ダブラフェニブ トラメチニブ 適正使用と投与管理
食事1時間前後の服用で薬の効果が70%も低下します
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法の対象患者選択基準
BRAF遺伝子変異を有する固形腫瘍に対するダブラフェニブとトラメチニブの併用療法は、適切な患者選択から治療が始まります。この治療法は、標準的な治療が困難なBRAF遺伝子変異を有する進行・再発の固形腫瘍(結腸・直腸癌を除く)、BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫、切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌、再発又は難治性の有毛細胞白血病を対象としています。
治療開始にあたって最も重要なのが、承認された体外診断用医薬品又は医療機器によるBRAF遺伝子変異の確認です。遺伝子検査を実施せずに投与することはできません。十分な経験を有する病理医または検査施設における検査により、BRAF V600遺伝子変異が確認された患者のみが投与対象となります。承認された体外診断用医薬品に関する情報はPMDAのウェブサイトから入手可能です。
PMDAのコンパニオン診断薬リストでは承認された体外診断用医薬品の最新情報を確認できます
心疾患またはその既往歴のある患者には慎重投与が必要です。併用療法により症状が悪化するおそれがあるためです。また、中等度以上の肝機能障害患者では、肝臓での代謝と胆汁排泄が主な消失経路であるため、ダブラフェニブおよびトラメチニブの曝露量が増加する可能性に注意が必要です。
国際共同第Ⅱ相臨床試験(X2201試験)では、甲状腺未分化癌36例、胆道癌43例、WHO Grade 1又は2の神経膠腫13例、WHO Grade 3又は4の神経膠腫45例、有毛細胞白血病55例などが組み入れられました。電子添文の臨床成績の項の内容を熟知し、有効性および安全性を十分に理解した上で適応患者の選択を行うことが求められます。
ダブラフェニブ トラメチニブの用法用量と空腹時投与の重要性
ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法における投与方法は、治療効果を最大限に引き出すために極めて重要です。成人の場合、ダブラフェニブは1回150mgを1日2回、トラメチニブは2mgを1日1回、いずれも空腹時に経口投与します。患者の状態により適宜減量することができます。
空腹時投与の重要性は強調しすぎることはありません。食事の影響により薬物動態が大きく変化することが報告されているからです。ダブラフェニブを高脂肪食後に投与すると、空腹時投与に比べてCmaxが51%低下し、AUCも変動します。トラメチニブについても、高脂肪・高カロリー食摂食後の単回経口投与では、AUCおよびCmaxがそれぞれ約10%および70%低下し、Tmaxが約2.5時間遅延することが確認されています。
つまり、こういうことです。食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けなければなりません。この時間帯に服用すると薬剤が十分に吸収されず、期待される治療効果が得られなくなるリスクがあります。患者には朝食前と夕食前、または食間など、空腹時に確実に服用できる時間帯を設定することが重要です。
小児の場合は体重に応じた用量調節が必要で、トラメチニブとの併用において、ダブラフェニブは38kg未満の患者に75mg、38kg以上43kg未満の患者に100mg、43kg以上51kg未満の患者に125mg、51kg以上の患者に150mgをそれぞれ1日2回、空腹時に経口投与します。固形腫瘍においては成人および小児に対する用法用量が、有毛細胞白血病においては成人に対する用法用量のみが承認されています。
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法の減量基準と休薬管理
副作用発現時の適切な用量調節は、治療を継続するために不可欠です。ダブラフェニブの通常投与量は1回150mg(1日2回)ですが、1段階減量で1回100mg、2段階減量で1回75mg、3段階減量で1回50mgとなります。トラメチニブの通常投与量は2mg(1日1回)で、1段階減量で1.5mg、2段階減量で1mgです。
休薬、減量及び中止基準はNCI-CTCAEによるGrade判定に基づきます。忍容不能なGrade 2の副作用、またはGrade 3以上の副作用が発現した場合には、Grade 1以下に回復するまで休薬します。
回復後は1段階減量して投与を再開します。
同じ副作用が再発した場合には、さらに1段階減量して投与を継続するか、投与を中止します。
適正使用ガイドでは、薬剤を減量・中止する場合は原則として両剤を同時に減量・中止することとされています。
この原則は重要ですね。
