瞳孔遮断と瞳孔ブロックと緑内障診療ガイドライン

瞳孔遮断と瞳孔ブロック

瞳孔遮断と瞳孔ブロック:臨床で迷わない要点
👁️

まず「用語の違い」を固定する

瞳孔遮断は炎症後癒着などで後房→前房の房水流が途絶える状態を指し、瞳孔ブロック(機序)と混同すると判断がぶれます。

⚠️

危険サインは「眼痛+悪心」

急性閉塞隅角緑内障は眼痛・視力低下・頭痛・悪心嘔吐などで受診し、神経/消化器と誤診されることがあります。

🧪

治療の方向性は「通路を作る」

瞳孔ブロックが関与する閉塞隅角では、レーザー虹彩切開術などで房水の逃げ道を確保する考え方が中核です。


<% index %>

瞳孔遮断の病態と瞳孔ブロックの違い

 

医療現場で「瞳孔遮断」という語を見聞きしたとき、まず押さえるべきは“それが何を遮断しているのか”です。瞳孔遮断(seclusio pupillae)は、典型的には慢性の虹彩炎/虹彩毛様体炎などの経過で、虹彩後癒着が全周性(輪状)に形成され、後房から前房への房水移動が妨げられる状態として説明されます。用語としては「瞳孔縁が水晶体側に癒着し、輪状の虹彩後癒着が成立したもの」を指す、という整理が臨床上の混乱を減らします(同義語・関連語として瞳孔閉鎖 occlusio pupillae が併存しやすい点も重要)。

一方で「瞳孔ブロック」は、より広く“房水が瞳孔部を通過しにくい(流れが遮られる)機序”を指す概念として使われます。閉塞隅角緑内障の病態生理として、散瞳により虹彩と水晶体の接触が増し、房水が瞳孔をくぐって前房へ入る流れが遮断され、後房圧上昇→周辺虹彩が前方へ弯曲(膨隆虹彩 iris bombé)→隅角閉塞→急激な眼圧上昇へ至る、という流れが典型像です。

つまり、実務的には次のように分けると理解しやすくなります。

  • 瞳孔遮断:炎症後癒着などの“構造(器質)”としての全周性後癒着(輪状癒着)を強く示唆する語。

    参考)瞳孔ブロック (臨床眼科 48巻1号)

  • 瞳孔ブロック:房水流出障害が瞳孔部にあるという“機序”の総称(急性閉塞隅角の説明で頻出)。

この違いを曖昧にすると、カルテ記載・紹介状・カンファレンスで「遮断と言っているが、単に相対的瞳孔ブロックの話なのか?」「癒着が主体なのか?」が伝わらず、治療の優先順位(消炎、散瞳の是非、LPIの適応検討など)がズレます。特にぶどう膜炎既往の患者で、点眼歴・瞳孔形状・後癒着の程度を確認せずに“閉塞隅角発作っぽい”という印象だけで語るのは危険です。

参考:閉塞隅角緑内障の機序(瞳孔ブロック、膨隆虹彩)と症状・治療の全体像

MSDマニュアル プロフェッショナル版「閉塞隅角緑内障」

瞳孔遮断で起こる膨隆虹彩と続発緑内障

瞳孔遮断で臨床的に怖いのは、“遮断そのもの”よりも、その結果として前眼部の圧較差が生まれ、虹彩形態が変化し、隅角閉塞を誘発する点です。房水が後房から前房へ流れにくくなると後房圧が上がり、虹彩が前方へ押し上げられて膨隆虹彩(iris bombé)となり、周辺虹彩前癒着(PAS)を形成しやすくなります。放置すれば難治性の緑内障へ進行しうる、という病態連鎖が古典的に説明されています。

ここで重要なのは、「瞳孔遮断=瞳孔が閉じている」ではないことです。見た目として瞳孔が小さい/大きいよりも、虹彩と水晶体の関係(癒着の全周性、房水の通過障害)と、周辺部虹彩の前方膨隆がポイントになります。

また、閉塞隅角緑内障の病態生理では、狭隅角のリスクがある眼で散瞳が引き金になることが強調されています。散瞳で虹彩が求心方向・後方へ引かれ、虹彩と水晶体の接触が増えることで瞳孔ブロックが起こりやすくなる、という説明は、薬剤投与や検査前処置を考えるうえで実務直結です。

そのため、病棟や救急で「視力低下+眼痛」を見た際は、単に視神経疾患や角膜疾患の評価だけでなく、眼圧・前房の深さ・瞳孔所見(中等度散瞳固定など)を意識的に拾う必要があります。急性閉塞隅角緑内障では眼痛、充血、視力低下、虹暈、頭痛、悪心・嘔吐などが出現し、全身症状が強く神経/消化器疾患と誤診されることがあるとされています。

参考:日本の標準的な緑内障診療(用語、治療フローチャート、LPIの位置づけ)

日本緑内障学会「緑内障診療ガイドライン(第5版)」

瞳孔遮断が疑われる所見と検査(救急・外来)

瞳孔遮断そのものを“その場で確定診断”するには細隙灯での後癒着評価など眼科的手技が必要ですが、眼科以外の現場でも「疑って繋ぐ」ことはできます。閉塞隅角緑内障の急性期では、角膜混濁(浮腫)、中等度に散瞳し固定した瞳孔、前房炎症所見、眼圧上昇(40~80mmHgのことが多い)などが典型とされています。

ただし、急性期は角膜混濁や疼痛で隅角鏡検査が困難になり得る点が落とし穴です。その場合でも、非患眼の評価で狭隅角リスクが示唆されることがある、という考え方が紹介されています。

