硝子体混濁の見え方と症状
硝子体混濁による視界の黒い影
硝子体混濁では、目の中の透明なゲル状組織である硝子体に濁りが生じることで、外部から入る光が遮られ、網膜に影が映り込みます。この影が黒い点や虫のようなものとして見える飛蚊症という症状を引き起こします。濁りの大きさや位置によって、見える影の形や大きさは異なり、網膜に近い部位にある濁りほどはっきりと見えるという特徴があります。視線を動かすと影も一緒に動いて見え、目をこすったり瞬きをしても消えないのが特徴です。
硝子体混濁によるかすみと視力低下
硝子体全体が混濁した場合、光の透過量が大幅に減少するため、物がかすんで見えたり視力が低下したりする症状が現れます。本来、目が見えるメカニズムは外部から入った光が角膜、前房、水晶体、硝子体を通過し網膜に到達することで視覚情報を認識しますが、硝子体が濁ると光がすべて透過せず、視界全体が霧がかかったように見えます。混濁の程度が強くなるほど視力障害も深刻になり、日常生活に支障をきたすこともあります。
硝子体混濁と飛蚊症の違い
硝子体混濁の主な症状が飛蚊症ですが、飛蚊症自体は硝子体混濁以外の原因でも起こります。加齢による後部硝子体剥離が飛蚊症の最も多い原因であり、50歳を過ぎると硝子体の液化が進み、硝子体後面が網膜から剥がれることで飛蚊症が発生します。後部硝子体剥離による飛蚊症は生理的な老化現象であり、必ずしも治療が必要ではありません。しかし、急に飛蚊症の症状が増えたり、光視症を伴う場合は網膜裂孔や網膜剥離の可能性もあるため、早期の眼底検査が重要です。
参考)https://www.chuoh-eye-clinic.com/eye_disease/v-turbidity/
硝子体混濁における光視症とまぶしさ
硝子体混濁では、光がまぶしく感じられる症状も現れることがあります。光視症は光が当たっていないのに視界の端で光がピカピカ見える現象で、硝子体が網膜を物理的に刺激することで起こります。特に後部硝子体剥離が発生する際、硝子体と網膜が強く癒着している部位で牽引力がかかると光視症につながります。暗い場所で突然光を感じたり、視界の周辺部で閃光のような光が走る場合は、網膜裂孔や網膜剥離の前兆である可能性もあるため注意が必要です。
参考)後部硝子体剥離
硝子体混濁の見え方に影響する濁りの位置
硝子体混濁による見え方は、濁りの部位や範囲によって大きく変わります。硝子体の中心部に濁りがある場合は視軸を遮るため視力低下が顕著になりますが、周辺部の濁りであれば飛蚊症として自覚される程度で視力への影響は軽微です。また、網膜に近い後部硝子体に濁りがあるとはっきりとした影として認識されやすく、前方の硝子体の濁りはぼやけた影として見えることが多いという特徴があります。混濁が進行すると原因の特定が難しくなるため、見え方に変化を感じたら早期に検査を受けることが推奨されます。
硝子体混濁の原因
硝子体混濁の原因となるぶどう膜炎
硝子体混濁の最も頻度の高い原因は炎症性疾患であり、その代表がぶどう膜炎です。ぶどう膜炎は眼球内のぶどう膜に炎症が起こる疾患で、真菌性眼内炎などの感染症疾患と、サルコイドーシスやベーチェット病などの非感染性疾患に分類されます。炎症性細胞が硝子体中に侵入すると、硝子体を構成するヒアルロン酸やコラーゲン線維が分解され、硝子体構造に大きな変化が生じます。その結果、硝子体の液化や収縮、後部硝子体剥離などが起こり、濁りとして視認されるようになります。
参考)硝子体混濁
日本臨床眼科学会の論文では、ぶどう膜炎における硝子体変化のメカニズムについて詳しく解説されています
硝子体出血による硝子体混濁
硝子体出血は硝子体混濁の原因として重要な位置を占めます。硝子体自体には血管がないため、他の部位からの出血が硝子体に溜まった状態を硝子体出血と呼びます。最も多い原因は網膜に発生した新生血管が破れて出血するケースで、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性などが進行する過程で発生します。新生血管は通常の血管よりもろいため簡単に破れ、出血を起こしてしまいます。その他、後部硝子体剥離、網膜裂孔、網膜剥離、外傷なども硝子体出血の原因となり得ます。