ただし、NCCNガイドラインなど一部の治療指針では、副作用の種類や患者の状態に応じて片方のみを調整する方法も示されています。
例外的な対応として重要なのが、有棘細胞癌(皮膚扁平上皮癌)または新たな原発性悪性黒色腫が発現した場合です。この場合には、外科的切除等の適切な処置を行った上で、休薬、減量することなく治療を継続できるとされています。皮膚悪性腫瘍の発生は本併用療法の既知の副作用であり、適切な処置を行えば治療継続が可能です。
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法における発熱マネジメント
発熱は本併用療法で最も頻度の高い副作用であり、適切な管理が治療継続の鍵となります。E2201試験においてダブラフェニブ・トラメチニブの併用投与で観察された主な副作用は、発熱(49.5%)、悪心(38.7%)、嘔吐(26.9%)、皮膚乾燥(26.9%)等でした。悪性黒色腫の術後補助療法においては発熱の発現頻度が56.1%とさらに高くなります。
発熱は投与開始後早期に発現することが多く、約半数の患者で経験されます。発熱時の適切な対応としては、まず解熱剤による症状緩和を試みることです。Grade 2(38.0℃超~40.0℃)の発熱で解熱剤に反応する場合は、減量せずに治療を継続できることがあります。しかし、解熱剤に反応しない場合や、Grade 3(40.0℃超)の発熱の場合には休薬が必要です。
発熱マネジメントのポイントが整理されます。発熱が発現した際には、まず感染症など他の原因を除外することが重要です。本剤による発熱であることが確認されたら、解熱剤(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)を投与し、体温のモニタリングを継続します。発熱が持続または再発する場合には、適正使用ガイドに記載された発熱に対するマネジメントと用量調整のガイダンスに従って対応します。
発熱時の横紋筋融解症の発生にも注意が必要です。ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法開始後、約20日で横紋筋融解症を発症する例が報告されており、発熱に筋症状を伴う際は横紋筋融解症を念頭に置いて、CK(クレアチンキナーゼ)、ミオグロビンなどの検査を実施する必要があります。
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法の併用薬剤と相互作用
併用薬剤の確認と相互作用への対応は、治療の安全性を確保するために極めて重要です。ダブラフェニブはCYP2C8およびCYP3A4の基質となり、またCYP2C9およびCYP3A4を誘導することが示されています。このため、多くの薬剤との相互作用が懸念されます。
CYP3A阻害剤(ケトコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル等)との併用により、ダブラフェニブの代謝が阻害され、血中濃度が上昇するおそれがあります。ケトコナゾールとの併用ではダブラフェニブのAUCが約71%増加したことが報告されています。同様に、CYP2C8阻害剤(ゲムフィブロジル等)との併用でもダブラフェニブのAUCが約47%増加します。
CYP3A阻害作用のない薬剤への代替を考慮することが推奨されます。やむを得ずこれらの阻害剤とダブラフェニブを併用投与する場合には、患者の状態を慎重に観察し、副作用の発現・増強に注意してください。
一方、CYP3A及びCYP2C8誘導剤(リファンピシン等)との併用では、ダブラフェニブの代謝が促進され、血中濃度が低下する可能性があります。この場合も誘導作用のない薬剤への代替を考慮すべきです。
ダブラフェニブ自身がCYP3AやCYP2C9を誘導するため、これらの酵素により代謝される薬剤の血中濃度を低下させる可能性があります。特に経口避妊薬(ノルエチステロン・エチニルエストラジオール等)、デキサメタゾン、ワルファリンなどとの併用では、これらの薬剤の有効性が減弱する可能性に注意が必要です。経口避妊薬を服用している妊娠可能な女性患者には、別の避妊方法を併用するよう指導することが重要です。
また、OATP1B1およびOATP1B3の基質であるHMG-CoA還元酵素阻害剤(ロスバスタチン等)との併用では、ダブラフェニブがこれらのトランスポーターを阻害することにより、これらの薬剤の血中濃度が上昇するおそれがあります。ロスバスタチンとの併用によりロスバスタチンのCmaxおよびAUCが増加したことが報告されています。
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法の心機能モニタリング
心機能障害は本併用療法における重大な副作用の一つであり、定期的なモニタリングと早期対応が必要です。左室駆出率(LVEF)の低下が報告されており、投与期間中は心機能検査(心エコー図または心臓MRI)を定期的に実施することが推奨されています。
