聴神経鞘腫の症状と初期症状、診断から進行まで

聴神経鞘腫の症状

聴神経鞘腫の主要症状
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初期症状

片側性の難聴、耳鳴り、めまいが三主徴として出現

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進行時の症状

顔面神経麻痺、三叉神経障害、小脳失調などの脳神経症状

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重症化の徴候

水頭症、脳幹圧迫による歩行障害、意識障害のリスク

聴神経鞘腫の初期症状と早期発見のポイント

聴神経鞘腫は内耳道に発生する良性の神経鞘腫で、初期症状が軽微で進行が緩徐なため、発見が遅れやすい特徴があります。最も多い初発症状は片側性の聴力低下で、電話の声が聞き取りにくい、人ごみでの会話が不明瞭になるといった日常生活での違和感から気づくことが多いです。

参考)https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis13/


初期には「めまい」→「耳鳴り」→「聴力低下」という順で症状が進行し、これらが「三主徴」として位置づけられています。発症から1~2年経過すると耳鳴りが現れ、最も多いのは「キーン」という高音ですが、「ザー」「ゴー」「シュー」といった雑音型もあります。

参考)聴神経腫瘍とは(1)|初期症状・診断の注意点・治療法を専門医…


日常生活の中でふと起こる軽いめまい発作が初期症状として認められ、立ち上がった瞬間や歩行中にふらつくことがあるのです。症状が少しずつ進むため、患者本人が「年齢のせい」や「疲れのせい」と誤解し、受診が遅れるケースも少なくありません。​
千葉大学大学院医学研究院 脳神経外科学「聴神経腫瘍」

※聴神経腫瘍の初発症状と早期診断について詳細な解説が記載されています

聴神経鞘腫の進行と脳神経症状

腫瘍が直径2~3cm程度に成長すると、周辺の脳神経を圧迫し始め、より重篤な症状が出現します。顔面神経が刺激されると顔面のしびれや顔面神経麻痺が生じ、まぶたの開閉がうまくできない、口が閉じられないといった症状を伴います。

参考)聴神経腫瘍とは(2)|診断〜手術・治療戦略を専門医が詳しく解…


三叉神経が障害されると、顔面の触覚や口腔・鼻腔の感覚障害が現れ、顔面けいれんや三叉神経痛を伴うこともあります。さらに小脳や脳幹を圧迫するようになると、小脳失調による運動障害、歩行障害、眼球運動障害、嚥下機能障害などが生じるのです。

参考)聴神経鞘腫(聴神経腫瘍)(症状・原因・治療など)|ドクターズ…


前庭神経鞘腫の症状発現には「Cushing chronology」として知られる古典的な経過があり、耳鳴りや難聴が生じ、次第に進行して平衡障害としてめまい感、歩行不安定、顔面のしびれや痛みが出現し、最後には脳幹を圧迫して頭蓋内圧亢進をきたします。

参考)聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)

聴神経鞘腫の診断方法とMRI検査の重要性

聴神経鞘腫の診断には、聴力検査とMRI検査が必須です。最初に聴力検査で片側性の感音難聴が検出され、難聴の程度から予想されるよりも強い語音弁別能の障害が認められた場合、MRI検査が必要となります。

参考)前庭神経鞘腫 – 16. 耳鼻咽喉疾患 – MSDマニュアル…


ガドリニウム造影MRIでは、内耳道内に限局する数mm程度の小腫瘍から、小脳橋角部に発育した大きなものまで明瞭に描出することができます。しかし、めまいスクリーニング目的の単純脳MRIでは病変が見過ごされる場合があるため、内耳道を細かく診るthin slice条件での撮影が必要です。

