CPPD結晶沈着症 診断と治療
CPPD結晶沈着症の診断と検査の基本
CPPD結晶沈着症(いわゆる偽痛風を含む概念)は、ピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)結晶が関節軟骨や周囲組織に沈着し、急性または慢性の関節炎を起こし得る病態です。
日本リウマチ学会の解説でも、高齢の炎症性関節炎ではCPPDを疑う重要性が強調されています。
確定診断の「王道」は、関節穿刺で得た滑液からCPPD結晶を同定することです。日本リウマチ学会の記載では、偏光顕微鏡で「菱形または桿状」で、複屈折性は「ない、または弱い正の複屈折性」と説明されています。
一方で、臨床現場では穿刺が難しい・検体の扱いで結晶を見落とす・偏光顕微鏡がすぐ使えない、などの理由で「画像でどこまで詰められるか」が問題になります。X線では半月板などの線状石灰化(軟骨石灰化)が典型ですが、石灰化が乏しい初期例や、部位によっては感度が十分でないこともあります。
近年の流れとして、研究目的ではありますがACR/EULARの分類基準が整備され、臨床像・関連する代謝異常・検査(結晶/画像)を統合して扱う考え方が明確になりました。特に「crowned dens syndrome」や「滑液中CPP結晶」があれば、それだけでCPPDとして分類できる、と記載されています。
超音波検査は、関節軟骨内の高エコー線状像などCPPDを示唆する所見を拾えるため、穿刺やX線を補完しやすいモダリティです。さらに“痛風のdouble contour sign”と見分ける工夫として、動かしたときのエコー輝度帯の動きで「痛風(MSU)とCPPDのpseudo DC sign」を鑑別する、という報告もあります。
(Dynamic assessment of the double contour sign:2023)
■現場での検査の優先順位(目安)
- 発熱/強い炎症/免疫抑制/人工関節/皮膚感染などがあれば:まず感染性関節炎を除外する目的で関節穿刺+培養(可能なら結晶も同時)。
- 典型的な膝の急性発作で、画像で軟骨石灰化が明瞭:CPPDを第一に考えつつ、可能なら穿刺で確定。
- 鑑別が難しい(痛風疑い、RA/PMR様、頚部痛など):超音波やCT(頚椎)を積極的に組み合わせる。
CPPD結晶沈着症の治療とNSAIDsとコルヒチン
CPPD結晶沈着症の治療は、結晶を溶かす「特効薬」が現時点で確立していないため、急性炎症を抑え、再発や慢性症状をコントロールする対症療法が中心になります。慶應義塾大学病院KOMPASの解説でも、予防や溶解の特効薬がなく、痛みを和らげる対症療法が中心と説明されています。
急性発作(acute CPP crystal arthritis)では、EULARの推奨として「冷却・安静」と「関節穿刺(必要に応じてステロイド関注)」がしばしば十分である、とされています。薬物療法の軸としては、NSAIDs(胃保護併用が望ましい)や、低用量コルヒチンが選択肢として挙げられています。
(EULAR recommendations Part II:Management 2011)
コルヒチンについては「痛風の薬」という印象が強い一方、CPPDでも予防や慢性炎症の選択肢に含まれます。EULAR推奨では、再発予防や慢性炎症に対して低用量コルヒチン0.5〜1.0mg/日が選択肢として記載されています。
(EULAR recommendations Part II:Management 2011)
ただし高齢者が多い疾患である以上、腎機能低下、併用薬(マクロライド系など)、消化器症状、骨髄抑制などのリスクを常に意識する必要があります。臨床的には「NSAIDsが使いにくい」「コルヒチンで下痢が出る」「糖尿病で全身ステロイドを避けたい」など、併存症で初手が変わりやすいのがCPPDの難しさです。
(EULAR recommendations Part II:Management 2011)
“意外なポイント”として、急性期治療のエビデンスは長らく乏しかったものの、近年は「コルヒチン vs プレドニゾロン」を比較する試験が議論されるようになっています(詳細は研究報告や二次情報に依存するため、個々の患者では禁忌と副作用プロファイルで選ぶ姿勢が重要です)。また、急性期に関節穿刺を行う目的は「治療(除圧)」と「診断(感染除外/結晶同定)」の二兎を追える点にあり、可能なら早期に実施したい手技です。
(EULAR recommendations Part II:Management 2011)(日本リウマチ学会:偽痛風)
■急性期の実装例(考え方)
- 関節穿刺できる:穿刺+必要に応じて関注ステロイド(感染が否定的であることが前提)
- NSAIDsが使える:短期で最大炎症期を抑える(胃腸・腎・心血管リスクを評価)
- NSAIDsが難しい:ステロイド(関注/内服)やコルヒチンを検討
- 多関節・再発が多い:低用量コルヒチンによる再発抑制を検討(副作用に注意)
CPPD結晶沈着症と画像と関節穿刺
CPPD結晶沈着症は、同じ「結晶誘発性関節炎」でも、痛風のように単関節の典型像だけでは語れないのが特徴です。たとえば膝の急性発作は比較的典型的でも、手関節、肩、足関節、さらには脊椎周囲に沈着して非典型症状を起こすことがあります。
画像診断の使い分けとして、単純X線はまず行いやすく、膝の半月板などで軟骨石灰化を捉えられればCPPDを強く示唆します。日本リウマチ学会の説明でも「まずX線で軟骨の線状石灰化像を確認」し、典型例では膝の半月板石灰化が挙げられています。
一方、X線で石灰化が見えないからといってCPPDが否定できない点が落とし穴です。超音波は軟骨や線維軟骨の高エコー沈着を描出でき、さらに滑膜炎や関節液貯留も同時評価できるため、穿刺ターゲットの決定にも役立ちます。痛風とCPPDの鑑別に関しては、前述の“dynamic assessment”のように、エコー所見の「動き方」でMSUとCPPDのpseudo DC signを見分ける、という実践的な工夫が提案されています。