投与前にベースラインのLVEFを測定し、投与開始後は最初の2~3ヵ月は月1回、その後は2~3ヵ月ごとに測定します。患者の状態により測定頻度は適宜調整してください。LVEFの絶対値が施設基準値の下限未満に低下した場合、またはベースラインから10%以上かつ施設基準値の下限未満に低下した場合には、用量調整または投与中止を検討します。
Grade 2の心機能低下(無症状でLVEFが安静時正常値の下限未満、ベースラインから10~19%の低下)では、最大4週間休薬し、LVEFがベースライン値に回復すれば1段階減量して投与を再開します。Grade 3以上の心機能低下(症状を伴う心不全、またはLVEFがベースラインから20%以上低下し施設基準値の下限未満)では、投与を中止します。
心疾患または心疾患の既往歴のある患者では、特に注意深いモニタリングが必要です。これらの患者では症状が悪化するおそれがあるためです。心電図検査、心臓超音波検査、血中BNPやNT-proBNP測定などを組み合わせて、総合的に心機能を評価することが望ましいです。
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法投与中の検査スケジュール
治療期間中の定期的な検査は、副作用の早期発見と適切な対応のために不可欠です。投与開始前にベースライン検査として、血液検査(血算、肝機能、腎機能、電解質、血糖など)、心機能検査(心エコーまたは心臓MRI)、眼科検査などを実施します。
肝機能検査は特に重要で、投与期間中は定期的にAST、ALT、ALP、ビリルビン値を測定します。肝機能障害が発現した場合には、Grade分類に基づいて休薬、減量、中止を判断します。Grade 2(AST/ALTが正常値上限の2.5~5倍)では休薬を考慮し、Grade 3以上(AST/ALTが正常値上限の5倍超)では休薬が必要です。
血液検査については、投与開始後の最初の数ヵ月は2週間から1ヵ月ごとに実施し、安定すれば2~3ヵ月ごとに実施します。白血球減少、血小板減少、貧血などの骨髄抑制が発現することがあるため注意が必要です。
眼科検査も定期的に実施することが推奨されます。ぶどう膜炎、網膜静脈閉塞症などの眼障害が報告されているためです。霧視、羞明、眼痛などの症状が出現した場合には、直ちに眼科受診を指示してください。
皮膚の観察も忘れてはいけません。有棘細胞癌や新たな原発性悪性黒色腫などの二次性悪性腫瘍が発現することがあります。定期的に全身の皮膚を観察し、新たな皮膚病変が出現した場合には、速やかに皮膚科専門医に紹介して生検などの精査を行います。
ダブラフェニブ トラメチニブ併用療法における患者指導のポイント
患者および家族への適切な情報提供と服薬指導は、治療の成功に直結します。治療開始前に、投与の目的、期待される効果、起こりうる副作用、対処法について十分に説明し、同意を得ることが必須です。
服薬方法については、空腹時投与の重要性を繰り返し強調する必要があります。食事の1時間前から食後2時間までの間の服用を避けること、毎日決まった時間に服用することを指導します。
飲み忘れた場合の対処法も説明しておきます。
次回の投与まで12時間以上ある場合は気づいた時点で服用し、12時間未満の場合はその回をスキップして次回から通常通り服用するよう指導します。
妊娠可能な女性患者には、適切な避妊の重要性を説明します。ダブラフェニブ投与中および投与終了後、目安として少なくとも2週間は適切な避妊を行う必要があります。トラメチニブについては投与終了後、目安として少なくとも4ヵ月間は適切な避妊を行うよう指導してください。両剤を併用している場合には、より長い期間(トラメチニブの4ヵ月)を採用します。
パートナーが妊娠する可能性のある男性患者には、不可逆的な精子形成機能障害を起こすおそれがあることを説明し、ダブラフェニブ投与中および投与終了後、目安として少なくとも16週間は適切な避妊を行うよう指導します。動物実験では精巣・精巣上体に悪影響が認められ、休薬後においても回復性は認められなかったことが報告されています。
副作用の早期発見のため、発熱、皮膚の変化、視力の変化、息切れ、胸痛、筋肉痛などの症状が出現した場合には、速やかに医療機関に連絡するよう指導します。特に発熱は頻度が高いため、体温計を自宅に用意し、発熱時には記録をつけるよう勧めます。
日常生活における注意点として、紫外線対策の重要性も伝えます。本剤投与中は光線過敏症のリスクが高まるため、外出時には日焼け止めクリーム(SPF30以上)を使用し、帽子や長袖の衣服で皮膚を保護するよう指導します。また、定期的な皮膚の自己チェックを習慣づけるよう勧めます。
併用薬剤についても注意が必要です。市販薬やサプリメント、健康食品を使用する前には必ず医師または薬剤師に相談するよう指導します。特にグレープフルーツジュースはCYP3A4を阻害するため、摂取を避けるよう説明します。患者が現在服用している全ての薬剤を把握し、相互作用のリスクを評価することが重要です。