ブルフェンの効果と適正使用
ブルフェンの作用機序とプロスタグランジン阻害
ブルフェン(一般名:イブプロフェン)は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に分類される代表的な解熱鎮痛薬です 。その効果は、体内で痛み・熱・炎症を引き起こす「プロスタグランジン」という物質の産生を抑制することで発揮されます 。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
細胞が損傷を受けると、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が遊離され、このアラキドン酸がシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素によってプロスタグランジンに変換されます 。ブルフェンは、この変換過程において重要な役割を果たすCOX酵素を阻害することで、プロスタグランジンの産生をブロックし、症状の根本原因を断つのです 。
参考)ブルフェン錠100/200とは?カロナールとの違いは?効果や…
COX酵素にはCOX-1とCOX-2の2つのサブタイプが存在し、それぞれ異なる生理機能を担っています 。COX-1は胃粘膜や血小板などに常時発現し臓器の恒常性維持に関与する一方、COX-2は主に炎症時に誘導され、炎症を促進するプロスタグランジンE2の合成に関わります 。イブプロフェンは両方のCOX酵素を阻害しますが、治療効果は主にCOX-2阻害によるものと考えられています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4276492/
ブルフェンの効能効果と臨床適応
ブルフェンの適応症は幅広く、以下の3つのカテゴリーに分類されます :
参考)ブルフェン錠(イブプロフェン)に含まれている成分や効果、副作…
消炎・鎮痛を目的とする疾患。
手術・外傷後の症状管理:手術並びに外傷後の消炎・鎮痛に用いられ、組織修復過程での炎症反応を適切にコントロールします 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sinkei/JY-13020.pdf
急性上気道炎への対応:風邪症候群や急性気管支炎を伴う急性上気道炎の解熱・鎮痛に効果を発揮します 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00054856.pdf
臨床現場では、特に炎症を伴う強い痛み(関節痛、重度の咽頭痛、抜歯後疼痛など)に対して優先的に選択される傾向があります 。これは、アセトアミノフェン(カロナール)と比較して、抗炎症作用が期待できるためです 。
参考)https://www.ohori-pc.jp/head/pdf/graph2.pdf
ブルフェンの薬物動態と効果発現時間
ブルフェンの薬物動態特性を理解することは、適切な投与計画を立てる上で重要です。健康成人におけるイブプロフェン200mgの単回経口投与試験では、最高血中濃度到達時間(Tmax)は2.1時間、血中半減期(T1/2)は1.8時間と報告されています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00005891.pdf
効果の発現は比較的迅速で、服用後20~30分程度で効果が現れ始めます 。150~200mgの投与により、約5~7時間効果が持続するとされています 。この薬物動態プロファイルにより、急性期の症状管理に適した薬剤として位置づけられています。
他の代表的な鎮痛薬との比較では、ロキソプロフェン(Tmax 0.79時間)ほど即効性はありませんが、ジクロフェナク(Tmax 2.72時間)やナプロキセン(Tmax 2~4時間)と同程度の効果発現時間を示します 。持続時間については、ナプロキセン(半減期14時間)ほど長くはありませんが、実用的な効果持続が期待できます。
イブプロフェンは主として肝代謝酵素CYP2C9によって代謝されるため、この酵素を阻害または誘導する薬剤との併用時には注意が必要です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070883.pdf
ブルフェンの副作用と安全性プロファイル
ブルフェンの使用において最も注意すべき副作用は消化管症状です 。主な副作用として、胃の不快感、胃痛、吐き気、食欲不振、下痢、胸やけなどが報告されており、これらの症状は服用患者の数パーセントに認められます 。
参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1149001.html
重大な副作用として以下が挙げられます :
参考)ブルフェン(顆粒・錠)
消化管障害の発現機序は、COX-1阻害による胃粘膜保護作用の減弱によるものです 。COX-1は胃粘膜上皮細胞で恒常的に発現し、胃粘膜を保護するプロスタグランジンの産生に関わっているため、その阻害により胃粘膜の防御機能が低下します 。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_05.pdf
血液系への影響として、血小板凝集抑制作用があり、特にワルファリンとの併用時には出血リスクが増大することが臨床研究で確認されています 。19例中3例で出血時間の有意な延長が観察され、うち1例で血尿も認められました 。
参考)https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/1619?category_id=74amp;site_domain=faq
高齢者では副作用のリスクが高くなるため、少量から開始し、必要最小限の使用にとどめることが推奨されています 。
参考)医療用医薬品 : ブルフェン (ブルフェン錠100 他)
ブルフェンの使用上の注意と薬物相互作用
ブルフェンには絶対的禁忌となる患者群が存在します 。禁忌対象者は以下の通りです:
- 過去にブルフェンや他の解熱鎮痛薬でアレルギーやぜんそくを起こした既往のある患者
- 重篤な心臓病、腎臓病、肝臓病患者
- 妊娠後期(出産予定日12週以内)の妊婦
- 重篤な高血圧患者
- 血液異常のある患者
- 消化性潰瘍の活動期患者
薬物相互作用において特に注意が必要なのは、ジドブジン(HIV治療薬)との併用で、これは併用禁忌とされています 。併用により出血傾向が著明に増強する危険性があります。
併用注意薬剤には以下があります :
参考)医療用医薬品 : イブプロフェン (相互作用情報)
妊娠・授乳期における使用については、妊娠後期は絶対禁忌ですが、それ以前の時期においても治療上の有益性が危険性を上回る場合のみの使用に限定されます 。授乳中の使用についても慎重な判断が求められます。
参考)https://medical-pro.kaken.co.jp/support/qa/brufen/index.html