房室ブロックと心電図の特徴と治療法の完全ガイド

房室ブロックの種類と心電図の特徴

房室ブロックの基本情報

定義

心房から心室への電気的興奮の伝導が障害される不整脈

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重症度分類

Ⅰ度、Ⅱ度(ウェンケバッハ型・モビッツⅡ型)、高度、完全(Ⅲ度)の5種類

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主な症状

徐脈、動悸、めまい、失神(アダムス・ストークス発作)、心不全症状

房室ブロック(AVブロック)とは、心臓の電気伝導系において心房から心室への刺激伝導が障害される不整脈です。心臓は通常、洞結節から発生した電気信号が心房を経て房室結節に伝わり、さらにヒス束、プルキンエ線維を通じて心室に伝わることで規則正しく収縮します。この伝導路のどこかに障害が生じると、房室ブロックが発生します。

房室ブロックは重症度によって5つに分類され、それぞれ特徴的な心電図所見を示します。重症度が高くなるほど、徐脈が進行し、症状も重くなる傾向があります。特にモビッツⅡ型以上の房室ブロックは、致死的な不整脈に移行するリスクが高まるため、適切な診断と治療が重要です。

房室ブロックのⅠ度とⅡ度ウェンケバッハ型の心電図特徴

Ⅰ度房室ブロックは最も軽度の房室ブロックで、心電図上ではPQ間隔(PR間隔)が0.20秒以上に延長しているのが特徴です。心房から心室への伝導は遅延していますが、すべての心房興奮は心室に伝わります。多くの場合、無症状であり、健康な人でも見られることがあります。

Ⅱ度房室ブロックのウェンケバッハ型(モビッツⅠ型)は、PQ間隔が徐々に延長し、最終的にP波がQRS波につながらなくなる(脱落する)パターンを示します。その後、このサイクルが繰り返されます。特徴的な所見として、RR間隔が徐々に短くなり、P波の脱落後に長いRR間隔(休止)が生じます。このタイプも比較的良性で、健康な若年者や運動選手にも見られることがあります。

房室ブロックのモビッツⅡ型と高度房室ブロックの診断ポイント

モビッツⅡ型は、PQ間隔は一定ですが、突然QRS波が脱落するパターンを示します。ウェンケバッハ型と異なり、PQ間隔の進行的な延長はありません。このタイプは通常、ヒス束以下の伝導障害を示唆し、完全房室ブロックに進行するリスクが高いため、より注意が必要です。

高度房室ブロックは、モビッツⅡ型の一種で、2:1、3:1などの一定の比率でP波がQRS波につながらない状態です。つまり、2対1の場合は2つのP波に対して1つのQRS波、3対1の場合は3つのP波に対して1つのQRS波が現れます。高度房室ブロックは、3:1を超えるⅡ度房室ブロックと定義されており、P波とQRS波の繋がりが3拍中2拍以上抜ける状態を指します。

高度房室ブロックの心電図では、P波だけが複数見られ、たまにP波→QRS波という形でつながって見えます。P波とQRS波の繋がりがほとんどない高度房室ブロックの場合、完全房室ブロックとの鑑別が難しいため、長時間心電図での観察が必要となります。

房室ブロックの完全房室ブロック(Ⅲ度)の臨床的意義

完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)は、心房と心室の電気的伝導が完全に途絶した状態です。心電図上では、P波とQRS波が完全に独立して現れ、両者の間に関連性がありません。心室は自己のペースメーカー細胞(補充調律)によって収縮するため、心拍数は通常40〜50回/分程度と著しく低下します。

完全房室ブロックでは、心拍出量の減少により、労作時の息切れ、疲労感、めまい、失神(アダムス・ストークス発作)などの症状が現れます。特に重要なのは、一過性心停止によるアダムス・ストークス発作で、突然の意識消失を引き起こし、生命を脅かす可能性があります。

補充収縮のQRS波形からブロック部位を推定することができます。ブロック部位が下位になるほど、補充収縮は遅く不安定になります。基礎調律が心房細動の場合は、RR間隔が一定の補充調律となります。

完全房室ブロックは突然死のリスクがある危険な徐脈であり、発見次第、速やかに適切な処置を行う必要があります。

房室ブロックの原因と危険因子の包括的理解

房室ブロックにはさまざまな原因があります。主な原因として以下が挙げられます。

  1. 加齢による変性:加齢に伴う刺激伝導系の線維化や変性
  2. 心疾患
    • 虚血性心疾患(心筋梗塞、特に下壁心筋梗塞)
    • 心筋炎
    • 心筋症(特に拡張型心筋症)
    • 先天性心疾患
    • 心臓手術後
  3. 薬剤性
    • β遮断薬
    • カルシウム拮抗薬(特に非ジヒドロピリジン系)
    • ジギタリス製剤
    • 抗不整脈薬(特にⅠ群、Ⅲ群)
  4. 電解質異常:高カリウム血症
  5. 自己免疫疾患
    • 全身性エリテマトーデス
    • 強皮症
    • リウマチ性心疾患
  6. 感染症
    • ライム病
    • ジフテリア
    • シャーガス病
  7. その他
    • 心サルコイドーシス
    • 甲状腺機能低下症
    • 迷走神経刺激

特に注意すべき点として、モビッツⅡ型以上の房室ブロックは心室細動などの致死性不整脈に移行しやすく、高度房室ブロックは脳虚血を招きやすいという特徴があります。また、睡眠時に重症化しやすいことも知られています。これは迷走神経が夜間に活発になるためと考えられています。

