眼窩血腫 症状と診断と治療と予後

眼窩血腫 症状と診断と治療

眼窩血腫の全体像
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急性視機能障害のリスク

眼窩血腫は眼球突出と視神経圧迫を介して急速に不可逆的視力低下をきたす可能性があり、時間との勝負になる病態です。

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画像診断での見極め

CT・MRIでは眼窩内の紡錘状や凸レンズ状の高〜低吸収域として描出され、腫瘍・炎症との鑑別が重要になります。

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観血的治療のタイミング

視力低下や眼圧上昇、眼球運動障害が進行する症例では、減圧術や血腫ドレナージのタイミングを逃さないことが視機能予後を左右します。

眼窩血腫の病態生理と発症機序

 

眼窩血腫は、眼窩内の静脈叢や眼窩内骨膜下スペースなどからの出血が限られた閉鎖空間に貯留することで眼窩内圧が急激に上昇する病態を指します。

出血部位は筋円錐内外、骨膜下、眼窩尖部、眼窩後部などさまざまで、局在により症状の出方や視機能障害のパターンが変化します。

外傷性のものでは眼窩骨折、鈍的外傷、眼窩手術後出血などが典型ですが、静脈瘤破裂や血液凝固異常、サルコイドーシスなど全身疾患に伴う特発性眼窩内血腫も報告されています。

眼窩は骨壁に囲まれ伸展能が低いため、比較的少量の血腫でも眼窩内圧が上昇し、眼球脱出に近い眼球突出や視神経圧迫を短時間で生じうる点が臨床的な危険性です。

特に眼窩先端部や視神経管近傍での出血では視神経が直接圧排されることで、網膜中心動脈閉塞や虚血性視神経症を来し、発症から数時間で不可逆的な視力障害に陥る可能性があります。

小児では帽状腱膜下血腫から連続して眼窩後血腫を生じることがあり、頭部外傷の一部として見逃されやすい一方で、視力喪失につながる重篤な眼窩緊急症になり得ると報告されています。

参考)CareNet Academia

一方、慢性・反復性の眼窩血腫では、軽度の眼球突出や眼窩部違和感のみで発症し、画像上腫瘍性病変と紛らわしい「腫瘍様眼窩内血腫」として内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)で切除されて初めて診断される例もあります。

このような非典型例では、急性期の劇症型と異なり進行が緩徐なため、視機能は比較的保たれますが、病理で赤血球とフィブリン主体の血腫であることが明らかになり、腫瘍との鑑別の重要性が強調されています。

小児の帽状腱膜下出血からの眼窩後血腫と、そのCT診断の具体例:

小児の眼窩後血腫と視神経圧迫の症例解説(CareneT/Academia)

眼窩血腫の症状 視神経圧迫と臨床評価

眼窩血腫では、急性発症の眼窩部痛、眼球突出、複視、眼球運動障害、視力低下、視野異常などが主要な症状であり、経過と組み合わせて臨床的に眼窩コンパートメント症候群を疑うことが重要です。

視神経圧迫が疑われる場合、視力・視野・対光反射・色覚の評価に加え、眼底で視神経乳頭浮腫や網膜中心動脈閉塞の所見を確認することが、介入タイミングの判断材料となります。

外傷後早期には視力が保たれていても、数時間から数日のうちに血腫増大と眼圧上昇に伴って急激に視力が低下した症例が報告されており、初期の正常所見に安心しすぎないフォローが要求されます。

外傷性眼窩内血腫では、眼圧の著明な上昇を伴うことがあり、47mmHgといった高眼圧から薬物により一旦軽快した後、血腫増大とともに視力が0.01まで低下したケースで緊急手術により視力改善が得られた報告があります。

参考)外傷性の眼窩内骨膜下血腫に対して手術を行い視力改善した1例 …

他方、眼窩底骨折などで早期から自然減圧が得られた症例では、同程度の出血にもかかわらず視機能が温存されたこともあり、「どの程度眼窩容積に余裕があるか」が視機能予後に関与していると考えられています。

参考)視力低下をきたし異なる経過を辿った眼窩血腫の3症例 (臨床眼…

症状聴取のポイントとしては、受傷機転、発症時間、症状の進行速度、全身出血傾向の有無、既往(眼窩静脈瘤、サルコイドーシス、抗凝固療法中など)を系統的に確認することで、外傷性・特発性・基礎疾患関連の背景を推定できます。

参考)https://trc-rad.jp/case/336/s7/336_7_2.html

眼窩外傷・視機能障害全般の評価の枠組みと診察ポイント:

外傷性視機能障害の診断と最新の治療(日本災害医学会誌PDF)

参考)http://www.jsomt.jp/journal/pdf/073030047.pdf

眼窩血腫の画像診断 CTとMRIの読み方

眼窩血腫の初期評価には、迅速性と骨折評価の観点から非造影CTが一選択となることが多く、眼窩内の紡錘状あるいは凸レンズ状の均一な高吸収域として眼窩内骨膜下血腫が描出されます。

特に骨直下に接する紡錘状・凸レンズ型で、筋円錐外に位置し上直筋など外眼筋が圧排・偏位している所見は、眼窩内骨膜下血腫を示唆する重要なサインとされています。

一方、眼窩尖部を頂点とする紡錘形の低〜等吸収域が造影剤で辺縁軽度増強される所見は、特発性眼窩内血腫を腫瘍性病変と誤認しうる典型的パターンであり、経時変化や臨床背景を踏まえた慎重な読影が求められます。

