月経困難症治療薬の種類と選択基準
NSAIDsを痛む前に飲まないと効果半減します
月経困難症治療薬の基本分類とNSAIDsの位置づけ
月経困難症の治療薬は大きく分けて4つのカテゴリーに分類されます。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、黄体ホルモン製剤、そして漢方薬です。この中でNSAIDsは機能性月経困難症の第一選択薬として位置づけられており、約80%の患者に有効とされています。
機能性月経困難症では月経時に子宮内膜が剥離する際にプロスタグランジンが放出され、これが子宮平滑筋の過剰な収縮を引き起こします。
つまり痛みの直接的な原因物質です。
NSAIDsはプロスタグランジン合成酵素を阻害することで、この痛み物質の産生を抑制する仕組みとなっています。
重要なのは投与のタイミングです。
痛みが出てから服用するのでは遅いのです。
プロスタグランジンが既に大量に産生された後では、NSAIDsの効果発現までに時間がかかります。したがって月経痛が強い患者には、月経開始とともに予防的に内服する指導が重要となります。「痛みを感じたらすぐに」ではなく「痛くなる前に」が原則ですね。
代表的なNSAIDsにはロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどがあります。ロキソプロフェンは速効性と鎮痛効果の強さから婦人科で処方されることが多く、イブプロフェンは子宮への移行性が高いため生理痛に特に効果的とされています。ただし胃腸障害のリスクがあるため、胃粘膜保護薬との併用や食後服用の指導が必要です。
NSAIDsで効果不十分な場合や、避妊も希望する場合にはLEP製剤が第二選択となります。また器質性月経困難症(子宮内膜症や子宮筋腫など基礎疾患がある場合)では、NSAIDsとLEP製剤を組み合わせた治療が推奨されます。鎮痛薬だけで対処するのではなく、病態に応じた段階的なアプローチが求められるということですね。
月経困難症治療薬としてのLEP製剤8種類の特徴
月経困難症と診断された場合に保険適用となるLEP製剤は、2026年2月時点で8種類が処方可能です。ルナベルLD、ルナベルULD、フリウェルLD、フリウェルULD、ヤーズ、ヤーズフレックス、ドロエチ、ジェミーナがそれに該当します。フリウェルはルナベルのジェネリック医薬品、ドロエチはヤーズのジェネリック医薬品という位置づけです。
各LEP製剤は含まれる黄体ホルモンの種類によって世代分類されています。第一世代はノルエチステロン(NET)を含み、ルナベルとフリウェルが該当します。これらは月経痛の緩和効果に優れており、子宮内膜症に伴う疼痛改善にも使用されます。第二世代はレボノルゲストレル(LNG)を含み、ジェミーナが該当します。不正出血を減少させる作用があるのが特徴ですね。
第四世代はドロスピレノン(DRSP)を含み、ヤーズ、ヤーズフレックス、ドロエチが該当します。
ドロスピレノンは抗ミネラルコルチコイド作用を持つため、むくみにくくPMS症状の改善にも効果的です。ヤーズは24日間実薬を服用し4日間休薬する28日周期型、ヤーズフレックスは最長120日間連続で実薬を服用可能な連続投与型となっています。連続投与により月経回数そのものを減らせるため、月経困難症が重症の患者に適しています。
エストロゲン含有量にも違いがあります。LD(Low Dose)はエチニルエストラジオール35μg、ULD(Ultra Low Dose)は20μg以下を含有します。フリウェルULD、ルナベルULD、ヤーズ系はULDに分類され、エストロゲン由来の副作用(吐き気、頭痛など)が少なく、血栓症リスクも低減されています。ただし不正出血の頻度はLDよりやや高い傾向があります。
処方時には患者の症状、年齢、喫煙習慣、血栓症リスク因子を総合的に評価する必要があります。月経痛のみを緩和したいのか、PMSも改善したいのか、月経回数を減らしたいのか、患者のニーズに応じた選択が重要です。初回処方時は原則1ヶ月分とし、副作用の確認と定期的な血圧測定、血液検査を行いながら継続判断を行います。
月経困難症で処方される薬剤の処方ランキング(QLifePro医薬情報)
月経困難症治療における黄体ホルモン製剤の役割
黄体ホルモン単剤製剤は、LEP製剤が禁忌または使用困難な患者の重要な選択肢となります。代表的なのはジエノゲスト(ディナゲスト)で、1mg製剤は子宮内膜症治療に、0.5mg製剤は月経困難症治療に2020年5月から保険適用となっています。エストロゲンを含まないため、血栓症リスクが極めて低いのが最大の利点です。
ジエノゲストは1日2回服用で、月経周期2〜5日目より開始し休薬期間なく継続します。服用開始後2〜3ヶ月で月経が来なくなる患者が多く、子宮内膜を薄く保つことで月経痛を根本から抑制します。
つまり生理自体が起こらなくなるわけです。
鎮痛効果は高く、痛みの完全消失を達成できるケースも少なくありません。
最も頻度の高い副作用は不正出血です。
服用開始後1ヶ月程度は月経のような出血が続くことがあり、7〜8割の患者に少量の性器出血が認められます。ただし服用継続により徐々に軽減していくため、患者への事前説明と継続服用の重要性を伝えることが必要です。特に子宮腺筋症では大量出血となるリスクがあるため、出血量の変化には注意深いモニタリングが求められます。
その他の副作用として頭痛、吐き気、にきび、気分の落ち込みなどがありますが、LEP製剤に比べてエストロゲン由来の副作用(乳房緊満感、体重増加など)は少ない傾向にあります。更年期様症状もGnRHアゴニストに比べると軽度です。40歳以上の患者、喫煙者、肥満、血栓症リスクが高い患者にとって、ジエノゲストは安全性の高い選択肢となりますね。