救急・病棟で実践しやすい観察の順番としては、次の形が現実的です。

  • 👀 視診:充血、角膜の白濁、眼瞼腫脹、患者の苦悶表情。
  • 🔦 瞳孔:左右差、散大/縮瞳、固定の有無(中等度散瞳固定は急性閉塞隅角で典型所見として言及)。
  • 🧪 眼圧:可能なら眼圧測定(急性では著明高値があり得る)。
  • 🧭 前房の深さ:隅角鏡がなくても、ペンライトで前房深度を大まかに評価し、狭隅角の可能性を拾う方法が紹介されています。

ここでの“意外な盲点”は、患者訴えが「目が痛い」より「頭が痛い」「吐き気がする」「片頭痛みたい」に寄ることです。MSDでも、全身愁訴が重度なため神経疾患または消化器系疾患と誤診されることがあると明記されています。

なお、瞳孔遮断が背景にあるケース(例:ぶどう膜炎後の全周性後癒着)では、急性発作のトリガーが散瞳だけでなく、炎症再燃、ステロイド調整、散瞳薬の使用状況、術後の前房内反応など“時間軸の情報”に埋もれていることがあります。眼科紹介時には、いつから症状が出たかだけでなく、直近の点眼変更、ぶどう膜炎既往、白内障術や硝子体手術歴の有無もセットで伝えると、診断の近道になります。

治療の考え方:レーザー虹彩切開術と消炎の位置づけ

閉塞隅角緑内障(特に急性)では、永久的な視力障害を防ぐため緊急治療が必要で、その後に根治的治療としてレーザー周辺虹彩切開術(LPI)を行う、という流れが示されています。薬物治療としては複数薬剤を同時に用いるレジメン例が記載され、眼圧を下げて角膜が明瞭化し炎症が治まるタイミングでLPIを行う、という実務的な段取りになっています。

LPIの目的は、瞳孔ブロックに“穴をあける”ことで後房→前房への房水流路を別に作り、圧較差を解消して隅角閉塞を解除/予防する点にあります。MSDでは根治的治療としてLPIが説明され、角膜明瞭化と炎症軽快に合わせて実施すること、また他眼にも発作が生じ得るため両眼に行うことがある、と述べられています。

日本緑内障学会のガイドライン第5版でも、原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障の治療フローチャートで「相対的瞳孔ブロック機序→レーザー虹彩切開術」と位置づけられています。さらに急性原発閉塞隅角症/急性原発閉塞隅角緑内障の治療では、眼圧コントロールと消炎の後に、瞳孔ブロック解除としてレーザー虹彩切開術・周辺虹彩切除術・水晶体摘出が選択肢として提示されています。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/cd3c9c384f6c5fee0015ee3047b14dc43483a424

ここで「瞳孔遮断」に話を戻すと、遮断の背景に炎症(虹彩炎/虹彩毛様体炎)があるなら、単純に通路だけ作れば終わり、とはならない点が臨床の難しさです。癒着を作った炎症のコントロール、再癒着リスクの管理、ステロイドや散瞳薬の扱い(ケース依存)など、眼科的な微調整が必要になります。紹介時点での目標は、①急性の危険状態(高眼圧・強い疼痛・視力障害)を見逃さず、②閉塞隅角/瞳孔ブロック機序を疑って、③迅速に眼科へ繋ぐことです。

独自視点:周術期・薬剤で起きる「散瞳トリガー」対策

検索上位の一般解説では「暗いところで発作」「散瞳で閉塞隅角」といった説明が中心になりがちですが、医療従事者向けに重要なのは“医療行為が散瞳トリガーになり得る”という運用面のリスク管理です。MSDでは、リスクのある患者で散瞳は避けるべきであり、散瞳点眼薬(診察目的)だけでなく、瞳孔を散大させる可能性のある薬剤の全身投与でも注意が必要、と具体例を挙げています。

この記載を、現場のチェック項目に落とすと以下が有用です。

  • 💊 処方・投与前:狭隅角リスクが明確なら、散瞳を誘発し得る薬剤(抗コリン作用など)や散瞳点眼の必要性を再検討する。
  • 🩺 他科依頼の検査:眼底検査前の散瞳、術前評価、救急での処置(貼付剤など)で散瞳が入り得る場面を把握する。
  • 📞 連携:眼科既往(狭隅角、閉塞隅角、ぶどう膜炎、後癒着)を問診で拾い、必要なら事前に眼科へ相談する。

さらに“意外に効く工夫”は、患者説明の質です。狭隅角や閉塞隅角の既往がある患者に、眼痛・虹暈・吐き気などの症状を「緊急受診サイン」として共有しておくと、誤って様子見される確率が下がります。急性閉塞隅角緑内障が救急疾患として扱われるべきことはMSDでも要点として明示されています。

最後に、瞳孔遮断という言葉がカルテに登場する場面は、眼科外来だけでなく、紹介状、診療情報提供書、術前サマリなど“横断的な文書”で起こりやすいのが現実です。用語を厳密に扱い、「遮断(seclusio)=全周性後癒着が示唆される」「ブロック=機序の話」と整理して共有することが、チーム医療でのすれ違いを減らし、結果的に視機能予後の悪化を防ぐ一手になります。



メディケン(MEDIKEN)ペンライト 暖色光/白色光2色LED USB充電タイプ&軽い 使いやすい 壊れにくい クリップ付き 小型 軽量 収納ケース付き 家庭用 (ブラック)