廃用症候群の症状と予防リハビリ

廃用症候群の症状と特徴

廃用症候群で起こる主な症状
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運動器の症状

筋萎縮、関節拘縮、骨萎縮など体を動かす機能が低下

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循環器の症状

起立性低血圧、静脈血栓、心機能低下が発生

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精神神経系の症状

うつ状態、せん妄、見当識障害などの精神症状


廃用症候群とは、病気やケガなどで長期間安静状態が続くことにより、身体の様々な機能が低下する状態を指します。「生活不活発病」とも呼ばれ、過度に体を動かさないこと(不動、低運動、臥床など)により生じる二次的障害と言えます。

参考)廃用症候群


この症候群は、筋骨格系、循環・呼吸器系、内分泌・代謝系、精神神経系など各臓器の症状として多岐にわたり現れ、日常生活自立度を著しく低下させます。身体の活動には様々な臓器の機能が関わり合っており、不活動状態が長期化すると諸臓器の機能低下の悪循環が生じ、廃用症候群が廃用症候群を増悪させ、寝たきりを起こす原因となります。

参考)(3)廃用症候群


特に高齢者では、わずか1週間の寝たきり状態で10〜15%程度の筋力低下が見られ、安静臥床のままでは約1〜3%/日、10〜15%/週の割合で筋力低下が起こり、3〜5週間で約50%に低下すると報告されています。健康な人であっても、使わないと筋肉の萎縮や関節の拘縮は意外と速く進行し、安静による筋力低下は1週目で20%、2週目で40%、3週目で60%にも及びます。

参考)https://www.irs.jp/media/knowledge/%E5%BB%83%E7%94%A8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%A8%E3%81%AF.html

廃用症候群の筋萎縮と筋力低下

筋萎縮は廃用症候群の代表的な症状で、不動により筋蛋白の合成低下と分解亢進により生じます。特に大腿四頭筋や殿筋群、腓腹筋など重力に抵抗して働く筋肉(抗重力筋)に強く起こりやすいとされています。​
最大筋力の20%未満の活動では筋萎縮や筋力低下が起こりやすく、ベッドで長期に安静にした場合には、疾患の経過の裏で生理的な変化として筋肉がやせおとろえる症状が起こり得ます。廃用症候群の診察では筋力測定が重要で、MMT(徒手筋力検査)を用いて0から5段階で筋力を数値化し、体のどの部分の筋力が低下しているのかを調べます。

参考)廃用症候群 – 脳・神経疾患


高齢者の廃用症候群患者では、下肢の筋力が著しく低下し、特に体幹や殿部、大腿部の筋力低下が顕著に見られます。また、統計的にも廃用症候群の高齢者の約9割が低栄養を合併しているというデータがあり、栄養不足が加わることで筋肉や骨などの組織破壊がより進行していきます。

参考)廃用症候群|廃用症候群の原因と予防|対処と治療法|リハビリテ…

廃用症候群の関節拘縮と骨萎縮

関節拘縮とは、関節の動きが悪くなる状態を指し、関節可動域の角運動が制限された状態です。長期間体を動かさないことで、関節内の組織が硬くなり、関節の動きが著しく制限されます。

参考)【高齢者向け】廃用症候群とは?症状や具体的なリハビリまで解説…


廃用症候群の診察では、関節の動く範囲を測る検査が行われ、医師が関節の曲げ伸ばしを行いながら角度計を使って測定します。特に股関節と膝関節に軽度の拘縮が見られ、十分に伸ばせない状態になることが多く報告されています。

参考)[医師解説]廃用症候群の典型症例:「あっという間に歩けなくな…


骨萎縮は、骨がもろくなる症状で、不動により骨吸収亢進が起こり骨萎縮が進行します。骨にかかる負荷が減ることで代謝が悪くなり、骨が脆くなります。低栄養状態やステロイド治療などの骨量減少を促進する要因が合併している例では骨萎縮は起こりやすいとされています。廃用性骨萎縮(骨粗鬆症)は、安静状態が長期に渡って続くことによって起こる代表的な症状の一つです。

参考)廃用症候群 – Wikipedia

廃用症候群の起立性低血圧と循環器症状

起立性低血圧は、急に立ち上がるとふらつく症状で、廃用症候群の重要な循環器症状の一つです。長期間臥床が続くと、血圧や循環血流量の調節機能が低下し、起立性低血圧が生じます。

