チオグアニン日本で使用の現状と課題

チオグアニン日本での使用状況

日本では急性白血病治療にメルカプトプリンが承認されていますが、チオグアニンは使えません。

この記事の3ポイント
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国内未承認の理由

チオグアニンはWHO必須医薬品にも関わらず、日本では製造販売の申請が行われていないため使用できない状況です

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遺伝子多型と副作用リスク

日本人の約20%が持つNUDT15遺伝子多型により、チオプリン製剤の副作用リスクが高まることが判明しています

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肝毒性のリスク

チオグアニンは維持療法での長期使用時に肝静脈閉塞性疾患(VOD)のリスクが指摘されています

チオグアニンの基本情報と海外での承認状況

 

チオグアニン(6-チオグアニン、6-TG)は、代謝拮抗薬に分類される抗悪性腫瘍剤です。グアニンのプリンアナログとして作用し、DNAとRNAの合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。この薬剤は1949年から1951年にかけて開発され、長い歴史を持つ治療薬として知られています。

世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストに掲載されており、医療制度に必要である最も安全で効果的な医薬品の一つと位置づけられています。これは、チオグアニンが国際的に重要な治療薬として認識されていることを意味します。

海外、特に米国や欧州では、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)の治療に用いられています。寛解導入療法および寛解地固め療法として承認されており、多くの国で標準的な治療選択肢の一つとなっています。しかし日本国内では、製造販売承認申請が行われておらず、医療現場で使用することができません。

PMDAの資料によると、日本では急性前骨髄球性白血病の治療において、海外でチオグアニンを含む三剤併用療法が行われていることが記載されています。この記述から、国内の医療関係者もチオグアニンの治療価値を認識しているものの、承認申請に至っていない状況が読み取れます。

海外での使用実績は豊富です。特に小児急性リンパ芽球性白血病の治療プロトコルでは、重要な役割を果たしてきました。

チオグアニンが日本で未承認である背景要因

チオグアニンが日本で未承認である最大の理由は、製薬企業による製造販売承認申請が行われていないことです。医薬品が国内で使用可能となるためには、企業が開発を行い、PMDAに承認申請を提出する必要があります。つまり、承認されないのではなく、そもそも申請されていないということですね。

厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」では、2023年3月時点で欧米では承認されているが日本では承認されていない医薬品が143品目あり、そのうち60.1%にあたる86品目が国内開発未着手であると報告されています。チオグアニンもこのドラッグラグ・ロスの問題に該当する薬剤の一つと考えられます。

企業が開発に着手しない理由として、市場規模の問題が挙げられます。白血病は希少疾患であり、患者数が限られているため、開発・承認申請に要する費用に対して採算が取れないと判断される可能性があります。また、既に類似の作用機序を持つ6-メルカプトプリン(ロイケリン)が国内で承認されており、代替薬が存在することも、新たな承認申請の優先度を下げる要因となっています。

さらに、後述する肝毒性のリスクも、企業が開発に慎重になる一因かもしれません。維持療法での長期使用において肝静脈閉塞性疾患のリスクが報告されており、安全性プロファイルの観点から、リスク・ベネフィットバランスの評価が慎重に行われる必要があるでしょう。

日本人特有のNUDT15遺伝子多型の存在も、開発上の考慮事項です。遺伝子多型と副作用の関連が明確になっているため、投与前の遺伝子検査が必要となり、治療プロセスが複雑化します。

これが基本です。

NUDT15遺伝子多型と日本人における副作用リスク

チオプリン製剤の副作用に関連する重要な発見として、NUDT15遺伝子多型の存在が明らかになっています。このNUDT15 R139C遺伝子多型は、日本人を含む東アジア人に特異的に高頻度で見られることが特徴です。

日本人の約20%がNUDT15 R139Cヘテロ接合型、約1-4%がホモ接合型の遺伝子多型を有しています。三重大学の研究によると、およそ3人に1人の割合で何らかのNUDT15遺伝子多型を持っているとされています。一方、欧米人ではこの遺伝子多型を持つ人はヘテロ接合型でも1%未満と極めて稀です。

