反応性関節炎 診断基準
反応性関節炎 診断基準と大基準
反応性関節炎(Reactive arthritis:ReA)は、関節外の感染を契機に発症する「無菌性(非化膿性)」の炎症性関節炎で、脊椎関節炎(spondyloarthritis)スペクトラムに位置づけて理解すると臨床推論が整理しやすい疾患です。参考として、1999年の国際ワークショップ(4th International Workshop on Reactive Arthritis)では診断枠組みとして「大基準」「小基準」が提示され、実務上の“確診/疑い”の線引きに使えます。
大阪大学の解説ページに掲載されている1999年ワークショップの枠組みでは、大基準は大きく2本立てです。
- 大基準(1):以下3要素のうち2つを伴う関節炎(例:非対称性など)
- 大基準(2):関節炎発症の3日〜6週間前の腸炎(少なくとも1日の下痢)または尿道炎(排尿障害/排膿など)といった「先行感染」を示す病歴
この“大基準”は、ReAらしさ(関節炎パターン)と、ReAであるための必須条件に近い「感染との時間的関連」をセットで要求している点が本質です。
ここで重要なのは、「診断基準」という語の響きに引っ張られ、項目を機械的に満たすことだけを目的化しないことです。ReAは単一の決定打(病理や特異抗体)で診断する疾患ではなく、発症様式(急性、下肢優位、少関節、非対称)、関節外症状(付着部炎・眼症状・皮膚粘膜病変など)、そして先行感染の証拠を積み上げていく“二段階診断”が現実的です(まず脊椎関節炎としての特徴を捉え、次にトリガー感染との時間関係を確認する、という考え方)。この「二段階」の考え方は総説でも強調されています。
(診断枠組みの大基準・確診/疑いの扱いは大阪大学の表が実務向きです:http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu03-5.html)
反応性関節炎 診断基準と小基準
同じく1999年ワークショップ枠組みでは、小基準は「感染の引き金となる証拠」や「持続的な滑膜感染の証拠」を扱います。大阪大学の整理では、小基準として少なくとも以下が提示されています。
- 小基準(1):感染の引き金の証拠(例:尿道/子宮頸部ぬぐいでクラミジア陽性など)
- 小基準(2):持続的な滑膜感染の証拠(クラミジアが免疫組織学またはPCRで検出)
そして判定の考え方は、
- 確診:大基準1と2を満たし、小基準を少なくとも1つ満たす
- 疑い:大基準1と2を満たすが小基準を満たさない、または大基準を1つ満たし小基準を少なくとも1つ満たす
とされています。臨床では、病歴から先行感染が強く疑われても、便培養が陰性になっていたり、尿道炎症状が軽微で本人が覚えていないことがあるため、実際には「疑い」レンジのまま治療を開始し経過で確度を上げる場面が起こりえます(特に感染から関節炎までが数週間あくため、病原体同定が困難になりやすい)。
ここで“あまり知られていないが実務で効く”ポイントは、感染証明の取り方です。関節炎発症時に原因菌を直接同定できないことは珍しくなく、血清抗体価や核酸増幅検査(NAAT/PCR)の適応を、症状と曝露歴から合理的に決める必要があります。例えば、泌尿生殖器感染が疑わしいときは早朝尿や尿道/膣分泌物での検査(培養・PCR)を検討し、腸管感染が疑わしいときは便培養を検討する、という基本動線は専門学会サイトでも解説されています。
参考:リウマチ情報センターでも、特異的検査所見がなく、炎症反応の上昇や尿/便での病原体検査、関節液培養は陰性になりやすいことが述べられています。
反応性関節炎 診断基準と検査
ReAの検査は「確定のため」ではなく、「支持所見を集める」「除外診断を完遂する」「治療方針(感染治療が必要か/関節炎治療が中心か)を決める」ために設計します。臨床で最低限押さえたいのは、(1)炎症反応、(2)関節液、(3)先行感染の評価、(4)画像、(5)鑑別のための血清学、の5系統です。
- 炎症反応(CRP/赤沈)
ReAでは急性期にCRPや赤沈が上昇しうるものの、疾患特異性はありません。したがって「高いからReA」「低いから否定」ではなく、重症度・活動性の把握や、感染性関節炎(septic arthritis)との比較検討の材料として扱います。
- 関節液(穿刺)
急性単関節炎〜少関節炎では、関節穿刺は“やらない理由”を説明できない限り原則検討すべきです。ReAは無菌性なので培養陰性が典型ですが、臨床上もっと重要なのは「化膿性関節炎を除外した」という安全性の担保です。総説でも、鑑別としてseptic arthritisを挙げ、関節穿刺・培養などが除外に重要だと繰り返し述べられています。
- 鑑別としての位置づけ(septic arthritis、結晶誘発性関節炎など)や、診断が“感染との時間関係を示す二段階”であるという考え方は総説で明確です。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2563769/
- 先行感染の評価(尿・便・咽頭、必要に応じてSTI評価)
ReAの肝は「先行感染の時間関係」です。腸炎型では便培養、泌尿生殖器型では尿/分泌物の検査(培養・PCR)を検討しますが、関節炎発症時にはすでに陰性化することがあるため、病歴と合わせて“支持所見”として解釈します。STIが疑わしい場合は、性感染症としての評価(パートナー対応を含む)も医療安全上の要点です。
- 画像(X線、MRI/超音波)
末梢関節の単純X線は初期は非特異的になりがちですが、鑑別(骨折・腫瘍・石灰化など)には有用です。付着部炎や仙腸関節炎が疑われる場合、MRIや超音波が病変の可視化に役立つことがあり、特に仙腸関節の早期変化は単純X線で遅れて出る点が実務上の落とし穴です(急性期の腰殿部痛=坐骨神経痛と決めつけない)。総説でもMRIが早期診断に有用となりうることが述べられています。
When is arthritis reactive? - PMCReactive arthritis is an important cause of lower limb oligoarthritis, mainly in young adults. It is one of the spondylo... - 血清学(RF/抗CCP/ANA、HLA-B27など)
