抗がん剤治療の費用と自己負担額の目安

抗がん剤治療にかかる費用の目安や自己負担額について詳しく解説します。治療法や薬剤によって大きく異なる費用、高額療養費制度の活用方法、さらに治療中の生活費についても触れています。あなたやご家族ががんと診断されたとき、治療費の心配をせずに治療に専念するにはどうすればよいでしょうか?

抗がん剤治療の費用と自己負担額

抗がん剤治療の費用の特徴
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平均費用

月額約30万円程度が平均的な費用だが、薬剤の種類や治療法によって大きく異なる

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自己負担の軽減

高額療養費制度を利用することで、月々の自己負担額を大幅に抑えることが可能

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治療期間

半年から1年以上の長期治療になることが多く、総額で50〜100万円程度の費用がかかることも

抗がん剤治療にかかる費用の平均額

抗がん剤治療の費用は、がんの種類や進行度、使用する薬剤の組み合わせ、患者さんの体格などによって大きく異なります。日本の研究によると、抗がん剤治療にかかる費用の平均は月額約30万8,363円と報告されています。

 

薬剤別に見ると、その差は顕著です:

  • オキサリプラチンをベースにした治療:月額平均418,463円
  • イリノテカンをベースにした治療:月額平均215,499円
  • 分子標的薬をベースにした治療:月額平均705,460円

大腸がんの場合、初回の抗がん剤治療で窓口での支払いが7万円を超えることも珍しくありません。特に高額なのは「エルプラット」と呼ばれる薬剤で、100ミリグラムあたり約7万円、通常は120ミリグラム使用するため、これだけで8万4,000円ほどかかります。さらに、他の抗がん剤や副作用対策の薬、各種検査費用が加わるため、総額はさらに高くなります。

 

また、治療期間が長期化すれば、それだけ費用も増加します。半年から1年程度の治療を想定すると、総額で50〜100万円程度の費用がかかることも少なくありません。

 

抗がん剤治療の種類別にみる費用の違い

抗がん剤治療の費用は、治療法や使用する薬剤によって大きく異なります。がんの種類別に見た場合の治療費の目安を紹介します。

 

【乳がんの場合】

  • 再発予防のための抗がん剤治療(エピルビシン、エンドキサン、パクリタキセル、トラスツズマブ):年間約270万円
  • 転移がんに対する治療(パクリタキセル、トラスツズマブ、ホルモン剤):年間約390万円

【大腸がんの場合】

  • 転移がんに対する治療(オキサリプラチン、フルオロウラシル、ベバシズマブ):年間約750万円
  • 術後の補助療法(5FU、レボホリナート):年間約85万円
  • 術後の補助療法(オキサリプラチン、フルオロウラシル):年間約200万円

【肺がんの場合】

  • 転移がんに対する治療(カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブ):年間約650万円
  • 非小細胞肺がんステージⅣに対する内服薬治療(ゲフィチニブ):年間約320万円

これらの金額は、高額療養費制度を利用する前の総医療費です。実際の自己負担額は、この制度を利用することで大幅に軽減されます。

 

抗がん剤治療の自己負担額を抑える方法

抗がん剤治療は高額になりがちですが、日本の医療制度を活用することで、自己負担額を大幅に抑えることができます。

 

1. 高額療養費制度の活用
高額療養費制度は、医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。所得に応じて自己負担限度額が設定されており、例えば標準的な所得の方(年収約370〜770万円)の場合、月額の自己負担限度額は80,100円+(医療費−267,000円)×1%となります。

 

2. 多数回該当の仕組みを理解する
直近12ヶ月の間に高額療養費制度を3回以上利用した場合、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下げられます。これを「多数回該当」と呼びます。例えば、上記の所得区分の方の場合、多数回該当になると自己負担限度額は44,400円まで下がります。

 

3. 世帯合算の制度を利用する
同一世帯内で複数の方が医療機関にかかった場合や、1人が複数の医療機関で治療を受けた場合、それらの医療費を合算して高額療養費の計算ができる「世帯合算」の制度があります。月々の自己負担額をさらに抑えることが可能です。

 

4. 医療費控除を忘れずに
年間の医療費が10万円を超えた場合(または所得が200万円未満の場合は所得の5%を超えた場合)、確定申告で医療費控除を受けることができます。抗がん剤治療を受けている方は、通院の交通費なども医療費控除の対象となる場合があるので、領収書はしっかり保管しておきましょう。

 

5. ジェネリック医薬品の検討
抗がん剤の中には、ジェネリック医薬品(後発医薬品)が存在するものもあります。先発医薬品と比べて価格が安いため、自己負担額を抑えることができます。主治医と相談の上、検討してみるとよいでしょう。

