G-CSF製剤一覧と持続型製剤の特徴と投与方法

G-CSF製剤の種類と特徴

G-CSF製剤の基本情報
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G-CSFとは

顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)は好中球前駆細胞の分化・増殖を促進し、成熟好中球の機能を亢進させる造血因子です

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主な適応症

がん化学療法による好中球減少症の治療・予防、造血幹細胞の末梢血中への動員など

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使用上の注意点

抗がん剤投与と同日の投与は避け、適切な間隔を空ける必要があります

G-CSF(Granulocyte-Colony Stimulating Factor)製剤は、がん化学療法に伴う好中球減少症や発熱性好中球減少症(FN)の治療・予防に広く使用されている重要な薬剤です。好中球前駆細胞の細胞表面に発現しているG-CSF受容体に特異的に結合し、好中球前駆細胞から成熟好中球への分化・増殖を促進させるとともに、成熟好中球の機能を亢進させる作用を持っています。

現在、国内で使用されているG-CSF製剤は大きく「従来型G-CSF製剤」と「持続型G-CSF製剤」の2種類に分類されます。それぞれの特徴や使用方法について詳しく解説していきます。

G-CSF製剤の作用機序と薬理作用

G-CSF製剤の主な薬理作用は以下の4つに分類されます。

  1. 好中球前駆細胞の細胞周期への導入、分化、増殖の促進:骨髄中の好中球前駆細胞に作用し、好中球への分化を促進します。
  2. 好中球機能の亢進:活性酸素の産生能の向上、貪食殺菌能の亢進、遊走能の亢進など、好中球の機能を高めます。
  3. 成熟好中球の末梢血への動員:骨髄から末梢血中への好中球の放出を促進します。
  4. 造血幹細胞の末梢血への動員:造血幹細胞移植のドナーや自家移植のための末梢血幹細胞採取に利用されます。

これらの作用により、がん化学療法後の好中球減少期間を短縮し、感染症のリスクを低減させることができます。また、好中球減少症による抗がん剤の減量や投与延期を回避し、治療強度を維持することにも貢献しています。

従来型G-CSF製剤の種類と適応症一覧

従来型G-CSF製剤には、以下の3種類があります。

一般名 商品名 剤形 規格
フィルグラスチム グランシリンジ(先行品)フィルグラスチムBS注シリンジ「F」(バイオシミラー) 注射剤 75μg、150μg、300μg
レノグラスチム ノイトロジン注 注射剤 50μg、100μg、250μg
ナルトグラスチム 注射剤

これらの従来型G-CSF製剤の主な適応症は以下の通りです。

  • がん化学療法による好中球減少症
    • 急性白血病
    • 悪性リンパ腫、小細胞肺癌、胚細胞腫瘍(睾丸腫瘍、卵巣腫瘍など)
    • 神経芽細胞腫、小児がん
    • その他のがん腫
  • 造血幹細胞移植関連
    • 造血幹細胞の末梢血中への動員
    • 自家末梢血幹細胞移植を目的とした動員
    • 末梢血幹細胞移植ドナーに対する動員
    • 造血幹細胞移植時の好中球数の増加促進
  • その他
    • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の治療に支障を来す好中球減少症
    • 骨髄異形成症候群に伴う好中球減少症

    従来型G-CSF製剤は、半減期が短いため、好中球数が回復するまで連日投与が必要となります。通常、がん化学療法後の好中球減少に対しては、好中球数が最低値を示した後に1,000~2,000/μLに回復するまで連日投与します。

    持続型G-CSF製剤の特徴と投与方法

    持続型G-CSF製剤であるペグフィルグラスチム(商品名:ジーラスタ皮下注3.6mg)は、フィルグラスチムのN末端に20kDのポリエチレングリコール(PEG)を結合させることで、血中半減期を延長した製剤です。2014年9月26日に国内で承認され、同年11月28日に発売されました。

    持続型G-CSF製剤の特徴:

    1. 長い半減期:ペグ化により体内での分解が抑制され、血中半減期が大幅に延長されています。
    2. 投与回数の減少:がん化学療法1サイクルあたり1回の投与で効果を発揮するため、患者の投与負担が軽減されます。
    3. 外来化学療法への適合性:連日投与が不要なため、外来化学療法後の通院負担が軽減されます。
    4. 予防投与の有効性:好中球減少症の発症前に投与することで、FNのリスクを低減し、がん化学療法の投与量やスケジュール遵守が可能になります。

    投与方法:

    • 通常、成人にはがん化学療法剤投与終了後の翌日以降、ペグフィルグラスチム(遺伝子組換え)として、3.6mgを化学療法1サイクルあたり1回皮下投与します。
    • がん化学療法剤の投与前24時間以内および投与終了後24時間以内の投与は避ける必要があります。

    持続型G-CSF製剤の登場により、G-CSF製剤の使用方法は大きく変わりました。特に、FN発症リスクの高い化学療法レジメンに対する一次予防投与が可能になり、患者のQOL向上と治療強度の維持に貢献しています。