参考)寝たきりと肺炎の関係について href=”https://www.ikyo.jp/commu/question/1219″ target=”_blank”>https://www.ikyo.jp/commu/question/1219amp;#8211; 医教コミュニテ…


循環血液量減少に加えて、自律神経系の血圧調整機能低下によって心拍数の増加や血管収縮で代償できず、起立性低血圧が引き起こされます。寝た位置から起こすと血圧が下がり、脳貧血症状を起こし、歩行不安定や転倒の原因となります。

参考)http://www.hospital-maeda.jp/osiraseimage/about_1612.pdf


心機能の低下も廃用症候群で見られる循環器症状で、心拍出量が低下します。また、静脈血栓症や血栓塞栓症など、血管に血のかたまりがつまる症状も発生し、肺塞栓症のリスクも高まります。リハビリの介入では、まずベッドサイドでの端坐位から始め、体を起こし、起立性低血圧などの症状が出現しないかを確認しながら進めます。

参考)https://midori-hp.or.jp/rehabilitation-blog/disuse_syndrome

廃用症候群の誤嚥性肺炎と呼吸器症状

誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物が誤って肺に入り起きる肺炎で、廃用症候群の重篤な合併症の一つです。長期間の臥床により嚥下機能が低下し、誤嚥のリスクが著しく高まります。

参考)廃用症候群とは?原因や症状・日常的に取り入れたい予防方法を解…


換気障害や沈下性肺炎も廃用症候群で見られる呼吸器症状です。酸素を取り込む能力が低下し、呼吸機能が全体的に衰えます。廃用症候群の診察では、呼吸状態の評価が重要で、呼吸数、呼吸の深さ、酸素飽和度などを確認します。​
寝たきり状態では、体を動かさないことで肺の換気量が減少し、気道の分泌物が排出されにくくなります。これにより細菌が繁殖しやすい環境が作られ、肺炎を発症しやすくなります。特に高齢者では、免疫機能の低下も相まって、誤嚥性肺炎が生命に関わる重篤な状態に至ることもあります。​

廃用症候群の精神症状とうつ状態

廃用症候群では、運動機能の低下だけでなく、精神的な機能低下も顕著に現れます。うつ状態は廃用症候群の代表的な精神症状で、精神的に落ち込み、前向きに取り組むやる気が減退します。​
せん妄も廃用症候群で見られる精神症状で、軽度の意識混濁のうえに目には見えないものが見えたり、混乱した言葉づかいや行動を行います。見当識障害では、今はいつなのか、場所がどこなのかわからなくなり、認知機能の低下が進行します。​
気分的な落ち込みが顕著に現れてうつ状態になったり、前向きに取り組むやる気が減退したりと、精神的な機能低下も見られることから、廃用症候群は活動の低下によって起こる障害ですが、筋力低下など運動面での障害だけではなく、内臓面の症状やうつ病・せん妄といった精神症状も出現します。認知機能評価では、質問への反応が鈍く、日付や場所の認識がやや不確かになることが確認されています。

参考)廃用症候群とは?原因や症状、予防方法を詳しく解説 | ヤマシ…

廃用症候群の高齢者特有のリスク

高齢者は廃用症候群の進行が速く、その現象が特に顕著です。1週間寝たままの状態を続けると、10〜15%程度の筋力低下が見られることもあります。高齢になると体に障害が生じやすく、買い物や散歩など若い時よりもしなくなり、筋力が低下することが廃用症候群につながります。​
高齢者では短期の安静でも容易に褥瘡(床ずれ)が生じるなど、加齢とともに症状の進行は早くなります。褥瘡は床ずれといわれる皮膚のきずで、寝ていることにより神経が圧迫され、圧迫性末梢神経障害として麻痺が起きることもあります。​
高齢者の生活環境も廃用症候群のリスク要因となります。過度な介護が廃用症候群を引き起こす可能性があるため、1日の活動状況を見直す必要があります。また、高齢者の廃用症候群は病気やケガで病院に入院したことがきっかけで生ずると言われており、入院中の過度の安静が症状を悪化させる要因となります。