参考)メニエール病と鑑別が必要な腫瘍性疾患 (耳鼻咽喉科・頭頸部外…


診断が確定した後の経過観察では、ガドリニウム造影剤の使用は不要で、CISSやFIESTAでの経過観察で十分であり、腫瘍サイズも1mm単位で精密に測定できます。聴性脳幹反応検査では波形の消失および第V波の潜時の延長が示される場合があり、聴神経鞘腫を診断するための補助的検査として有用です。​
国際的な研究によると、945例の聴神経鞘腫患者の分析では、最も多い初発症状が片側性聴力低下であり、752例に認められました。また、正常聴力を持つ聴神経鞘腫患者においても、聴性脳幹反応検査の感度は95.9%であり、V波の異常型は腫瘍サイズと関連していることが報告されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5768319/


京都大学医学部附属病院 脳神経外科「聴神経鞘腫」

※聴神経鞘腫の診断と治療選択について権威ある情報が掲載されています

聴神経鞘腫の鑑別診断:突発性難聴やメニエール病との違い

聴神経鞘腫は初期症状が突発性難聴メニエール病と類似しているため、鑑別診断が重要です。メニエール病は「めまい、耳鳴、難聴の3つの症状が反復する」ことが特徴で、めまい発作の持続時間は10分程度から数時間程度とされています。

参考)メニエール病


メニエール病の診断では、症状の変動と反復が条件となっているため、初回の発作時には診断を確定するのは困難であり、聴覚・前庭機能検査だけでは腫瘍性病変を除外することはできません。このため、MRIによる画像診断が必須となるのです。​
画像診断せずに臨床経過のみからメニエール病と診断されている症例はいまだに多く、漫然と経過観察を続けない心構えが重要とされています。聴神経腫瘍に関連する急性感音難聴は、突発性難聴と比較して「発症年齢が若い」「ステロイド治療により治癒しやすい」「谷型聴力像を呈しやすい」という特徴があります。

参考)聴神経腫瘍に関連する急性難聴の治癒と再発の解析−画像検査が特…


突発性難聴として治療を受けた患者の中にも、後にMRI検査で聴神経鞘腫が発見されるケースが存在するため、突発型難聴についても聴神経鞘腫の可能性を除外する必要があります。中年以後の緩徐進行性の一側性難聴を訴える場合は聴神経鞘腫の可能性を考え、耳鼻科的検査と画像診断を行うことが推奨されます。

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1885

聴神経鞘腫の重症化リスクと予後に影響する因子

聴神経鞘腫は良性腫瘍であるため、他の臓器に転移したり、1~2カ月で急激に大きくなることはありませんが、腫瘍が徐々に成長し、大きくなると脳を圧迫するようになります。最終的には歩行障害、意識障害などをきたし、生命にかかわってくる病気です。

参考)聴神経腫瘍|千葉大学大学院医学研究院 脳神経外科学


腫瘍が産生する高蛋白液により、髄液吸収障害が生じ、水頭症を併発することもあります。また、まれに腫瘍内出血で腫瘍が急に増大することもあるため、注意が必要です。​
聴神経鞘腫は緩徐増大することが多いですが、あまり増大しない時期、緩徐に増大する時期、急激に増大する時期などがあります。あまり増大しないと思って経過を診てもらっていないと大きく成長していることもありますので、定期的な画像検査による経過観察が重要なのです。​
聴力障害は95%の患者に認められますが、ほとんどの腫瘍はサイズの進行がないか低い成長率を示します。しかし、臨床像は予測不可能なダイナミクスを持ち、現在のところ腫瘍の挙動を予測する信頼できる指標はありません。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9856152/


腫瘍が小さい場合は全摘できる可能性があり、放射線療法も有効ですが、腫瘍が大きいと周辺の脳組織、脳神経、脳血管などを巻き込むため、全摘出は難しくなります。このために残存腫瘍に対して放射線療法を行うこともあります。​

腫瘍サイズ 主な症状 治療選択
3cm以下 聴力低下、耳鳴り、めまい 経過観察、放射線治療、外科的治療
2~3cm 顔面神経麻痺、三叉神経障害、小脳失調 外科的治療+放射線治療
3cm以上 脳幹圧迫、水頭症、意識障害 外科的治療を優先検討

聴神経鞘腫は国立がん研究センター「脳腫瘍〈成人〉」

※聴神経鞘腫を含む脳腫瘍全般について信頼性の高い情報が提供されています