ドレニゾンテープ代替薬の選択
ドレニゾンテープ販売中止の背景と影響
2023年夏にドレニゾンテープ4μg/cm²の販売中止が発表され、2024年4月頃には在庫消尽となりました。この販売中止により、ケロイドや肥厚性瘢痕治療において長年使用されてきた重要な治療選択肢が失われることとなりました。
ドレニゾンテープは、フルドロキシコルチドを主成分とするミディアムクラス(IV群)のステロイドテープ剤として、密封療法(ODT:occlusive dressing technique)の代表的な製剤でした。特に以下の疾患に対して広く使用されていました。
販売中止の影響は特にケロイド治療において深刻で、多くの医療機関で代替治療法の検討が急務となっています。
ドレニゾンテープ代替薬としてのエクラープラスター
製造メーカーより公式に代替薬として案内されているのが「エクラープラスター20μg/cm²」です。エクラープラスターは、デプロドンプロピオン酸エステルを主成分とするステロイドテープ剤で、ドレニゾンテープよりも強力な抗炎症作用を有しています。
エクラープラスターの特徴:
- 有効成分:デプロドンプロピオン酸エステル 20μg/cm²
- ステロイド強度:ベリーストロング(II群)
- 適応:ドレニゾンテープと同様の皮膚疾患
- 使用方法:12時間または24時間ごとの貼り替え
エクラープラスターはドレニゾンテープと比較して効果が高いとされており、比較的皮膚が厚い成人のケロイド治療では第一選択となります。一方、皮膚が薄い小児に対しては効果がマイルドなドレニゾンテープが第一選択でしたが、販売中止により治療選択に注意が必要となっています。
ただし、エクラープラスターも限定出荷の状況が続いており、安定供給に課題があることが報告されています。このため、医療機関では複数の代替治療法を準備しておく必要があります。
ドレニゾンテープ代替としてのステロイド軟膏ODT療法
エクラープラスターの供給不安定性を考慮し、ステロイド軟膏を用いた密封療法(ODT療法)が重要な代替選択肢として注目されています。ODT療法は、病変部にステロイド軟膏を塗布し、その上から密封材で覆うことで薬剤の浸透性を高める治療法です。
ODT療法の実施方法:
- 患部の清拭・乾燥
- ミディアムクラス(IV群)ステロイド軟膏の塗布
- 密封材(プラスチックフィルム、サランラップ等)で被覆
- 医療用テープで固定
- 12-24時間後に交換
推奨されるステロイド軟膏:
ODT療法の利点は、使用するステロイドの種類や濃度を病状に応じて調整できることです。また、テープ剤と比較してコストが抑えられ、供給の安定性も高いという特徴があります。
ドレニゾンテープ代替薬の市販薬選択肢
医療用医薬品以外の選択肢として、市販薬による代替治療も検討されています。ただし、ドレニゾンテープと同等の効果を期待することは困難であり、軽症例や補助的治療としての位置づけとなります。
ヘパリン類似物質配合薬:
ヘパリン類似物質は血行促進作用により皮膚の新陳代謝を促進し、傷跡の治癒を改善する効果が期待されています。市販薬としては以下の製剤があります。
- ヒルドイドフォルテクリーム(要指導医薬品)
- アットノンEX(第二類医薬品)
- ケシミンクリーム(第二類医薬品)
ステロイド配合市販薬:
市販薬ではストロング(III群)までのステロイドが販売されており、軽度から中等度の炎症に対して使用可能です。
- ベトネベートN軟膏AS(ベタメタゾン吉草酸エステル配合)
- フルコートf(フルオシノロンアセトニド配合)
- リンデロンVs軟膏(ベタメタゾン吉草酸エステル配合)
これらの市販薬は、医療機関受診までの応急処置や、軽症例での長期管理に活用できます。
ドレニゾンテープ代替薬選択における臨床的考慮事項
代替薬選択において、医療従事者が考慮すべき重要な臨床的要因があります。患者の年齢、病変の部位・程度、既往歴、併用薬などを総合的に評価し、最適な治療選択を行う必要があります。
年齢による選択基準:
小児患者では皮膚が薄く、ステロイドの全身吸収リスクが高いため、より慎重な薬剤選択が必要です。ドレニゾンテープの代替として。
- 乳幼児:ヘパリン類似物質やウィーククラスステロイド軟膏
- 学童期:ミディアムクラスステロイド軟膏のODT療法
- 成人:エクラープラスターまたはストロングクラスステロイド軟膏
病変部位による考慮:
顔面や陰部など皮膚の薄い部位では、ステロイドの副作用リスクが高くなります。
- 顔面:ウィーク〜ミディアムクラスステロイド
- 体幹・四肢:ミディアム〜ストロングクラス
- 手掌・足底:ストロング〜ベリーストロングクラス
治療期間と副作用監視:
長期使用時の副作用として、皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイド痤瘡などが報告されています。定期的な評価と必要に応じた治療変更が重要です。
また、広範囲への長期使用では副腎機能抑制のリスクもあり、全身倦怠感、めまい、血圧低下などの症状に注意が必要です。
患者教育と服薬指導:
代替薬への変更時には、患者への十分な説明と指導が不可欠です。
- 使用方法の変更点(テープから軟膏+密封材への変更等)
- 効果発現時期の違い
- 副作用の早期発見方法
- 定期受診の重要性
特にODT療法では、患者自身が密封材の貼付・除去を行うため、適切な手技の習得が治療効果に直結します。
ドレニゾンテープの販売中止は、皮膚科診療において大きな変化をもたらしましたが、適切な代替治療選択により、患者の治療継続性を確保することが可能です。医療従事者には、各代替薬の特性を理解し、個々の患者に最適な治療選択を行う専門性が求められています。