電子内視鏡 主要メーカー商品の特徴
電子内視鏡システムの基本構造と最新技術動向
電子内視鏡システムは、主にスコープ、プロセッサー、光源、モニターから構成されています。従来のファイバースコープと比較して、電子内視鏡は先端部に撮像素子(CCD/CMOS)を搭載し、デジタル画像処理によって高解像度の映像を提供します。
近年の技術発展により、電子内視鏡の画質は飛躍的に向上しています。特に注目すべき点は以下の通りです。
- 高解像度CMOSセンサーの採用によるハイビジョン・4K画質の実現
- 特殊光観察による微細血管や粘膜構造の強調表示
- AI技術を活用した病変検出支援機能の実装
これらの技術革新により、早期がんなどの微細な病変の発見率が向上し、診断精度の向上に貢献しています。現在、国内の内視鏡市場は主にオリンパス、富士フイルム、ペンタックスの3社が占めており、それぞれ独自の技術で差別化を図っています。
電子内視鏡 オリンパス社の最新システム「EVIS X1」の特徴
オリンパスは世界の内視鏡市場において約75%のシェアを持つ最大手メーカーです。2020年に発売された最新システム「EVIS X1」は、8年ぶりのフルモデルチェンジとなる次世代スタンダードモデルとして注目を集めています。
EVIS X1の主な特徴は以下の4つの革新的技術にあります。
- TXI(Texture and Color Enhancement Imaging):通常光の情報から「明るさ補正」「テクスチャー強調」「色調強調」を最適化し、わずかな色調や構造の変化を強調する技術です。暗部を明るくしつつハレーションを抑え、病変部の観察をサポートします。
- RDI(Red Dichromatic Imaging):緑・アンバー・赤の3色の狭帯域光を照射して深部組織のコントラストを形成する新技術です。深部血管の視認性が向上し、出血時の止血処置をスムーズにします。
- EDOF(Extended Depth of Field):近点と遠点それぞれにピントを合わせた2つの画像を合成し、広範囲にピントの合った画像を生成する世界初の技術です。心臓の拍動や消化管の蠕動運動があっても、明瞭な画像をリアルタイムに得られます。
- NBI(Narrow Band Imaging):オリンパス独自の狭帯域光観察技術で、青(415nm)と緑(540nm)の狭い波長の光を照射し、血管や粘膜表面の微細構造を強調表示します。多くのエビデンスが蓄積された内視鏡診療のゴールドスタンダードとなっています。
さらに、EVIS X1は5LEDを採用し、4K画質対応、タッチパネル操作、ホワイトバランスフリー機能など、検査効率を向上させる機能も充実しています。また、電源を落とさずにスコープを取り外せる機能や、マイCVモードによる設定の簡略化など、操作性も大幅に向上しています。
電子内視鏡 富士フイルムの「ELUXEO 8000システム」の画像強調技術
富士フイルムは、X線・超音波領域で培った画像処理技術を内視鏡分野に応用し、独自の強みを発揮しています。最新の「ELUXEO 8000システム」は、高出力4LED光源と先進的な画像処理技術を組み合わせた内視鏡システムです。
富士フイルムの内視鏡システムの特徴は以下の通りです。
- Multi-Light Technology:青紫(Blue-Violet)、青(Blue)、緑(Green)、アンバーレッド(Amber-Red)の4つのLEDを搭載し、短波長から長波長までを網羅した光源を実現。これらのLEDの発光強度比を変えることで、様々な観察モードを提供します。
- BLI(Blue Light Imaging):短波長の青色光を利用して粘膜表層の微細な血管や粘膜構造を強調表示します。早期がんに特徴的な粘膜表層の微細血管の変化を観察するのに適しています。
- LCI(Linked Color Imaging):画像の赤色領域のわずかな色の違いを強調して表示する技術です。炎症と非炎症の境界や微小な病変の発見をサポートします。