MRIでは、血腫の経時的な信号変化を利用して発症時期の推定や腫瘍・炎症との鑑別が可能であり、急性期にはT1等〜低信号、T2低信号、亜急性期にはメトヘモグロビンによりT1高信号を呈するなどの特徴があります。

腫瘍性病変との鑑別では、内部の均一性、造影パターン、骨破壊の有無、全身病変の有無などを総合的に評価し、必要に応じて内視鏡下鼻内副鼻腔手術による生検・ドレナージを兼ねたアプローチが有効とされています。

また、小児の眼窩後血腫では、頭部CTで眼窩後方のレンズ状高吸収域のほか、帽状腱膜下血腫の連続など頭皮側の変化も同時に評価することで診断精度を高められると報告されています。

眼窩内骨膜下血腫の典型的CT所見と背景疾患サルコイドーシスを含めた詳細解説:

眼窩内骨膜下血腫の画像診断(東京レントゲンカンファレンス)

眼窩血腫の治療 保存的治療と手術適応

眼窩血腫の治療方針は、視機能の障害程度と進行性、血腫の大きさと局在、眼圧、全身状態を総合的に評価して、保存的治療と観血的治療のいずれか、あるいは段階的併用を選択します。

保存的治療には、高浸透圧利尿薬(グリセオールなど)による眼窩内圧・脳圧の低下、副腎ステロイド大量投与による視神経浮腫の軽減、眼圧降下薬、安静・頭部挙上などが含まれますが、効果が乏しい場合は早急に外科的減圧へ移行する必要があります。

観血的治療としては、眼窩内血腫洗浄ドレナージ術、経鼻内視鏡下眼窩減圧術、眼窩外切開による血腫除去、視神経管開放術などがあり、出血源・局在・施設の専門性に応じて耳鼻咽喉科、眼科、脳神経外科の連携が求められます。

外傷性眼窩内骨膜下血腫では、当初視力が良好でも血腫増大により視力が0.01まで低下した症例に対し、緊急で眼窩内血腫洗浄ドレナージ術を施行し、術後数日で0.7まで視力が改善した報告があり、適切なタイミングでの介入が視力予後を大きく左右することが示されています。

一方、外傷性眼窩内血腫による眼窩コンパートメント症候群では、受傷から2時間を過ぎると受傷前視力への完全な回復は困難とされつつも、それ以降でも視力改善が得られた症例もあり、「可能な限り早い減圧」が推奨されます。

参考)外傷性眼窩内血腫に対し緊急減圧術を施行して失明を回避した1例…

また、眼窩底骨折を伴う症例では骨折による自然減圧が奏功し、血腫が存在しても視機能障害が軽度にとどまることがあり、逆に骨折を伴わない密閉性の高い眼窩では少量の血腫でも重篤な視機能障害を来しやすい点が、臨床的な「意外な落とし穴」として指摘されています。

眼科周術期や外傷における手術適応時期の分類表(眼窩骨折観血的手術なども含む):

眼科手術適応時期分類表(日本眼科学会)

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/triage_6th.pdf

眼窩血腫と視神経管開放術 チームアプローチの実際

眼窩血腫が視神経管近傍に及ぶ場合や、視神経管骨折を伴う外傷性視神経症では、血腫と骨片による視神経圧迫が複合的に関与しており、単純な眼窩内血腫ドレナージのみでは視力改善が不十分なケースがあります。

このような症例に対しては、耳鼻咽喉科・眼科・脳神経外科によるチームアプローチで経鼻内視鏡下に視神経管開放術を行い、視神経周囲の骨と血腫を減圧することで、視力の部分的または顕著な改善が得られる可能性が示されています。

治療戦略として、まず高用量ステロイドパルス療法で視神経浮腫の可逆性を評価し、それでも改善が乏しい場合に外科的開放へ移行するステップアップ方式が採用されることが多く、時間経過とともに予後が悪化するため、評価と意思決定の迅速さが求められます。

興味深い点として、視神経管開放術の際には、同時に副鼻腔病変や鼻中隔湾曲症の矯正を行うことで術後の視野確保やアクセス性を改善し、再介入の可能性に備えるといった工夫が報告されており、眼窩血腫を契機として頭蓋底・副鼻腔外科の知見が活かされる領域でもあります。

参考)外傷性視神経管骨折へのチームアプローチ(視神経管開放術)

また、視神経管開放術は高難度手技であり、すべての施設で実施可能とは限らないため、外傷センターや大学病院レベルでの連携ルートを地域単位で整備しておくことが、眼窩血腫による急性視機能障害への実効性ある対応につながります。

眼窩血腫診療においては、「眼窩コンパートメント症候群の早期認識」「CTでの血腫局在と骨折の評価」「ステロイドと高浸透圧療法の限界の見極め」「必要時の視神経管開放術を含めたチームアプローチ」という一連の流れを現場のプロトコルとして共有しておくことが、視機能の救済率向上に寄与すると考えられます。

視神経管開放術を含むチームアプローチの具体的なフローと術中写真:

外傷性視神経管骨折へのチームアプローチ(慶應義塾大学病院KOMPAS)

緊急対応 外科手技マニュアル