エストロンとエストラジオールとエストリオールの違い
エストロンの特徴と産生部位
エストロン(E1)は、主に卵巣や副腎皮質、肝臓、脂肪組織で産生されるエストロゲンです。閉経前の女性では、エストロンの50%以上が卵巣から分泌されますが、閉経後は脂肪組織で作られるアンドロステンジオンから変換されて産生されるようになります。
参考)ホルモンについて
閉経後の女性では、エストロンが主要なエストロゲンとなり、体脂肪が多いほどエストロンの量も増加します。エストロゲンの作用活性は、E1:E2:E3=10:100:2とされており、エストロンの活性はエストラジオールの約10分の1程度です。
注意すべき点として、体脂肪率の上昇などでエストロンが過剰に増えると、乳腺や子宮の組織を刺激し、乳がんや子宮がんのリスクが高まる可能性が指摘されています。閉経後も閉経前とあまり変わらない濃度を保つため、ホルモンバランスの観点から重要な意味を持ちます。
エストラジオールの生理作用と卵巣機能
エストラジオール(E2)は、閉経前の女性において卵巣で産生される最も主要なエストロゲンであり、3種類のエストロゲンの中で最も生理活性が強い成分です。生体におけるエストロゲン活性の大半は、エストラジオールによって媒介されています。
参考)https://elife.clinic/articles/hrt-02
エストラジオールは、女性らしい体つきをつくり、排卵・月経を起こして妊娠機能を維持するという重要な働きをしています。さらに、骨密度の維持、皮膚や粘膜の健康、筋肉や関節の機能、脳の働き、自律神経の調節、感情の安定にまで深く関わっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/56/2/56_2_119/_pdf
閉経前の女性の血中エストラジオール値は、月経周期によって大きく変動します。卵胞期前期は11~82pg/mℓ、排卵期には120~390pg/mℓまで上昇し、黄体期は9~230pg/mℓとなります。閉経後は22pg/mℓ以下まで低下し、この急激な減少が更年期障害の主な原因となります。
エストラジオールの測定は、卵巣機能の評価や更年期診断において最も重要な指標とされており、血液検査で容易に測定できます。
参考)エストロン(E1)エストラジオール(E2)エストリオール(E…
エストリオールの妊娠中の役割と乳がんリスク
エストリオール(E3)は、エストロンから16α-ヒドロキシラーゼという酵素によって生成されるエストロゲンです。生理活性能はエストラジオールの約10分の1、エストロンの約5分の1と弱いものの、妊娠中に最も多く分泌される特徴があります。
エストリオールは、母体の肝臓と胎盤、胎児の副腎を経て生成されるため、その血中濃度は胎児の生命状態の指標として利用されています。妊娠時には尿中エストリオール(E3)が胎児胎盤系の機能評価に用いられます。
参考)血液検査1(脳下垂体、卵巣ホルモン基礎測定)|産婦人科の検査…
特筆すべき点として、エストリオールは乳腺や子宮に対する刺激が弱く、乳がんや子宮がんを誘発しにくい性質があります。むしろ、エストロゲン受容体と結合しても乳がんを発生させる効果が弱く、より効果が強い他のエストロゲンとの結合を阻害することで、乳がんリスクを下げる可能性があるとされています。
最終的には肝臓で薬物代謝酵素によって不活性化され、硫酸抱合体やグルクロン酸となって大部分が尿中に排出されます。
エストロゲン受容体との親和性の違い
3種類のエストロゲンは、エストロゲン受容体(ER)との結合親和性と結合時間において大きな違いがあります。エストロゲン受容体には主にERα(アルファ)とERβ(ベータ)の2つのサブタイプが存在し、これらは組織によって発現パターンが異なります。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/5850
エストラジオール(E2)は、エストロゲン受容体との結合親和性が最も高く、結合後は受容体が活性化されてDNAに結合し、遺伝子の転写を促進します。この強力な受容体結合能が、エストラジオールの高い生理活性の基盤となっています。
一方、エストリオール(E3)は受容体との結合時間が短く、親和性も低いため、更年期症状の改善効果は弱いものの、副作用の発症も少ないとされています。この受容体親和性の違いが、エストリオールの乳がんリスクの低さにつながっていると考えられています。
エストロン(E1)は、両者の中間的な受容体親和性を持ち、閉経後の女性において重要な役割を果たしますが、過剰になると組織を刺激し続ける可能性があります。
閉経後のエストロゲン産生と脂肪組織の役割
閉経後の女性では、エストロゲンの産生メカニズムが大きく変化します。閉経前は主に卵巣でエストロゲンが分泌されますが、閉経後は卵巣機能が停止するため、副腎皮質から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)が重要な役割を担います。
参考)https://www.nyugan.jp/faq/post-ope-care/estrogen/
脂肪組織などに存在するアロマターゼという酵素が、アンドロゲンをエストロゲン(主にエストロン)に転換することで、閉経後の女性の体内にもエストロゲンが存在することになります。このため、体脂肪が多い女性ほど閉経後のエストロン産生量が多くなる傾向があります。
参考)女性ホルモンが胎盤で作られる仕組みを解明 ~健康な妊娠や胎盤…
しかし、閉経後のエストロゲン活性は閉経前の約10分の1程度まで低下するため、骨粗鬆症、心血管疾患、皮膚の老化などのリスクが高まります。エストラジオール(E2)の減少が特に問題となり、これが更年期障害の様々な症状を引き起こす主な原因となります。
参考)女性ホルモンが減少すると骨がもろくなる!?骨粗しょう症を防ぐ…
閉経後のホルモン補充療法では、乳がんリスクを考慮して、エストロゲンの種類や投与方法が慎重に選択されます。
参考)CQ2 閉経後女性ホルモン補充療法(HRT)は乳癌発症…
閉経後女性に対するエストラジオールの心血管系への有益性についての研究(関東医学誌)
胎盤におけるエストロゲン産生メカニズムの解明(藤田医科大学)