炎症性腸疾患関連関節炎と診断と治療

炎症性腸疾患関連関節炎

炎症性腸疾患関連関節炎の要点
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まず「関節痛」か「関節炎」か

腫脹・熱感・圧痛・可動域制限を伴う炎症所見の有無で、機械性疼痛や線維筋痛、薬剤性などを早期に切り分けます。

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末梢と体軸で診療が変わる

末梢関節炎は腸炎活動性と連動しやすい一方、仙腸関節炎など体軸病変は腸管症状と乖離して潜むことがあります。

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「腸」と「関節」を同時に見る薬剤選択

抗TNFα抗体製剤など、消化管と筋骨格系の両方に効果が期待できる治療を軸に、感染症リスクと併用禁忌も含めて設計します。

炎症性腸疾患関連関節炎の分類と腸管外合併症

 

炎症性腸疾患(IBD)は潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)を主に指し、腸管以外にも関節・皮膚・眼などに腸管外合併症を来し得ます。IBD診療ガイドラインでも、腸管外合併症として関節病変が重要項目として整理されています。

IBDに伴う関節病変は、脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)の枠組みで理解すると整理しやすく、臨床では大きく「末梢優位(peripheral)」と「体軸優位(axial:脊椎・仙腸関節)」で分けて評価します。

末梢関節炎は、膝・足関節などの大関節に、左右非対称・移動性に出現することが多く、関節破壊がまれとされる“古典的”なパターンが知られています(ただし例外として破壊性に進む報告もあり、経過観察と画像評価は軽視できません)。

一方、体軸病変は、炎症性腰背部痛(朝のこわばり、運動で改善、安静で悪化、夜間痛)を手掛かりに、仙腸関節炎や脊椎炎を疑い、早期に画像(特にMRI)を考慮します。腸管症状が軽い、あるいは寛解でも体軸病変が進行するケースがあるため、「腸が落ち着いている=関節は安全」とは言えない点が臨床の落とし穴です。

また、IBD領域の用語(axial/peripheral SpA)と、リウマチ領域の分類(末梢性SpAに位置付けられる等)にズレが生じ得るため、紹介状やカンファレンスでは「どの関節が、いつから、どの炎症所見で、画像はどうか」を具体化して共有すると混乱を減らせます。

腸管外合併症は関節以外も併存しやすく、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、ぶどう膜炎などの既往があるとSpAらしさが増すため、問診で必ず拾い上げます。

炎症性腸疾患関連関節炎の症状と診断のポイント

診療の第一歩は、「関節痛(arthralgia)」と「関節炎(arthritis)」を区別することです。腫脹・熱感・圧痛・可動域制限といった炎症所見が乏しい場合、筋膜性疼痛、変形性関節症、腱鞘炎、薬剤関連、感染症などの鑑別が前面に出ます。

IBD患者では関節症状が頻度高く訴えられる一方で、実際には“炎症を伴わない痛み”も混在します。したがって、診察では視診と触診を省略せず、左右差、関節液貯留の有無、付着部(アキレス腱付着部など)の圧痛、指趾炎(ソーセージ様)を一通り確認します。

採血はCRP/赤沈を含む炎症評価が基本ですが、IBD自体の炎症で上がり得るため、関節炎の活動性の「証明」ではなく、全身炎症の“背景”として解釈します。便中カルプロテクチンなど腸管炎症マーカーが利用できる施設では、腸管活動性の補助として有用です(腸管の再燃と末梢関節炎が連動するタイプでは特に意思決定に効きます)。

画像は、末梢関節では超音波が“今ある滑膜炎”を見つけやすく、治療反応の評価にも便利です。体軸病変は単純X線で初期変化を捉えにくく、MRIで骨髄浮腫を含む活動性病変を評価することが重要になります。

注意すべき緊急鑑別として、化膿性関節炎があります。免疫抑制薬(ステロイド、抗TNFα抗体製剤、JAK阻害薬など)使用中は感染症の閾値を下げ、発熱・強い局所熱感・単関節の急性腫脹では関節穿刺を含めて迅速に対応します。

さらに実臨床では、「腸炎の治療薬による関節症状(副作用・逆説反応)」も見逃せません。たとえば5-ASA不耐で発熱や関節痛が出ることがあり、ガイドラインでも開始後早期の発熱・関節痛を含む症状悪化に注意が促されています。腸管活動性の悪化に見えて実は薬剤反応、という局面では、時系列が最大の手掛かりになります。

炎症性腸疾患関連関節炎の治療と抗TNFα抗体製剤

治療戦略の基本は、「腸管炎症の制御」と「関節炎症の制御」を同じ地図で考えることです。末梢関節炎の一部は腸管活動性と並走するため、腸管に効く治療強化がそのまま関節にも効くことがあります。

薬剤選択では、消化管と関節の双方に効果が期待できる抗TNFα抗体製剤が中心的な選択肢になります。日本のIBD診療ガイドラインでも、抗TNFα抗体製剤はIBDに関連した脊椎関節炎や強直性脊椎炎に効果があるとされる旨が記載されています。