- ACI(Amber-red Color Imaging):アンバーレッドの光とLCI技術を応用した新しい観察モードで、出血時に生じる赤色の濃淡を強調します。止血処置時の視認性向上に貢献します。
- TNR(Triple Noise Reduction)とE-DRIP(Extended Dynamic Range Image Processing):X線・超音波分野で培ったノイズ低減技術と調光・階調制御技術を組み合わせ、奥まで明るく鮮明でハレーションを抑えた画像を実現します。
さらに、富士フイルムは2022年9月にAI技術を活用した上部消化管用内視鏡診断支援ソフトウェア「EW10-EG01」の薬事承認を取得し、内視鏡診断支援機能「CAD EYE」の対象領域を拡大しています。このソフトウェアは胃腫瘍性病変や食道扁平上皮癌が疑われる領域をリアルタイムに検出することができ、診断精度の向上に貢献しています。
電子内視鏡 ペンタックス社の画像強調機能「OE」と「i-scan」の特徴
ペンタックスは、オリンパスや富士フイルムと並ぶ国内主要内視鏡メーカーの一つです。最新の内視鏡システム「Pentax EPK-i7010」は、独自の画像強調機能を搭載し、高精細な観察を可能にしています。
ペンタックスの内視鏡システムの主な特徴は以下の通りです。
- OE(Optical Enhancement):ペンタックスの最上位機種「Pentax EPK-i7010」に搭載された光学強調技術です。ビデオプロセッサから供給される光の帯域をフィルターで制限し、血管・粘膜の光学的な特徴を捉えます。さらにデジタル処理によりコントラストを上げることで、視認性を向上させています。
- i-scan(アイスキャン):ペンタックス独自のデジタル処理技術により作り出される強調画像です。通常画像では観察が難しいがんの早期発見や病変の広がりの診断をサポートします。OEと併用することで、粘膜表面の血管や構造の視認性をさらに向上させることができます。
- 高精細CMOSセンサー:最新のスコープには高精細CMOSセンサーを搭載し、ノイズの少ないハイビジョン画質を実現しています。高精度のレンズ組み立て技術と改良された光学系により、明るさを確保しながら微細な粘膜・血管の表面をリアルに再現します。
ペンタックスの内視鏡システムは、特に耳鼻咽喉科領域での使用にも適しており、鼻や喉(声帯)の観察に適した細径のビデオ鼻咽腔スコープをラインナップしています。例えば「VNL8-J10」や「VNL-1070STK」はお子様にも使用できる細径設計で、患者の負担を軽減します。一方、「VNL11-J10」はより高精細な画像での観察が可能です。
電子内視鏡 メーカー別スコープの操作性と特殊機能の比較
内視鏡システムを選定する際は、画質や画像強調機能だけでなく、スコープの操作性や特殊機能も重要な判断材料となります。ここでは、3社のスコープの操作性と特殊機能を比較します。
オリンパス
- Dual Focus機能:ボタン一つで通常観察と近接拡大観察(拡大倍率100倍)を切り替えられます。EDOFとの組み合わせにより、毛細血管や粘膜などの近接観察がピントを合わせやすく、高精細な画像を容易に得られます。
- スコープ操作部:軽量化されており、ボタン位置やスコープスイッチ形状、アングルノブ設計が見直され、操作性が向上しています。検査時のストレス低減に貢献します。
- 広視野角:大腸ビデオスコープでは170度の広視野角を実現し、腸壁に隠れた病変部の発見率向上を目指しています。
富士フイルム
- ワンステップコネクター:従来は、スコープをプロセッサーと光源にそれぞれ接続する必要がありましたが、富士フイルムの専用スコープはプロセッサーに接続するだけで使用可能です。簡単に着脱でき、検査の準備がスムーズに行えます。