もう一つの選択肢が子宮内黄体ホルモン放出システム(ミレーナ)です。子宮内に装着する器具で、局所的にレボノルゲストレルを放出し続けます。月経困難症や過多月経と診断された場合は保険適用で約1万円程度(3割負担時)、避妊目的の場合は自費で4〜5万円程度の費用がかかります。5年間有効で、一度装着すれば毎日の服薬が不要という利便性があります。
ミレーナによる局所的なホルモン作用により、子宮内膜の増殖が抑制され月経量が大幅に減少します。約20%の患者では月経自体が停止し、月経困難症状が劇的に改善します。全身的なホルモン影響が少ないため、LEP製剤の副作用が強く出る患者や、長期的な治療を希望する患者に適しています。ただし挿入時の痛みや、装着後数ヶ月は不正出血が続くことがあるため、患者への十分な説明が必要です。
月経困難症に用いる漢方薬の種類と体質別の選択
漢方薬は西洋薬との併用が可能で、NSAIDsやLEP製剤で効果不十分な場合や、妊娠を希望している患者の補助療法として有用です。月経困難症に保険適応がある代表的な漢方薬には、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、温経湯、温清飲、五積散、芍薬甘草湯などがあります。
体質(証)に応じた選択が重要となります。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は体力があまりなく、疲れやすい、貧血傾向がある「虚証」タイプの女性に適しています。冷え性で顔色が悪く、むくみやすい患者に処方されることが多いですね。生理不順や月経困難症だけでなく、不妊症にも効果があるとされているため、妊活中の患者の第一選択薬となります。
1日2〜3回、食前または食間に服用します。
加味逍遙散(カミショウヨウサン)は比較的体力が中等度で、イライラや不安感、不眠などの精神症状を伴う患者に適しています。
いわゆるPMS症状が強い患者ですね。
のぼせや肩こり、疲労感を訴えるケースでも効果が期待できます。ストレス性の月経不順や更年期症状にも用いられ、精神的な要因が大きい月経困難症に有効です。
桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は比較的体力があり、便秘気味で下半身が冷える「実証」タイプの患者に適しています。
当帰芍薬散とは対照的な体質の方向けということです。のぼせや赤ら顔、肩こりなどの症状があり、血行不良(瘀血)が原因とされる月経困難症に効果的です。子宮筋腫や子宮内膜症による器質性月経困難症にも用いられます。
芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)は即効性があり、月経痛の頓服として使用できる特徴的な漢方薬です。筋肉の痙攣を緩和する作用があり、激しい下腹部痛に対して服用後15〜30分で効果が現れることがあります。ただし長期連用により偽性アルドステロン症(低カリウム血症、浮腫、高血圧など)のリスクがあるため、頓用または短期間の使用に限定すべきです。
漢方薬の効果判定には通常2週間から1ヶ月程度の服用期間が必要です。西洋薬のような即効性は期待できませんが、体質改善による根本的なアプローチが可能です。副作用は比較的少ないものの、胃腸障害、発疹、肝機能障害などが報告されているため、定期的な血液検査によるモニタリングが推奨されます。患者の体質や症状に合わせて複数の漢方薬を組み合わせることもありますね。
月経困難症治療における最新薬剤の動向と選択肢の拡大
2024年9月に月経困難症治療薬として承認されたアリッサ配合錠は、国内初のエステトロール含有LEP製剤として注目されています。エステトロール(E4)は胎児の肝臓から分泌される天然型エストロゲンで、既存のLEP製剤に含まれるエチニルエストラジオール(EE2)とは異なる特性を持ちます。静脈血栓塞栓症のリスクが低く、乳房組織への影響も少ない可能性が示唆されています。
アリッサ配合錠はエステトロール15mgとドロスピレノン3mgを含有し、1日1錠を毎日決まった時間に服用します。24錠の実薬と4錠のプラセボを含む28錠入りシートで、休薬期間に月経様出血が起こる仕組みです。2025年12月からは投薬期間制限が解除され、長期処方が可能になりました。既存のピルで血栓症リスクが懸念される患者や、より安全性の高い治療を希望する患者の新しい選択肢となりますね。
2025年6月には国内初のミニピル「スリンダ錠28」が発売されました。
ミニピルとはエストロゲンを含まず黄体ホルモン単剤のピルで、スリンダはドロスピレノン4mgを有効成分とします。エストロゲン由来の副作用や血栓症リスクがないため、40歳以上の患者、喫煙者、授乳中の女性にも処方可能です。ただし現時点では避妊目的のみの承認で、月経困難症には保険適用となっていません。
スリンダは28錠すべてが実薬で、毎日同じ時間に服用を続けます。休薬期間がないため、服用継続により月経が起こらなくなるか、出血量が非常に少なくなります。その結果として月経困難症やPMS症状が緩和される可能性があります。副作用として不正出血の頻度が高いため、患者への事前説明と継続服用の重要性を伝えることが必要です。
これらの新規薬剤の登場により、月経困難症治療の選択肢は大きく広がりました。患者の年齢、基礎疾患、血栓症リスク因子、妊娠希望の有無、副作用の許容度などを総合的に評価し、個別化した治療選択が可能となっています。医療従事者としては最新の薬剤情報を把握し、患者に適切な選択肢を提示できることが求められます。
また月経困難症治療薬の処方ランキングを見ると、ヤーズフレックス、フリウェルULD、ジエノゲストなどが上位を占めています。これは副作用の少なさと効果のバランス、経済的負担(ジェネリックの存在)などが評価されているためと考えられます。処方実績の多い薬剤については、より多くの臨床経験と副作用情報が蓄積されているため、安心して処方できる利点がありますね。