DPP-4阻害薬の種類と特徴
糖尿病治療薬は近年急速に開発が進み、多くの選択肢が登場しています。その中でも2009年以降、糖尿病治療の中心的な薬剤として広く使用されているのがDPP-4阻害薬です。この記事では、DPP-4阻害薬の種類や特徴、作用機序について詳しく解説していきます。
DPP-4阻害薬の作用機序と特徴
DPP-4阻害薬は、インクレチンと呼ばれるホルモンの分解を防ぐことで血糖値を下げる薬剤です。インクレチンは食事摂取後に小腸から分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進する働きがあります。しかし、体内ではDPP-4という酵素によってインクレチンが速やかに分解されてしまいます。DPP-4阻害薬はこの酵素の働きを抑制することで、インクレチンの血中濃度を高め、結果的にインスリン分泌を促進して血糖値を下げる効果を発揮します。
DPP-4阻害薬の主な特徴として、以下の点が挙げられます:
これらの特徴から、DPP-4阻害薬は安全性の高い薬剤として、多くの糖尿病患者の治療に用いられています。特に日本人は「インスリン分泌不全」タイプの糖尿病が多いとされており、インスリン分泌を促進するDPP-4阻害薬が効果的であるケースが多いのです。
DPP-4阻害薬の種類と一覧表
日本で承認・販売されているDPP-4阻害薬は、2025年3月現在、9種類あります。それぞれ特徴が異なるため、患者さんの状態に合わせて最適な薬剤が選択されます。以下に主なDPP-4阻害薬を一覧表にまとめました。
一般名 | 商品名 | 発売年 | 特徴 |
---|---|---|---|
シタグリプチン | ジャヌビア、グラクティブ | 2009年 | 最初に承認されたDPP-4阻害薬 |
ビルダグリプチン | エクア | 2010年 | 2023年からジェネリック医薬品も登場 |
アログリプチン | ネシーナ | 2010年 | 日本で開発された薬剤 |
リナグリプチン | トラゼンタ | 2011年 | 腎排泄がほとんどなく、腎機能障害患者に使いやすい |
テネリグリプチン | テネリア | 2012年 | 日本で開発された薬剤、OD錠も販売 |
アナグリプチン | スイニー | 2012年 | 日本で開発された薬剤、比較的安価 |
サキサグリプチン | オングリザ | 2013年 | 腎機能に応じた用量調整が必要 |
トレラグリプチン | ザファテック | 2015年 | 週1回投与が可能 |
オマリグリプチン | マリゼブ | 2015年 | 週1回投与が可能 |
これらの薬剤は、服用頻度や排泄経路、薬価などの点で違いがあります。例えば、トレラグリプチン(ザファテック)とオマリグリプチン(マリゼブ)は週1回の服用で済むため、服薬コンプライアンスの向上が期待できます。また、リナグリプチン(トラゼンタ)は腎臓からの排泄がほとんどないため、腎機能障害のある患者さんでも用量調整なしで使用できるという特徴があります。
DPP-4阻害薬の配合剤について
DPP-4阻害薬の特徴として、他の糖尿病治療薬と組み合わせた「配合剤」が多く開発されていることが挙げられます。配合剤は1錠の中に複数の有効成分を含んでおり、服薬錠数を減らすことで患者さんの服薬負担を軽減する効果があります。
主なDPP-4阻害薬の配合剤には以下のようなものがあります:
- DPP-4阻害薬+ビグアナイド薬(メトホルミン)の配合剤
- ジャヌメット(シタグリプチン+メトホルミン)
- エクメット(ビルダグリプチン+メトホルミン)
- イニシンク(アログリプチン+メトホルミン)
- リオベル(アナグリプチン+メトホルミン)
- DPP-4阻害薬+SGLT2阻害薬の配合剤
- スージャヌ(シタグリプチン+イプラグリフロジン)
これらの配合剤は、それぞれの薬剤の特性を活かしながら、より効果的な血糖コントロールを目指すことができます。例えば、インスリン分泌を促進するDPP-4阻害薬と、インスリン抵抗性を改善するメトホルミンの組み合わせは、異なる作用機序で血糖値を下げるため、相乗効果が期待できます。
配合剤を使用することで、服薬錠数の減少だけでなく、薬剤費の軽減にもつながる場合があります。ただし、副作用が出た場合に原因薬剤の特定が難しくなる点や、個々の薬剤の用量調整が柔軟にできない点などのデメリットもあるため、患者さんの状態に応じた選択が重要です。
DPP-4阻害薬の副作用と注意点
DPP-4阻害薬は比較的安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用や注意点があります。主な副作用としては以下のようなものが報告されています:
- 消化器症状:悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状が現れることがあります。これらの症状は一般的に軽度で、服用を続けるうちに改善することが多いです。