硝子体混濁を引き起こす網膜剥離
網膜剥離は硝子体混濁の重要な原因の一つです。後部硝子体剥離が起こる際に、硝子体と一緒に網膜も眼底から剥がれてしまう病気で、網膜には二つの層があり剥がれると栄養が届かず光に対する感度が下がります。裂孔原性網膜剥離では神経網膜に裂け目や孔が生じ、そこから硝子体の液体成分が網膜下に侵入して神経網膜が剥離します。硝子体液の成分は神経網膜に対して障害性があり、剥離し続けている間ダメージを受け続けるため、できる限り早急に治療することが大切です。黄斑部が剥離すると視力障害や変視症などの後遺症が残り、長時間剥離すると失明に至ることもあります。
参考)裂孔原性網膜剝離・ 網膜格子状変性 (よくある目の病気 7…
加齢による硝子体混濁
加齢は硝子体混濁の生理的な原因として重要です。硝子体は99%が水でできた透明なゲル状の組織ですが、年齢とともに変質し繊維状の物質や濁りが生じてゼリー状から液状へと変化します。50歳を過ぎると硝子体の液化が進み、容積が縮むことで硝子体後面が網膜から剥がれる後部硝子体剥離が起こります。加齢による変性混濁は視力低下の原因にならないことがほとんどで、通常は治療の必要はありません。しかし、後部硝子体剥離が進行すると網膜剥離や網膜裂孔を起こす可能性があるため経過観察が必要です。
参考)後部硝子体剥離・飛蚊症・光視症 (よくある目の病気 82) …
黄斑円孔や黄斑前膜と硝子体混濁の関係
黄斑円孔や黄斑前膜も硝子体混濁の原因として挙げられます。黄斑円孔は黄斑部の網膜に穴があく疾患で、代表的な症状は視野中心部の欠損です。原因は加齢に伴う硝子体収縮であることが多く、そのけん引が構造上脆弱な黄斑部に穴を生じさせます。黄斑前膜も同様に硝子体の変化に関連して発生し、網膜前膜が形成されることで視力障害や変視症を引き起こします。これらの疾患は硝子体と網膜の境界面で起こる変化が原因であり、硝子体混濁を伴うことがあります。早期発見と適切な治療が視機能の維持に重要です。
参考)網膜硝子体手術の実際~黄斑円孔・裂孔原生網膜剥離・硝子体出血…
硝子体混濁の検査と診断
硝子体混濁の診断に必要な眼底検査
硝子体混濁の診断には眼底検査が不可欠です。眼底検査では目薬を点眼して瞳孔を開き、眼の奥にある網膜や硝子体の状態を詳しく調べます。検査後は光がまぶしく感じたり、手元にピントが合いづらい状態が3時間から6時間ほど続きますが、薬の効果が切れると自然に元に戻ります。散瞳眼底検査により硝子体の濁りの程度、位置、範囲を確認でき、飛蚊症や視力低下の原因が硝子体混濁によるものか判断できます。
参考)硝子体に濁りが現れる硝子体混濁とは?硝子体手術の必要性やリス…
硝子体混濁におけるOCT検査の重要性
OCT(光干渉断層計)検査は硝子体混濁の詳細な診断に有効です。この検査では網膜の断層画像を撮影でき、診察だけでは分かりにくい網膜の状態を明らかにします。硝子体混濁が強い場合は通常の眼底検査が難しいため、OCT検査によって網膜の状態を確認することが推奨されます。黄斑円孔、黄斑前膜、糖尿病黄斑症、黄斑浮腫、加齢黄斑変性、網膜剥離などが疑われる場合にもOCT検査が行われ、治療方針の決定や治療効果の判定に役立ちます。
硝子体混濁の原因を特定する全身検査
硝子体混濁の原因は必ずしも眼だけにあるわけではなく、全身疾患が関与している可能性もあります。全身疾患との関連を調べるため、血液検査、胸部X線検査、ツベルクリン検査などが行われることがあります。サルコイドーシスやベーチェット病などの非感染性疾患では原因疾患の特定が難しく、内科や呼吸器科など眼科以外の診療科と連携して検査を進めることもあります。混濁の原因がはっきりしない場合、硝子体の一部を手術で切り取り生体検査を行う手法もあります。
硝子体混濁における視力検査と眼圧検査
