フェロミアの効果と作用機序について

フェロミアの効果と作用機序

フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)の基本情報
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主成分

クエン酸第一鉄ナトリウム(溶解性に優れた第一鉄製剤)

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適応症

鉄欠乏性貧血の治療(錠剤50mg、顆粒8.3%)

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特徴

広いpH域で溶解し胃酸分泌が少なくても吸収可能

フェロミアの鉄欠乏性貧血に対する改善効果

フェロミアは鉄欠乏性貧血に対して、約1~2週間で治療効果を示し始める薬剤です 。治療開始から数週間で網状赤血球が血液中に現れ、その後ヘモグロビン値の回復が始まります 。ヘモグロビンが正常値まで回復するには約6~8週間を要し、貯蔵鉄であるフェリチン値が正常化するまでには治療開始から合計約6ヶ月の継続服用が必要とされます 。

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フェロミアの優れた治療効果は、そのユニークな化学的性質に由来します。クエン酸第一鉄ナトリウムは、酸性から塩基性(アルカリ性)まで広いpH域で溶解するため、胃酸分泌が低下している高齢者や胃切除術後の患者でも安定した腸管吸収が期待できます 。また、非イオン型鉄剤として鉄イオンを遊離しにくく、胃腸粘膜への刺激が少ないという特徴があります 。

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興味深いことに、フェロミアはクエン酸をキレート剤として利用した独特な製剤設計により、従来の鉄剤にはない吸収特性を実現しています。動物実験では、胃酸分泌を抑制したラットにおいてもフェロミアの血清鉄上昇効果が確認されており、胃酸の影響を比較的受けにくいことが証明されています 。

参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr1_181.pdf

フェロミアの胃酸分泌への影響と高齢者への適用

フェロミアは胃酸分泌の状態に左右されることなく効果を発揮する優れた特性を持っています。通常の鉄剤は胃内の酸性環境で溶解し吸収されるため、胃酸分泌が低下すると吸収効率が大幅に減少してしまいます。しかし、フェロミアのクエン酸第一鉄ナトリウムは、中性から塩基性溶液中でも腸管からの吸収が可能な溶けやすい低分子鉄として存在します 。

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この特性により、フェロミアは高齢者の鉄補充療法において特に有用とされています 。加齢により胃酸分泌が低下した高齢者や、プロトンポンプ阻害薬などの制酸薬を服用している患者でも、安定した治療効果が期待できます。また、胃切除術を受けた患者においても、フェロミアは他の鉄剤と比較して優れた吸収率を示すため、医療現場で重宝されています。

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実際の臨床研究では、健康なラットおよびウサギ、貧血ウサギにおいて、クエン酸第一鉄ナトリウムは硫酸鉄水和物フマル酸第一鉄とほぼ同等の血清鉄上昇効果を示し、さらに食後投与でも血清鉄の上昇が確認されています 。この結果は、フェロミアが食事の影響を受けにくく、患者の利便性を向上させることを示唆しています。

フェロミアの副作用と消化器症状への対策

フェロミアの副作用は主に消化器系に現れ、5%以上の患者に悪心・嘔吐が報告されています 。0.1~5%未満の頻度で上腹部不快感、胃・腹痛、下痢、食欲不振、便秘、胸やけなどの症状が生じることがあります 。過敏症として発疹(0.1~5%未満)、肝臓への影響としてAST・ALTの上昇(0.1~5%未満)も報告されています 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00054284.pdf

フェロミアの消化器症状を軽減するため、食後服用が推奨されています。鉄剤は空腹時の方が吸収率は良好ですが(食後服用では空腹時の約60%の吸収率)、副作用である消化器症状が出現しやすくなります 。しかし、1日の鉄剤投与量が食事中の鉄の10倍以上であるため、食後服用でも治療効果への影響は軽微とされています 。

参考)http://www.nms.co.jp/naika2/blood/ida.html

興味深い点として、フェロミアは緑茶との相互作用に関する従来の概念を覆す研究結果があります。鉄欠乏性貧血患者において、クエン酸第一鉄ナトリウムを水と緑茶で服用を比較した結果、鉄吸収と貧血改善効果に影響しないことが報告されています 。これは、鉄欠乏状態では腸管からの鉄吸収が亢進していることが理由の一つと考えられています 。

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フェロミアと他の鉄剤との比較研究

フェロミアと他の経口鉄剤との比較において、最も注目すべきはフェロ・グラデュメット乾燥硫酸鉄)との違いです。フェロ・グラデュメットは徐放性製剤として設計されており、多孔性プラスチック格子内に硫酸鉄が含有されています 。この構造により、高濃度の鉄が急激に胃腸粘膜に接触することを防ぎ、胃粘膜への刺激を軽減しています 。
一方、フェロミアの優位性は、胃酸分泌の影響を受けにくい点にあります。硫酸鉄系の製剤は胃酸によってイオン化される必要がありますが、フェロミアは既に安定した溶解性を持つため、より広い患者群に適用可能です 。
最近の研究では、新しい第二鉄製剤であるリオナ錠(クエン酸第二鉄水和物)との比較も注目されています。リオナ錠は従来のフェロミア錠と同程度の貧血改善効果を示しながら、副作用発生率が大幅に低いという特徴があります 。リオナ群では悪心13.0%、嘔吐3.2%であったのに対し、従来のフェログラデュメット群では悪心32.7%、嘔吐15.2%という結果が報告されています 。

参考)https://www.ohori-pc.jp/posts/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E9%89%84%E3%81%AF%E5%90%90%E3%81%8D%E6%B0%97%E5%B0%91%E3%81%AA%E3%81%8F%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AB%E6%9C%89%E5%8A%B9

フェロミアの服用タイミングと食事の影響

フェロミアの服用タイミングは、治療効果と副作用のバランスを考慮して決定する必要があります。理論的には空腹時の服用が最も高い吸収率を示しますが、実際の臨床現場では食後服用が推奨される場合が多くなっています 。

参考)https://omaezaki-hospital.jp/-/wp-content/uploads/2022/09/2f3734e3a02c5809a9078b19c755d436.pdf

鉄剤の一般的な原則として、空腹時投与では食後投与と比較して約1.7倍の吸収率を示します(食後投与は空腹時の約60%)。しかし、フェロミアの特徴である広いpH域での溶解性により、食後服用でも比較的安定した吸収が期待できます 。
食事内容も鉄吸収に影響を与える要因の一つです。ビタミンCを多く含む食品は鉄の吸収を促進し、一方でタンニン酸を含む食品(緑茶、紅茶、コーヒーなど)は理論的には吸収を阻害する可能性があります 。しかし前述のとおり、フェロミアについては緑茶による吸収阻害の臨床的意義は低いことが確認されています 。

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長期服用が必要な鉄欠乏性貧血治療においては、患者のアドヒアランス向上が重要な課題となります。消化器症状を最小限に抑えながら、確実な治療効果を得るために、個々の患者の状況に応じた服用タイミングの調整が必要です 。