療方法です。治療は痛みが出ないよう浸潤麻酔下で行われ、内部の歯髄を取り除く「抜髄」という処置が基本となります。
参考)根管治療
根管治療の流れは、まず根管治療用の器具を使って細菌に感染してしまった根管内の神経などを除去します。次に薬剤を使用して洗浄・消毒を行い、症状に合わせた薬をつめます。根管治療後、痛みや炎症などの症状が落ち着いたら、根管内への細菌侵入を防ぐために専用の薬剤で根管を埋める「根管充填」という治療を行います。
根管治療の成功率は根管の形態や感染の広がり方によって異なり、全体の成功率は60〜80%程度と言われています。近年では、マイクロスコープを用いることで成功率を上げることができるようになっています。根管治療は精密な処置が求められるため通院回数が増えますが、大切な歯を残すために最後まで治療を継続することが重要です。
MSDマニュアル プロフェッショナル版 – 歯髄炎の詳細な医学的情報
可逆性と不可逆性歯髄炎の医学的な分類と治療方針について、専門的な視点から解説されています。
歯髄炎の予防法と日常ケア
歯髄炎を予防するためには、日々の適切な口腔ケアが最も重要です。歯磨きは虫歯や歯周病を予防するために非常に重要で、歯磨きをすることで口内の細菌を除去し、菌のエサとなる歯垢や歯石の発生を防ぎます。歯磨きでは歯ブラシと歯磨き粉を使用し、歯の表面だけでなく歯と歯茎の隙間もしっかりと磨くことが大切です。
定期的な歯科検診を受けることも予防において非常に重要です。歯科検診では歯の健康状態を把握し、早期発見・治療が可能になります。歯科医師が歯の状態を詳しく調べ、虫歯や歯周病、歯髄炎などを早期発見することができます。また、歯科医師による専門的なクリーニングで歯垢や歯石を除去することもできます。
食生活の改善も歯の健康に大きな影響を与えます。甘いものや酸っぱいもの、硬いものなどは歯を傷つける原因になるため、できるだけ歯に優しい食べ物を選び、歯の一部に圧力が加わりすぎないように食べ方にも注意する必要があります。スポーツなどで歯を傷つけないよう、リスクが高いスポーツを行う際には歯を保護するマウスガードなどを使用することで歯を守ることができます。
済生会 – 歯髄炎の基礎知識
歯髄炎の症状の段階別の詳細と、可逆性・不可逆性の違いについて分かりやすく説明されています。