硝子体出血と手術の入院期間
硝子体出血に対する手術の入院期間は、手術方法や患者の状態によって大きく異なります。従来は1~2週間程度の入院が一般的でしたが、医療技術の進歩により日帰り手術も可能になっています。硝子体手術では白目の部分から細い器具を眼内に挿入し、出血や混濁した硝子体を切除して吸引除去します。
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硝子体出血手術の入院期間を決める要因
入院期間を決定する最大の要因は、手術終了時に眼内に注入する物質の種類です。網膜の位置を安定させるために眼内にガスやシリコンオイルを注入した場合、浮力を利用して網膜を適切な位置に保つために、約一週間はうつ伏せでの安静が必要になります。この場合、経過が良好であれば概ね10日間程度の入院が見込まれます。一方で、灌流液(人工的に調整された眼内液の組成に近い液体)のみで終了する場合は、体位制限がないため、患者の回復状況に応じて手術後3日目以降に退院が可能となります。
近年では医療技術や機器の進歩により、極小の傷口での手術が可能になり炎症リスクも大幅に減少したことから、日帰り手術を実施する眼科も増えています。日帰り手術の場合でも消毒が必要なため翌日の通院が必須となり、術後ご自宅で安静を守るのは難しいため、基本的には数日間の入院を勧める医療機関が多いです。
硝子体出血の原因疾患と手術適応
硝子体出血の原因として最も多いのは、糖尿病網膜症による新生血管の破裂です。糖尿病の患者の血液は糖が多く固まりやすい状態になっており、網膜の毛細血管を詰まらせたり血管の壁に負担をかけて眼底出血を起こします。新生血管は通常の血管よりもろいため簡単に破れ、出血を起こしてしまいます。その他の原因として、網膜静脈閉塞症、網膜細動脈瘤破裂、加齢黄斑変性症、裂孔原生網膜剥離、後部硝子体剥離、外傷などが挙げられます。
日本眼科学会による糖尿病網膜症の詳細解説
硝子体出血が起きると、外からの光が出血によって遮られ網膜に届かなくなります。これにより視界のかすみ、飛蚊症、視力低下といった症状が引き起こされます。眼底が見えないため出血がなくならないと原因を特定できませんが、手術により出血を取り除くことで原因が特定でき、原因に応じた対処が可能になります。
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硝子体手術の術後経過と視力回復
硝子体手術後の視力回復には個人差があり、数週間で視力の改善を感じる方もいれば数カ月かかる方もいます。軽快する速さや程度は患者の健康状態や手術前の視力などに影響されます。術後の見え方は採用した術式や内容によりさまざまで、最後に眼内にガスを入れるかどうかによっても変わります。
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手術後の視力は徐々に良くなり、約半年で安定します。黄斑前膜や黄斑円孔などの黄斑部の症状の場合、黄斑の形態の改善や視力回復に数ヶ月かかる場合があります。最終的な視力は手術前の症状の重篤さや採用した術式によって大きく左右されるため、病気を早期に発見し早期治療を心がけ、手術が必要と判断されたら迅速に治療を受けることが重要です。
ガスや空気は概ね1~2週間で自然と消失しますが、シリコーンオイルを注入した場合は数カ月後にオイルを抜く手術が必要となります。眼内にガスや空気が入っている間は飛行機の搭乗や登山は控える必要があります(眼内のガスが膨張して眼圧が上昇する場合があるため)。
硝子体手術の費用と保険適用
硝子体手術の費用は健康保険が適用され、自己負担額は保険の負担割合によって異なります。日帰り手術の場合、1割負担の方で約35,000~60,000円、2割負担の方で約70,000~120,000円、3割負担の方で約100,000~180,000円が目安となります。単純な硝子体手術の場合は3割負担で12万円前後、複雑な硝子体手術の場合は3割負担で15万円強必要です。
参考)硝子体手術費用の目安
