動眼神経根性麻痺と診断と治療
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動眼神経根性麻痺の症状と眼瞼下垂と瞳孔
動眼神経根性麻痺を疑う第一歩は、動眼神経の3大機能(①眼球運動、②開眼=眼瞼挙筋、③縮瞳=副交感)を「どれが、どの程度」障害されているかを、ベッドサイドで言語化して残すことです。特に医療従事者向けの記録では、眼位(外下方偏位の有無)、内転・上転・下転の制限、眼瞼下垂の程度、対光反射、瞳孔径左右差、近見反応までセットで書くと、後から局在推論が崩れにくくなります。
代表的な所見として、眼瞼下垂と外眼筋麻痺により複視が出現しますが、複視は「両眼視で増悪し、単眼では消える」タイプが基本です。眼球運動制限のパターンは完全麻痺か不全麻痺かで印象が変わるため、「どの筋が落ちているか」を筋機能として表現すると鑑別に強くなります(例:内直筋・下斜筋・上直筋・下直筋の機能低下)。
瞳孔は緊急度を左右します。散瞳が前面に出る(瞳孔不同、対光反射低下)場合、動眼神経の周辺部を走る副交感線維が障害されやすい「外側からの圧迫」を疑います。動脈瘤などの圧迫では散瞳が目立ちやすく、逆に糖尿病などの虚血性では散瞳が目立ちにくく対光反射が比較的保たれる、という古典的な対比は、今も初期判断の軸として有用です(ただし例外はあるため“散瞳がない=安全”ではありません)。
現場の注意点として、散瞳の評価は「暗所での左右差」「対光反射(直接・間接)」「点眼薬の影響」「既往の白内障術後・外傷歴」を合わせて見ます。特に救急外来では、痛み止めや抗コリン作用薬の影響、片眼のコンタクトレンズ、角膜混濁で反射が取りにくいなどの落とし穴があるため、簡単でも再現性のある手順で評価することが重要です。
動眼神経根性麻痺の原因と動脈瘤と虚血
動眼神経根性麻痺の原因は幅広く、最初に「命に関わる圧迫性病変」を除外し、その後に頻度の高い虚血性や外傷性、炎症性へ降りる流れが実務的です。動眼神経の走行は、動眼神経核→脚間窩→(後大脳動脈と上小脳動脈の間などを通る)くも膜下腔→内頚動脈-後交通動脈分岐部の近傍→海綿静脈洞→上眼窩裂→眼窩内と連続しており、この「走行上のどこでも障害されうる」ことが鑑別の難しさの本体です。
圧迫性の代表は脳動脈瘤で、内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤が動眼神経麻痺の原因として最も典型的です。動脈瘤圧迫では散瞳が前面に出やすく、緊急手術の対象となりうるため、疑えば即座に脳神経外科に連絡するという判断は、チーム医療の安全策として妥当です。
一方で虚血性(微小血管障害)も臨床では多く、糖尿病・高血圧・動脈硬化などを背景に急性に片側性に発症しやすいとされます。虚血性では瞳孔機能が温存されやすい特徴が語られますが、これを根拠に画像検査を省略すると重大疾患を取りこぼすリスクがあるため、最低限、動脈瘤精査を目的としたMRI/MRAが必要という立場は押さえるべきポイントです。
「意外に見落とされる原因」としては、くも膜下腔の腫瘍性病変、鉤ヘルニアなどの圧迫、海綿静脈洞・上眼窩裂周辺の炎症や感染、さらには血管性(頸動脈海綿静脈洞瘻など)も含まれます。つまり“動眼神経単独麻痺”に見えても、背景にある病態は局所(頭蓋内・海綿静脈洞)から全身(炎症、感染、血管炎)まで広がるため、「頻度」より先に「危険度」で並べ替える必要があります。
動眼神経根性麻痺の診断とMRIとMRA
動眼神経根性麻痺の診断は、症候の確認(眼球運動・眼瞼下垂・瞳孔)と、局在推定(脳幹~くも膜下腔~海綿静脈洞~上眼窩裂~眼窩)を同時進行で行い、画像で“走行をなぞって”確認するのが実務的です。動眼神経の走行ルートを全て確認していく必要がある、という発想は、検査漏れを防ぐうえで重要です。
最低限の画像方針として、動脈瘤精査のためMRI精査は必要不可欠、という考え方がベースになります。特に散瞳が前面に出ている場合は、外側からの圧迫(動脈瘤など)で副交感線維が障害されやすい構造的理由があり、緊急度が上がります。
