デブリードマンとは何か医療現場での壊死組織除去方法

デブリードマンとは何か

デブリードマンの基本概念
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壊死組織の除去

感染や創傷治癒を阻害する死滅組織を物理的に除去する処置

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創傷治癒の促進

正常肉芽組織の成長を妨げる要因を取り除き治癒環境を整備

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感染制御効果

細菌繁殖の温床となる壊死組織を除去し感染リスクを軽減

デブリードマンとは壊死組織除去の基本概念

デブリードマン(debridement)は、感染や壊死した組織を除去し、創を清浄化することで他の組織への影響を防ぐ外科処置です 。フランス語で「切開」を意味するdébridementに由来し、医療現場では「デブリ」と略されることも多くあります 。

参考)デブリードマン(でぶりーどまん)とは? 意味や使い方 – コ…

この処置の核心は、死滅した組織、成長因子などの創傷治癒促進因子の刺激に応答しなくなった老化した細胞、異物、およびこれらにしばしば伴う細菌感染巣を除去することにあります 。壊死組織は正常な肉芽組織の成長を妨げ、感染症における細菌増殖の場となるため、創傷治癒の原則として位置づけられています 。

参考)デブリードマン :医療・ケア 用語集

現代医療では、褥瘡皮膚潰瘍の局所環境を整え、病変を速やかに治癒に導くために実施される重要な手技として確立されています 。診療報酬点数表上ではK-002として区分され、創傷処理に対するデブリードマン加算も設けられており、その医療的価値が制度面でも認められています 。

参考)デブリードマン – Wikipedia

デブリードマン外科的方法の技術と適応

外科的デブリードマンは、メスやハサミを用いて創の異物、壊死組織を切除する最も効果的かつ代表的な方法です 。電気メスやサージトロンなどによる電気焼却技術も含まれ、スピードが早く即効性があることが特徴です 。

参考)https://www.ellman.co.jp/wp-content/uploads/2021/08/cr_hifuka_b.pdf

除去すべき組織周囲を局所麻酔し、メスや電気メスを用いて不要組織を摘除します 。切除範囲が広範な場合には全身麻酔を要することもありますが、慢性期の狭い範囲の皮膚創傷に対してはベッドサイドにおいて無麻酔下での施行が可能です 。

参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/wound_guideline.pdf

適応となるのは、患者の全身状態の悪化により緊急的な対応が必要な場合や、広範囲の壊死物質に対する処置です 。ただし、主要な神経、血管、腱に対するデブリードマンは一般に禁忌とされており、出血傾向と抗凝固薬・抗血小板薬の内服歴の確認が必要です 。

デブリードマン化学的方法による壊死組織溶解

化学的デブリードマンは、酵素製剤含有軟膏などを用いて壊死物質を融解させる方法で、外科的デブリードマンと比べると長期間の治療を必要としますが、出血などの危険性が少ないのが特徴です 。
日本で承認されている酵素剤は、エレース末とブロメライン軟膏があります 。エレース末はフィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼという繊維素溶解酵素薬で、ブロメライン軟膏はパイナップルから抽出した蛋白分解酵素を水溶性軟膏基剤に混ぜたものです 。

参考)第13回 酵素による化学的デブリードメント href=”https://www.ekinan-clinic.com/publication/110″ target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.ekinan-clinic.com/publication/110amp;#8211; …

カデキソマー・ヨウ素(カデックス軟膏)が最も推奨される薬剤として位置づけられており 、フィブリンや損傷組織・滲出液等の蛋白質由来物質が固化してできた壊死組織を加水分解する働きを持ちます 。適切な湿潤環境を保つことによって自己融解を促進させる方法も併用されます 。

参考)https://tch.or.jp/asset/00032/renkei/CCseminar/20150223jokuso.pdf

デブリードマン生物学的方法とマゴットセラピー

生物学的デブリードマンの代表的な手法として、1990年代から蛆を用いたデブリードマン(マゴットセラピー)が注目を集めています 。マゴットセラピーは医療用無菌マゴットを慢性創傷の壊死組織除去に用いる治療法で、生物を利用したbiotherapyの一種です 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsswc/4/3/4_149/_pdf

ヒロズキンバエの幼虫であるマゴットは、セリンプロテアーゼなどの蛋白質分解酵素を含む消化液を体外に分泌して壊死組織を融解し、ゲル状になったものを吸引・消化します 。この過程は選択的かつ効率的に行われ、正常組織に対する障害作用は少ないため「世界最小の外科医」とも称されています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kontyu/21/3/21_18006J/_pdf

マゴットセラピーの効果はデブリードマン作用だけでなく、抗菌作用と肉芽組織形成促進作用も併せ持ちます 。特にグラム陽性菌感染を伴う創傷に対する抗菌作用があり、MRSA感染に関しても有効性が報告されています 。感染を制御しながら効率的に壊死組織の除去が行われるため、従来の非外科的デブリードマンと比較して時間とコストの削減効果も期待されています 。

デブリードマン特定行為における看護師の役割と安全管理

2015年10月より特定行為に関する制度が開始され、特定の研修を修了した看護師が医師の判断を待たずにデブリードマンを実施できるようになりました 。特定行為としてのデブリードマンでは、医師、特定行為を実施する看護師、特定行為を実施しない看護師がそれぞれのニーズに応じた処置を的確に実施することが重要です 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnwocm/28/1/28_140/_pdf/-char/ja

実施前のアセスメントでは、壊死組織に血流がないこと、関節・会陰部・顔・手以外の部位であること、壊死組織の下に人工物がないこと、悪性腫瘍ではないことなど厳格な適応基準があります 。感染兆候の有無、バイタルサイン、意識レベル、出血傾向、免疫不全等の関連疾患の確認も必須です 。

参考)https://ishikawa-nursenavi.com/media/files/specificact_191105c.pdf

有棘細胞癌や乳癌皮膚転移などの悪性腫瘍における壊死組織は原則としてデブリードマンが禁忌とされ、脊椎や大腿骨頸部骨折後で手術部位に人工物を使用している場合も要注意です 。人工物直上の壊死組織をデブリードマンすることによって重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、慎重な判断が求められます 。