(Dynamic assessment of the double contour sign:2023)
関節穿刺は、CPPDの診断において「確定」と「除外(感染)」の両方に直結します。日本リウマチ学会のページでも、関節穿刺液でCPPD結晶が確認できれば診断確定と明確に書かれており、偏光顕微鏡での結晶同定が推奨されています。
■穿刺・検体の実務のコツ(失敗を減らす観点)
- 「結晶検査も出す」ことをオーダーで明示(培養だけではCPPDが残る)。
- 可能なら迅速に偏光顕微鏡へ(時間経過・処理で見え方が変わり得る)。
- 強い発赤腫脹や発熱では、結晶が見えても感染性関節炎を同時に否定しない(併存の可能性を常に残す)。
CPPD結晶沈着症の鑑別とcrowned dens syndrome
CPPD結晶沈着症の鑑別は、臨床上「痛風」「感染性関節炎」「関節リウマチ(特に高齢発症)」「変形性関節症増悪」などが中心になります。ACR/EULAR分類基準でも、CPPDの鑑別として慢性型ではRA、急性型では痛風、OA with CPPDなどが挙げられており、病型により比較対象が変わる点が重要です。
(The 2023 ACR/EULAR classification criteria for CPPD)
なかでも医療者が知っておくべき非典型が、crowned dens syndrome(CDS)です。CDSは歯突起周囲にCPPDが沈着し、急性の頚部痛・発熱・炎症反応高値を示し、髄膜炎や巨細胞性動脈炎など別疾患に見誤られやすい点が臨床的な危険になります。ACR/EULAR分類基準ではCDSが「それだけでCPPDとして分類できる所見」として扱われています。
(The 2023 ACR/EULAR classification criteria for CPPD)
画像の要点としては、頚椎CTで歯突起周囲に“冠状(crown-like)”の石灰化を示すことが典型です。症例報告レベルではありますが、CDSで骨びらんや腫瘤効果を伴い得ることも報告されており、単なる「頚椎症の痛み」と片付けない視点が求められます。
(CPPD Crowned Dens Syndrome case report:2011)
“意外な臨床の落とし穴”として、CPPDはPMR(リウマチ性多発筋痛症)様の近位痛+炎症反応高値をとり得るため、ステロイド反応だけでPMRと決め打ちすると真因が残ることがあります。PMR様症状の鑑別としてCPPDが議論されるレビューもあり、高齢者の近位痛では肩・股関節だけでなく、膝や手関節、頚部所見まで含めた評価が役立ちます。
(CPPDはPMRのmimickerになり得る:2025 review)
■鑑別の実践ポイント
- 痛風 vs CPPD:尿酸値だけで判断しない(急性期は尿酸が正常でも痛風はあり得るため、結晶/画像で詰める)。
- 感染性関節炎:高齢・免疫抑制・皮膚感染・人工関節では最優先で除外。
- RA様:血清反応陰性RAとして経過を見ている症例にCPPDが潜むことがあるため、画像(軟骨石灰化)や結晶で再評価。(Seronegative RA cohortでのCPPD分類基準適用:2024)
CPPD結晶沈着症と代謝異常と低マグネシウムの独自視点
CPPD結晶沈着症は「高齢者の膝の偽痛風」として理解されがちですが、若年発症や多関節例では“背景疾患の探索”が臨床価値を持ちます。若年例では、代謝・内分泌疾患(血色素症、原発性副甲状腺機能亢進症、低マグネシウム血症、低ホスファターゼ症など)が関連し得る、とまとめた報告があります。
(Diseases associated with calcium pyrophosphate deposition:1992 review)(Magnesium disorders can cause CPPD:2017)
ここで独自視点として強調したいのは、「低マグネシウム血症(hypomagnesemia)」が“見落とされやすい可逆的要因”になり得る点です。低MgがCPPDと関連し得ることは症例レビューでも論じられており、原因として利尿薬、消化管からの喪失、遺伝性尿細管疾患など多彩です。
(Magnesium disorders can cause CPPD:2017)
実務的には、以下のような状況で「Mgを測る」という小さな追加が、鑑別と再発予防の設計に効くことがあります。強い炎症を繰り返す患者で、NSAIDsやステロイド調整だけに終始すると再燃ループに入りやすい一方、背景の電解質異常に気づけば介入の余地が生まれます。
(Diseases associated with calcium pyrophosphate deposition:1992 review)
■Mgや代謝スクリーニングを考える目安(例)
- 55歳未満のCPPD、多関節性、反復性、家族歴が疑わしい。(Young patient CPPD case report:2003)
- 検査で説明しにくい低K/低Mg、利尿薬使用、慢性下痢、PPI長期などが背景にある。(Magnesium disorders can cause CPPD:2017)
- 関節所見が「痛風/RA/感染」のどれにも完全には合わず、再燃のトリガーが読めない。
必要に応じて、血清Mgだけでなく、PTH・Ca・P・ALP、フェリチン/トランスフェリン飽和度(血色素症の示唆)なども組み合わせ、二次性CPPDの背景を丁寧に拾うのが合理的です。代謝異常との関連は古典的レビューでも整理されており、「全例に広範なスクリーニング」ではなく「若年・重症・非典型で狙って調べる」という発想が現実的です。
(Diseases associated with calcium pyrophosphate deposition:1992 review)
権威性のある日本語の参考(偽痛風の概念、診断、関節穿刺、X線の典型所見)。
権威性のある日本語の参考(病型、検査、治療の概観、外科治療にも言及)。