局在診断のコツは「随伴所見」を拾うことです。脳幹(中脳)病変が疑わしい場合は、動眼神経麻痺に加えて対側の麻痺・振戦・小脳失調などが組み合わさり、中脳症候群(Weber、Benedikt、Claude、Nothnagelなど)として整理できることがあります。医療従事者向けには、眼症状だけで完結させず、四肢の運動・感覚、協調運動、意識、頭痛の性状をセットで記載することが、撮像範囲や緊急度の合意形成に直結します。
また、海綿静脈洞・上眼窩裂・眼窩先端部の病変では、動眼神経単独というより複合神経障害になりやすい点がヒントになります。例えば、海綿静脈洞には動眼神経・滑車神経・外転神経に加え、三叉神経第1枝・第2枝や交感神経も走行するため、眼球運動障害に顔面の感覚異常や疼痛が加われば局在が一気に絞れます。
動眼神経根性麻痺の治療とステロイドと手術
治療は原因治療が中心ですが、初期対応としては「緊急疾患の除外」「視機能・生活機能の保護」「苦痛(複視・痛み)の軽減」を並行して進めます。まず、動脈瘤圧迫が疑われる動眼神経麻痺は緊急手術の対象になりうるため、疑えば迅速な専門科連携(脳神経外科)と治療方針の相談が必要です。動脈瘤によって出現した動眼神経麻痺は、開頭クリッピング術のほうが血管内治療より回復率が高い“ようだ”という臨床的記載もあり、施設方針・症例背景(破裂リスク、動脈瘤形状)に応じて説明が変わります。
虚血性(糖尿病など)が疑わしい場合でも、画像で危険疾患を除外したうえで、基礎疾患管理(血糖・血圧など)を徹底しながら経過を見ます。虚血性では予後良好で、2〜3週で回復し始め、3〜4か月以内に完全回復する、といった目安が示されることがありますが、患者には「回復はゆっくり」「途中で悪化したらすぐ受診」という安全側の説明が必要です。
海綿静脈洞周辺の炎症性疾患として重要なのがTolosa-Hunt症候群で、片側の激しい眼窩痛と眼筋麻痺が特徴で、ステロイド治療が奏功することが多いとされます。ただし“ステロイドが効くからTolosa-Hunt”と短絡すると危険で、同様の症候を呈する膿瘍など感染症ではステロイドが禁忌になりうるため、造影MRIや場合によっては生検まで含めた慎重な鑑別が必要です。
動眼神経根性麻痺の独自視点と複視のケア
検索上位の多くは「原因・検査・手術の緊急性」に焦点が当たりがちですが、医療現場では“検査結果が出るまでの数日〜数週間”が患者にとって最もつらい時間帯になりやすい点が盲点です。動眼神経根性麻痺では眼瞼下垂と複視が同時に起こり、転倒リスク、運転・仕事の制限、読書やスマホの困難が一気に出るため、診断学とは別に「生活の安全」を設計する必要があります。
具体策として、片眼遮蔽(アイパッチや遮蔽膜)や一時的なプリズムなど、対症療法を早期に提案すると、患者満足度だけでなく通院継続にも効きます。複視の対症療法としてプリズム療法の報告があり、疾患によって適応や処方率が異なること、遮蔽を選択せざるを得ない場合もあることなど、視能訓練士・眼科との連携で“今できること”を具体化できます。
もう一つの独自視点は、説明の順番です。患者への説明は「原因を決める→治療」の順に見えますが、実際には「危険な原因を除外するために検査する→その間の見通しと生活対策を決める→原因に応じて治療を確定する」という順番のほうが納得されやすいことが多いです。特に散瞳の有無や痛みの有無など、患者が自分で観察できる項目を渡し、悪化サイン(痛み増強、意識変容、頭痛、視力低下など)の受診基準を共有すると、医療安全にもつながります。
【動脈瘤圧迫・瞳孔所見と緊急対応(散瞳が前面に出る理由、MRI/MRAの必要性、脳外科紹介の考え方)】
【海綿静脈洞・上眼窩裂・眼窩先端部の鑑別(Tolosa-Hunt症候群の診断要点、炎症/感染/血管性の見分け方)】
桑名眼科脳神経クリニック「動眼神経麻痺-複合神経障害(海綿静脈洞・上眼窩裂・眼窩先端部)-」
【複視の対症療法(プリズム療法の考え方、遮蔽法の選択肢)】