白内障手術を同時に行うと、1割負担でプラス6千円、3割負担でプラス2万円が追加されます。お薬代が別途5千円~1万円必要です。一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される高額療養費制度があり、当院での支払い額に加え内科など他院の医療費や調剤薬局の支払いの1ヶ月分の合計が対象になります。
参考)硝子体手術
入院が伴う場合は入院費用が別途加算されます。日帰り手術の場合は入院費用がかからないので費用が安くなるほか、早期の仕事復帰や高齢者の体調管理にもメリットがあります。加入している生命保険の種類によっては「手術給付金」が支給される場合もあります。
硝子体手術の術後体位制限の重要性
術後の体位制限は治療成功の鍵を握る重要な要素です。病気によっては眼内に空気やガスを入れて病気の部分に当てるという治療法があります。目の中は水でできているため、眼内に注入した空気・ガスは浮かびます。したがって当てたい病気の部分に空気・ガスが当たるように体位を制限する必要があります。
黄斑円孔という病気は網膜で最も視力に重要な黄斑という場所(目の真ん中に存在)に穴が開いてしまう病気で、黄斑に空気を当てるためにうつぶせの姿勢が必要になります。網膜裂孔や網膜剥離という病気は目の中に穴(裂孔)が開いてしまう病気で、手術中に穴の位置を確認し、その穴に空気・ガスが当たる体位を守る必要があります。
空気やガスは自然に吸収されていくため、眼内に残っている術後早期にしかできない治療であり、病気の治癒率に大きく影響するため体位制限は非常に重要です。継続期間は疾患によって異なり術後主治医から説明されますが、患者の負担を極力減らすために術後の体位制限の期間は極力必要最低限になるよう努める医療機関が多いです。
硝子体手術の合併症とリスク管理
硝子体手術には様々な合併症のリスクが存在します。最も注意が必要なのは術後眼内炎で、創口から細菌感染を起こした場合に発症します。現在の手術方法では創口も小さく、決められた注意事項を遵守して確実に手術後の点眼治療を行えばこの合併症を起こすことはまずありませんが、万が一こじらせた場合は重篤な後遺症を残すことがあります。術後改善した見え方が急激に悪化し、目の痛み・充血・メヤニの悪化等を認める際は早めの受診が必要です。
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駆逐性出血は手術中に異常に血圧が上がったり、強く緊張する、咳き込むなどの負荷が加わると目の奥にある動脈から急激な出血が起こるもので、視力が大きく損なわれます。このような出血の頻度は極めて少なく発生頻度は10,000例に1回と言われています。
網膜裂孔や網膜剥離が手術後に様々な原因で起こる場合があり、そのような場合は再び硝子体手術を行い網膜剥離を治療する必要があります。硝子体手術は網膜のごく近くの操作が多く、硝子体手術に伴い網膜を傷つけ穴があいたり、その穴から網膜剥離が生じることがあります。
糖尿病網膜症等の手術後に硝子体出血が起こることがあり、出血の量が多い場合は再手術になります。しかし一般的には1~2週間程度で自然に吸収されます。術後に悪性の網膜剥離(増殖硝子体網膜症)が起こることが稀にあり、この網膜剥離は増殖により網膜のシワに線維が張り付いてしまうため手術によっても治せないことがあり、また治っても高度の視力障害をもたらします。
合併症の種類 | 発生率 | 対処法 |
---|---|---|
術後眼内炎 | 約0.05% | 直ちに眼内の洗浄が必要 |
駆逐性出血 | 約0.02%(10,000例に1回) | 視力が大きく損なわれる |
硝子体再出血 | 個人差あり | 1~2週間で自然吸収、それ以降は再手術 |
網膜剥離 | 個人差あり | 再度の硝子体手術が必要 |
硝子体手術の合併症に関する詳細情報
硝子体手術を検討している方は、事前に医師と相談し手術内容や入院期間、日帰り手術の可否などについて詳細を確認することが重要です。手術に必要な検査として視力検査、眼圧検査、屈折検査、眼底検査(網膜の状態を調べる)、蛍光眼底造影検査、光干渉断層計(網膜の厚さを計測する)、角膜曲率半径、角膜内皮細胞検査(角膜の内皮細胞が減っていないか)、細隙灯顕微鏡検査(水晶体の濁り状態)などが必要です。水晶体の濁り状態によっては網膜の電気的検査、エコー検査も必要となり、さらに手術が可能かどうか血液検査や血圧測定などを調べます。