 

抗がん剤治療中の生活費と収入サポート

抗がん剤治療中は、治療費だけでなく、治療に伴う生活費の増加や収入の減少も大きな問題となります。治療中の経済的サポートについて知っておきましょう。

 

1. 傷病手当金の活用
会社員や公務員など健康保険に加入している方が病気やケガで休職した場合、傷病手当金を受け取ることができます。支給額は、直近12ヶ月の平均給与日額の3分の2相当額で、最長1年6ヶ月支給されます。

 

2. 治療と仕事の両立支援
がん患者の多くは治療と仕事の両立を望んでいます。主治医に職場復帰や就労継続に関する意見書を作成してもらい、職場に提出することで、在宅勤務や時短勤務などの配慮を受けやすくなります。

 

3. 治療中の追加出費を考慮する
抗がん剤治療中は、以下のような追加出費が発生することがあります:

  • 通院のための交通費
  • 副作用対策のための食事や日用品の購入費
  • 体調管理のためのサプリメントなど

ある乳がん患者の例では、1年間の治療で医療費の自己負担分が約80万円だったのに加え、これらの追加出費も決して軽くはなかったと報告されています。

 

4. 民間のがん保険の活用
公的保険でカバーされない費用(先進医療の費用や差額ベッド代など)に備えるため、民間のがん保険や医療保険に加入しておくことも検討しましょう。ただし、すでにがんと診断された後では加入が難しくなるため、健康なうちからの備えが重要です。

 

抗がん剤治療の費用に関する事前確認ポイント

抗がん剤治療を始める前に、費用面で確認しておくべきポイントがあります。事前に情報を得ておくことで、経済的な不安を軽減し、治療に専念しやすくなります。

 

1. 治療計画(レジメン)の確認
抗がん剤治療では、「レジメン」と呼ばれる治療計画に基づいて薬剤が投与されます。このレジメンには、使用する薬剤の種類、投与量、投与間隔などが定められています。主治医に以下の点を確認しましょう:

  • どのような薬剤を使用するのか
  • 治療はどのくらいの期間続くのか
  • 1コース(サイクル)あたりの費用はどのくらいか
  • 予想される総治療費はいくらくらいか

2. 入院と通院の違い
初めての抗がん剤治療は入院して行われることが多く、その後は通院に切り替わるケースが一般的です。入院と通院では費用構造が異なるため、それぞれの場合の費用目安を確認しておきましょう。

 

入院治療の場合は、抗がん剤の薬剤費に加えて入院基本料や食事代、場合によっては差額ベッド代などがかかります。一方、通院治療の場合は、通院ごとの診察料や検査費用、薬剤費などが主な費用となります。

 

3. 副作用対策の費用も考慮する
抗がん剤治療では、副作用対策のための薬剤も使用されます。吐き気止めや白血球減少を防ぐ薬など、これらの薬剤費も総費用に含まれます。特に新しい世代の吐き気止め薬は高額なものもあるため、どのような副作用対策が行われるのかも確認しておくとよいでしょう。

 

4. 保険適用外の治療について
一部の抗がん剤治療や先進医療は、公的医療保険の適用外となる場合があります。その場合は全額自己負担となるため、事前に確認が必要です。例えば、重粒子線治療などの先進医療は1件あたり約144.8万円(総医療費)かかるケースもあります。

 

5. 医療機関の相談窓口を活用する
多くのがん診療連携拠点病院には、「がん相談支援センター」が設置されています。ここでは医療費や各種制度についての相談も受け付けているため、治療開始前に一度相談してみるとよいでしょう。医療ソーシャルワーカーが、あなたの状況に合わせた経済的サポートの方法を提案してくれます。

 

以上のポイントを事前に確認しておくことで、治療費に関する「想定外」を減らし、経済的な不安を軽減することができます。がん治療は長期にわたることが多いため、計画的な資金準備が重要です。

 

国立がん研究センター がん情報サービス「高額療養費制度について」- 高額療養費制度の詳細な解説と計算例が掲載されています
厚生労働省「傷病手当金」- 傷病手当金の支給要件や申請方法について詳しく解説されています
抗がん剤治療の費用は決して安くはありませんが、日本の医療制度を活用することで、経済的負担を軽減することができます。治療に専念するためにも、費用面での不安を解消し、必要な情報を事前に収集しておくことが大切です。また、治療中は体調の変化に合わせた働き方の調整も必要になるため、職場との連携も重要になってきます。

 

がん治療は身体的な負担だけでなく、経済的な負担も大きいものです。しかし、適切な情報と準備があれば、その負担を軽減することができます。治療に専念できる環境を整えるためにも、費用面での不安を解消していきましょう。