フィブラート系薬 一覧と作用機序
フィブラート系薬は、脂質異常症治療薬の中でも特に中性脂肪(トリグリセライド)低下作用に優れた薬剤群です。これらは核内受容体であるPPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)を活性化することで、肝臓での脂質代謝を調節します。具体的には、トリグリセライドの合成抑制と分解促進、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の増加作用を持ちます。
フィブラート系薬は、「-fibrate」という共通のステム(語尾)を持ち、その構造と標的に基づいて分類されています。日本で使用されている主なフィブラート系薬には、クロフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラートなどがあります。
フィブラート系薬の種類と先発・後発医薬品一覧
フィブラート系薬には様々な種類があり、それぞれ先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)が存在します。以下に主なフィブラート系薬の一覧を示します。
- クロフィブラート系
- 先発品:クロフィブラートカプセル250mg「ツルハラ」、リポクリン
- 薬価:10.4円/カプセル
- 特徴:フィブラート系の中で最も古い薬剤
- ベザフィブラート系
- 先発品:ベザトールSR錠100mg(10.6円/錠)、ベザトールSR錠200mg(13.5円/錠)
- 後発品。
- ベザフィブラートSR錠100mg「サワイ」(10.4円/錠)
- ベザフィブラートSR錠200mg「サワイ」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠100mg「JG」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠200mg「JG」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠100mg「トーワ」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠200mg「トーワ」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠100mg「ZE」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠200mg「ZE」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠100mg「NIG」(10.4円/錠)
- ベザフィブラート徐放錠200mg「NIG」(10.4円/錠)
- ベザフィブラートSR錠100mg「日医工」(10.4円/錠)
- ベザフィブラートSR錠200mg「日医工」(10.4円/錠)
- 用法:1日400mgを2回に分けて朝夕食後に経口投与
- フェノフィブラート系
- 先発品。
- トライコア錠53.3mg(15.5円/錠)
- トライコア錠80mg(20円/錠)
- リピディル錠53.3mg(15.1円/錠)
- リピディル錠80mg(19.8円/錠)
- 後発品。
- フェノフィブラート錠53.3mg「武田テバ」(8.8円/錠)
- フェノフィブラート錠80mg「武田テバ」(10.4円/錠)
- 用法:1日1回106.6mg~160mgを食後経口投与
- 先発品。
- ペマフィブラート系(選択的PPARαモジュレーター)
- 先発品。
- パルモディア錠0.1mg(32.4円/錠)
- パルモディアXR錠0.2mg(60円/錠)
- パルモディアXR錠0.4mg(111円/錠)
- 先発品。
これらの薬剤は、それぞれ特性や副作用プロファイルが若干異なるため、患者の状態や併用薬に応じて選択されます。
フィブラート系薬の薬理作用と効果的な使用法
フィブラート系薬の薬理作用は、主にPPARαの活性化を介して発揮されます。その結果、以下のような効果が得られます。
- トリグリセライド低下作用
- リポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の増強
- 肝臓でのトリグリセライド合成抑制
- 脂肪酸のβ酸化促進
- HDLコレステロール上昇作用
- アポA-I、アポA-IIの産生増加
- HDL前駆体の形成促進
- LDLコレステロール低下作用
- 小型高密度LDLの減少
- LDL受容体活性の増加
フィブラート系薬を効果的に使用するためのポイントは以下の通りです。
- 適応症: 高トリグリセライド血症(150mg/dL以上)が主な適応
- 用法・用量の遵守: 薬剤により用法が異なるため、指示通りの服用が重要
- 食事との関係: 多くは食後服用が推奨される
- 効果判定: 投与開始後4~8週間で効果を評価
- 長期使用: 効果が確認されれば長期間の継続服用が必要
特に、ベザフィブラートは1日2回の服用が必要ですが、フェノフィブラートは1日1回の服用で済むため、服薬アドヒアランスの観点からはフェノフィブラートが優れているケースもあります。
フィブラート系薬の副作用と安全性プロファイル
フィブラート系薬は一般的に安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用や注意すべき点があります。