房室ブロックの治療戦略と最新のペースメーカー技術

房室ブロックの治療は、その種類、原因、症状の有無によって異なります。治療戦略は以下のように分類されます。

1. 原因治療

可逆的な原因がある場合は、まずその除去を試みます。

  • 薬剤性の場合:原因薬剤の中止または減量
  • 電解質異常:電解質バランスの是正
  • 急性心筋梗塞:適切な再灌流療法
  • 感染症:抗生物質などによる治療

2. 経過観察

Ⅰ度房室ブロックや無症状のⅡ度ウェンケバッハ型房室ブロックでは、通常、特別な治療は必要なく、定期的な経過観察が行われます。

3. 薬物療法

一時的な対応として、以下の薬剤が使用されることがあります。

  • アトロピン:副交感神経遮断作用により心拍数を上昇
  • イソプロテレノール:β受容体刺激作用により心拍数を上昇

4. ペースメーカー治療

モビッツⅡ型以上の房室ブロック、症状を伴う高度房室ブロック、完全房室ブロックでは、ペースメーカー植込みが標準治療となります。

ペースメーカー治療には以下の2種類があります。

  • 一時的ペーシング:急性期や可逆的な原因による一時的な対応
    • 経皮的ペーシング
    • 経静脈的一時ペーシング
  • 恒久的ペースメーカー植込み:不可逆的な伝導障害に対する長期的な治療

最新のペースメーカー技術では、従来の右室ペーシングによる心室非同期の問題を解決するため、生理的ペーシングが注目されています。これには以下のようなものがあります。

  • ヒス束ペーシング
  • 左脚領域ペーシング
  • 両心室ペーシング(心臓再同期療法)

これらの新しいペーシング技術により、より生理的な心室収縮パターンを実現し、長期的な心機能維持が期待できます。

日本循環器学会による不整脈非薬物治療ガイドラインでは、ペースメーカー治療の適応について詳細に記載されています

房室ブロックと徐脈性心房細動の関連性と臨床管理

房室ブロックと心房細動が合併すると、特殊な病態である「徐脈性心房細動」を呈することがあります。心房細動では通常、心房の脈拍は1分間に300〜1000回と非常に速くなりますが、房室結節がこれらの信号をすべて伝導できないため、心室の脈拍は適度に調整されます。

しかし、心房細動に房室ブロックが合併すると、心室への伝導がさらに制限され、結果として心室の脈拍が著しく遅くなります。これが徐脈性心房細動です。特に注意すべき点として、心房細動が持続しているにもかかわらず、脈が規則正しく(ただし遅く)なることがあります。これは心房細動に完全房室ブロックを合併した状態であり、規則正しい脈は心房からの信号がなくなった心室から自発的に出ているものです。

この状態は急に脈が途絶える危険性があるため、注意が必要です。徐脈性心房細動による症状としては、倦怠感、息切れ、浮腫、めまい、ふらつきなどがあり、他の徐脈性不整脈と同様です。

徐脈性心房細動の治療は、通常の房室ブロックと同様に、症状の有無や重症度によって決定されます。症状を伴う場合や高度な房室ブロックを合併している場合は、ペースメーカー植込みが考慮されます。また、心房細動自体の管理も重要であり、抗凝固療法や心拍数コントロールなどが併せて行われます。

日本循環器学会による心房細動治療ガイドラインでは、徐脈性心房細動の管理について詳細に解説されています

房室ブロックの看護ケアと患者教育のポイント

房室ブロックの患者に対する看護ケアは、病態の理解と適切なモニタリング、症状管理、患者教育が重要です。以下に主なポイントをまとめます。

1. モニタリングと観察

  • 心電図モニタリングによる不整脈の継続的評価
  • バイタルサインの定期的な測定(特に脈拍、血圧)
  • 症状の観察(めまい、失神、胸部不快感、呼吸困難など)
  • 意識レベルの評価
  • 末梢循環の評価(皮膚色、末梢冷感など)

2. 症状管理

  • 安静の保持(特に高度房室ブロック、完全房室ブロックの場合)
  • 体位の工夫(めまいがある場合は頭部挙上など)
  • 酸素投与(必要に応じて)
  • 薬物療法の管理と副作用の観察
  • ペースメーカー管理(一時的・恒久的)

3. 患者教育

  • 疾患の理解促進
    • 房室ブロックの病態と重症度
    • 症状の認識と対処法
    • 治療の必要性と選択肢
  • 生活指導
    • 活動制限の説明(重症度に応じて)
    • 徐脈症状出現時の対応
    • 定期的な受診の重要性
  • ペースメーカー植込み患者への指導
    • ペースメーカーの基本的な機能と注意点
    • 日常生活での注意事項(電磁波の影響など)
    • ペースメーカー手帳の携帯
    • 定期的なチェックの必要性
    • 異常時の対応

    4. 心理的サポート

    • 不整脈に対する不安への対応
    • ペースメーカー植込みに対する心理的準備
    • 生活の質の維持・向上のための支援

    房室ブロックの患者ケアでは、特に夜間の観察が重要です。迷走神経は夜間に活発になるため、房室ブロックが重症化しやすい時間帯です。また、完全房室ブロックや高度房室ブロックの患者では、アダムス・ストークス発作のリスクがあるため、転倒予防の環境整備も重要なケアの一つです。

    ペースメーカー植込み後の患者には、創部管理や日常生活での注意点(強い電磁波を発生する機器の使用制限など)について具体的な指導を行い、安全な生活を送れるようサポートします。

    日本不整脈心電学会によるペースメーカ,ICD,CRTを受けた患者の社会復帰・就学・就労に関するステートメントでは、ペースメーカー植込み後の生活指導について詳細に記載されています