参考)https://www.cbr-funabashi.com/know/images/pdf/disuse_syndrome.pdf


さらに、栄養不足が加わることで、筋肉や骨などの組織破壊がより進行していきます。過度の安静状態ではなくても、衰えやすく身体機能が低下しやすいのが高齢者の特徴で、自律神経障害として便秘、尿失禁、大便失禁、低体温症なども発生し、尿路結石尿路感染症のリスクも高まります。​

廃用症候群の原因と診断方法

廃用症候群の主な原因は、病気や怪我、手術などによる長期にわたる安静や活動量の低下です。過度の安静状態が原因の一つで、病気やケガによる過度の安静状態、または寝たきり状態で筋肉を動かさない期間が長引くことで起こります。

参考)廃用症候群の原因は何がありますか? |廃用症候群


また、自力で動ける状態だとしても、車椅子などの体の一部だけしか使わなくてもいいような生活に慣れてしまい、全身を動かさなくなる状態も該当します。癌治療による活動性の低下が、筋力や体力の低下を引き起こし、さらに活動性が低下するなど、悪循環による廃用症候群を招きやすいことも知られています。​
廃用症候群の診断には特別な検査は行わず、症状や身体活動の状況、既往歴などから総合的に診断を下します。診察では、筋力測定、関節可動域検査、神経学的診察、血液検査などの各種検査を組み合わせながら行います。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%BB%83%E7%94%A8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4


廃用症候群には決まった診断基準はありませんが、急性疾患などが原因で安静になる必要があり廃用症候群となった患者さんでは、一定の診断アプローチが用いられます。まず、活動性が著しく低下した原因として、新たな疾患の可能性を考慮し、脳卒中、骨折、心不全の悪化、電解質異常などを鑑別診断として挙げ、診察と血液検査、画像検査を行います。

参考)廃用症候群とは?作業療法士が症状や原因をわかりやすく紹介


身体機能評価では、関節可動域測定で制限の範囲、痛みの有無、左右差を確認し、徒手筋力テスト(MMT)で左右差の確認、筋萎縮の程度、疲労のしやすさを評価します。また、ADL(日常生活動作)評価で食事、更衣、トイレ動作、移動など、すべての項目での介助の必要性を確認し、栄養状態の評価では血清アルブミン値の低下を確認して低栄養状態を把握します。​

廃用症候群の予防とリハビリテーション

廃用症候群の予防には、できるだけ早い段階からベッドを離れる「離床」が重要です。廃用症候群を予防するためには、寝ているよりも座ること、座ることよりも立ったり歩いたりすること、また他者と話したり関わりを持つことが重要です。

参考)急性期リハビリテーションの大切さ〜廃用症候群を予防するために…


動くことは大切ですが、体力の限界まで運動する必要はなく、少し疲れる程度で大丈夫です。急性期病院では医師による指示のもと、専門職が体の状態を確認しながらリハビリによるサポートを行っており、リハビリ以外の時間でも、医師の指示を守りながら自分でできることは自分ですること、起き上がっている時間や体を動かす時間を少しでも増やすことで、廃用症候群の予防につながります。​
一般病院での廃用症候群に対するリハビリ指示は、多くが急性期の場合で、医師に安静度や禁忌事項の確認をした上でプログラムを立案する必要があります。具体的なプログラムとしては、良肢位を保ち、褥瘡予防するためのポジショニングや関節拘縮を防ぐための関節可動域訓練があり、早期離床を促すことが廃用症候群の予防には効果的です。

参考)廃用症候群のリハビリって?プログラム内容を施設種類別に解説


廃用症候群の予防には、リハビリプログラムとともに、バランスのとれた栄養摂取が欠かせません。低栄養状態は廃用症候群の進行を加速させるため、適切な栄養管理が重要です。廃用症候群が進行すると、完全に元の状態に戻すことは困難であるため、廃用症候群を”予防する”、または廃用症候群の進行を”遅らせる”観点からプログラムを考える必要があります。​
リハビリの介入は、まずベッドサイドでの端坐位から始まり、体を起こし、起立性低血圧などの症状が出現しないかを確認し、立位保持、トイレ動作、歩行へと段階的に進めていきます。ベッドサイドレベルから端坐位での訓練を取り入れるなど、積極的に早期離床を促していくことが推奨されています。​