    G-CSF製剤の投与方法と適正使用ガイドライン

    G-CSF製剤の投与方法は、大きく以下の3つに分類されます。

    1. 一次予防的投与
      • 抗がん剤治療の1コース目からFNを予防する目的で、発熱や好中球減少を確認することなく投与する方法
      • 化学療法の強度を上げる、または維持する目的で使用
      • 主に持続型G-CSF製剤(ペグフィルグラスチム)が使用される
    2. 二次予防的投与
      • 抗がん剤治療により、前コースでFNを生じたり、遷延性の好中球減少症により投与スケジュールの延期や抗がん剤の減量を行った患者に対して、次コース以降に予防的に投与する方法
    3. 治療的投与
      • 好中球減少を確認してから投与する方法
      • 従来型G-CSF製剤が主に使用される

    FN診療ガイドライン改訂第3版(2024年)によると、G-CSF一次予防投与は以下の場合に推奨されています。

    • FNの発症頻度が20%以上のがん薬物療法を行う患者
    • FNの発症頻度が10-20%のがん薬物療法を行うFNリスクを有する患者

    一方、FNの発症頻度が10%未満の患者には推奨されていません。

    FN発症リスクが高い(20%以上)レジメンの例:

    • 乳がん
      • Dose dense ACT(アドリアマイシン、シクロホスファミド、パクリタキセル)
      • TAC(ドセタキセル、アドリアマイシン、シクロホスファミド)
      • アドリアマイシン+ドセタキセル
    • 食道がん/胃がん
      • DCF(ドセタキセル、シスプラチン、5-FU)
    • リンパ腫
      • BEACOPP(ブレオマイシン、エトポシド、アドリアマイシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾロン)
      • R-CHOP14(リツキシマブ、シクロホスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)

      適正使用の観点から、G-CSF製剤を使用する際は、レジメンのFNリスク、患者個人のリスク因子、費用対効果などを総合的に判断することが重要です。

      G-CSF製剤の副作用と安全性プロファイル

      G-CSF製剤は一般的に安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用が報告されています。持続型G-CSF製剤と従来型G-CSF製剤で副作用プロファイルに若干の違いがありますので、それぞれ解説します。

      持続型G-CSF製剤(ペグフィルグラスチム)の主な副作用:

      臨床試験では以下の副作用が報告されています。

      • 背部痛:20.4%
      • 血中乳酸脱水素酵素(LDH)増加:14.8%
      • 発熱:5.6%
      • 血中ビリルビン増加:5.6%
      • 血中ALP増加、ALT増加、肝機能検査異常:3.7%
      • 関節痛、筋骨格痛、紅斑:3.7%

      従来型G-CSF製剤の主な副作用:

      • 骨痛・背部痛:29.1%(フィルグラスチム群)
      • LDH上昇:30.9%(フィルグラスチム群)
      • 発熱:9.1%
      • ALP上昇:10.9%
      • ALT上昇:7.3%

      G-CSF製剤全般で注意すべき副作用:

      1. 骨痛・筋骨格痛
        • G-CSF製剤の最も一般的な副作用
        • 通常は軽度から中等度で、鎮痛剤で対処可能
        • 持続型製剤では、効果が長く続くため症状も長引く可能性がある
      2. 肝機能検査値異常
        • LDH、ALP、ALT、ASTの上昇などを伴う肝機能の異常
        • 通常は一過性で、投与終了後に回復する
      3. 呼吸器症状
      4. アレルギー反応
        • ショック、アナフィラキシー
        • 皮膚の痒み、じんま疹、声のかすれ、息苦しさ、動悸、意識の混濁など
      5. 脾腫・脾破裂
        • まれだが重篤な合併症として報告されている
        • 左上腹部痛や肩痛が出現した場合は注意が必要
      6. 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
        • 特に敗血症患者での報告がある
        • 呼吸困難、低酸素血症、両側性肺浸潤影などの症状

      安全に使用するためには、投与前の十分な説明と、投与中・投与後の適切なモニタリングが重要です。特に初回投与時は副作用の発現に注意が必要です。

      G-CSF製剤の医療経済性と適正使用のポイント

      G-CSF製剤、特に持続型G-CSF製剤は高価な薬剤であるため、医療経済性を考慮した適正使用が求められます。ここでは、G-CSF製剤の費用対効果と適正使用のポイントについて解説します。

      G-CSF製剤の薬価比較:

      製剤名 規格 薬価(円)
      ジーラスタ皮下注(ペグフィルグラスチム) 3.6mg 108,558円/本
      フィルグラスチムBS注シリンジ「F」 75μg150μg300μg 2,510円/本4,037円/本6,522円/本
      グランシリンジ(フィルグラスチム) 150μg 10,813円/本
      ノイトロジン注(レノグラスチム) 50μg100μg250μg 2,990円/本5,204円/本12,524円/本