主な副作用:
重要な禁忌:
- 腎機能障害患者(血清クレアチニン値2.5mg/dL以上またはクレアチニンクリアランス40mL/min未満)
- 重篤な肝障害のある患者
- 胆のう疾患のある患者
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性
相互作用に注意が必要な薬剤:
安全に使用するためには、定期的な血液検査(肝機能、腎機能、CK[クレアチンキナーゼ])によるモニタリングが重要です。特に治療開始後3ヶ月間は毎月の検査が推奨されています。
フィブラート系薬とスタチンとの比較と併用療法
脂質異常症治療薬の中で、フィブラート系薬とスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は作用機序や効果プロファイルが異なります。
フィブラート系薬とスタチンの比較:
特徴 | フィブラート系薬 | スタチン |
---|---|---|
主な作用機序 | PPARα活性化 | HMG-CoA還元酵素阻害 |
TG低下効果 | 強い(30-50%) | 中程度(10-30%) |
LDL-C低下効果 | 弱い(5-20%) | 強い(30-50%) |
HDL-C上昇効果 | 中程度(10-20%) | 弱い(5-10%) |
主な適応 | 高TG血症 | 高LDL-C血症 |
心血管イベント抑制効果 | エビデンス限定的 | 強固なエビデンス |
併用療法の考え方:
高TGと高LDL-Cを併せ持つ複合型脂質異常症の患者では、フィブラート系薬とスタチンの併用が考慮されることがあります。しかし、この併用は横紋筋融解症のリスクを高める可能性があるため、以下の点に注意が必要です。
- 腎機能が正常であることを確認
- 低用量から開始し慎重に増量
- 筋症状(筋肉痛、脱力感)に注意するよう患者に指導
- 定期的なCK値のモニタリング
- 可能であれば、フェノフィブラートを選択(ベザフィブラートよりスタチンとの相互作用が少ない)
最新のガイドラインでは、スタチン単独で目標達成できない高リスク患者において、選択的にフィブラート系薬の追加を検討するアプローチが推奨されています。
フィブラート系薬の最新動向とペマフィブラートの位置づけ
フィブラート系薬の分野では、近年、選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)であるペマフィブラート(商品名:パルモディア)が注目を集めています。2018年に日本で承認されたペマフィブラートは、従来のフィブラート系薬と比較して以下のような特徴を持ちます。
- 高い選択性: PPARαに対する選択性が高く、PPARγやPPARδへの作用が少ない
- 強力なTG低下作用: 従来のフィブラート系薬よりも強力なTG低下効果(約50%)
- 腎排泄が少ない: 主に肝臓で代謝されるため、腎機能低下患者にも使用可能(eGFR 30mL/min/1.73m²以上)
- スタチンとの相互作用が少ない: 併用療法の安全性が向上
ペマフィブラートの登場により、従来のフィブラート系薬では治療が困難だった患者層(腎機能低下患者や高用量スタチン併用が必要な患者)への治療選択肢が広がっています。
臨床試験の結果:
ペマフィブラートの第III相臨床試験では、プラセボと比較して有意なTG低下効果(-46.2%)とHDL-C上昇効果(+16.6%)が示されました。また、従来のフィブラート系薬であるフェノフィブラートと比較した非劣性試験でも同等以上の有効性が確認されています。
今後の展望:
現在、ペマフィブラートの心血管イベント抑制効果を検証する大規模臨床試験(PROMINENT試験)が進行中です。この試験結果により、フィブラート系薬の臨床的位置づけがさらに明確になる可能性があります。
また、フィブラート系薬と他の脂質異常症治療薬(EPA/DHA製剤、PCSK9阻害薬など)との併用療法についても研究が進んでおり、個別化医療の観点から最適な治療戦略が模索されています。
臨床現場での使い分け:
現在の臨床現場では、高TG血症の重症度や患者背景(腎機能、併用薬など)に応じて、従来のフィブラート系薬とペマフィブラートが使い分けられています。特に、以下のような患者ではペマフィブラートが選択されることが多いです。
- 腎機能低下患者(eGFR 30-60mL/min/1.73m²)
- スタチン併用が必要な患者
- 従来のフィブラート系薬で十分なTG低下が得られなかった患者
- 従来のフィブラート系薬で副作用が出現した患者
一方、コスト面や長期使用実績を考慮すると、軽度から中等度の高TG血症では従来のフィブラート系薬(特にジェネリック医薬品)が選択されることも多いです。
日本糖尿病学会:脂質異常症治療薬の使い分けに関するガイドライン
フィブラート系薬は、脂質異常症治療の重要な選択肢として長年にわたり使用されてきました。特に高トリグリセライド血症の治療において中心的な役割を果たしています。薬剤の選択にあたっては、効果プロファイル、安全性、患者の背景因子(腎機能、併用薬など)を総合的に考慮することが重要です。また、生活習慣の改善(食事療法、運動療法、禁煙など)と併せて行うことで、より効果的な脂質管理が可能となります。
最新の研究では、フィブラート系薬の新たな作用機序や適応拡大の可能性も示唆されており、今後もさらなる発展が期待される薬剤群です。医療従事者は、これらの薬剤の特性を十分に理解し、個々の患者に最適な治療選択を行うことが求められています。