一方で、体軸病変の痛みに対しNSAIDsを漫然と使いたくなる場面がありますが、IBDではNSAIDsが病勢に影響し得る報告があり、ガイドラインでも発症・増悪因子としてNSAIDsとの関連が述べられています。短期・最小限、腸管病勢と相談しながら、代替(局所ステロイド注射、理学療法、疾患修飾薬の適正化)を含めて検討する姿勢が安全です。

免疫抑制治療を強める局面では、感染症のスクリーニングとモニタリングが必須です。IBDの治療指針でも、免疫抑制的治療を導入する際に結核やB型肝炎再活性化への対応が強調されています。関節炎治療で生物学的製剤を追加する場合も同様で、消化器・リウマチ・感染症での合意形成が治療継続性を上げます。

実際の運用では、患者の主訴が「腹痛/下痢」なのか「歩けないほどの関節痛」なのかで優先順位が変わります。Treat to Targetの発想で、腸管の目標(臨床寛解+内視鏡的寛解など)と、関節の目標(腫脹関節数、疼痛VAS、機能指標)を“別々に”設定し、同じ外来スケジュールで追うと、治療の迷走が減ります。

炎症性腸疾患関連関節炎と治療指針と検査

医療従事者向けに“迷いやすい”ポイントは、IBDの標準的な治療アルゴリズムと、SpAの標準的な治療アルゴリズムが完全には重ならないことです。たとえば、腸管に選択性が高い治療は腸には効いても体軸病変への効果が十分でない可能性があり、逆に関節を強く意識した治療が腸管に適さない場合もあります。

そのため、検査計画は「腸」と「関節」を同時に更新する設計が現実的です。腸管は便中マーカーや内視鏡・画像で活動性を把握し、関節は診察所見と超音波/MRIで活動性と構造変化を切り分けます。

IBD側の治療指針としては、日本消化器病学会の「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン 2020」が背景知識として有用です。さらに、厚労研究班の「潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針(改訂版)」には、腸管外合併症の章立てがあり、実臨床の整合性を取りやすい資料です。

薬剤安全性の観点では、ステロイドは寛解維持効果に乏しく長期投与を避けること、生物学的製剤やJAK阻害薬では感染症・血栓症などの有害事象に注意が必要なことが、治療指針で繰り返し注意喚起されています。関節症状のコントロールのためにステロイドが“便利”に見える瞬間ほど、出口戦略(漸減計画、代替治療、骨粗鬆症対策)を同時に置くのが安全です。

検査の実務としては、紹介前の最低限セットを決めておくと連携が滑らかです。例として、(1)関節所見の具体(どの関節が腫れているか)、(2)炎症反応、(3)腸管活動性の指標、(4)感染症スクリーニング状況(結核/肝炎)、(5)画像の有無(超音波、仙腸関節MRI)をテンプレ化すると、専門科への“丸投げ”になりにくく、治療開始までが短縮されます。

炎症性腸疾患関連関節炎と外科治療後の関節炎(独自視点)

検索上位では「内科治療としての生物学的製剤」や「腸管外合併症の概説」に焦点が当たりやすい一方、現場で意外に困るのが「外科治療後も関節炎が続く/むしろ前面化する」ケースです。腸管病変が手術で落ち着いた後、患者のQOLを規定する主症状が関節に移り、消化器外来だけでは評価しきれなくなることがあります。

厚労研究班の治療指針でも、術後症例の難治例として「治療継続が必要な末梢関節炎」などが挙げられており、腸管が手術で改善しても関節病変が独立して残り得る臨床像が前提に置かれています。ここは、患者説明で大きな価値を持つポイントです(「手術=全部治る」ではなく「腸は改善しても、免疫のスイッチが関節に残ることがある」)。

外科後に関節炎が前面化する背景として、(1)腸管炎症が軽減して“隠れていた”関節症状が目立つ、(2)ステロイド離脱や薬剤変更で関節が再燃する、(3)腸内細菌叢・栄養状態の変化で炎症が揺れる、など複数の仮説が考えられます。確立した単一機序で説明できないからこそ、術前から「関節症状のモニタリング計画」を組み込み、術後フォローで“症状の主戦場”が移る可能性を共有することが、チーム医療としての完成度を上げます。

また、術後の薬剤選択では、創部感染や栄養状態、貧血、血栓リスクなど全身状態が治療許容量を左右します。IBDの治療指針でも、入院・重症例では感染症や血栓症への留意が明記されており、術後関節炎の治療強化でも同様の安全設計が必要です。

この領域は、消化器・外科・リウマチの境界に位置しやすく、担当科が固定されないまま患者が迷子になりやすいのが実情です。外来の運用としては「腸管は消化器が主担当、関節はリウマチが主担当、薬剤は共同で合議」という責任分界を明文化し、患者にも共有すると、治療継続率と満足度が上がります。

関節症状の全体像(腫脹関節数、体軸痛の有無、付着部炎、ぶどう膜炎歴)を一枚にまとめた院内テンプレがあると便利です。

【参考リンク:IBDの診断・治療の標準(背景疑問やフローチャート)】

https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/ibd2020_.pdf

【参考リンク:厚労研究班の診断基準・治療指針(腸管外合併症や術後難治例の位置づけ)】

http://www.ibdjapan.org/pdf/doc15.pdf

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