この地域差は非常に顕著ですね。

NUDT15遺伝子多型を持つ患者がチオプリン製剤(チオグアニン、6-メルカプトプリンアザチオプリンなど)を投与された場合、重篤な副作用が発現するリスクが著しく高まります。特に、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛が、この遺伝子多型と強く関連することが判明しています。

日本医学雑誌の報告では、NUDT15遺伝子多型を投与前に調べることで、患者が嫌う副作用である「完全脱毛」はほぼ確実に回避可能(感度・特異度ともに100%)とされています。また、医師側が懸念する重篤な白血球減少症についても、高い予測精度で回避できることが示されています。

このような背景から、2019年2月にNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となりました。これは国内で実用化された薬剤関連遺伝子多型検査として2つ目の例であり、わずか半年足らずで保険適用に至ったことから、その医療ニーズの高さが証明されています。検査対象は、難治性の炎症性腸疾患潰瘍性大腸炎クローン病)、急性リンパ性白血病、治療抵抗性のリウマチ性疾患に対してチオプリン製剤の投与を考慮する患者です。

遺伝子検査により、投与前にリスクを層別化し、用量調整や代替薬の選択が可能となります。

つまり個別化医療が実現できるということですね。

日本炎症性腸疾患学会:NUDT15遺伝子多型検査の保険承認に関する通知

この学会通知では、NUDT15遺伝子多型検査の保険適用と臨床活用について、医療従事者向けの詳細な情報が提供されています。

チオグアニンとメルカプトプリンの薬理学的比較

チオグアニンと6-メルカプトプリン(6-MP)は、いずれもチオプリン製剤に分類される代謝拮抗薬ですが、薬理学的特性には重要な違いがあります。この違いが、臨床での使用場面を決定する要因となっています。

6-メルカプトプリンは、体内で6-チオグアニンヌクレオチド(6-TGN)に変換されることで薬理作用を発揮します。

つまりプロドラッグとして機能するわけです。

一方、チオグアニンは直接的に活性を持ち、代謝過程を経ずに作用します。この違いにより、作用発現の速度や予測可能性に差が生じます。

日本国内で承認されている6-メルカプトプリン(商品名:ロイケリン)は、急性白血病の治療に使用されています。アザチオプリン(商品名:イムランまたはアザニン)も6-メルカプトプリンのプロドラッグであり、生体内で6-MPに分解されて作用します。アザチオプリンは自己免疫性肝炎などの免疫抑制療法に承認されています。

急性リンパ性白血病の治療プロトコルでは、寛解導入療法後の維持療法において、連日のメルカプトプリン内服と週1回のメトトレキサート投与の併用療法が、日本および欧米の多くの多施設共同研究で標準的に用いられています。

ただし、チオグアニンについては重要な注意点があります。維持期におけるメルカプトプリンの代用としてチオグアニンを継続使用した場合、肝静脈閉塞疾患および門脈圧亢進などの肝合併症のリスク増大が報告されているのです。このため、長期の維持療法ではメルカプトプリンが選択される傾向にあります。

これは重要な違いです。

チオグアニンは、寛解導入療法や地固め療法のような短期集中的な治療には有用性がありますが、維持療法のような長期投与には適さないという特性を持っています。国内で6-メルカプトプリンが承認されていることも、チオグアニンの開発優先度が低い一因と考えられます。

チオグアニンの肝毒性と静脈閉塞性疾患のリスク

チオグアニンの重大な副作用として、肝毒性が1976年から認識されています。特に問題となるのが、急性肝類洞閉塞症候群(SOS)、別名静脈閉塞性疾患(VOD)です。この合併症は、造血幹細胞移植後にも発生することが知られていますが、チオグアニンの使用によっても引き起こされる可能性があります。