      持続型G-CSF製剤は1回の投与で従来型G-CSF製剤の連日投与と同等の効果が得られますが、薬価は高額です。2023年11月には持続型G-CSF製剤のバイオ後続品も発売され、経済的負担の軽減が期待されています。

      医療経済性の観点からの適正使用:

      1. リスク層別化に基づく投与
        • FNリスクの高いレジメン(発症率20%以上)には一次予防投与を考慮
        • 中リスクレジメン(発症率10-20%)では患者個人のリスク因子を評価
        • 低リスクレジメン(発症率10%未満)では原則として予防投与は不要
      2. 患者個人のリスク因子の評価
        • 高齢(65歳以上)
        • 進行がん
        • 前治療歴(化学療法、放射線療法)
        • 腎機能障害、肝機能障害
        • 好中球減少症の既往
        • 栄養状態不良
        • 複数のリスク因子を有する患者では、中リスクレジメンでも一次予防投与を検討
      3. バイオシミラーの活用
        • 従来型G-CSF製剤ではバイオシミラーを積極的に活用
        • 持続型G-CSF製剤のバイオシミラーも今後の選択肢
      4. 投与タイミングの最適化
        • 持続型G-CSF製剤は化学療法終了後24時間以降に投与
        • 次回化学療法の14日前までに投与を完了

      適正使用のポイント:

      • がん化学療法剤の投与前24時間以内および投与終了後24時間以内のG-CSF製剤投与は避ける
      • 持続型G-CSF製剤は化学療法1サイクルあたり1回のみ投与
      • 従来型G-CSF製剤による治療的投与では、好中球数が回復するまで連日投与
      • 造血幹細胞移植における末梢血幹細胞の動員には、適切なG-CSF製剤を選択

      G-CSF製剤の適正使用により、FNによる入院期間の短縮、抗菌薬使用の減少、化学療法の投与量維持などが可能となり、総合的な医療費削減効果も期待できます。

      G-CSF製剤の今後の展望と新たな使用法

      G-CSF製剤は、がん化学療法支持療法の中核をなす薬剤として確立されていますが、医療の進歩とともに新たな使用法や展望も広がっています。ここでは、G-CSF製剤の今後の展望について考察します。

      バイオシミラーの普及と医療経済への影響:

      2023年11月に持続型G-CSF製剤のバイオシミラーが発売されました。バイオシミラーの普及により、以下のような変化が予想されます。

      1. 医療費の削減:高価な持続型G-CSF製剤のバイオシミラーが普及することで、医療費の削減が期待されます。
      2. 使用機会の拡大:費用対効果の改善により、これまで経済的理由で使用が制限されていた患者層への適用が拡大する可能性があります。
      3. 一次予防投与の拡大:中リスクレジメンに対する一次予防投与が増加する可能性があります。

      新たな使用法と研究の方向性:

      1. 免疫療法との併用
        • 免疫チェックポイント阻害剤との併用における効果と安全性の研究
        • CAR-T細胞療法後の好中球減少症に対する使用法の確立
      2. 個別化医療への応用
        • バイオマーカーを用いたFNリスク予測と予防投与の最適化
        • 遺伝的背景に基づく副作用リスクの層別化
      3. 投与スケジュールの最適化
        • 持続型G-CSF製剤の投与タイミングと効果の関連性の研究
        • 化学療法レジメン別の最適投与タイミングの確立
      4. 新規G-CSF製剤の開発
        • より長い半減期を持つ次世代製剤の開発
        • 副作用プロファイルが改善された製剤の研究
      5. 非がん領域への応用拡大
        • 重症感染症治療における補助療法としての可能性
        • 慢性好中球減少症に対する長期投与の安全性と有効性の検討

      臨床現場での実践的課題:

      1. 適正使用の推進
        • ガイドラインに基づいた使用の徹底
        • 過剰使用・不適切使用の防止
      2. 副作用マネジメントの向上
        • 骨痛などの一般的副作用に対する予防・対処法の確立
        • まれだが重篤な副作用の早期発見システムの構築
      3. 患者教育の充実
        • 自己投与の適切な指導
        • 副作用の自己モニタリングと報告の教育

      G-CSF製剤は今後も進化を続け、がん治療の支持療法としてさらに重要な役割を果たしていくことが予想されます。医療従事者は最新のエビデンスと適正使用ガイドラインに基づいた使用を心がけ、患者個々の状況に応じた最適な治療選択を行うことが求められます。

      G-CSF製剤の適正使用に関する最新情報は、日本臨床腫瘍学会の「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン改訂第3版」(2024年、南江堂)や日本癌治療学会編「G-CSF適正使用ガイドライン2022年10月改訂第2版」(2022年、金原出版)を参照することをお勧めします。

      日本癌治療学会「G-CSF適正使用ガイドライン」の詳細情報
      日本臨床腫瘍学会「FN診療ガイドライン」の最新情報