- 無接点技術:スコープとプロセッサーのインターフェースに、電気接点を使わずに映像データを光通信方式で転送し、電力を電磁誘導方式で供給する無接点技術を採用。電気接点の物理的な摩耗がなく、接触不良を抑制します。
- 人間工学に基づいた設計:医師の内視鏡検査における手技を徹底的に分析し、各種操作ボタンの高さと位置を片手ですべて操作できるよう設計。消化管内の体液などを吸引するボタンや、スコープの先端部を上下左右に操作できるアングルノブなどを直感的に操作できます。
ペンタックス
- 細径スコープのバリエーション:特に耳鼻咽喉科領域で使用される細径スコープのラインナップが充実しています。患者の年齢や解剖学的形態、体調、考えられる疾患などに応じて適切なスコープを選択できます。
- 高精度レンズ技術:高精度のレンズ組み立て技術と改良された光学系により、明るさを確保しながら微細な粘膜・血管の表面をリアルに再現します。
各社とも、操作性の向上と検査時間の短縮を目指した設計改良を行っていますが、実際の使用感は医師の好みや慣れによっても異なります。導入前にデモ機を試用するなどして、実際の操作感を確認することをお勧めします。
電子内視鏡 AI診断支援機能と将来展望
内視鏡診断の分野では、AI(人工知能)技術の活用が急速に進んでいます。各メーカーもAI診断支援機能の開発・実装を進めており、今後の内視鏡診断の質向上に大きく貢献すると期待されています。
オリンパスのAI開発状況
オリンパスは「EVIS X1」の将来的な機能として、AIを活用した病変検出・鑑別診断などの内視鏡診断支援機能の開発を進めています。すでに欧州では大腸ポリープの検出・特徴づけを支援するAIプラットフォーム「ENDO-AID」を導入しており、日本国内でも承認取得に向けた取り組みが進められています。
富士フイルムの「CAD EYE」
富士フイルムは2022年9月に上部消化管用内視鏡診断支援ソフトウェア「EW10-EG01」の薬事承認を取得し、内視鏡診断支援機能「CAD EYE」の対象領域を拡大しました。このシステムは胃腫瘍性病変や食道扁平上皮癌が疑われる領域をリアルタイムに検出することができます。経鼻スコープ「EG-840N」と組み合わせて使用することで、観察から診断までのサポートが可能です。
ペンタックスのAI開発
ペンタックスも他社に遅れることなくAI技術の開発を進めています。特に画像強調機能「OE」と「i-scan」で得られた高精細画像をAIが解析することで、より精度の高い病変検出・診断支援を目指しています。
AI診断支援の将来展望
AI診断支援技術の発展により、以下のような変化が期待されています。
- 見落とし率の低減:AIによる病変検出支援により、内視鏡検査における病変の見落とし率が低減されます。特に微小な病変や平坦型病変の検出精度向上が期待されます。
- 診断精度の向上:AIによる病変の特徴づけ・鑑別診断支援により、より正確な診断が可能になります。経験の浅い医師でも熟練医に近い診断精度を実現できる可能性があります。
- 検査効率の向上:AIによるリアルタイム診断支援により、検査時間の短縮や医師の負担軽減が期待されます。
- 遠隔診断の発展:AI診断支援と遠隔医療技術の組み合わせにより、専門医の少ない地域でも高度な内視鏡診断が可能になる可能性があります。
- 個別化医療への貢献:患者ごとの内視鏡画像データとAI解析を組み合わせることで、より個別化された診断・治療方針の決定が可能になります。
内視鏡メーカー各社は、単なる画質向上や操作性改善だけでなく、AI技術を活用した次世代の内視鏡診断システムの開発に注力しています。今後数年間で、AI診断支援機能は内視鏡検査の標準的な機能として普及していくことが予想されます。
医療機関が内視鏡システムを選定する際には、現在の性能だけでなく、将来的なAI機能の拡張性や更新プログラムの提供体制なども考慮することが重要になるでしょう。