肝類洞閉塞症候群(SOS/VOD)は、肝類洞内皮細胞が障害を受け、二次的に肝中心静脈が閉塞を来す疾患です。動物モデルを用いた研究から、肝類洞内皮細胞が初期の障害部位であることが示唆されています。症状としては、黄疸、肝腫大、腹水、体重増加などが現れ、重症例では多臓器不全に至ることもあります。

厳しいところですね。

チオグアニン治療中の患児において、肝中心静脈閉塞、結節性再生性過形成などの肝合併症が報告されています。特に長期間の維持療法として使用した場合にリスクが高まることが、複数の臨床報告から明らかになっています。

米国の添付文書や、PDQがん情報要約などの海外の医療情報では、チオグアニンの肝毒性について明確に警告が記載されています。特に小児急性リンパ芽球性白血病の治療において、維持療法でのチオグアニン使用には慎重な姿勢が示されています。

このような肝毒性のリスクがあるため、チオグアニンを使用する際には、肝機能検査による定期的なモニタリングが不可欠です。治療開始前に肝機能を評価し、治療中も定期的にAST、ALT、ビリルビン値などをチェックする必要があります。肝機能障害の兆候が見られた場合には、速やかに投与を中止し、適切な対処を行わなければなりません。

現在、肝類洞閉塞症候群の治療薬として、デフィブロチド(商品名:デファイテリオ)が日本でも承認されています。造血幹細胞移植後の肝類洞閉塞症候群に対する治療薬ですが、チオグアニンによるVODに対する有効性についても研究が進められています。

肝毒性は必須の管理項目です。

日本造血・免疫細胞療法学会:肝中心静脈閉塞症/肝類洞閉塞症候群(VOD/SOS)の解説

この学会資料では、VOD/SOSの発症メカニズム、リスク因子、診断基準、治療法について、患者向けにわかりやすく解説されています。

日本でチオグアニンを使用するための現実的な選択肢

日本国内でチオグアニンが必要となった場合、いくつかの限られた選択肢があります。ただし、いずれも通常の承認薬を使用する場合とは異なる手続きや制約が伴います。

最も一般的な方法は、医師が薬監証明を取得して個人輸入する方法です。薬監証明とは、医薬品等輸入確認証のことで、医師が患者の治療に必要と判断した未承認医薬品を輸入する際に、厚生局を通じて厚生労働省から取得する証明書です。この制度により、日本で認可されていない医薬品でも、医師の責任のもとで合法的に輸入し、治療に使用することが可能となります。

ただし、薬監証明による輸入には重要な注意点があります。治療に緊急性があり、かつ国内で流通している薬剤では代替できない場合に限って許可されます。また、輸入した医薬品を使用した治療については、保険診療との併用ができないため、治療にかかる費用すべてが自己負担となる可能性があります。

これは痛いですね。

臨床試験への参加も選択肢の一つです。国内外で実施される臨床試験において、チオグアニンが試験薬として使用される場合があります。臨床試験に参加すれば、未承認薬であっても試験プロトコルに従って使用することができます。ただし、参加には厳格な適格基準があり、すべての患者が参加できるわけではありません。

海外での治療を受けるという選択肢もあります。チオグアニンが承認されている国で治療を受ければ、保険診療として使用できます。しかし、渡航費用、現地での医療費、言語の問題など、多くの障壁があります。

現実的には、国内で承認されている6-メルカプトプリンやアザチオプリンを使用することが、多くの症例で標準的な対応となっています。NUDT15遺伝子多型検査を実施し、遺伝子型に応じた用量調整を行うことで、副作用リスクを最小限に抑えながら治療を行うことが可能です。

結論はこれです。

医療上の必要性の高い未承認薬については、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され、開発企業の募集や開発要請が行われることがあります。患者団体や医療関係学会からの要望により、検討が開始される場合もあります。チオグアニンについても、臨床現場からのニーズが高まれば、将来的に承認に向けた動きが出てくる可能性があります。

厚生労働省:医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議

このページでは、医療上必要性が高いと認められた未承認薬・適応外薬について、検討結果や開発要請の状況が公開されています。医療従事者が未承認薬の開発状況を確認する際の重要な情報源となります。


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