ReAは「血清反応陰性脊椎関節炎」に含めて扱われ、RFやANAは通常陰性であることが多い一方、陰性でも他疾患が否定できるわけではありません。HLA-B27は関連が強いものの、陽性=確定、陰性=否定ではありません。文献ではHLA-B27陽性が重症化や遷延化と関連する可能性が述べられる一方、診断必須ではないことも明確です。
反応性関節炎 診断基準と鑑別
ReAの「診断基準」を臨床で運用する際、最初にやるべきは“ReAの証明”ではなく“危険な鑑別の排除”です。特に急性の関節腫脹・発赤・強い疼痛・発熱を伴う場合、化膿性関節炎(septic arthritis)は整形外科/感染症領域の緊急疾患であり、穿刺・培養・血液培養の優先度が上がります。総説の鑑別表でもseptic arthritisが明確に挙がっており、関節穿刺(顕微鏡・グラム染色・培養)が鍵の検査として位置づけられています。
鑑別の実務ポイントを、医療従事者向けに“見落としやすい順”で整理します。
- 化膿性関節炎:関節穿刺のタイミングを遅らせない(抗菌薬先行で培養感度が落ちることもあるため、可能なら採取後に開始を検討)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2563769/
- 結晶誘発性関節炎(痛風/CPPD):関節液で結晶を確認し、ReAとして治療してしまう誤りを避ける(NSAIDs反応だけでは示唆にしかならない)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2563769/
- 淋菌感染(播種性淋菌感染):若年者の関節炎で性感染症評価が抜けると危険(皮疹・腱鞘炎などを伴う場合は特に要注意)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8091991/
- 炎症性腸疾患関連関節炎:下痢が“先行感染”ではなく慢性疾患の症状であることがあり、病歴の時間軸を丁寧に聴取する。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2563769/
- 乾癬性関節炎:皮疹が軽微・爪病変のみのケースで見逃されやすい(ReAの皮膚粘膜病変と紛らわしいこともある)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2563769/
ここで“意外に効く”病歴の質問が2つあります。
- 「最近1〜2か月で、下痢が1日以上続いたか」
- 「排尿時の違和感・分泌物・性行為後の症状、あるいはパートナーの症状があったか」
ワークショップ基準の時間窓(3日〜6週間)を意識して聴取すると、検査陰性でも臨床診断の確度が上がります。
反応性関節炎 診断基準と独自視点
検索上位の一般向け解説では「クラミジア/腸炎後」が中心になりがちですが、臨床現場では“ReAと似た臨床像”が、別の感染文脈で出現して診断を迷わせます。独自視点として強調したいのは、「反応性関節炎(狭義)と感染関連関節炎(infection-related arthritis)の線引き」を、病歴(感染部位・治療歴・曝露)であえて言語化することです。2021年のレビューでは、1999年ワークショップでReAの定義をHLA-B27関連の脊椎関節炎症状を伴うものに“制限”する提案があった一方、扁桃炎関連(poststreptococcal)やBCG膀胱内注入後など、病態が似て“スペクトラムとして拡張”して理解される領域があることが解説されています。
たとえばBCG膀胱内注入療法後の関節炎は、泌尿器症状→治療歴→1〜2週後の関節炎/結膜炎という流れで起こり得て、ReAとして認識されるべき重要な薬剤/治療関連有害事象です(ただし、まれに播種性BCG感染による感染性関節炎の可能性もゼロではないため、除外の設計が変わる点が臨床的に重要です)。大阪大学の解説にもBCG膀胱内注入後に生じることがある旨が明記され、さらにレビューでもiBCG-induced ReAがスペクトラムとして整理されています。
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu03-5.html https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8091991/
もう1つの“意外な実務ポイント”は、上気道炎/扁桃炎関連の関節炎です。レビューではPSRA(poststreptococcal reactive arthritis)などの感染関連関節炎が整理され、HLA-B27頻度や軸病変の頻度が古典的ReAと異なる可能性が示されています。つまり、HLA-B27陰性だからといって「感染後関節炎」文脈を捨ててしまうのは早計で、感染部位(腸管・泌尿生殖器・咽頭・膀胱内治療)と時間窓をセットで再評価すると診断の質が上がります。
最後に、医療従事者向けの運用として、カルテに残すべき“診断基準の言語化テンプレ”を提示します(文章として残すと監査・紹介状・チーム医療で強いです)。
- ✅ 関節炎のパターン:下肢優位、少関節、非対称、付着部炎の有無、軸症状の有無(仙腸関節痛など)
- ✅ 先行感染:下痢(3日〜6週)、尿道炎症状/分泌物(3日〜6週)、STI曝露、BCG膀胱内注入歴、扁桃炎反復
- ✅ 検査:CRP/赤沈、RF/抗CCP/ANA、尿/便/分泌物PCR・培養、関節液(細胞数・結晶・培養)
- ✅ 除外:septic arthritis、結晶、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患関連、播種性感染(治療歴に応じて)
この書き方は、ワークショップ基準の「大基準=臨床像+先行感染」「小基準=感染証拠」を臨床記録に落とし込んだ形で、診断の透明性が上がります。
権威性のある日本語の参考(診断・検査の考え方、特異所見が乏しい点、尿/便検査や関節液培養の位置づけの参考)。
権威性のある日本語の参考(1999年ワークショップの診断枠組み(大基準/小基準、確診/疑い)を表で確認できる)。
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu03-5.html

脊椎関節炎診療の手引き2020