排尿障害薬一覧と分類
排尿障害に使用されるα1遮断薬の種類と特徴
α1遮断薬は前立腺肥大症に伴う排尿障害の第一選択薬として広く使用されています。これらの薬剤は前立腺のα1受容体を遮断し、前立腺平滑筋を弛緩させることで尿道を拡張し、排尿困難を改善します。
主要なα1遮断薬一覧:
- ハルナール(タムスロシン):α1A受容体選択的阻害薬として高い選択性を持つ
- ユリーフ(シロドシン):α1A受容体に対する選択性が最も高く、射精障害の副作用が特徴的
- フリバス(ナフトピジル):α1D受容体選択的阻害薬で、蓄尿症状にも効果的
- エブランチル(ウラピジル):高血圧と神経因性膀胱にも適応を持つ
- バソメット(テラゾシン):降圧剤としても使用される非選択的α1遮断薬
これらの薬剤は受容体選択性の違いにより、副作用プロファイルが異なります。α1A受容体選択的な薬剤では射精障害が起こりやすく、α1D受容体選択的な薬剤では蓄尿症状改善効果が期待できます。
臨床現場では患者の症状パターンや年齢、性機能への影響を考慮して薬剤選択を行うことが重要です。また、これらの薬剤は効果発現が比較的早く、投与開始から数日から数週間で症状改善が期待できる特徴があります。
排尿障害治療における5α還元酵素阻害薬の効果
5α還元酵素阻害薬は前立腺肥大症の根本的な治療を目指す薬剤です。この薬剤は5α還元酵素の働きを阻害し、テストステロンからより強力なジヒドロテストステロン(DHT)への変換を抑制することで、前立腺の縮小を図ります。
代表的な5α還元酵素阻害薬:
- アボルブ(デュタステリド):タイプ1および2の5α還元酵素を阻害
- デポスタット(ゲストノロン):筋注製剤で、テストステロンの前立腺細胞への取り込みを阻害
アボルブは半年間の投与で前立腺サイズを約30%減少させる効果があります。ただし、効果は遅効性で、症状改善には数ヶ月を要します。また、血清PSA値を約50%低下させるため、前立腺がんの鑑別診断において注意が必要です。
重要な注意点:
- 女性が触れることも禁忌とされている
- 性機能障害(勃起不全、性欲減退)の副作用が高頻度で発生
- 投薬中止により前立腺サイズは元に戻る可能性がある
5α還元酵素にはタイプ1とタイプ2があり、それぞれ異なる組織分布を示します。タイプ1は主に肝臓や皮膚に、タイプ2は前立腺や毛包に多く分布しています。デュタステリドは両タイプを阻害するため、より包括的な効果が期待できます。
排尿障害改善のためのPDE5阻害薬ザルティアの特性
PDE5阻害薬は比較的新しい作用機序を持つ排尿障害治療薬です。代表的な薬剤であるザルティア(タダラフィル)は、ホスホジエステラーゼ5阻害作用により、血管平滑筋弛緩による血流改善作用、尿道・前立腺・膀胱頸部の平滑筋弛緩作用を示します。
ザルティアの製品概要:
- 成分・含量:タダラフィルとして2.5mgおよび5mg
- 用法・用量:通常、成人には1日1回5mgを経口投与
- 薬価:2.5mg錠118.30円、5mg錠230.60円(2014年時点)
- 効能・効果:前立腺肥大症に伴う排尿障害
作用機序の詳細:
前立腺及び膀胱平滑筋、下部尿路血管の平滑筋内でPDE5を阻害し、一酸化窒素(NO)によるcGMP濃度上昇作用を増強します。これにより平滑筋弛緩作用を示し、血流及び酸素供給が増加して前立腺肥大における下部尿路症状を改善させます。
臨床使用における注意点:
- 第一選択薬としても使用可能だが、基本作用が血管拡張作用のため、尿道の圧迫がある程度軽減されてから使用すると効果的
- 頭痛や消化不良などの消化器症状が副作用として現れることがある
- 他のED治療薬との併用は避ける必要がある
排尿障害治療で禁忌となる薬剤の注意点
排尿障害治療において、適切でない薬剤の使用は症状を悪化させる可能性があります。特に前立腺肥大症患者では、抗コリン薬の使用が禁忌とされています。
前立腺肥大症で禁忌または注意が必要な薬剤:
抗コリン薬(完全禁忌)
- ポラキス(オキシブチニン塩酸塩)
- バップフォー(プロピベリン塩酸塩)
- ベシケア(コハク酸ソリフェナシン)
- デトルシトール(酒石酸トルテロジン)
- ウリトス(イミダフェナシン)
- トビエース(フェソテロジンフマル酸)
抗コリン薬は過活動膀胱の治療に使用されますが、前立腺肥大症患者、特に高齢男性では尿閉のリスクが高まるため禁忌とされています。
代替選択肢:
前立腺肥大症を合併した過活動膀胱の場合、β3受容体作動薬が推奨されます。
- ベタニス(ミラベグロン):膀胱を弛緩させ容量を増やして排尿回数を減らす
- ベオーバ(ビベグロン):新しいβ3受容体作動薬として期待される
その他の注意薬剤:
これらの薬剤は排尿筋収縮を抑制し、残尿量を増加させる可能性があるため、前立腺肥大症患者では慎重な使用が求められます。
排尿障害薬物療法の最新動向と併用療法
現代の排尿障害治療では、単剤治療から併用療法への移行が注目されています。特に前立腺体積が大きい患者では、異なる作用機序を持つ薬剤の組み合わせにより、より効果的な治療が可能となります。
推奨される併用療法:
α1遮断薬 + 5α還元酵素阻害薬
この併用療法は単独療法より有効性が認められています。ただし、前立腺体積60mL以上での明確な有効性は確立されていません。
併用療法の実践的アプローチ:
- 半年から1年間の併用療法後、5α還元酵素阻害薬単独への変更は症状悪化をきたさない可能性がある
- α1遮断薬単独への変更は前立腺体積増大の危険性がある
- 患者の症状改善度と副作用を総合的に評価して治療方針を決定
新しい治療選択肢:
植物エキス製剤の活用
- セルニルトン(セルニチンポーレンエキス):63mg錠で前立腺組織の代謝改善効果
- エビプロスタット(オオウメガソウエキス他):複数の植物エキスを配合した製剤
アミノ酸製剤の補助的役割
- パラプロスト(Lグルタミン酸・Lアラニン・グリシン配合):抗浮腫作用と前立腺組織代謝改善効果
個別化医療への展開
患者の年齢、前立腺サイズ、症状の重症度、合併症の有無を総合的に評価し、最適な薬物療法を選択することが重要です。また、定期的な効果判定と副作用モニタリングにより、治療方針の調整を行う必要があります。
将来の展望
排尿障害治療においては、新しい作用機序を持つ薬剤の開発が進んでいます。特に、炎症抑制作用や神経保護作用を持つ薬剤への期待が高まっており、より包括的な治療アプローチが可能になると予想されます。
日本新薬の前立腺肥大症治療薬に関する詳細情報
https://www.nippon-shinyaku.co.jp/news/news.php?id=283
前立腺肥大症の薬物療法に関する包括的な解説
https://bph-jp.com/column/useful/pharmacotherapy/
管理薬剤師による前立腺肥大症治療薬の詳細な分類と解説