- 皮膚症状:水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)という皮膚の水疱を伴う皮膚疾患が報告されています。特にテネリグリプチン(テネリア)での報告が多いとされていますが、他のDPP-4阻害薬でも発症する可能性があります。皮膚に水疱や発疹が現れた場合は、すぐに医師に相談することが重要です。
- 上気道感染:鼻咽頭炎や上気道感染のリスクがわずかに上昇するという報告があります。
- 膵炎:非常にまれですが、急性膵炎のリスクが上昇する可能性が指摘されています。強い腹痛や背部痛が現れた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
- 関節痛:重度の関節痛が現れることがあります。この場合、医師の判断で薬剤の変更が必要になることもあります。
DPP-4阻害薬を服用する際の注意点としては、以下のようなことが挙げられます:
- 過去に薬剤アレルギーの経験がある場合は、医師に伝えることが重要です。
- 腎機能障害がある場合、一部のDPP-4阻害薬では用量調整が必要になります(リナグリプチンは例外)。
- 膵炎の既往歴がある場合は、慎重に使用する必要があります。
- 他の糖尿病治療薬(特にSU薬)と併用する場合、低血糖のリスクが高まる可能性があるため注意が必要です。
DPP-4阻害薬の最新動向とジェネリック医薬品
DPP-4阻害薬は比較的新しい薬剤ですが、最初に承認されたシタグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)は2009年の発売から15年以上が経過しています。近年の動向として注目すべきは、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の登場です。
2023年にビルダグリプチン(エクア)のジェネリック医薬品が発売され、2025年3月現在、「ビルダグリプチン錠50mg」として複数の製薬会社から販売されています。先発品のエクア錠(50mg)が60.6円/錠であるのに対し、ジェネリック医薬品は18.4円/錠と大幅に安価になっています。これにより、患者さんの経済的負担の軽減が期待されます。
今後も特許期間が満了するDPP-4阻害薬が増えるにつれて、さらに多くのジェネリック医薬品が登場することが予想されます。これにより、医療費の削減だけでなく、より多くの患者さんがDPP-4阻害薬による治療を受けやすくなるでしょう。
また、研究開発の面では、より長時間作用する製剤や、他の作用機序を持つ薬剤との新たな配合剤の開発が進められています。例えば、週1回投与のトレラグリプチン(ザファテック)やオマリグリプチン(マリゼブ)は、服薬コンプライアンスの向上に貢献しています。
さらに、DPP-4阻害薬の糖尿病以外の疾患への応用も研究されています。例えば、一部のDPP-4阻害薬には心血管イベントの予防効果や腎保護作用があるという報告もあり、今後の研究結果が期待されています。
DPP-4阻害薬と日本人の糖尿病治療
日本人の2型糖尿病患者の特徴として、欧米人と比較して「インスリン分泌不全」タイプが多いことが知られています。これは、膵臓からのインスリン分泌能力が先天的に低いという体質的・遺伝的な要因によるものです。一方、欧米人に多いのは「インスリン抵抗性」タイプで、肥満などが原因でインスリンの効きが悪くなっているケースです。
このような日本人の特性を考慮すると、インスリン分泌を促進するDPP-4阻害薬は、日本人の糖尿病治療に特に適していると言えます。実際、日本では糖尿病治療薬の中でDPP-4阻害薬の処方割合が非常に高く、世界的に見ても特徴的な処方傾向となっています。
また、日本発のDPP-4阻害薬も複数開発されています。テネリグリプチン(テネリア)、アナグリプチン(スイニー)、アログリプチン(ネシーナ)などは日本の製薬会社によって開発された薬剤であり、日本人の特性を考慮した開発が行われています。
DPP-4阻害薬の選択にあたっては、患者さんの腎機能や肝機能、併用薬、服薬コンプライアンス、経済的負担などを総合的に考慮する必要があります。例えば:
- 腎機能障害がある患者さんには、リナグリプチン(トラゼンタ)が適している場合が多い
- 服薬コンプライアンスに課題がある患者さんには、週1回投与のトレラグリプチン(ザファテック)やオマリグリプチン(マリゼブ)が有用
- 経済的負担を考慮する場合は、ジェネリック医薬品のあるビルダグリプチンや、比較的安価なアナグリプチン(スイニー)などが選択肢となる
このように、9種類あるDPP-4阻害薬の中から、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な薬剤を選択することが、効果的な糖尿病治療につながります。
糖尿病専門医は、患者さんの体質や生活習慣、検査データなどを総合的に評価し、最適な治療薬を選択します。DPP-4阻害薬が適切に使用されることで、日本人の糖尿病患者の血糖コントロールが改善し、合併症予防につながることが期待されています。
糖尿病の薬物療法は日々進化しており、DPP-4阻害薬も含めて、より効果的で安全な治療法が開発されています。患者さん自身も自分の治療薬について理解を深め、医師と相談しながら最適な治療を受けることが大切です。