DPP-4阻害薬の使い分けと各薬剤の効果・特徴の比較

DPP-4阻害薬の使い分け

DPP-4阻害薬 使い分けのポイント
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薬剤ごとの特徴を理解する

各薬剤の排泄経路(腎排泄or肝・胆汁排泄)、服用回数、薬価の違いを把握し、患者背景に合わせて選択します。

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腎機能や合併症を考慮する

腎機能障害(CKD)の有無や程度によって、用量調節が不要な薬剤を選択することが重要です。心不全のリスクも考慮に入れます。

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効果不十分な場合の次の一手

漫然と継続するのではなく、効果が不十分な場合はSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬への切り替え・併用を検討します。

dpp4 阻害薬の使い分け:種類と特徴の比較

 

DPP-4阻害薬は、2型糖尿病治療において頻用される経口血糖降下薬です 。その主な作用機序は、インクレチン分解酵素であるDPP-4を阻害することで、内因性のGLP-1およびGIPの血中濃度を高め、血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することにあります 。単剤では低血糖のリスクが低く、体重増加をきたしにくいという特徴から、高齢者を含め幅広い患者層に使用されています 。

しかし、現在日本で承認されているDPP-4阻害薬は多数存在し、それぞれに異なる特徴があります 。これらの薬剤を適切に使い分けるためには、各薬剤の薬物動態、特に排泄経路を理解することが極めて重要です 。

以下に、代表的なDPP-4阻害薬の特徴をまとめた比較表を示します。

一般名(製品名) 主な排泄経路 用法 腎機能低下時の用量調節 特徴
シタグリプチン (ジャヌビア®︎/グラクティブ®︎) 腎排泄 1日1回 必要 最も早く登場し、豊富なエビデンスを持つ 。
ビルダグリプチン (エクア®︎) 代謝(肝) 1日2回 必要 肝機能障害で慎重投与・禁忌の場合あり 。後発品があり薬価が安い 。
アログリプチン (ネシーナ®︎) 腎排泄 1日1回 必要 心血管イベントに関する大規模臨床試験(EXAMINE)が行われた 。
リナグリプチン (トラゼンタ®︎) 胆汁排泄 1日1回 原則不要 腎機能の程度によらず用量調節が不要な点が最大の特徴 。
テネリグリプチン (テネリア®︎) 肝代謝・腎排泄 1日1回 重度腎機能障害で慎重投与 比較的DPP-4阻害作用が強いとされる 。OD錠もある 。
オマリグリプチン (マリゼブ®︎) 腎排泄 週1回 必要 週1回投与で服薬アドヒアランス向上が期待できる 。

このように、同じDPP-4阻害薬というカテゴリーでも、排泄経路や用法、薬価は様々です 。特に腎機能障害を有する患者においては、薬剤選択が予後を左右する可能性もあるため、これらの特徴を熟知しておくことが求められます 。

以下のリンクは、国内で販売されているDPP-4阻害薬の商品名、薬価、後発品の有無などを一覧で確認でき、薬剤選択時のコスト意識を高めるのに有用です。
KEGG MEDICUS 医薬品情報 商品一覧 : DPP-4阻害薬

dpp4 阻害薬の使い分け:腎機能障害や高齢者における注意点

糖尿病患者は、しばしば腎機能障害(CKD)を合併します 。DPP-4阻害薬の中には主に腎臓から排泄される薬剤が多く、腎機能が低下している患者に通常量を投与すると、薬剤の血中濃度が上昇し、副作用のリスクが高まる可能性があります 。そのため、腎機能に応じた適切な用量調節が不可欠となります 。

具体的には、シタグリプチンやアログリプチンは腎排泄型の薬剤であるため、クレアチニンクリアランス(Ccr)に応じて投与量を減量する必要があります 。例えば、シタグリプチンの場合、中等度腎機能障害(30≦Ccr<50mL/min)では50mgから25mgへ、高度腎機能障害(Ccr<30mL/min)では25mgから12.5mgへといった減量が推奨されています 。このような用量調節を怠ると、予期せぬ副作用や過剰な血糖降下作用を招く恐れがあるため、処方時には必ずeGFRやCcrを確認する習慣が重要です 。

一方で、リナグリプチンは主に糞便中に排泄される胆汁排泄型の薬剤であり、腎機能の低下度合いにかかわらず用量調節が不要であるという大きなメリットがあります 。そのため、腎機能が不安定な高齢者や、進行したCKDを合併する患者にとって、第一選択薬となりうる薬剤です 。臨床試験においても、リナグリプチンは軽度から重度の腎機能障害患者において、用量調節なしで有効性と安全性が確認されています 。

高齢の糖尿病患者では、複数の合併症を有していることが多く、ポリファーマシー(多剤併用)の状態にあることも少なくありません 。DPP-4阻害薬は、他剤との相互作用が比較的少なく、単独使用では低血糖のリスクが低いことから、高齢者にも使いやすい薬剤とされています 。しかし、SU薬など他の血糖降下薬と併用する場合には、重篤な低血糖をきたすリスクが増大するため、併用薬の減量を検討するなど、慎重な管理が求められます 。

以下の参考資料は、腎機能低下時におけるDPP-4阻害薬の具体的な投与量について表形式でまとめられており、臨床現場での用量設定の際に役立ちます。
D-REPORT 表3 腎機能低下時におけるDPP-4阻害薬の投与量

dpp4 阻害薬の使い分け:心血管イベントへの影響と体重管理

2型糖尿病は心血管疾患の独立した危険因子であり、血糖降下薬を選択する際には、血糖コントロール効果だけでなく、心血管系への影響も考慮する必要があります 。DPP-4阻害薬に関しては、複数の大規模心血管アウトカム試験(CVOT)が実施され、その安全性が検証されています 。

