外傷性眼筋麻痺と複視
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外傷性眼筋麻痺の原因と病態(外眼筋・脳神経)
外傷性眼筋麻痺は、ざっくり言うと「外眼筋そのものの機械的トラブル」か「外眼筋を動かす神経(動眼・滑車・外転神経)の障害」かに分けて考えると整理しやすいです。麻痺性斜視の枠組みでは、外傷を含め原因が多彩で、まずは命に関わる原因が潜む可能性もあるため迅速な評価が推奨されています。
日本弱視斜視学会:麻痺性斜視(複視・眼球運動障害の診断と原因検索、CT/MRIの必要性)
代表的な「機械的トラブル」は眼窩骨折、とくに眼窩底骨折・内側壁骨折で、外眼筋(下直筋や内側直筋など)や眼窩内容が骨折部に嵌頓・絞扼される状態です。線状型(いわゆるトラップ型)では、見た目の腫れが軽くても筋が挟まって眼球運動が強く制限されることがあり、緊急手術が必要になることがある、とされています。これは「麻痺」ではなく“動かしたくても物理的に動けない”状況で、放置すると虚血性変化や癒着が残って複視が長引くリスクになります。
https://jscmfs.org/specialist/docs/2016_kaisetsu.pdf
一方の「神経障害」は、外傷による頭蓋内圧亢進、脳幹・海綿静脈洞近傍の障害、神経の牽引や微小出血などで起こり得ます。動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺はいずれも外傷が原因になり得る、という前提を置いたうえで、症状(水平複視、上下回旋複視、眼瞼下垂、散瞳など)から責任神経と病変部位を推定していきます。特に滑車神経は頭部外傷後に両眼性で起こることがある、と説明されています。
日本弱視斜視学会:麻痺性斜視(III/IV/VIの症状・原因・管理)
外傷性眼筋麻痺の症状と複視の問診(頭位・眼球運動)
外傷性眼筋麻痺の主訴で最も臨床を動かすのは複視です。麻痺性斜視では「突然複視を自覚する」ことが特徴とされ、複視の強い方向(麻痺筋が働く方向)を避けるために、患者が顔を回す・頭を傾けるなどの頭位異常を取る、という観察ポイントが整理されています。
問診では、以下をテンプレ化すると取りこぼしが減ります(現場向けに短文化しています)。
・受傷機転:鈍的外傷(殴打・転倒・ボール)か、交通外傷か、眼窩周囲を直撃したか
・発症時期:直後からか、数時間〜数日で進行したか(腫脹・血腫で変化することもある)
・複視の性状:水平/垂直/回旋、遠方で悪化するか、下方視で悪化するか(階段で困る等)
・随伴症状:眼痛、眼球運動時痛、頭痛、悪心・嘔吐、意識変容
・視力症状:視力低下、視野異常、羞明(別病態の併存も)
診察では、眼球運動制限が「一方向に強く出る」か、「牽引で強制的に動かせない感じがある」かが重要です。外転神経麻痺なら外転制限+内斜視、滑車神経なら下方視で強い上下回旋複視、動眼神経なら眼瞼下垂や眼位異常に加え瞳孔異常が鍵になり得ます。これらの“パターン認識”ができると、眼窩由来か中枢由来かの初期仮説が立ち、検査の優先順位が決まります。
外傷性眼筋麻痺の検査(CT・MRI・鑑別)
外傷性眼筋麻痺で「まず何を撮るか」は、疑う病態で変わりますが、眼窩骨折や頭蓋内病変を拾うためにCT/MRIを早期に検討する、という大枠は共通です。麻痺性斜視の診断では、後天性の場合に原因疾患の診断のため早急なCT、MRI画像検査や全身検索が必要、と整理されています。
特に注意したいのは、動眼神経麻痺で散瞳(瞳孔散大)が目立つ場合です。急性の動眼神経麻痺は動脈瘤が原因となり得て生死に直結する場合がある、とされ、疑えば緊急でCT/MRIなどの精査が必要と説明されています。
日本弱視斜視学会:麻痺性斜視(動眼神経麻痺:動脈瘤疑いの緊急性)
散瞳が起こりやすい/起こりにくいの背景は「副交感線維の走行と圧迫」による説明が有名で、外部からの圧迫で散瞳が出やすいという整理がされています。つまり外傷例でも、単なる末梢虚血的な神経麻痺のつもりで様子を見るのではなく、圧迫性の病態(動脈瘤、鉤ヘルニアなど)を想定して動けるかが安全面の分かれ目です。
岐阜大学神経内科:動眼神経麻痺と散瞳のメカニズム(圧迫で散瞳が出やすい理由)
