CPPD結晶沈着症の診断と治療
CPPD結晶沈着症の診断 関節穿刺 偏光顕微鏡
CPPD結晶沈着症(いわゆる偽痛風を含む)は、高齢者の急性炎症性関節炎で常に鑑別に置くべき結晶誘発性関節炎で、診断の確度は「結晶の証明」で一気に上がります。日本リウマチ学会の解説でも、X線で典型的石灰化像を確認しつつ、最終的には関節穿刺液でCPPD結晶が確認できれば診断確定と整理されています。特に「偏光顕微鏡で、複屈折性を示さない、または弱い正の複屈折性を示す菱形/桿状の結晶」を同定することが確定診断の核です。
ただし実臨床では、穿刺液の提出・観察の手順が“結晶を見つけられるか”を左右します。提出された関節液は速やかに処理して鏡検し(遠沈して沈渣を無染色で観察する手順が紹介されています)、標本全体を丁寧に走査して典型的な結晶を探すことが重要です。結晶は少量で散在することがあり、観察者の手技差(どれだけ「結晶を探しにいくか」)が診断率に直結します。
臨床的に一番重要な注意点は、CPPD結晶沈着症を疑っても「化膿性関節炎を除外しない」まま治療に進まないことです。急性単関節炎で発熱やCRP上昇を伴う状況は、CPPDでも起こりえますが、同じ見た目が感染でも起こるため、関節穿刺は“結晶を見る”だけでなく“感染を落とす”意味が大きい検査になります(高齢者ほど両者が紛れやすい)。
また、X線で石灰化が見えたからといって「結晶性関節炎の急性発作」を断定しない点も実務的です。石灰化は無症候性に存在し得る一方、発作時は滑膜炎・関節液貯留が強く、臨床像と結晶所見をセットで捉える必要があります。
(診断の実務に役立つ日本語参考リンク:診断確定に必要な“関節穿刺液+偏光顕微鏡でCPPD結晶確認”の要点)
日本リウマチ学会:偽痛風(CPPD結晶沈着症)の診断と関節穿刺の要点
CPPD結晶沈着症の画像 X線 石灰化 超音波
画像は「確定」よりも「疑う・部位を当てる・鑑別を整理する」ための道具として使うと破綻しにくいです。一般にX線でのchondrocalcinosis(線維軟骨や関節軟骨の石灰化)はCPPDを支持しますが、画像だけで診断を完結させると見落としと誤診の両方が起こり得ます。実際、画像レビューでは“単純X線は臨床的に重要なCPPDの約40%しか検出できない”とされ、X線のみで陰性だからCPPDを否定するのは危険です。
そのギャップを埋める方法として関節超音波(エコー)が注目され、膝などで軟骨内の石灰化や沈着を描出でき、患者負担が少ない利点があります。膝のchondrocalcinosisに対して高周波超音波の感度・特異度を検証した研究もあり、画像診断の補助としての位置づけが強化されています。日常診療では「穿刺が難しい/拒否がある」「穿刺前に当たりをつけたい」「複数関節の沈着を評価したい」といった場面で、超音波が役立ちます。
一方で、エコー所見は部位・プローブ設定・観察者経験に依存し、CPPD“っぽい”所見が他疾患に重なることもあります。例えば、手指MCP関節の評価ではRAとの鑑別が問題になり、滑膜肥厚やパワードップラー、骨びらんの有無など「炎症のパターン」を合わせて読む必要がある、という臨床的注意が指摘されています。
さらに“意外な落とし穴”として、CPPDは関節だけでなく靱帯や脊椎周囲にも沈着し得ます。頸椎黄色靱帯などに沈着してMRIで強い造影効果を示し、感染や腫瘍のように見えることがあるため、CTが鑑別に重要だったケース報告もあります。
CPPD結晶沈着症の治療 NSAIDs コルヒチン ステロイド
CPPD結晶沈着症の急性発作治療は、結晶そのものを除去・溶解する確立した方法がないため、炎症を速やかに抑えることが中心になります。臨床教育資料や解説でも、選択肢はNSAIDs、コルヒチン、糖質コルチコイド(内服・点滴・関節内注射)で、単関節なら関節内ステロイドが有効な選択肢になり得る、という整理がなされています。
