大腿動脈血行再建と血管内治療デバイス

大腿動脈血行再建と血管内治療

大腿動脈血行再建の治療選択肢
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血栓内膜摘除術

総大腿動脈病変に対する第一選択治療法

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血管内治療

低侵襲でデバイス進歩により適応拡大

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止血デバイス

穿刺部合併症の予防と患者負担軽減

大腿動脈血栓内膜摘除術の治療成績

総大腿動脈(CFA)閉塞性病変に対する血栓内膜摘除術(TEA)は、血管内治療全盛の時代においても第一選択の治療法として位置づけられています。総大腿動脈病変は石灰化病変が多く、バルーン拡張のみでは長期開存が期待できません。

TEAの優位性は以下の点にあります。

  • 8mm~10mmの比較的太い動脈に作り直すことができる
  • 再発が少ない手術成績
  • ステント破綻のリスクがない
  • 将来の穿刺アクセスを温存できる

治療成績データによると、大腿動脈TEAの3年開存率は89%、10年開存率は82%と良好な成績を示しています。一方、大腿動脈血管内治療では3年開存率70%、10年開存率65%と、外科的治療に比べて劣る結果となっています。

手技の標準化については施設間で差があり、動脈切開法、パッチ形成術の有無、使用パッチの種類、断端の内膜固定の有無など、手技別の成績について十分な検討が行われていないのが現状です。

大腿動脈血管内治療の最新デバイス

血管内治療(EVT)は近年、新規デバイスの登場により治療適応が変化・拡大しています。特に浅大腿動脈領域を中心に以下のデバイスが注目されています。

薬剤コーティングバルーン(DCB)

  • 再狭窄率の低減効果
  • 長期開存率の改善
  • ステント留置を回避できる利点

薬剤コーテッドステント(DCS)

  • 従来のベアメタルステントより優れた開存率
  • 複雑病変への適応拡大

ステントグラフト

  • 仮性動脈瘤治療への応用
  • 血管外漏出の封鎖効果

血管内治療の適応は、世界的研究(TASC分類)により狭窄や閉塞の場所と長さによって決定されます。しかし、大腿動脈領域では血管内治療成績は手術に比べ不良であり、現段階では積極的な適応はないとする報告もあります。

大腿動脈穿刺部止血デバイスの進歩

大腿動脈穿刺部の止血は、カテーテル治療における最も重要な合併症予防策の一つです。穿刺部関連のトラブルは全体の7割を占めると報告されています。

EXOSEAL(エクソシール)

血管内に異物を残さない吸収性局所止血剤として注目されています。

  • PGAプラグを血管壁外側に留置
  • 血管内に異物を残さない設計
  • 感染リスクの低減
  • 痛みを感じにくい止血機序
  • 30日後から再穿刺可能

VASCADE MVP

大腿静脈用穿刺部止血デバイスとして開発されました。

  • 吸収性コラーゲンパッチを使用
  • 6-12F対応
  • 血管外からの止血補助

止血デバイスの選択により、用手圧迫時間の短縮と患者の負担軽減が可能になります。特に抗凝固療法を受けている患者や、複数回の穿刺が必要な症例では、デバイスの有用性が高まります。

大腿動脈感染性仮性動脈瘤の治療戦略

感染性大腿動脈瘤は、血管外科領域における重篤な合併症の一つです。特に人工血管バイパス術後の感染性仮性動脈瘤は、救肢のための緊急対応が必要となります。

治療の基本原則

  • 感染瘤の完全な掻爬
  • 感染創部を迂回する血行再建
  • 自家静脈の使用が推奨される

血管内治療の応用

ステントグラフト内挿術による治療も報告されています。

  • 仮性動脈瘤のエントリー閉鎖
  • 段階的な瘤の縮小効果
  • 低侵襲治療の可能性

しかし、感染性病変に対する血管内治療は慎重な適応判断が必要で、長期成績については更なる検討が求められます。

下腹壁動脈損傷への対応

穿刺により大腿動脈の分枝である下腹壁動脈を損傷した場合、カテーテル動脈塞栓術(TAE)によるコイル塞栓術が有効です。このような合併症の早期発見と適切な対応が、重篤な後遺症を防ぐ鍵となります。

大腿動脈ハイブリッド手術の臨床応用

ハイブリッド手術は、血管外科医特有の有効な治療戦略として注目されています。特に総大腿動脈に対するTEAと血管内治療を併施する手法は、EVTのみ、あるいは外科治療のみと比較して低侵襲で有用性が高いとされています。

ハイブリッド手術の利点

  • 一期的な多領域治療が可能
  • 患者の負担軽減
  • 入院期間の短縮
  • 総合的な治療成績の向上

適応症例

  • 総大腿動脈病変と浅大腿動脈病変の併存
  • 複雑な多領域病変
  • 高リスク患者での低侵襲治療希望

技術的考慮点

  • 手術野での血管内治療の実施
  • デバイス選択の最適化
  • 術中造影による評価

ハイブリッド手術の長期成績については、今後の症例蓄積と追跡調査が重要です。特に、従来の単独治療法との比較検討により、適応基準の明確化が期待されます。

意外な知見:大腿動脈IMTと下肢ABI

冠動脈疾患患者において、総頚動脈ではなく大腿動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT)が下肢のABI低下と関連していることが示されています。この知見は、大腿動脈IMTの継時的観察により、下肢PADの早期診断につながる可能性を示唆しています。

国立循環器病研究センターの血行再建術に関する詳細情報

https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvs/vascular/vascular-tr-03/

日本血管外科学会の総大腿動脈閉塞性病変に関する論文

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsvs/33/2/33_24-00010/_article/-char/ja

大腿動脈血栓内膜摘除術とハイブリッド手術の成績報告

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jca/62/6/62_21-00023/_article/-char/ja