眼窩骨折の「筋絞扼」については、CTが骨折評価に有用で、絞扼などの所見も捉えられることがある一方、外眼筋を含めた阻血性変化などの質的評価はMRIが優れる、という整理が提示されています。画像で明らかな嵌頓が見えないのに、臨床的に強く疑う(強い運動制限、運動時痛、悪心など)場合は、追加検査を検討する価値があります。
https://jscmfs.org/specialist/docs/2016_kaisetsu.pdf
鑑別として外傷後でも必ず頭に置くのは、重症筋無力症など“外傷とは別の要因”が紛れているケースです。複視や眼瞼下垂に日内変動がある場合は重症筋無力症との鑑別が必要、と明記されています。
外傷性眼筋麻痺の治療(保存・プリズム・手術)
治療戦略は、(1)原因治療、(2)複視の対症療法、(3)固定後の手術、の3レイヤーで考えると実装しやすいです。麻痺性斜視の治療では「原因疾患の治療が第一」とされ、外傷性や血管性、ウイルス性の麻痺ではプリズムや片眼遮閉などを行いながら自然軽快を待つ可能性がある、と説明されています。
実臨床での“使える”対症療法の例をまとめます(入れ子なしで列挙します)。
・遮閉(片眼遮閉):まず安全に複視を止め、転倒リスクを下げる
・フレネル膜プリズム:角度変動がある時期に可変的に合わせやすい
・疼痛や炎症が強い場合:原因(骨折・血腫・炎症)を疑い再評価のトリガーにする
・職種別配慮:運転・高所作業・精密作業は復帰判断を慎重にする
手術は「いつやるか」が焦点になります。麻痺性斜視では、発症から6か月経過しても麻痺による複視が続く場合に斜視手術を検討する、という時間軸が提示されています(ただし難しいことが多い、という現実も含めて言及されています)。
眼窩骨折で外眼筋絞扼が疑われる場合は、そもそも「待つ」より「解除」が優先になります。外眼筋の嵌頓絞扼は緊急手術を要することがある、と明示されており、ここを見逃すと予後不良(運動障害の固定)につながります。
https://jscmfs.org/specialist/docs/2016_kaisetsu.pdf
外傷性眼筋麻痺の独自視点:眼球心臓反射とリハビリ連携
検索上位の一般的な解説では「複視=眼科へ」までで終わることが多いのですが、外傷現場で意外に重要なのが眼球心臓反射(Oculocardiac reflex)です。急激な眼球・眼窩圧上昇や外眼筋牽引で徐脈や嘔吐が生じ、小児で感受性が高く、眼窩骨折の外眼筋トラップ型で多く認める、という整理がされています。つまり、外傷後に「目の症状+悪心・徐脈」が揃うとき、消化器症状として流さず“筋絞扼のシグナル”として扱うと安全側です。https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/r6kakuka_2-1.pdf
もう一つの独自ポイントは、眼科だけで完結しないケースがあることです。外傷性脳損傷後の両眼性複視に対して眼球運動訓練を行い、複視症状や眼球運動機能が改善した経過が報告されており、評価に視線分析なども用いられています。外傷性眼筋麻痺の一部(とくに中枢要因が絡むケース)では、眼科・脳外科・リハ職種(OT/PT/ST)連携で“生活機能としての複視”を下げる発想が実務的です。
関西医療大学:外傷性脳損傷後の両眼性複視に対する眼球運動訓練(経過と評価)
現場での連携メモ(意外に効きます)。
・眼科:責任筋・神経、プリズム適応、手術時期の見立て
・脳外/救急:動脈瘤や頭蓋内病変の除外、重症度評価
・形成外科/口腔顎顔面:眼窩骨折トラップ型の解除判断
・リハ:読書・PC・歩行での複視誘発場面を具体化し、訓練と環境調整へ落とす
外傷性眼筋麻痺は「画像で異常がないなら安心」となりがちですが、軽症頭部外傷でも画像上明らかな頭蓋内異常がなく、動眼神経単独麻痺を呈して保存的に改善した症例が報告されています。画像所見だけで切り捨てず、神経眼科的フォローと生活支援を組み合わせることが、結果的に患者満足度と安全性を上げます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjast/27/4/27_27.4_03/_article/-char/ja/