主要なCVOTとして、以下の3つが挙げられます。

  • SAVOR-TIMI 53試験 (サキサグリプチン): プラセボと比較して、主要心血管イベント(MACE)の発生率に有意差はなかったものの、心不全による入院リスクが27%有意に増加したことが報告されました (Scirica BM, et al. N Engl J Med. 2013)。この結果を受け、心不全のリスクがある患者へのサキサグリプチンの使用には注意が必要とされています。
  • EXAMINE試験 (アログリプチン): 急性冠症候群の既往がある患者を対象としたこの試験では、アログリプチンはプラセボに対し、MACEの発生率において非劣性であることが示されました 。心不全による入院リスクの有意な増加も認められませんでした (White WB, et al. N Engl J Med. 2013)
  • TECOS試験 (シタグリプチン): 心血管疾患の既往がある患者を対象とし、シタグリプチンはプラセボに対し、MACEの発生および心不全による入院のいずれにおいても非劣性であることが示されました 。

これらの試験結果から、DPP-4阻害薬は全体として心血管系に対してニュートラルな薬剤、すなわち、心血管リスクを有意に増加させないが、SGLT2阻害薬や一部のGLP-1受容体作動薬のように明確な抑制効果が証明されているわけではない、と位置づけられています 。したがって、心血管疾患のリスクが特に高い患者や、心血管保護効果を積極的に期待する場合には、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬がより推奨されることがあります 。

体重への影響に関しては、DPP-4阻害薬は「体重中立(weight neutral)」であることが特徴です 。これは、低血糖のリスクが低いために過食に繋がりにくいことや、インスリン分泌作用が血糖値に依存するため、過剰なインスリン分泌による脂肪合成が起こりにくいことなどが理由と考えられています 。肥満を伴う患者で体重減少を治療目標の一つとする場合には、体重減少効果が期待できるSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬への切り替えや併用がより有益な選択となる可能性があります 。実際に、DPP-4阻害薬からSGLT2阻害薬へ切り替えた研究では、HbA1cの改善とともに有意な体重減少が認められています 。

dpp4 阻害薬の使い分け:効果不十分な症例と次の一手という独自視点

DPP-4阻害薬は、その安全性と使いやすさから2型糖尿病治療の第一選択薬の一つとして広く用いられています 。しかし、臨床現場では「DPP-4阻害薬を投与しているにもかかわらず、血糖コントロールが目標に達しない」といった症例に遭遇することも少なくありません 。このような場合に、漫然とDPP-4阻害薬の投与を継続することは、患者を長期的な高血糖状態にさらし、合併症のリスクを高めることになりかねません 。

DPP-4阻害薬の効果が不十分となる背景には、いくつかの要因が考えられます。

  • インスリン分泌能の枯渇: DPP-4阻害薬は、患者自身のインスリン分泌能に依存して効果を発揮します。そのため、罹病期間が長く、膵β細胞機能が著しく低下している症例では、十分な血糖降下作用が得られないことがあります。
  • 高度なインスリン抵抗性: 特に内臓脂肪型肥満が著しい症例など、インスリン抵抗性が非常に強い場合には、DPP-4阻害薬によるインスリン分泌促進作用だけでは血糖を十分に下げきれないことがあります。
  • GLP-1の分泌低下: DPP-4阻害薬は内因性のGLP-1の作用を増強する薬剤です 。もともとのGLP-1分泌能が低い患者では、効果が限定的である可能性が指摘されています。

このような「DPP-4阻害薬抵抗性」とも言える状態を認識した場合、治療戦略の見直しが必要です 。その際の「次の一手」として、近年エビデンスが蓄積されているのがSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬です。

SGLT2阻害薬は、腎臓での糖の再吸収を抑制し、過剰な糖を尿中に排泄させることで血糖を低下させます 。この作用はインスリン分泌能に依存しないため、DPP-4阻害薬で効果不十分な症例にも有効性が期待できます。さらに、心血管・腎保護効果や体重減少効果も証明されており、肥満や心腎合併症リスクを有する患者には特に有益です 。DPP-4阻害薬との併用は、相補的な作用機序により良好な血糖コントロールをもたらすことが示されています 。

GLP-1受容体作動薬は、薬理学的な量のGLP-1を補充することで、DPP-4阻害薬よりも強力な血糖降下作用と体重減少効果を発揮します 。特に、血糖降下作用が強く求められる症例や、大幅な体重減少を目指す肥満症例において良い適応となります 。週1回投与の製剤も登場しており、アドヒアランスの向上にも寄与します 。

重要なのは、DPP-4阻害薬が「効きにくい」と感じた際に、その原因を考察し、患者の病態(肥満度、インスリン分泌能、合併症リスクなど)に合わせて、より適切な薬剤へ変更または追加することです 。ただ漫然と処方を続けるのではなく、一歩踏み込んだ個別化医療を実践することが、患者の長期的な予後改善に繋がるのです。

以下の論文は、肥満2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬からSGLT2阻害薬へ切り替えることの有効性を示しており、治療戦略を考える上で参考になります。
肥満 2 型糖尿病患者における DPP-4 阻害薬から SGLT2 阻害薬への切り替えによる有効性の検討


DPP4 RAW現像完全ガイドブック