コルヒチンは、開始タイミングが早いほど効果が出やすいとされ、発作開始から12時間以内の投与で有効性が高いという実務的な指摘があります。高齢者では腎機能低下、併用薬(CYP3A4/P-gp阻害薬など)や下痢などの副作用が問題になりやすく、「効く薬」ではあっても漫然投与が難しい点が特徴です。
NSAIDsは有効ですが、腎機能・消化管出血・心不全・抗凝固療法などの併存症がある患者では使いにくく、実臨床では“使えない理由”が多い薬でもあります。短期の全身ステロイドは即効性が期待でき、複数関節炎やNSAIDs/コルヒチンが難しい状況で選ばれやすい一方、高血糖、せん妄、感染リスクなどが高齢者で顕在化しやすい点に注意が必要です。
また、Crowned dens syndrome(歯突起周囲のCPPD沈着による急性頸部痛・発熱・炎症反応上昇)など体幹部のCPPDでは、髄膜炎様に見えることがあり、原因が結晶性炎症だと分かれば抗菌薬の不要な長期投与や過剰検査を減らせます。CDSはCTで歯突起周囲の冠状石灰化を確認するのが特徴とされ、診断がつけばNSAIDsやステロイドで改善することが多いとされています。
(治療選択の考え方に役立つ日本語参考リンク:CPPDの診断・治療(関節穿刺、X線/エコー、薬物治療の概説))
慶應義塾大学病院 KOMPAS:ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(診断と治療の概要)
CPPD結晶沈着症の原因 低マグネシウム血症 副甲状腺機能亢進症
検索上位では「高齢者の偽痛風」「膝の石灰化」といった説明が中心になりがちですが、医療従事者向けには“若年・反復・非典型”で疑うべき二次性原因の棚卸しが臨床価値になります。CPPDは加齢に伴って増える一方、若年発症や難治例では、ヘモクロマトーシス、副甲状腺機能亢進症、低マグネシウム血症、低ホスファターゼ症などの代謝性背景が関連し得るとまとめられています。実際、低マグネシウム血症がCPPDを引き起こし得ることを症例と文献レビューで示した報告もあり、特に若年例では代謝異常の検索が推奨されます。
ここで“意外に見落としやすい”のが低マグネシウム血症です。低Mgは、利尿薬、消化管吸収不良、アルコール、Gitelman症候群など多彩な原因で起こり、関節炎としてはまず感染や自己免疫を疑ってしまうことがあります。若年のCPPDや多関節・反復例でMgが測られていない場合、補正可能な要因が残っている可能性があります。
ただし重要な現実として、これらの背景因子を治療すれば「CPP結晶沈着そのものが消える」とは限りません。頸部CPPD(CDS)を含むCPPDでは、症状が改善してもCTで石灰化が消失しない/不変である例が報告されており、画像所見の“残りやすさ”を知っておくと、治療後の説明(症状は良くなったのに石灰化が残る不安)に役立ちます。
臨床の実装としては、(1)若年・反復・多関節・非典型部位、(2)家族歴や代謝疾患の示唆、(3)関節炎以外の徴候(肝機能異常や皮膚色素沈着、腎尿細管障害など)がある、という条件のときに、Ca/P/Mg、PTH、鉄関連、ALPなどを系統的に評価すると診療の質が上がります。
(代謝性背景のヒントになる参考リンク:CPPDの二次性原因として低Mg血症・副甲状腺機能亢進症・ヘモクロマトーシス等を挙げている)
東京北医療センター:偽痛風(CPPD)の背景疾患(低Mg血症など)
(論文引用:低マグネシウム血症とCPPDの関連を症例と文献レビューで整理)
Magnesium disorders can cause calcium pyrophosphate deposition disease: A case report and literature review