硝子体混濁の検査では、眼底検査の前に視力検査と眼圧検査が行われます。視力検査により硝子体混濁による視力低下の程度を客観的に評価でき、治療効果の判定にも用いられます。眼圧検査では眼球内の圧力を測定し、緑内障など他の眼疾患の有無も確認します。これらの基本的な検査結果を踏まえて、より詳しい眼底検査やOCT検査へと進みます。特に急に飛蚊症が増えたり視力低下を自覚した場合は、早期に眼科を受診して検査を受けることが重要です。
硝子体混濁の早期発見のポイント
硝子体混濁の早期発見には自覚症状の変化に注意することが大切です。黒い点や虫が飛んでいるように見える飛蚊症の症状が急に増えた場合、視界がかすむようになった場合、光がないのに光を感じる光視症が現れた場合などは、速やかに眼科を受診すべきです。症状が進み混濁が強くなると原因を特定するのが難しくなるため、見え方に変化を感じたら早期の検査が推奨されます。特に後部硝子体剥離に伴う飛蚊症は網膜裂孔や網膜剥離の前兆である可能性もあり、定期的な経過観察が必要です。
硝子体混濁の治療方法
硝子体混濁の原因疾患に対する治療
硝子体混濁の治療で最も優先すべきは、原因となった病気を的確に治療することです。感染症疾患である真菌性眼内炎には抗真菌薬投与、ぶどう膜炎には抗ウイルス薬投与といった原因疾患の治療が基本となります。混濁の原因がウイルスや細菌感染からなる炎症の場合、抗菌薬や抗ウイルス薬の内服で改善する可能性があります。原因疾患の治療が遅れると失明など深刻な状況に陥る可能性もあるため、早期診断と適切な治療が極めて重要です。
硝子体混濁におけるステロイド治療
非感染性のぶどう膜炎など、原因疾患の特定が難しい硝子体混濁に対してはステロイド治療が行われます。主に対症療法として、ステロイド薬や免疫抑制薬の投与を行い、炎症を抑えることで混濁の改善を図ります。ステロイドには副作用があるため、基本的には入院して点滴から始め、次第に内服に切り替えます。急に治療をやめることはできず、徐々に量を減らしながら半年ほどかけて治療を行う必要があります。治療中に再度炎症を発して治療期間が延びることもあるため、根気よく治療を継続することが重要です。
硝子体混濁に対する硝子体手術
硝子体手術は濁りがひどく症状に改善が見られない場合や、視力低下により日常生活に支障が出る場合に検討されます。手術では濁った硝子体を切除除去し、硝子体腔に空気やガスを充填します。硝子体の中に溜まった病原菌を取り除く必要がある場合や、混濁の原因がはっきりと分からず硝子体の中身を検査する必要がある場合にも手術が行われます。硝子体出血が自然吸収されない場合や、網膜剥離を伴う場合には硝子体手術が必要になることが多く、早めに日程を調整することが推奨されます。
硝子体混濁の自然治癒と経過観察
すべての硝子体混濁が治療を必要とするわけではありません。加齢による変性混濁は視力低下の原因にならないことがほとんどで、通常は治療の必要はなく経過観察となります。濁りが自然に引いていく(吸収される)こともありますが、一度吸収しても再発することがあり、それを繰り返すと自然吸収されにくくなります。後部硝子体剥離自体は老化現象の一種で飛蚊症を伴う場合もありますが必ずしも治療は不要です。ただし、後部硝子体剥離が進行すると網膜剥離や網膜裂孔を起こす可能性があるため、定期的な経過観察が必要です。
参考)後部硝子体剥離
硝子体混濁と日常生活の注意点
硝子体混濁の治療中や経過観察中には日常生活での注意が必要です。硝子体手術後は術後安静が重要で、特に黄斑円孔の手術では約3日間の可能な範囲での俯き安静が推奨されます。硝子体出血がある場合、安静を保つことで出血の拡大を防ぐことができる場合もあります。濁り自体は次第に軽くなり気にならない程度まで軽減する方がほとんどですが、急に症状が悪化した場合や新たな症状が現れた場合は速やかに眼科を受診することが大切です。定期的な検査を受けることで、網膜剥離などの合併症を早期に発見し適切な治療につなげることができます。
参考)硝子体出血の場合、安静にしないといけませんか? |硝子体出血…